第39話 ニセモノの決死圏

 その放送に、多くの人々の願いが込められているのは、間違いない。



『我々は、祖国爆縮作戦実行委員会! 


 気高き独立を天地の民に望まれながら、卑劣なる亀裂主義者によって滅ぼされた、宇宙帝国の臣民である!


 目的は、祖国爆縮作戦の完遂!


 祖国のある宇宙域を完全に独立させ、富と生命そして権利を爆縮するのだ!


 我らは、宇宙域に亀裂をもたらしたスイッチアのような無駄惑星や、卑劣な物量戦で持って組み敷く銀河列強を許さない!


 たとえ謎であろうと、あらゆる悲劇を許さない!


 地球には、我々の戦力が宇宙域の外でも通用することを、示すために来た!


 女神ボルケーナには、宇宙の禅譲を迫る!


 いかなる人も、神も悪魔も、我らの世界に来ることは許さない!


 我らは、調和された宇宙域を作るのだ!


 たとえその中で死のうとも、虐げられる人々の勇気となって甦るのだ!


 この言葉を、一字一句間違えることは許さない! 』


 


 祖国爆縮作戦実行委員会の前にはレイドリフト四天王に、彼らが護衛する豪華客船ルルディック。


 ルルディックには必ず要人が乗っていることは予想済みであり、それは当たっていた。 


 放送に突き動かされて、エアクラウンが取り囲む。


 2年前に福岡を襲ったスイッチアの巨人。


 厳密には、2年以上前からタイムスリップして来たものだから、より旧式のはずだ。


 しかし、逃げ惑う人々には何の慰めにもならない。


 2年前に現れたのは1機だった。


 それが何十機にも増えている。


 エナジー・フィールドも健在だ。


 さらに複数の機体から重ね掛けすることで、四天王の装甲やフィールドを切り裂く刃にできるようになった。


 その巨兵が、街も山も蹂躙する。


 人間の約200倍近い大きさだ。


 地面にめり込まないため、足の裏にもエナジー・フィールドを張っている。


 かんじきと同じように、もとの足の外まで被害を広げる。


 つま先が、ビルを空き缶のようにへし折り、蹴飛ばす。


 直撃しなくとも、 その一歩が空間全体を揺さぶる。


 家の窓ガラスなど次ぎ次ぎに割れる。


 瓦がずり落ちる家もあった。


 山の陰に隠れれば、ひとまず安全。


 そんなことも許さない、山をまたげる足。


 緑の稲穂が並ぶ田んぼを無残に踏み潰した。


 あと2•3ヶ月もすれば、稲刈りが行われるはずだった。


 その腕も、長過ぎる。


 足を街に置いたまま、林をなぎ倒す。


 その余波が、どんな嵐より激しく木々を揺らす。



 なぎ倒され、傷をえぐられた街や山に小さな影を投げた。


 小さいと言っても、それはエアクラウンと対比しての事。


 それは、誰が見ても焼夷弾と分かる効果を示した。


 いきなり火の手があがる。


 わずかな雨水など物ともせず、火は可燃物にたどり着く。


 ゆらめく炎や黒煙が、次ぎ次ぎに立ち上った。


 逃げる人々は、そこに自分達の滅びを喜ぶ悪魔の踊りを見た。



 炎をもてあそぶ巨人たちには、無数の砲撃が降り注ぐ。


 KK粒子の下を、横殴りの吹雪のように飛んでくる。


 その地球の攻撃を、全身に備えたレーザー機関銃で撃ち落とす。


 数は地球側が勝っていた。


 それでもエアクラウンたちは進撃をつづけ、その胴体のハッチを次々に開けた。


 エアクラウンの役割とは、武装した輸送機。


 だがあらわになった空間は、そう広くはない。


 中にいるのは、地中竜と海中樹。それと人間の影。


 3つの影は、地上約200メートルの場所から、飛び降りた。


 落下する間に影の形が崩れていく。


 強大な異形、怪獣にかわる。



 人間が変わったのは、ゴリラのような黒い毛むくじゃらの巨人だった。


 それには、ゴリラ巨人3という呼称がある。


 左右に張り出した肩と、長過ぎる腕は、落下のショックなど本気も出さずに吸収する。


 背中に担いだのは、トゲのついた鉄棒。


 鬼の武器を思わせるそれを持ち、力の誇示を兼ねて大きく振り回す。


 たちまち周囲の家々を薙ぎ倒す。


 後ろにつくのは、巨大な羽を持つ虎。


 その羽は地中竜の物。


 トラ竜4。


 それと結晶体を背負った牛。


 この結晶は海中樹の物だ。


 ウシ樹2。


 どちらも4本足で歩き、道具を使う手のような器官はない。



 気高き敗者奴隷バンザイ団。


 彼ら自身の認識では、滅びゆくスイッチアに見切りをつけ、宇宙帝国自らを託した者たち。


 構成員は三種族とチェ連人。


 それを委員会の生態改造手術により、怪獣に変身できるようになった者。


 他のエアクラウンからも、3・4人づつ、奴隷たちが降り立っている。


 そして、手当たり次第に破壊をまきちらす。


 だが、彼らも知っている。


 神獣ボルケーナがいる限り、人的被害がなくなる。


 ゴリラ巨人3の役割は、後ろの2怪獣を率いること。


 そして、右の腰に下げた自分サイズのリボルバーを使うこと。


 見た目はリボルバー拳銃。でも、そのサイズは大砲。


 覚えるべきことは、5発の砲弾を収めるシリンダーに、1発しか入っていない事。


 ゴリラ巨人3は、その大砲を自らの頭に押し付けた。


 そして引き金をひけばいい。


 ロシアン・ルーレット。


 それをすれば、ボルケーナの死を抑制する能力を、一時的に押さえ込むことができる。


 既にその効果は実証された。


 だから、やらなくてはいけない。


 しかし、指が動かない。


 ふと、後ろの怪獣の視線を感じた。


 自分を、弱虫だとみなす視線。


 だめだ。


 今やるんだ。


 さもないと、後ろから攻撃されてしまう!


 ガチッ ガチッと、重い金属の噛み合う音が聞こえる。


 仲間が引き金を引いた音だ。


 その音も、自分を追い立てる。


「ヤー!! 」


 一声あげると同時に、ようやく引き金を引く。


 ガチッと撃鉄が空のシリンダーを叩いた。


 不発。


 安堵の気持ちが広がる。


 毛皮が汗でべたついていた。


 それにようやく気付いた自分が、おかしく感じた。


 だが、完全にボルケーナの力を封じたらどうなる?


 それは100%の死。


 だがそうなるのは、弾丸が発射された奴の運が悪かったから。と考えることにした。


 そうだ。俺は悪くない……。



 その時、ゴリラ巨人3は肩の後ろに、小さいが鋭さと熱を感じた。


 小さいと言っても、それを与えた一つはAT-4。


 肩に乗せて撃つ使い捨てロケット・ランチャー。


 スウェーデンのFFVディフェンス社製。


「口径84ミリだからエイティーフォー 」。というダジャレで名づけられた。


 爆発力を一点に集中させる成形爆薬を弾頭に持つこのHEAT弾は、戦車の装甲を貫くための物。


 野太い銃声が連続して響く。


 ブロウニングM2重機関銃の音だ。


 1インチ(2.54ミリ)の半分だから、50口径と呼ばれる12.7ミリの銃弾を連射している。


 そのほか、同じタイプの兵器が次々に発射された。



 ゴリラ巨人3は振り向いた。


 崩れかかった街の中から、SUVの群れが飛びだしてきた。


 爆縮委員会にとっては忌々しい、マークスレイやキッスフレッシュも交じっている。


 それらにはPP社のロゴが入っている。


 兵器に混じって異能力も飛んでくる。


 炎や氷の固まり、一つはカラフルなハート形の何かだ。


 それを放つのは、ハートと同じ形と柄の飾を先端に持つ、棒状の何か。


 どう見ても銃とは思えない。


 一番小さな銃以外、反動でひっくり返ってしまいそうな小柄な少女が持っていた。


「……魔術学園のヒーロー気取りや冒険者か! 金の亡者め! 」


 毒づくゴリラ巨人3は、上官から聴かされていた。


 PP社は魔術学園に通うヒーローや冒険者に対し、就学支援を行っている。


 それには金銭だけでなく、装備の調達も含まれる。


 これは機密でもなんでもなく、チェ連に渡した情報にもあった。


 その支援を受けた攻撃は、物陰と車両、大まかに2つに分かれて行われている。


 より散らばっている奴隷達にとっては、取り囲めば勝てる。


 そうゴリラ巨人3には思えた。


 が、その時。


 鉄棒の重さが、突然増えた。


 と同時に、左右に激しく揺さぶられる。


 視線を向けた時、すでに巨大なボールを端に1つづつ付けたワイヤーが勢いよく絡まっていた。


 分銅。その異星人巨大版だ。


 投げ飛ばされないよう、力を込める。



「左右からかかれ! 」


 足元から声がした。


 と思ったら、たちまち自分たちに負けない影が立ち上がる。


 異星人の冒険者だ。


 今まで地球人に擬態して隠れ進んでいたのを、解除したのだ。



 トラ竜4には、さらに大きな肉食恐竜の影がのしかかった。


 その体は銀色の機械でできている。


 トラ竜4は炎を放とうと、口を大きく開けた。


 だが肉食恐竜の背中から、するりと降りた黒い影が、それを阻む。


 ペースト星人。


 さっき、落下するKK粒子から街をかばい、避難民を送り届けたコンビだった。


 ペースト星人の両手に、分銅の重りが握られていた。


 そのワイヤーが、トラ竜4の首に素早くまかれ、一瞬で締め上げられた。



 ウシ樹2は結晶体からレーザーを放とうと、光を集めた。


 だが、結晶体の付け根に鋭い一閃が撃ち込まれた。


 打ち込んだのは、緑色の巨大なカマキリの特徴を持つ、マンティダ-星人。


 カーマだ。


 結晶体の光が弱くなった。


「モ―!! 」


 海中樹だった時には、絶対に口からでない叫び。


 痛みに耐えて、角による突進に切り替える。


 だが、カーマは羽ばたきで後ろに回り込んだ。


 その前に左手の甲から粘着性の糸を放つ。


 それをウシ樹2の前脚に張り付けた。


 左回りにカーマが飛ぶ。


 ウシ樹2の足をすべてからめ捕り、後から鎌を振るう。


 ウシ樹2の結晶体の後だ。


 メキメキと木のねじれる音とともに、結晶体は落ちた。


 それでもウシ樹2の足は止まらない。


 糸を引きちぎりながら、角を振り回し敵意を示す。



 ゴリラ巨人3は、打ち下されたハンマーに頭を殴られた。


 そのショックで、鉄棒を落とす。


 殴ったのは、青い鱗に覆われ、額から1本角をはやす異星人。


 ゴリラ巨人3の半分より少し大きい程度のフンダリング星人。


 ディミーチが立ちふさがった。


 そのハンマーを、叩き込んだまま手を離す。


 明らかに視線を引き寄せるためのおとり。


 ディミーチは背中に隠した警棒を抜き、襲ってきた。


 精一杯手をのばして鋭く、スピードの乗った突きを繰り返す。


 ゴリラ巨人3の肋骨の下、鳩尾を狙っている。


 だがその突きは、正面以外へのアプローチができない、不自然なものに思えた。


 わざと一歩進み、拳を振り上げる。


 ディミーチがこれまで以上に素早い突きをだす。


 ゴリラ巨人3は、体を引いてよける。


 最初から計画した動き、フェイントだ。


 次の瞬間、警棒からまばゆい電撃がほとばしる。


 巨大なスタンガンだった。


 当たっていれば、ゴリラ巨人3の体から力が奪われただろう。



 間合をあけながら、トラ竜4の様子を見た。


 首は、最初は激しく暴れまわった。


 だが、体は動かせない。


 次に見た時、動きは鈍っていき、目から意識が失われていく。



 次はウシ樹2。


 足の糸は完全に外れ、カーマに襲いかかっている。


 対するカーマは、諦めず糸を張って動きを鈍らせ、大鋸で切り掛かる。


 そこに冒険者の車が近づいてくる。


 魔術学園高等部の制服を着ている者も、大学での私服の者。


 迷彩服を着ている者もいた。


 自動小銃や剣など、様々な武器を持っている。


 停車すると飛び下り、奴隷たちを取り囲む。


「絶滅動物のハラワタ、いただきだ! 」


 冒険者の一人の叫び。



「我々が、絶滅動物だと!? 」


 ゴリラ巨人3はその叫びに怒りを燃やした。


 ディミーチが答える。


「そうだ。


 お前たちは、元の世界より未来の世界に来てるんだ。


 俺達は滅んだお前たちの世界を見ている。


 ここらで終わりにしないか?」


 それでも、ゴリラ巨人3は止まるつもりはない。


「滅びなど、愚劣な人間が起こす物だ! 」



 気高き敗者奴隷バンザイ団。奴隷たち。


 ゴリラ巨人やトラ竜らの認識によれば、こうだ。


 滅びしかない故郷スイッチアを捨て、異世界に自分たちを託した勇敢な先駆者。


 自分達が差し出す物は、自らの肉体。


 命をかけて宇宙帝国のために戦い、忠誠を示すこと。


 男の場合は、自分を改造するよう、志願することだった。


 ゴリラの要素を埋め込んだチェ連人、その3人目に。


 そのために元の名前を捨てた。


 今の名は、ゴリラ巨人3。


 それしか必要ない。


 もともとは妻子と共に祖国を捨てた夫であり、父親だった。


 家族と一緒に過ごせた。


 与えられた家は宇宙帝国の平均よりは下だが、チェ連よりははるかに上だった。


 それが、生徒会が来たことですべてが変わった。


 スイッチアで活動していた奴隷たちをそそのかし、裏切るよう仕向けたからだ。


 それからは、自分たちスイッチア人は信用を失った。


 家は取り上げられ、家族がバラバラに強制収容された。


 だが、家族をそれまでどうりに生活させる方法が、一つだけあった。


 それがこの作戦だ。


 そのことをいちいち口にするつもりはない。



「うおおおお!!!」


 ゴリラ巨人3は逃げた。


「我々は違う! 」


 そう捨て台詞を残して味方を目指す。


 後からカーマの怒り声が聞こえる。


「じゃあ、あんた達は人間以下なの? 」


 否定の声は、どこからも聞こえない。


 ディミーチが、背中にタックルをかました。


 そのまま押し倒そうとするが、ゴリラ巨人3はあわてて踏ん張った。


 それでもディミーチはつかみかかり、首を絞めようとする。


 ゴリラ巨人3は、ひじ打ちを連続して放つ。


 硬い筋肉の感触があったが、ゴリラ巨人3の筋力も並みではない。


 首に巻かれた腕をはぎ取り、再び走り出そうとした。


 だが、機械恐竜に足を噛まれた。


 そのまま、道路のアスファルトに顔面から突っ込んだ。


「ギャー!! 」


 ゴリラ巨人3の目の前で、地球人が悲鳴を上げていた。


 その直後、閃光が見えた。


 とっさに目をつぶる。


 その直後に、熱と衝撃を食らった。


 頭を、脳を揺さぶられ、意識を一瞬失うほどの一撃。


 悲鳴を上げた地球人は、魔術学園高等部の制服を着た男の子だ。


 強力な、炎が爆発した。


「おのれ、ここにも敵が! 」


 ゴリラ巨人3は立ち上がろうとするが、ディミーチとペースト星人が踏みつぶしにかかる。



 その時、目前の能力者は信じられないことを叫んだ。


「助けてぇ! 」


 目から涙を流し、その場にへたり込んでいた。


「バカ野郎! 食われちまうぞ! 」


 スーパーの制服を着た、大人の男性がそれに気づき、怒鳴った。


「だ、だけど、腰が抜けてぇ!! 置いてかないでくださぁい!!! 」


 能力者は泣き続ける。


 スーパーの男性は、自分よりはるかに強そうな異能者に、駆けつけた。


「ほら! 背中にのれ! 」


「あ、ありがとうございますゥ」


 腰を抜かした少年を、通りかかった男が助けた。


 そのことが、ゴリラ巨人3には衝撃だった。


 何だ。ここは。


 異能力者を集めた実験都市なら、要塞化されてもおかしくないのではないか?


 不意に、ディミーチ達の蹴りが収まった。


「おい! まだ戦えるか!? 」


 味方の援護が来たのだ。


 同じ手術を受けたゴリラ巨人2の手を借り、ようやく立ち上がる。


「まだ、戦える! 」


 味方同士、うなづきあう。


「敵の要人を乗せた艦隊は、まだ動けない。


 その包囲網に少しでも取り付き、敵の火力を引きつけるぞ! 」


 


 そんな使命感を胸に、居並ぶエアクラウンを見た。


 さらに不可解な物を見た。


 あの白く塗装された、エアクラウン改。


 地球で改修され、1機しかないはずのそれは、敵陣に思いきり突っ込んでいた。


 スイッチアで作られた、エアクラウンの人型形態。


 それは重さゆえ、非常にゆっくりとしか動けない。


 足など、ほぼすり足だ。


 無理に方向転換すれば、ふらつくこともある。


 その分、防御力と火力がある。


 機動力は飛行形態ならある程度補えるが、KK粒子に覆われたこの地では使えない。


 だが、上をおさえられたという事は、前後左右を火力と巨体で押さえれば問題ない。


 規模は大きいが、室内戦と変わらない、という事だ。


 地球側の宇宙艦隊も、護衛に回った以上、ルルディックを中心にバリアを重ねて張るくらいしかできない。


 四天王の技は地上を焼き尽くしかねない。


 今はどれも小口径の機関砲などしか使っていないのが、その証拠だ。


 そのはずだった。



 だが、エアクラウン改の動きは、はるかに人間的だった。


 奴隷側のエアクラウンの腕は、まっすぐ伸ばすことで、強力なレーザー砲になる。


 それを何発も一点に集中させることで、四天王さえ貫く。


 だが地球のエアクラウン改は、その一点を優れた機動性で避け切った。


 そして長い距離を、まるで滑り台をすべるような静かな飛行猛スピードで、敵の足下に飛び込む。


 そこにある敵の足を、蹴り払った。


 敵の頭が落ちてくる。


 エアクラウン改は、それを殴り上げた。


 殴られた頭部から、金色の液体が飛び散った。



 この飛び散る金色の液体。それが改造された天上人。


 エアクラウンの中を血流のように回る。役割も同じだ。


 自らの意思でエアクラウンの操作も行う。


 だが慣れていないのは、ぎこちない動きを見れば明らかだ。


 反対にエアクラウン改は、信じられない反応速度だ。


 低い姿勢のまま、次のエアクラウンの膝にタックルを食らわせる。



――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――



 その時、白いエアクラウンの中では。


「ねえ、敵もエアクラウン。こっちはエアクラウン改。


 紛らわしくない? 」


 戦闘中でも、全身骸骨じみたチタンの姿にされても、ドラゴンメイドのぼやきはかわらない。


 そして、それに答えるワイバーンの声色も。


「瑞風みずかぜはどう?


 みずみずしいか風。めでたい事の前兆だよ」


 律儀にそれに答えた。


 同乗するオウルロードには、むだな会話としか思えない。


 貴重な演算能力を無駄にする行為だ。


 以前どうりの会話。



 そのせいで自分の思考のためのリソースが大分奪われる。


 そもそも、この巨大ロボットを動かすには人間、すなわちワイバーン1人の脳では負担が多すぎる。


 だからドラゴンメイドと接続された。


 だが、その彼女は無駄口ばかり。


 それで自分がサポートすることになった。


 文字道理の泥縄。


 だが、その関係が何だか心地よい。


 無性におかしな気持ちになっていく。


「エアマフラー改も変えましょうか?」


 自分でも加わりたくなる。


 両親も、ずいぶん罪深い製造をしてくれた物だと思い、また笑う。


「じゃあ、涼風! 」


 ドラゴンメイドが即答する。


 バグだらけ、誤作動だらけの戦場。


 合理的な意味を求めるとすれば、それが操作する機械に予測もつかない動きをさせる。


 それが無限の可能性に変わる。


 多分生物は、化石にも残らない多くの生物が、そんなトライ&エラーを繰り返しながら進化を続けてきたのだろう。


 でも、そうでなくても、オウルロードは切り捨てることはしたくない。


「では、エアクラウン改は瑞風で。エアマフラー改は涼風で名称登録します」


 そう思うから、ドラゴンメイドとワイバーンにしたがう。



――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――



 瑞風にエアクラウンは、右手で股間を、左手で肩をおさえられ、素早く立ち上がる勢いで上下さかさまにされた。


 そのまま山のむこうへ、頭から地面に叩きつけられる。


 大地が揺れ、ゴリラ巨人3さえ転びそうになるほどの、衝撃!


 木々が揺れ、瓦屋根が落ちた。


 見事な飛行機無げだ。


 全身から金色の天上人血液をまき散らせば、もう動けない。


 エナジー・フィールドを発生させるのは天上人からの直接。


 全身に衝撃を食らえば、機械の方が根をあげる。


 瑞風は、また勢いよく立ちあがる。



 ゴリラ巨人3は推理した。


 おそらく、背中にエナジー・フィールドを展開し、それを滑り台のように使って滑り込んだ。


 さらに内部に圧縮した空気をため、その反発力ですばやく立ち上がった。


 それは正しかった。


 エナジー・フィールドは手足にも展開し、飛行機の羽のように空気の流れを整えるのにも使っている。


 それらを使って、さらに効率的に跳びかかる。



 それでもエアクラウン艦隊は、フィールドを重ね掛けし、レーザーを何発も集中させてルルディックと四天王を取り囲んでいる。


 瑞風が飛び込み、エナジー・フィールド同士で浸食し、格闘とレーザーで切り崩そうと、それは局地的な事だ。


 その局地を、さらに大きな戦術に変える存在があった。


 オウルロードによって演算速度を強化されたエアマフラー。涼風だ。


 レーザーは、瑞風の開けたフィールドの穴の一点に集中することで、一瞬で敵の胴体を貫いた。


 さらに、山の上に4機が取りついた。


 涼風の持つエナジー・フィールドは重ね掛けされ、その厚さを増し、空間が歪んで見えた。


 瑞風が、勢いをつけて走りだした。


 そして、その分厚いエナジー・フィールドを踏む。


 それを足場に、体を空中で一回転させる。バク天だ。


 自分達にレーザーが集中したが、たちまち空を切る。


 伸ばした足が、不用意に近づいたエアクラウンの頭をとらえた。


 フィールドを刃に変え、肩から腰に掛けて真っ二つに刈り取る。


 刃となった足は、敵を切った抵抗も感じさせず、着地。


 さらに次の目標へ跳びかかっていく。



 ゴリラ巨人3達、気高き敗者奴隷バンザイ団は、飛び散る破片や何百トンもありそうな金属の手足が飛び散る中を走らなくてはいけなかった。


 埃が目に入り、涙で視界が滲む。


 それでも必死に足を動かす。


 ルルディックと周りのレイドリフト達を襲うため、取り囲まなくてはいけない。



 カチッ カチッ 


 ロシアン・ルーレットの音がする。


 皆が戦っている。


 それに思い至ると、ゴリラ巨人3の全身に力がみなぎっていった。


 


 ゴリラ巨人3が闘志を燃え上がらせた音。


 それは、エアクラウンの足につけられた、スピーカーから流れていた。


 仲間がロシアン・ルーレットを行っていると、思いこませるための、偽の音。



 そんなことには気づかず、ゴリラ巨人3は全身に熱さを感じた。


 全身に火がついたようだ。


 興奮による錯覚。


 そういう物がある、というのは知っていた。


 だが、本当に燃えていようと走り、戦ってみせる!


 ゴリラ巨人3は、他の仲間たちを鼓舞しながら、最も攻撃密度の濃い場所へ突き進む。

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