第56話 1.293×10の25条kgの花嫁

 太陽はもう朝日とは呼べないくらい高く登った。爽やかな青空だ。

 切り拓かれやすい低山には珍しく、古代ながらのブナの木が広がる。

 地をはうように大きな丸い葉を広げ、ピンク色で鈴型の花を並べるのはイワカガミの花。

 だが、そんな絶景に目を向ける者はいない。

 祖国爆縮作戦実行委員会の攻撃から逃れてきた人々の車列だからだ。

 山肌にしたがって鋭くカーブを繰り返す道がある。

 舗装はされているものの、車がギリギリすれ違えるだけの細い道だ。

 樹々がすぐそばまで迫り、車のサイドミラーを曲げるほど枝が当たることもある。

 その道が今、作られて以来の大渋滞に陥っていた。

 車列の前に土砂崩れが居座っているからだ。

 黄色い大量の土が、乗用車より巨大な塊となっている。

 そこに黒いはしご付き消防車が駆け寄った。

 消防車の前、バンパー部分が跳ね上がる。

 中から飛び出したのは剣の先のように尖った金属の板。

 それは巨大な鋤だった。

 路面を削りながらの体当たりで、土砂はガードレールごとカーブの果てに吹き飛んだ。

 黒にレモン色とシルバーのラインを輝かせるこの消防車は、PP社の自衛消防隊長アルテミス。

 この機械生命体の重役が切り開いてくれた道を、大渋滞が動きだす。

 この下り坂を下れば、大きな道にでる。


 レイドリフト・ドラゴンメイド、真脇 達美にとっては我が家への道だ。

 二階建ての日本家屋が、その黒い瓦屋根にソーラーパネルを乗せている。

 住むのは兄の応隆と2人きり。

 親はいない。

 応隆の生物学的な両親は、達美を子供と認めず出て行ったからだ。

 2人にとって達美は、息子が変態趣味で異形にされた猫。

(自分たちだって異形のくせに、行方をくらませたんだ。

 あ、ポルタ社とボルケーナのことも許せないんだっけ? )

 両親は強力な異能力者だ。

 それも、魔術学園が生まれる前の時代に、ほぼ頂点にいた。

 バースト以前にも、異能力者はいたのだ。

 そのころ異能は秘され、無い事とされた。

 知られては混乱をまねくと信じた者たちがいた。

 高価な能力を独占したかった者もいた。

 そして、異能は不可能をねじ伏せ、異能同士の戦いでのみ価値を得るモノ。

 そんな後ろ暗い世代の生き残り。

 その歴史を脅しの材料にして、秘密の場所から場所へ逃げ回る。

 それが達美の認識だ。

 この期におよんで連絡もないのも、後ろ暗いことをしている証拠だと思った。

(逃げ場所は、テレビもパソコンもないのかな? 私を見なくて済むように。

 考えただけで笑えてくる)

 だが今は、他にも問題がある。

 この思考にはフタをすることにして。


「よーし。これで邪魔ものは何もないね」

 ドラゴメイドが話すのは、車列を率いるレモン色の装甲車。

 各種センサーを搭載したドラゴメイド専用車の、タッチパネルに満たされた運転席。

 そこにいるのはドラゴメイド1匹とオウルロード1個とワイバーン1人。御三方のレイドリフト。

 今は完全な自動運転だ。

「ええ。結局、爆縮委員会は地球の包囲網を突破できませんでした」

 缶ホルダーに円柱型にたたんだランナフォンがはまっている。

 このままコードを伸ばし、車から充電しながら、オウルロードが道路状況を立体映像の地図として映している。

 銀のフクロウ兜を被る乙女騎士は、手のひらサイズになってハンドルの後ろに立っていた。

「でも僕には不思議だよ。彼らの切り札であるはずの合体黄金怪獣が、隣町にさえ突破できないなんて」

 敵の突破力のなさを不思議に思ったのは、助手席のワイバーン。

 その機械化された視線は、ドラゴメイド専用車のカメラを通じ、彼らのいる道のさらに上を向いていた。

 山の上に、黄金の怪物がいる。

 もとはどんな姿だったかはわからない。

 全てが粘りの強い泥のように、曲がっている。

 目も口も歪んだ黄金に覆われた。

 それが強大な力を持っていたことは、周りが土砂崩れのようになっているのでわかる。

 今、足止めをくらった土砂崩れもそのせいだ。

 それが、今はピクリとも動かない。

 ワイバーンが使う視線は、ドラゴメイドとオウルロードも承知していた。

「あいつらは、心をリンクさせるところで失敗したんだよ」

 ドラゴメイドが語りだした。

 それを教えてくれたのは、ともに異星に連れていかれたテレパシスト。

「智慧がテレパシーでのぞいたの」

 城戸 智慧保険委員長のことを思いだす。

 最も辛い記憶を見続け、傷ついた人ではないか、と思いながら。

「今の合体黄金怪獣は、ひとつの体に無数の脳がくっついた状態。

 いろいろ小賢しいことも考えてるみたいだけど、怒り狂った意志が邪魔になって動けないらしいね。もう痛い、とかうるさい、くらいしかわからないらしいよ」

 監視は必要だろうね。とは言ったが、彼女はもう脅威とは見なしていないのは明らかだ。

「その結果が、あの味方の船の撃墜になるのかな」

 愚行への疑問と怒りを静かに込めてワイバーンがうなる。

 撃ち落とされた船の生存者が確認されていないのは、知っていた。

「結局のところ、彼らは使い捨ての実験台じゃ、なかった訳かな」

 期待されていたにもかかわらず、自らの恨みで未来を捨てた者たち。

 その憤りは、ドラゴンメイドたちの中で膨れ上がり続けると思われた。

 だが、意外な声によって止められた。

「助けてえぇ」

 運転席と助手席の間の防弾ドアが開き、窮屈そうに出てこようとする少女。

 普段はそんな声を、悲鳴をあげるはずのない体育祭実行委員会長。

 窒素を操る能力者、川田 明美だ。

 今は家族ともども、後ろの貨物室にいたのだが。

「いや、助ける必要はないかな。とにかく見てぇ」

 彼女の家族以外にも乗り合う人はいる。

 その中で精いっぱい体をよけて見せたのは、座席を並べた貨物室。

 10人が座れるそこは、明美に似て食が太そうな一家によってすでに一杯だ。

 明美、その弟、両親、お父さんのおじいさん、おばあさん、母方のおばあさん。

 その奥にいたのは、1人のおじいさんだ。

 体を窮屈そうに、そして不安そうに席にねじ込み、ドラゴメイドたちを見ている。

「死んだはずの、私のおじいちゃんなんだよ」

 その顔には、喜びの笑顔と、困惑の目の見開きが混じり合っていた。

 貨物室にいた者は、すべて同じ顔だ。

「は、はじめまして」

 おじいさん自身も困惑しているのが分かった。

 自分がもう一つの時間軸で、どうなったのか。

 明美を、孫を突如失った心労で命を落としたはずの自分を、自覚している。

 それは、この場でおそろいの表情によって明らかだ。

「タイムパラドックスだ……」

 ワイバーンの驚愕のつぶやき。

 そうだ。彼らはそれを体験した。

 ドラゴメイドたちが召喚されたスイッチアは、現在の地球より過去の世界だった。

 そしてスイッチア人のシエロたちの決断によって、過去がかわった。

 人の滅んだスイッチアから、無人兵器が勝手に侵略してくる過去がなくなったのだ。

「確かにタイムパラドックスだと推定できます」

 オウルロードも太鼓判を押した。

「しかし、原因がわかりません。

 シエロさんたちが何を決定したとしても、その影響が現れるのは過去に地球を襲った侵略だけです。

 明美さんのおじいさんに関わるタイムパラドックスをどうやって……? 」

 最高の戦域支配量子コンピュータにもわからない。

 だが、不思議と焦りはなかった。

「それは、もうすぐわかるでしょう」

 車の時計を見ながら、ドラゴンメイドは待っていた。

「そうでしょ? リトクさま」

 どこにも視線を動かさず、前方だけを見ながらそう言った。


【ええ達美ちゃん。見ていますよ】

 帰ってきた声は、テレパシーだった。

【でもこれからは、ボルケーナと同じでいいですよ。リトクママとククお母さんで】

「ほんと!? 」

 ドラゴメイドは喜びの声をあげた。

 テレパシーは智慧のものではない。

 後ろの家族にもテレパシーは聞こえていた。

「……誰? もしかして、おじいちゃんを助けてくれた神さま!? 」

 明美はそれが誰か知らなかった。

 それでも人間ではないのはわかる。

 リトクさまと呼ばれた女神のテレパシーは、まるで目の前で育ちのいい女性がお辞儀したかのように感動を与え、心の緊張を解いていく。

【いいえ。それはボルケーナがしたことです。あの子が真っ先に助けるなんて、貴女はとても良くしてくれたのですね】

「いえ、こちらこそ。わがままを聞いていただいてばかりです」

明美と家族たちは、どこにいるかもわからない女神に、あわてて二礼二拍手一礼した。

「でも、なんで今頃来られたんですか? 」

 ドラゴメイドが説明する。

「簡単に言うなよ。あの宇宙に残った宇宙戦艦やコントロールできないトラップ……罠なんかが、いくつあるか忘れたの? 」

 ああっ! と明美は色を失った。

「改めて紹介しよう。ボルケーナの育ての親のリトクさま。

 正真正銘の女神さまだよ」

 ドラゴンメイドが言った。

「ククさまという筋金入りの女神と2柱で育てていたの。

 でもテレパシーで連絡が来るということは、ここには直接来ていないわけですね」

【いえ。私だけですが、あなたたちのすぐ上にいますよ】


 専用車のカメラで上を見た。

 あの、へたれた合体黄金怪獣のいる山の頂を。

 そこに黒い円形が生まれた。

 と同時に、ゴー! とジェット機のエンジンを思わせる轟音が響きわたる。

 黒い円からは一切の光はなく、周りと横一文字に赤味がかった光が渦巻いていた。

 あまりに巨大な重力のため、ほとんどの光は空気とともに吸い込まれて黒く消える。

 ジェット機の音は、引き込まれる空気の音だ。

 一部の光はねじ曲げられ、引き伸ばされながらも外に飛びだす。

 つまりあの光の渦は、他のどの角度から見ても同じに見える。

 つまりブラックホール。

 それを利用した時空の穴、ポルタだ。

 なぜ他の方法ではなく、太陽より巨大な恒星の圧縮する最期を模したかは、すぐわかった。

 合体黄金怪獣が飲み込まれていく。

 悲鳴をあげたかもしれないが、聞こえない。

 ということは、空気が音より早く飲まれている。そうすぐにわかった。


 ふたたび空間を震わせる轟音が響いてきた。

 今度は本物のジェットの音だ。

 全身緑色の翼のあるヤギが、火の玉となって飛ぶ音だ。

 1年B組学級委員長、ドディ・ルーミー。

 1年生ではあるが23歳のこの男は、まだ動ける合体黄金怪獣を追っていた。

 鳥というより矢かミサイルを思わせるその個体は、山の頂にいる個体より小さい。

 サイズはセスナ機ほどだ。

 形作る意思が少ない分、まだ動けたのだ。

 両者のデットヒートは音速を超えて続く。

 ところが、ドディがスピードを落とし、軌道をそらした。

 明らかに、誰かに「そうしなさい」と言われた動きで。

 追われた者は、さらにスピードを上げて逃げていく。

 追跡者のことなど眼中にない。

 ところが、リトクのブラックホールは合体黄金怪獣の目の前に現れた。

 一瞬、大きな音を出し、目標を飲み込んだ。


 役目を果たしたポルタは、静かに消えていく。

 山のポルタの前に人影が一つ、立っていた。

 兜は顔まで覆っていたが、達美の装甲車を見つめているのはわかる。

 鉄色の鎖帷子、胸や腕、脛には飴色の艶やかな革武具がぴったりとおおった姿。

 鉄の兜は顔まで鉄板で覆う、細身の女性の姿。

 その手にあるのは、自分の背より長い柄に巨大な刃をつけた、きらめく戦斧。

 古代の北欧で語り継がれる戦士、海賊で有名なバイキングを思わせる出で立ちだ。

「ママ。あなただけがここに来るということは」

 ドラゴメイドには分かっていた。

 それが嬉しくて、恐ろしいことの始まりであることを。

 それを止めないのは、ただ信じることがあるからだ。

 ドラゴメイドの決断を、ワイバーンもオウルロードも知らされ、理解していた。

 その結果に戦慄しながら。

【……どうしても、直接見る人がいますからね。ククはエスコートにまわっています】

 わずかな沈黙。

 そこには、大神でさえ逃れられない迷いがある証拠だと察することができた。


 リトクが、遠いスイッチアの景色をテレパシーで見せてくれた。

 遠くに淀んだ色の雪が見える。

 頂くのは、太く厚くそそり立つ大山脈。

 眼下に広がるのは、同じ戦の煙がこびり付いた木々と街。

 木々は手入れをされることもなく、伸びるに任せた枝を建物に突き刺し、その姿のまま酸性雨で枯れている。

 建物もサビが浮き、ひび割れ、天井が腐って落ちた物もある。

 ただし、空だけは青空だ。

 ボルケーナがその神力で戦の煙を消し去ったからだ。

 間違いなく、そこはチェ連の都市だった。

 その上空を飛ぶ、3つの影。

 1つは素晴らしく滑らかで鋭い、白い流線型。

 その流線型の上を水平にした姿。

 異世界の豪華客船ルルディック。

 日本とチェ連の政府高官を乗せている。

 2隻目は全体に砲身を突きだした黒い戦艦。

 学園艦隊の旗艦、ルビー・アガスティア。

 3隻目は、青い半透明のゲルに包まれた、巨大な機械。

 多次元管制艦、ヤラ。

 どれも200メートルを超える巨大さだ。

 3隻の進行方向には宙に浮く人影があった。

 オウルロードに似た銀の鎧。赤いマントがなびいている。

 アーサー王伝説に出てきそうな出で立ちだ。

 ククが先導していた。ボルケーナを育てた女神の1柱が。

 一団は崩れた都市部をぬけて、枯れた山間部に向かった。

 白骨の様な森には、送り返された祖国爆縮作戦実行委員会がひしめいていた。

 彼ら自身が考えた、祖星封印の儀を見せるためだ。

 体の自由が利かないのは変わらない。

 力なく谷に落ちる者もいた。

 泥やがれき、燃えかすなどにまみれた姿は、もう黄金には見えない。


 すかさずワイバーンがたずねる。

「あの黄金怪獣は、あんな状態でも感覚があるのですか? 」

【ほとんど無いようですね。ただし、無事な感覚からの情報が共有されるため、問題無いと思います。

 学園艦隊やルルディ騎士団はオウルロードの守るレイドリフト・ネットワークから独立した物を使っています。

 彼らはチェ連へ赴いていただき、彼らの優れた目で観ていただきます】

 ドラゴンメイドの声が低くなる。

「やっぱり、やるんですね」

 やっぱりボルケーナの親たちだ。と思いながら。

 自分たちがスイッチアから地球に帰還する式典で、最も盛り上がっていたのがボルケーナだ。

 地中竜、海中樹、天上人たち3種族に人に近い姿と能力を与え、参加させたのが彼女だ。

「いったい何をやるの? 」

 明美の質問への答えは、彼女にとってあまりにも想像外のものだった。

【ボルケーナと応隆さんの結婚式ですよ】

 リトクのテレパシーは、うれしそうには思えなかった。

【あの子ったらドレスもケーキも要らないから、祖星封印の儀を見たいって、泣いて頼むんですよ】

「!あり得ない……! 」

明美が息をのむ。

「あ、シミュレーションてこと? 」

 希望を込めた様子で聴くが。

「シミュレーションじゃないよ。本物だ」

 ワイバーンの答えに、明美は目を剥いた。

「落ち着きなさい」

 ドラゴメイドがなだめた。

「うちのお義姉ちゃんには時の秘術があるの。

 シエロ君たちが起こしたタイムパラドックスの余波を広げるの。

 それを使えば、みんなに記憶だけ残して何も起こらなかったことにできるの」

 だが説明を受けても、明美は目を白黒させている。

 だがその目がトロ〜ンとしだし。

「ふわ〜」

 アクビをした。

「避難はまだ、長いんだよね」

 レイドリフトたちはウンウンとうなづいた。

「じゃあ、今は寝るわ。ただし」

 運転席の3人と、テレパシーごしの1柱を見回して。

「たとえノーリスクでも、あれは思いだしたくないくらい嫌いなの」

 そう言うと、ドアを閉めて去っていった。


 ドラゴンメイドは明美の気持ちがわかる気がした。

 運転席の2人も、同じ気持ちだろうと思った。

 空間には、明美に同情するリトクの意思が満ちている。


 チェ連から渡された召喚の対価。

 それはポルタを通す必要のない情報のみとなった。

 チェ連での最新情報で地球で再現できるものは、兵器の設計図ぐらいしかなかった。

 その中に祖星封印の儀があった。

 敵から奪ったデータの1つ、惑星間国家の最終形態の研究、とあった。


【それをどうすればいいかは、応隆さんからあなた達に頼んだと聴いています。

 ですが、迷いがありますか? 】

 達美が指摘されたのは、兄夫婦から頼まれたことだ。

 メモリーを送信した。

【……それでいいのですか? 】

 拍子抜けしたような、咎めるようなテレパシー。


 それでもドラゴメイドは、それでいいと思っていた。

「これが私のキャリアです。

 与えられた機能とはいえ、それも私を形作る要素です。

 その要素の1つに、想定外を想定するのがあります。

 第一歩は、これは無いだろう。と思う無茶な事を想定することですよ。

 失うことが無いなら、それを見てみたいです」

 冷静な語りだった。


「恥ずかしい話なのですが……」

 ワイバーンも手を挙げて語りだした。

「僕らの町は田舎町ですが、それでもたくさんの過去の遺跡があります。

 ですが、それらに注意を払うことがあったかといえば、学校の時以外ありません。

 100年も経ってない戦争の記録さえそうです」

 神々を信頼はしている。しかし畏怖も感じた声だ。

「なぜかと言われれば、つまり他人ごとだと考えていたからです。

 戦争なんて自分の歳より何倍も昔のことで、同じことがこれから起こるとは、思えなかったからです。

 でも、この件は違います。

 確実に起こるとなら、僕や他の人への印象に、強く残ると思います」


 最後はオウルロードが手を挙げた。

「私の場合は、プライドでしょうか」

 戦闘という条件で、最も清楚なイメージがある彼女にしては、楽しげな声だった。

「ご存じとは思いますが、私のAIは機械ではありません」

 そう言って頭を指差した。立体映像の、人に似せた頭を。

「非合法に集められた、異能力者の脳です。

 おもに発展途上国で集められました」

 当然、取られた方は了承などしていないし、生きてはいない。

「多くの国は、この脳の返還を求めませんでした。

 代わりにレイドリフト・ネットワークにリース契約を結んだのです。

 リース期間中は、それぞれの国にお金を配る契約です」

 深刻な話だ。だが明るい話し方は変わらない。

「今の私……久 編美の人格や見た目は、日本で好感を持たれるために作ったものです。

 ですが、残った脳が一部だけでも、異能力が使えないほど傷つけられても、殺された無念は消えません。

 それでも一応生き物だから、タイムパラドックスから記憶を守ることができます。

 そのことが嬉しいから、今は非常に燃えています」


 リトクは3者に静かに耳を傾けていた。

【あなたたちは、この非常時でも真剣に考え、答えにたどり着いたのですね。

 この件を任せてよかった】

 それに口を挟むのはドラゴンメイド。

「それにしては何か、言いたいことがあるみたいですね」

【ええ、そうですね。

 でもそれは終わってからにしましょう】

 そして、スイッチアがある宇宙に散らばる仲間たちに伝えた。

【始めてください】

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