第54話 それでも、セカイは優しくありたい


夜に、日光が射してきた。

山並みや水平線に沿って、薄い光が照らしていく。

いや、あの朝日に見えるのは、海に集まった地球の海軍かもしれない。

祖国爆縮作戦実行委員、とくに多いチェルピェーニェ共和国連邦の出身者は、そんな恐怖に囚われる。

肌寒い。

そう感じるのは地球人と同じだった。

冷めた空気が、熱風で追いやられるのも同じ。

一発で自動車をスクラップにできる砲弾が千、万単位で消費され、星を閃光と爆音で追いやる。

そんな夜空を赤、青、黄の三色に燃えながら、信号弾は流れる。

小さな光だ。

地上から迎撃の小型ミサイルが飛び、あっさり打ち消されてしまう。

まだ指令が伝わっていないのだ。

だが信号弾はあきらめず、数を増やし、一つの方向を目指し流れていく。

爆縮委員に、即時撤退を確実に伝えるために。

それを、全長60メートルの体を与えられた亀怪人は、吹き抜ける黒煙の間から見た。

引っ切り無しに飛んで来る砲撃。

叩きつける煙が、熱い。息苦しくてたまらない。

甲羅は破れなくても、ちぎりとられるような衝撃が走る。

爆音は仲間の声をかき消し、踏みしめる足元は、もう何があったのか分からない。

建物だったのか、田畑なのか。

植物が腐食した臭いのする泥が、どっぷりと顔にかかる。

木、プラスチック、ガソリンやガスなど、あらゆる可燃物であぶられ続ける。

文字どうりの、塗炭の苦しみ。

身を隠す場所はない。

そのような場所は、多国籍軍や冒険者が押さえている。

攻撃は、山の陰から容赦なく襲いくる。

それでも爆縮委員会が恐怖をはねのけられたのは、闘志と殺意があるからだった。

だが信号弾を見上げたとき、それらの心の葛藤は、波が引くように消えてしまった。

「逃げていいのか? 」

力の抜けたような声しか、だせなかった。

「オレたちは見捨てられたわけじゃなかったんだ!! 」

甲羅の陰で突入の機会をうかがう、と言うより縮こまっていたチーターの怪人。

信号弾の行く先は撤退地点だ。

その地点に、全ての怪人たちは一斉に視線を向ける。

「に、逃げるぞ」

そう亀怪人に言ったのはチーター怪人だ。

見るからに足が遅く、怪人の平均より巨大な亀怪人。

それでもチーター怪人は手を引き、走りだす。

「逃げるぞ! 俺たちは撤退する! 」

居並ぶ仲間たちに呼びかけた。

「イヤ! ダメだ! 」

怯えた叫びが返ってきた。

背から腰にかけてトゲのような剛毛を生やしたヤマアラシの怪人だ。

身長50メートル級にとっての手のひらサイズの通信機器を示す。

その立体映像機能は、祖国爆縮作戦実行委員からの降伏宣言を映していた。

「降伏する相手が、ボルケーナとその神官になってる!

これじゃあ使えない! 」

それを聞いて周囲の者たちが浮かべた表情は、困惑。

最も強いボルケーナが、地球での生死与奪の権を握っていると、信じて疑わない表情だ。

そんな仲間たちの視線を受け、ヤマアラシ怪人は声を張り上げた。

「私はスイッチアに召喚された地球人から、直接聴いてる!

地球人は、ボルケーナに支配されたわけではない!

この星では大小さまざまな国があるが、その全てがボルケーナから独立している!

個人でもだ!

だから地球人全体に対する降伏でなければ、俺たちは攻撃され続ける! 」

鉄の無限軌道が未舗装の地面に食い込む音。

44トンの鉄の塊を走らせるディーゼルエンジンの野太い音。

迫りくる、10式戦車が4両。

ヤマアラシ怪人は自分たちの陣地から戦車に向かって飛びだし。

「う、撃たないでくれぇ」

両手を高々と上げて叫んだ。

突然の行動に、仲間はみんな驚きのあまり凍りつく。

そんな彼らに伝える。

「これも地球人から習った、降伏の作法だ」

そして、止まることなく迫る戦車に。

「我々は、無条件での撤退命令を受け取った!

降参すーー! 」

ドン

ヤマアラシ怪人の剛毛が打ち砕かれた。

太い鉄棒のような剛毛が、爆音とともに打ち鳴らされた。

ヤマアラシ怪人は背中から噴水のように鮮血を飛び散らせ、倒れふした。

10式戦車の120ミリ砲が、ほんの1メートル横を飛んだからだ。

「ギャー!! 」

後悔や怒りのこもった悲鳴!

見守っていた仲間たちが飛びかかり、血を止める応急処置を始めた。

と言っても、手で傷口を抑える事しかできない。

「バカ野郎!! 」

砲撃した戦車の後ろから、砲音より大きな声が轟いた。

声の主は、青い巨大な人影。

巨人の額には一本の白い角。

バスケットボール部部長のディミーチが、戦車に覆いかぶさって止める。

全長9.42メートルの戦車に、身長50メートルの異星人がのしかかれば潰れてしまうように思える。

だがディミーチはつぶすことなく、戦車に乗る者に訴える。

「もう降伏宣言は祖国バクチク~バクバク~委員会司令部から出ているんだ! 」

祖国爆縮作戦実行委員会の名を間違えながらも。

その横に、緑色の巨人が滑り込む。

両手首にカマキリの鎌を持つ野球部部長、カーマだ。

カーマは今の自分にちょうど良いサイズのスマホのような物を取りだし、戦車の正面に置いた。

戦車の操縦者はスマホの画面を見ているようで、戦車に動きはない。

1200馬力のエンジンが、止まった。4両同時に。

やがて砲塔上のハッチが開き、汗まみれの顔がでてきた。

中倉 和彦一等陸尉だ!

生徒会を迎えにスイッチアまで行った、陸上自衛隊の第1戦車大隊A中隊長。

分厚いシェルターであるフセン市市役所で、チェ連首脳部に、戦う意思のない異星人を強制収容していたことを誰何した男だ。

地球に帰還してからも、戦い続けていたのだ。

「降伏宣言は受領した。

この事はこっちの司令部でも確認している」

えっ?

その場にいた敵味方、それぞれの口からそんな声が漏れた。

「コレ、地球人には降伏するって、書いてないですよ? 」

カーマの緑の甲殻顔が、混乱しながら中倉一尉とスマホを往復する。

「神獣の、神獣たる所以。てやつだろ」

中倉一尉は、諦めたように息をついて。

「もう慣れたよ」

そして、足を竦ませたままの怪人たちを向く。

「安心しろ! 俺たちは、そんなに人殺しは好きじゃない! 」

両手をラッパにして、そう叫んだ。

空を隠し、大地を揺るがし続けた砲撃が、減っていく。

降伏宣言が伝わった証拠だ。

「やったー!! 」

ひときわ大きな歓声。

それはヤマアラシ怪人だった。

金色のイノシシ怪人に合体してもらい、体を天上人化することで傷をふさいでいる。

「やった! 帰れる!! 」

敵味方、合体するイノシシ怪人も含めて、変わり身の早さについていけず無言になってしまう。

「一尉、さっきはバカ野郎と言って申し訳ありませんでした」

ディミーチが言った。

戦いの終結が、さらに広がっていく。


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合体黄金怪獣も、その様子を見ていた。

亀怪人たちから山一つ挟んだ塗炭の地で。

湧き上がる感情は、嫌悪。

『か、科学者たちは何をやっていたんだ!! 』

かつて彼らを改造した者たちのことを思いだした。

天上人の生態から、見た目で離れている個体でも、1つの体と同じように感覚が伝わる。

そして意思も一つの物となり、離れた戦場でも効率的に連携できると。

ならばなぜ、見た目で離れている個体が別の意思で動いているのか?

しかも、敵に立ち向かおうとすらしない。

『裏切り者! ノイズめぇ! 』

合体黄金怪獣の体は、以前の1000メートルほどではないが、今でも700メートルを維持していた。

ただし、全身は焼け焦げ、黒くひび割れた炭と化している。

長かった首は、人間と同じバランスにおさまった。

長い尾も、翼もあきらめた。

薄くかったり細長く広がった器官は、真っ先に燃え尽きた。

だがそれでも、手にした結晶に光があった時は良かった。

喜びの源。棘状の結晶がより集まったボールが、無限としか言えない熱と光を放つ。

遠い宇宙の太陽の光。

その力は凄まじい。

地面は吹き飛び、燃え尽きて、合体黄金怪獣が丸ごと入るクレーターが開く。

それがこの地に、近くまで迫る海さえ関係なく、いくつも刻み込まれているのだ。

だがもう、そんなクレーターは増えない。

合体黄金怪獣にも予想はできた。

異界の太陽の中で、光を取り込む側の結晶が、燃え尽きたのだ。

いま、レイドリフト四天王が守る魔術学園。

守りを固めた地球人の拠点と、合体黄金怪獣が見当をつけた場所への、一撃。

そのビームが最後だった。

今の合体黄金怪獣は、表面がマグマとなったクレーターのそこで這いつくばる、痩せこけた人。

それでも、目、鼻、口は金色。

感覚器官のある顔だけは、治していた。

その顔は石像のように闘志が刻まれている。

上空では学園艦隊が取り囲んでいる。

物によっては合体黄金怪獣より巨大な10隻。

今はその包囲に、水泳部部長ノーチアサンと、3年B組学級委員長のサイガが加わる。

さらに高空からは、長距離狙撃が襲ってくる。

その正体は、合体黄金怪獣は確認できない。

動けない。

それでも、この惨めさを覆す何かを探してしまう。

視線をクレーターの外に向けた。

祖国爆縮作戦実行委員会がいた!

『勝利のために!! 』

今まで、何度となく言いあった、誓いの言葉。

『勝利のために!!! 今こそ正当な権利を行使し、当然の正義を取り戻そう!!! 』

だが味方のはずの異形たちは、転がるように逃げ去っていく。

「嫌だ! もう戦闘は終わった! 」

言い返すのは、間違いなく祖国爆縮作戦実行委員会。

合体黄金怪獣の視線と言葉を、即座に殺傷する力があるように恐れて。

「降伏したんだ! 早く撤退するんだ! 」

そう言い捨てて、また1人、走り去る。

その目に、共感と哀れみをのせていた。

次に声をかけた者は、前の者ほど優しくなかった。

「お前のせいで我々が追撃されたら、どうなる!! 」

逃げる爆縮委員の列は、とどまることを知らない。

『追撃されるなら、先に追いついた順に退治すればいい!

我々50年に受けた屈辱の、何万分の1だ!?

今だけ生き延びることが、なんの意味を持つ!?

決着をつけなかったから、今の苦しみがあるんじゃないのか!?

私は戦うぞ!! 』

ふと合体黄金怪獣は、これだけ動いても自分が攻撃され無いことに気づいた。

それが何を意味するかは、考えたくなかった。

味方はもう降伏した。

自分にはもう戦うチャンスは無い。

などと、考えたくない。

それでも各地から、黄金怪人の見聞きしたことが送られてくる。

それはこれから攻め込みたい場所、魔術学園も同じだった。


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側溝にタイヤをはめてしまった車がある。

若者たちが、慌てて群がり、持ちあげようとする。

異能力者ではない。

なかなか上がらない。

車は、前にも後ろにも列をなしている。

裏山を超え、避難しようとする人々の列だ。

そこは校舎と山が迫る細い道。

ここを塞がれると、避難は大幅に遅れてしまう。


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様子を見ているのは、当然のことながら祖国爆縮作戦実行委員会。

ひどい空腹により、真っ平らのまま動けなくなったゲル状の体も、地球側の援助で回復した。

ドラゴンメイドの推察は、正しかった。

今では施された者たちの金色の牙や爪が、車列に突き刺さることは無い。

口からの炎も、結晶からのレーザーも、全身からの電撃もださない。

彼らがそれを見ているのは、これから逃げるルートが塞がっているからだ。

街全体で交通事故、火災、避難民同士が集まり身動きが取れなくなったところもある。

戦闘による足止めは、少なかった。


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はまった車に、赤い布で頭を覆った女と、黒い炎の鎧を着た男が気づいた。

手にした巨大な段ボール箱を置いて、駆け寄る。

女が車の横にしゃがむと、男は反対側に回りながら声をかけた。

「左右から同時に持ちあげよう!

片方だけだと、車が曲がって壊れるかもしれない! 」

1、2、3と声を合わせ、2人は抵抗が軽々と持ち上げた。

赤いブルカを纏うのは2年A組学級委員長、サラミ・マフマルバフ。

黒い鎧の騎士はサッカー部部長、出獲 蠍緒(いずらえ かつお)。

2人が、一緒に車に付いていた男から嬉しそうな声をかけられる。

「君らスゴイな!

よく学園に人が集まるとわかったな! 」

興奮ぎみにサラミは答える。

「神がそう望まれたから。

最初の時間軸では、私たち遠くへ逃げてたの。

でも、次の時間軸ではポルタ社のロボットの中だった。

逃げるのも隠れるのも可能性が半々。

なら、津波の避難所のここももしかしたら、と思ったの」

男は困惑はしていたが、感謝した。

「……ジカンジクと可能性の意味はわからんが、ここに逃げ込む人が多いのは正解だ」

「時間軸の変化は怖いぞ」

蠍緒の鎧が震えている。

「ルルディ騎士団と一緒に宇宙で任務についていたはずなのに、気づいたらここ。

問題が起こらないか、心配だよ」

男は励ます。

「……陳情書を書いてやるよ」

「それはあと。マスクをつけてください」

サラミは運んできた中身を配り始めた。

「避難所でいちばんこわいのは、疲労と免疫の低下。それにともなう病気の発生です! 」


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合体黄金怪獣には、それはどんなことが起こっても、銀河列強は追ってくるという意味に思えた。

『クソッ! 』

怒りと共に、大地に拳を叩きつけ、土けむりのキノコ雲をあげる。

それでも、上からは何もこない。


………………………………………………………………


上げられた車は、避難民を載せる車列に戻った。

続くPP社の大型四輪駆動車に、次々と人が乗り込んでいる。

着の身着のままに、マスクを着けただけの、疲れ切った人々だ。

「無い! 無い! 」

一台の中で、派手な金髪が揺れている。

ドラゴンメイドと親しくハグしていた、グラマーなアイドルだ。

壁沿いにベンチ状の席が並ぶ車内で、すし詰めになったアイドルたち。

だが席に着かず、何かを探していた。

「なにがないの!? 」

ドラゴンメイドがやって来た。

「シートベルトの片方が無い! 」

「こういうシートでは、ベルトは1席に1組なんだよ! 」

ベンチ状のシートの端から端まで届く、長いベルトだ。


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チェ連の車には、シートベルトなどなかった。

思いつかなかった、という事実が生む劣等感。

それを無理やり追いやって。

次に見えてきた女に、思わず心臓が縮み上がった!

超振動を放つ最強の異能力者!

魔術学園高等部生徒会長!

ユニバース・ニューマンだ!

マスクをしていても間違いない!

その恐怖は、彼女を直接見た爆縮委員と、同じものだった。


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「ごめんね」

だが口からでるのは気弱な言葉。

避難民の列に混じり、車列に乗り込もうと歩いて行く。

その両腕には分厚く包帯が巻かれ、胸のところでつるされていた。

「謝ることないよ。

その怪我、僕たちを守るためでしょ? 」

付き添う息子のクミは涙声だ。

彼女の超振動が、彼女自身の手を奪ったのだ。

副会長、石元 巌も一緒だ。

巌の足は、ふらついている。

「巌さんも、気持ち悪いんだよね? 」

クミの言うとうりだった。

サイコキネシスの能力を使いすぎた結果、脳が過度の興奮状態に陥った。

巌は「いや、大丈夫だ」と答えたが、その笑顔に血の気はなかった。

その時、クミの顔がこわばった。

「巌さんは、前の、社長の暮らしに戻りたくないの?

お金がいっぱいあって、こんなひどい目にあう事もなかったのに! 」

幼い顔が、強い決意に固まった。

「……思ったよ」

応える巌の顔も、同じように固まる。

「あの時動かせたお金があれば、もっとうまくいったんじゃないか。

どうやれば、こんなことにはならなかったのか。

そんなことばかり考えていた」

そして、クミをまっすぐ見つめた。

「でもね、俺が社長のままだったら、君のことが好きな俺は、いないんだと気付いた」

やがて、車列に乗るときがきた。

阻むものなど何もなかった。

「もし、ユニバースや俺とはぐれても、決してあきらめるな。

困ったことがあれば人を集めろ。

君が諦めないと信じられれば、俺たちも諦めない。

約束できるか? 」

やがて3人は、車列に乗り込む人の影に見えなくなった。

声も混ざり合い、意味は聴き取れない。

だが、クミの明るい声が聞こえた気がした。


………………………………………………………………


『何でそうなるんだよー!! 』

合体黄金怪獣の気は、もはや狂わんばかりだった。

ユニバース・ニューマンにしろ、石元 巌にしろ、魔術学園の二極。

最強の存在なのは、身を以て知っている。

その2人の能力が失われたとなれば、大問題のはず。

それなのに、周りの誰も話題にしない。

2人の間にいる子どもは、なんの異能力もないのは見て分かる。

その子に接する二強の姿は、家族のようだ。

子どもを守り、一緒に逃げようとしている、ひとつの親子だ。

『何でそうなるんだよー!! 何でそうなるんだよー!!! 』


ゴボゴボ ゴボゴボゴボ


臥せったままの合体黄金怪獣の叫び。

同時に、胸から2人の怪人が吐きだされた。

1人はニワトリの、もう1人は犬の頭を持つ、30メートル級の黄金怪人だ。

困惑している。自分の意思であらわれたわけではなかった。

上を向くと、合体黄金怪獣と目があった。

『お前たちは裏切り者に対する地球人の態度に感謝した。

ユニバース・ニューマンと石元 巌の姿を美しいと感じた!

シートベルトとか言う保安部品ごとき! 発明できなかったことで、劣等感を抱いた! 』

合体黄金怪獣は、顔を怒りに、敵への憎悪と同じ形に固めたまま、結晶体を振り上げた。

『その思考は! 闘志を弱くする! 』

結晶体を振り下ろす!

『祖国の解放という大義に対して! 』

はじき出された2人は逃げようと駆けだした。

だが結晶が逃がさない。

『クソッ! 大罪であり、そのあがないは死である!! 』

2人の悲鳴が上がり、あっという間に消えた。

いまだに赤く燃える大地に立てば、黄金怪人でも痛みは免れない。

しかも、合体黄金怪獣にとって、うれしい発見だ。

結晶体は強力な打撃武器としてつかえる。

合体黄金怪獣の顔がゆるみ、憎悪をたたえたままの笑顔となった。

久しぶりの喜び。

思えば、合体黄金怪獣に成ってからも苦戦続きだった。

しかも、この頃におよんで攻撃はこない。

(そうか。やつらは戦いたくないんだ)

合体黄金怪獣は察した。

(今私を攻撃すれば、その怒りは裏切り者たちに向く!

すなわち、無駄な戦いを強いられる)

つまり、小規模な戦いなら、平気だ。

そう結論づけた。

(せめて、裏切り者たちに落とし前は付けさせたい)

ようやく得られた喜びを探しはじめる。

その次の瞬間、視界が白く覆われた。

爆発ではない。

エレベーターのように、体全体が浮かんで行く。

(そうだ、あれだ。

うざいほど舞っていた、ボルケーナの白い羽)

巨体が、木の葉のように舞っていく。

金色のカギ爪を伸ばし、振るった。

口からの炎も、結晶からのレーザーも、全身からの電撃も放った。

必死の抵抗だ。

この戦いこそが、未来に残す記録にふさわしい!

そんな自負を込めて。

多種多様な攻撃のどれかが効いたのか、体が空飛ぶ羽毛布団からすべり落ちた。

落ちるあいだに、確信した。

実は思ったより時間は経っていなかった。

(あまりに久しぶりの喜びに、私の時間の感覚が狂ったのか? )

このまま時間をかけて思考すれば、あるいは。

誰にとっても良い結果、と言える結論にたどり着けたかもしれない。

だが、自らが引き起こした状況はそれを許さない。

山の谷間に、山より巨大な巨人が落下した。

誰も望まない、噴火のような破壊を見せる。

振動と轟音は合体黄金怪獣や山林を揺るがし、周囲の冒険者や多国籍軍を叩いた。

衝撃は山を乗り越え、さらに小さな存在に襲いかかる。

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