第5話迫り来る魔の手

由香里達が旅行に出発してから約2時間後に、早苗も両親と共に、父が運転する車で、亡き祖母の四十九日法要に出発した。

さすがに四十九日法要とあって、由香里達のタンクトップ型純白ミニワンピとは正反対の、黒の喪服姿である。

「ねぇ早苗、本当に法要終わったらすぐ旅行に出掛けるつもり?」と、母に聞かれたので、「うん、早く終わったらすぐ由香里達と合流しようと思う。」と、率直に早苗は答える。

「ホントに早苗は、由香里ちゃん達と仲がいいんだな?」と、父にも聞かれたので、「だって私達は、小学校の時からの幼なじみだもん。それに性格なんかも比較的合ってるし。」と返事を返した。

こうして両親と会話を交わしている時、ふいに早苗の携帯が鳴り出した。着信を見ると、相手はA警察署になっていた。

「もしもし。」と言って電話に出ると、相手は、「署長の河西です。」と名乗ったので、「まずは遅くなってすいませんが、招待状ありがとうございます。もっとも私は、法要が入ってしまったので、友達が先に行ってますが…」と言うと、河西から、意外な変事が返って来た。

「招待状って、何の事ですか?」と、逆に聞いて来たのだ。

「ほら、指名手配の犯人逮捕に協力したお礼に貰った、N県の温泉地への招待状ですよ。」と早苗が言うと、「そんな招待状送って無いですけど。」と河西はいい、早苗は訳が分からなくなった。

署長の河西が送って無いのだとすると、誰が招待状を送ったのか?

そんな早苗を裏腹に河西は、「実は香取さん達に警告しておく事態が起きまして。」と、衝撃的な事実を早苗に告げたのだった。


実は、早苗達が犯人逮捕に協力した、指名手配犯、水島英一には、弟が1人居たのだ。名前は、水島英二。

その弟、英二が昨日、英一が収容されている拘置所に面会に訪れ、「兄をこんな目に合わせたあの小娘達を絶対に許さない。近いうち小娘達に危害を加えてやる。」と、英一に伝えたと言うのだ。

そして、今日の朝になって、英一がその事を拘置所の職員に伝え、その職員が、河西の元にその旨を連絡して来たのだ。


その話を聞いた早苗は、ある不吉な予感に襲われていた。

もし、招待状を送ったのが、河西ではなく、水島英一の弟、英二だとしたら…早苗達をおびき寄せる為、何らかの方法で住所を調べ、旅館の手配から何から何まで河西を装って、招待状を送ったのではないのか?もしそうだとすると、先に向かっている由香里達が危ない!

河西が電話で話を続けているのを遮る感じて、「失礼します!」と言って電話を切ると、すぐ父に向かって、「車停めてっ!」と叫んだ。

びっくりした様子で、父が車を停めると、早苗はすぐドアを開けて、「ごめんなさい、今からN県行って来る。」と言って、車から降りた。

「ちょっと早苗、法事はどうするのよ。」と母が咎めるような発言したものの、「悪いけど、2人だけで行って。一刻も早くN県行かないと、由香里達が大変な目に遭うかも知れないの。」

そう言うと早苗は、ドアを閉めて、すぐ家に向かって引き返した。幸い、家からそんなに離れていない。早苗は、家に向かって、懸命に駆け出した。そして、駆けながら、由香里の携帯に電話を掛けた。N県の温泉地に行かない様に伝える為である。しかし、由香里達は、まだ列車内にいるらしく、携帯の電源を切っていて、繋がらなかった。

家に着くと、早苗は素早く玄関の鍵を開けて中に入り、タクシー会社に送迎以来の電話を入れた。そして、素早く荷造りすると、黒の喪服から、由香里達と同様に、ノーブラでタンクトップ型純白ミニワンピに着替えた。やがて、タクシーが早苗の家に着くと、JRのA駅に向かう事を告げ、家を後にした。動き出したタクシーの中で、早苗は祈った。「どうか由香里達5人が無事でいます様に…」

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