第38話 最果てからの声
「敵出現の預言時間まで、あと10分です」
オウルロードが言った。
港に停泊した、ただ2隻の船。
一つは、白い滑らかな船体に、船首から伸びた4本の腕。
その手の中に巨大なポルタを発生させ、地上に避難民を送り届けている。
PP社の異次元急襲揚陸艦ファイドリティ・ペネトレーター。通称ペネト。
全長241メートル、重量50142トンの船体を、ここでは6つの巨大なタイヤで支えている。
もう一つも、白い船体だ。
全長は361メートルで、突起一つない甲板。
そこから今は、ペネトに太いケーブルをつなぎ、電力を提供している。
そのケーブルが、次々にはずされていく。
ケーブルは甲板に引き込まれているが、操作する人間はそれを横目にしながら、次々に港へ逃げていった。
そしてぺネトに乗り移る。
甲板を乗せるのは普通の船体が2つ左右に並んだもの。双胴艦。
その重量は28967トン。ペネトのおよそ半分。
さらに奇妙なことに、ペネトと違って船体の下にはタイヤのような物がなかった。
小さな2つのジェットが向かったのは、そこだった。
甲板の一部が跳ね上がり、2人のレイドリフト、ドラゴンメイドとワイバーンを受け入れた。
『パイロット、真脇 達美、鷲矢 武志、久 編美。確認しました』
3人が入ると同時に艦の人工知能がアナウンスを響かせた。
『ようこそ。技術検証艦エアクラウン改へ』
鈍色の金属で組まれ、天井にはパイプやコードが駆け巡る廊下。
ドラゴンメイドとワイバーンはそれを気にせず、飛行時と大して変わらぬ速度で突き進む。
その後を追うように、分厚い隔壁が次々に閉鎖される。
『異星からの有事により、出撃準備は完了しています』
パイロットたちが最後の部屋に飛び込むと、最も厚い隔壁が閉じられた。
その部屋にあるのは、2つ並んだ椅子。
前にあるのはぺダルやスイッチ、ジョイスティック、そして船首にあけられた窓と、大小のディスプレー。
この船の操縦席だ。
「作業員の退避は? 」
銀色のフレーム姿のドラゴンメイドは、そう問いながら席に飛び込む。
となりにはディスプレーに目を走らせながらワイバーンが。
「艦内の退避は完了。でも、ペネトとは距離をとった方がいいね」
「うん、ありがと」
ドラゴンメイドはその傍らにある缶ホルダーのようなソケットにランナフォンを差し込んだ。
その上にオウルロードの小さな立体映像が浮かぶ。
「そうだ。アイドル連中は? 」
ドラゴンメイドの言うアイドル連中とは、前日の帰還パーティーで一緒に歌うはずだった仲間たちだ。
「昨日の便で東京に戻られました」
それはオウルロードにとっても同じ。
「そう、良かった」
2人は安心して操縦を続ける。
ドラゴンメイドとワイバーンは、目の前のジョイスティックには触れない。
代わりに首の後ろのソケットに、船からのコードを差し込んだ。
『パイロット3名接続……完了』
エアクラウン改の2つある船体の片方、ペネトから離れた右側の船体が、持ち上がった。
船体の位置が離れていく。
右船体が海底につくと、次は左の船体が持ち上がる。
足のように使い、横移動を始めた。
「ここ以外に敵のポルタが開くことはないの? 」
ワイバーンが聴くと、オウルロードが答える。
「今のところ、その兆候はありません。
彼らは、チェ連が生徒会を召喚するのに使ったポルタを観測し、その痕跡をたどっているのでしょう」
モニターの中で、スイッチアと地球、二つの地図が重なる。
スイッチア側は険しく高い山脈の地下にある要塞の一点が。
地球側はなだらかな丘陵にある魔術学園。
生徒会会議のあった体育館と、チェ連のポルタ発生施設の位置が重なる。
チェ連側の地形が、空を覆うKK粒子とぴったり一致した。
「ここ以外は、解析時間がたりず開くことができないと思われます」
確かに、チェ連からの避難民や多国籍部隊を逃がすポルタは他にもある。
しかし、うっかりポルタを開いたら、地中や海中に開いてしまい大わらわ。
それは、この世界のニュースでよく聞く話だ。
そして今、敵という言葉を使ったが、元をただせばこのエアクラウンもスイッチ製なのだ。
2年前の福岡に攻め込んだ、スイッチアの兵器。
その時鹵獲され、PP社に研究材料として渡された兵器はまだある。
『予備戦力も、準備完了しました』
港の砂利で覆われた土地に、高さ10メートルほどの円筒形が並んでいる。
その円筒から手足が伸び、人型となって立ち上がった。
首にあたる部分から4枚のプロペラが伸びる。
チェ連の地域防衛隊も使用した、あのロボットと同じだ。
エアマフラー。その改。
ただし、人間が乗るスペースは無い、無人機だ。
「操作権、いただきました」
動かすのはオウルロード。
エアクラウン改の船体が、海から空中に浮かんだ。
反重力エンジン。
その船体を海からだし切ると、変形が始まる。
2つの船体の甲板が合わさり、巨大な円盤に。
操縦席のある前方と、海に隠れていた赤く塗られた部分があらわになる。
技術検証艦だから、左右や前方がすぐわかるよう塗装されている。
直径361メートルの円が宙に浮かぶ。
その前には魔術学園があった。
オウルロードが説明する。
「あの空を覆っているのは、KK粒子。
スイッチアで死のアレルギーを発症したボルケーナさんの粒子が、地球に流れ込んできたのです」
残り2人は思わず、うめき声を上げた。
「煙のような見た目に反し、質量はあります。内部はゲル状ですね。
温度は摂氏3000度前後。チタン合金でも蒸発します」
そのチタンの骨格を持つワイバーンが問う。
「その割には、飛んでても熱くなかったね」
「ボルケーナさんが熱伝導率を小さくしているのです。
また熱に強いから、形を保っているのですね」
それを聞いてドラゴンメイドが思い出した。
「お姉ちゃんが、私は太陽に突っ込んでも溶けない。って言ってたわ」
太陽の表面は、水素が核融合した物で5500度。
その時、ドラゴンメイドは気付いた。
「待てよ。今のお姉ちゃんは隙間だらけなんでしょ? 炭みたいに!
神経とか、ちゃんと走ってるの?! 」
ドラゴンメイドの意識が、船のセンサーを動かした。
「……神経にあたる物は見えない。どういうこと? 」
オウルロードもそのことに驚きつつ、思い当たったことがあった。
「もしかすると、細胞一つひとつが予想しつつ、能力を維持しているのかもしれません」
それならば……と、ドラゴンメイド=真脇 達美には思い至ることがあった。
自分が子猫であることを止めさせられた交通事故の後だ。
サイボーグになると同時にボルケーナの力を授かり、生きながらえた。
だが、ボルケーナは力を与えたことを知らないという。
もしかすると、本人の意識にも上らないほどわずかなボルケーニウムが、それに秘められた優しい行動パターンによって自分を救ってくれたのではないか。
そう思えた。
「なんという女神根性! 」
だが、その体のもろさは先ほど顔を出した時にわかっている。
「スイッチアを囲んでいた宇宙戦艦なら、無理すれば通れる」
ワイバーンが、言いにくそうに指摘した。
「敵出現の預言時間まで、あと5分です」
魔術学園の上に陣取る、レイドリフト四天王。
その下に、ルルディックが滑り込んできた。
小学校にいる日本とチェ連の政府高官を連れ出すためだ。
だがその全長は、グラウンドからはみ出してしまう。
周りにはルルディ騎士団の飛竜が並び、地上から全部甲板へ人々をピストン輸送する。
そして後部甲板には。
「あれ、あのルルディックの後ろにあるやつ、地下要塞にあった変なビルよね? 」
異星人を閉じ込め、魔王にするというビル。
飛びだしていた目玉や耳、口は、さらに大きく、種類を増やしていた。
今は船体に黒く長い物でぐるぐる巻きにされている。
出獲 蠍緒(いずらえ かつお)。
学園高等部生徒会の仲間で、サッカー部部長。
今はルルディ騎士団に復帰した、毒針を持つ魔法の鎖、ポイズン・チェーンの使い手。
変なビルと船を結ぶのは、そのポイズン・チェーンだった。
「うん。そうだね。でも、あっちはあっちでまかせよう。
バリア展開!
チェ連人避難民とペネトの撤退を援護する! 」
ワイバーンが宣言したその下では、ペネトへ出戻る大勢の人。
その列に近くに、何台ものスチール製コンテナを乗せた軽トラックが止まっている。
コンテナに書いてあるロゴは、近くにあるスーパーマーケットの物だ。
ドラゴンメイドも含め、近所に住むものなら皆知っているエプロンをつけた店員が、避難民に次々に物を渡していた。
「むやみに民間人を近づけるのは、危険ではありませんか? 」
オウルロードの疑問。しかしドラゴンメイドは港の一角を指さして答える。
「そんなことはないよ。見なさい」
そこには、チェ連の美しい車や、芸術、骨董を積んだトラックが並んでいた。
「プレシャスウォーリアー・プロジェクトによって示された、チェ連の誠実よ! 」
それを見てオウルロードは、心から感心した。
「よく、分かりました」
避難民は、ぺネトの甲板にまで広がっている。
そこに、真新しい色の傘が次々に開いた。
「山からも、学園の冒険者が下りてきますよ。52人」
オウルロードが指摘した、巨大な足音。
KK粒子により、その下へ敵の降下は無いと判断した彼らが、多少乱暴に山を下りる音だ。
肉食恐竜のような巨大機械生命体があらわれた。
それにまたがるのは、地球人に似た巨大な異星人。
金色の髪から黒くとがった耳が伸び、目は昆虫の様な青い複眼。
皮膚は真っ白で、ゴムのような光沢をしている。
身につけるのは彼らにとって高貴な色、黒で統一された、硬質のアーマー。
ペースト星人。腕のアーマーに銃をつけた、冒険者だ。
コンビを組んだ機械獣から振り落とされそうになっている。
「そう言えば、スイッチアにもペースト星人がいたけど、巨大化した人はいなかった」
ドラゴンメイドは思いだした。
こんな時に、関係ないことを言う。
でもそれが彼女の良いところだと、ワイバーンは思っている。
目の前で起こっていることに興味を持たず、そのために被害が拡大するよりよっぽどいい。
「ペースト星人は、宇宙の広い範囲に暮らしてるからね。
でも、巨大化する能力がないという事は、スイッチアのまわりの宇宙はやっぱり遅れているのかな……」
山から下りる冒険者は、さらに増えてくる。
ライオンのような機械獣。鳥のような羽を持つ巨人。
その一団が、突如止まった。
「あのあたりにカメラはないの? 」
ワイバーンがオウルロードに訪ねた。
「パトカーの車載カメラがあります」
その映像が、立体映像ディスプレーで映った。
全周囲モニターができる車で、四方を見渡せる。
一つは、立ち止まった冒険者の前。
ちょうど、国道を挟んで左が山、右は市街地という場所だった。
そして市街地からは、パトカーも動けないほど避難民があふれていた。
パトカーの前で、警官が手を振り上げ、上に向かって叫んでいる。
その視線の先にはあのペースト星人と恐竜型機械生命体。
そして続く冒険者たち。
彼らの行動が素早かった。
まず、巨大な冒険者が上着を脱ぎだした。
2着並べると袖口に、槍などの長い棒を借りてきて通す。
どんなサバイバルの本にも載っている、応急の担架だ。
その大きさは、地球人なら100人でものせられそうなほど大きい。
だが、目の前にいくつも下される巨大担架を見ても、乗り込もうとするチェ連人はいなかった。
その時、緑や茶色の迷彩柄に塗られた軽トラックやミニバンの一団がやって来た。
地球人や同じサイズの冒険者たちだ。
トラックの荷台やバンの屋根には、重機関銃やグレネードランチャーが備え付けてある。
並べて置いてあるのは、人の背丈ほどもありそうな刃を持つ剣だったり、槍であったり。
怪獣の表皮や骨を利用した武器。
そんな彼らも、避難民を乗せ始めた。
チェ連人も、彼らの方が親近感を感じるのか、車に乗り始めた。
やがて人の波は、巨大担架にも押し寄せた。
味方だという事が伝わったからだ。
人がいっぱいにのった担架を、異星人たちはふわりと、反重力で空を飛ぶことで運んでいく。
ドラゴンメイドたちは、こんな飛行もチェ連では見たことがなかった。
魔術学園では、ルルディックへのピストン移送が未だ続いている。
飛竜の発着場となったグラウンドの前にも、パトカーがいた。
今も、高官達を乗せた飛竜が飛び立つ。
飛竜の黒い背の上にシエロを見つけた。
大人の女の人に抱きしめられている。
軍人たちと同じと同じ灰色のコート、短く切りそろえられた黒い髪。
「あ、シエロのお母さんだ」
ドラゴンメイドは心の底からホッとした声で再会を祝した。
シエロの母の肩が震えている。
軍人たちと違い、真っ白のコートを着た女性もいた。
その姿は、そこだけスポットライトを受けたように華やかにみえる。
見れば、灰色や茶など、地味なコートのばかりではない。
一部の男女が身につける物には、赤や青のラインなど、派手な工夫を凝らしてある。
「あの派手なコートの人たち、軍人とか政治家じゃないね。誰なの? 」
ワイバーンの問いにドラゴンメイドは素早くこたえる。
「公務員とかじゃないけど、力を持っていて、その人に話を通さないと物事が進まない人。フィクサーよ」
子供の無事を喜ぶ心に、星による違いは無いらしい。
早く、早く逃げろ。
その願いは、オウルロードの一言で断ち切られた。
「敵出現の預言時間まで、10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・来ます! 」
KK粒子に遮られ、その上の雨空は見ることはできない。
だがデータリンクでわかる。
巨大なポルタが開いた。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
学園艦隊。
異星人や異能力者の中でも冒険者と呼ばれる人々。
その中でも、最大の出力と装甲を持つ、宇宙戦艦や大型ロボットを使用する一団。
もう、{郵便トロイカがゆく}は流していない。
そして、隠れるのを止めた彼らは、自分たちの好きなように配置換えをした。
ポイント1、上空23000メートルで待機しているのは4隻。
その一隻が艦隊旗艦、ルビー・アガスティア。全長230メートルの宇宙巡洋艦。
指揮するのは、魔術学園高等部生徒会顧問、高山 恵二。
「新たなポルタが開いた。
出てくるのは、ついさっきまでスイッチアで多国籍軍と戦っていた宇宙戦艦だと確認済み。
ここからは、すべての武器の使用制限はない! 」
生徒会を迎えに行けず、見捨てるような形になったが、ここで待ち伏せすることはできる。
そのことは、2人いる生徒会顧問や冒険者たちに、わずかながら慰めをあたえた。
彼らも、学校内のきずなに少なからず恩を感じているのだ。
「自分たちの起こした災いを沈めず、その責めを俺たちに押し付けようという恥知らずに、お仕置きするチャンスだぞ! 」
そう叫ぶ高山のルビー・アガスティアに、戦場の観測データを送る艦がある。
各種センサーを充実させた、多次元管制艦ヤラ。
「全ユニット配置完了。志願者のノーチアサン、竜崎 咢牙もポイント2にて配置完了」
ここにいるのも高等部生徒会顧問、六 富美。
感情を乗せないクールな声の女性だが、その指示と報告には、正確さという破壊力がある。
そしてそれが、自分の命が危機に陥ろうとも失われないことを、艦隊のすべてのメンバーが知っている。
「総員、作戦計画7-Cに基づき攻撃準備。繰り返す、攻撃準備。ポイント2での会敵まであと3分。推定距離8キロメートル」
それを、怒りという。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
KK粒子のすぐ上。
ポイント2と名付けられたポルタを前に。
ペネトの逃げる海と日本アルプスを背にして、5つの巨影が陣取る。
ポルタに向かって右に、サメのような姿の船がある。
「ポイント2、ホラディラ了解。
攻撃準備を開始する」
ノーチアサンと同型艦である。
2隻目は。
「ダイニチ。全システム問題なし。いつでも行けます」
全長200メートルにして3角柱の船体は、1本の剣を思わせる。
そして3面に、複数の砲塔を備えていた。
敵がいかなる方向から攻めてきても、その砲火は逃がさない。
そして船首には、巨大な触角、というよりドリルがある。
素材は時間軸摘出粒子。
時間の流れが存在しない、すなわち破壊できない物質なのだ。
そして3隻目。つまりセンターには、ポイント2にいる4つの巨体を合わせたよりも巨大な戦艦がある。
「ケルヌンノス、敵影を確認。
全艦、射撃管制データを受信せよ」
その姿は、サツマイモのような歪んだ楕円。
そして、チタンの銀色に輝いている。
もともとは隕石だった物を、加工せずにそのまま使っているのだ。
全長は600メートルほどでスーパーディスパイズほどではないが、太く、質量は凌ぐ。
隕石の膨らみの影にはミサイルランチャー、バリア発生装置。
表面には網の目のようにレールが覆う。
そこをモノレールのように、各種装備が走る。
ポルタに直接向かうのは各種センサー、砲台。
『ポイント2の竜崎 咢牙へ。戦闘開始にはレーザー推進リンクという攻撃を使用する。その際に君は攻撃に加われない。水を用いればレーザーを乱反射、拡散させる。雷を使えば、レーザーでイオン化した空気に流れ、それぞれの艦がダメージを食らう』
ヤラからの通信を、ノーチアサンが外部スピーカーで伝える。
「こちらノーチアサン。竜崎 咢牙には通信手段がないため、私が代理となる。竜崎 咢牙は了解している」
『ヤラ、確認した。竜崎 咢牙は他の艦へ留意しつつ、作戦を続行せよ』
ノーチアサン、サイガの順で外に並ぶ。
彼らが、ポルタの前にそれぞれ2キロほど間を置いて並んでいる。
その高度はそれぞれ違う。
もし敵が直前になってポルタの位置を変えた時、艦隊はその場で回転すれば迎撃できるからだ。
整然とした、隙のない隊列。
だが、ノーチアサンの中。
科学者として参加するユウ メイメイには不思議な光景だった。
「六先生はともかく、お前らこんなに確認しまくってたっけ? 」
ホラディラからの答えは。
「規定が代わったんだよ」
ケルヌンノスからも来る。
「純和風でいいだろ」
もっとも敵に集中していたのは、ダイニチにいた。
「静かにしろ! ポルタから何か聞こえてくる」
ポルタから最初に出てきたのは、敵ではなかった。
大きな、大きすぎるほどの声。
『ポイント2、ターゲットを確認した。攻撃開始する。繰り返す、攻撃開始する』
ホラディラの声と同時に、攻撃が始まった。
直後、ケルヌンノスのミサイルランチャーが火を吹いた。
発進するのは次元振動弾頭を積んだドローン。
敵のバリアを次元ごと切り裂き、こじ開ける物。
「ノーチアサン、全ユニットのレーザー推進リンク受領と信頼性を確認」
答えたのは、空気を読んだメイメイだ。
「ポイント2を中心としたレーザー推進リンクにて攻撃開始。発射」
ホラディラの命令。
ドローンが開けた穴に、サイガを除く4艦から、あらんかぎりのレーザーが撃ち込まれた。
そのレーザーは幾筋もあったが、迫る敵戦艦の表面で一点に重なる。
レーザー推進リンク。
もともとはレーザーを一点に集中させ、それを宇宙船に付けた鏡で反射させることで送り出す技術。
ポルタ技術が確立する以前に、恒星間移動の手段として開発された技術だが、ここでは全く違う事に使われている。
爆音が響いてくる。
同時に、大きさを増す人の声のような物も。
ポルタから、鋭く、黒い物が飛びだした。
敵の宇宙戦艦だ。
きれいに重なったレーザーが、その表面を焼き切り、赤熱化したラインが走っている。
もともと砲塔のあった場所からは、ひときわ大きな火の手が上がり、爆発が続く。
その太いレーザー光でも、宇宙戦艦の勢いは止められなかった。
止めたのは、彼ら自身が開けたポルタ。
超音速で飛びだした舳先が、衝撃波を起こし雨を押しのける。
衝撃波が、雨を津波のように変える。
だが、龍神がそれを許さない。
神力。
敵艦から円形に広がる津波は、その向きを引き返し、敵艦自信を撃ちすえた。
それをサイガのおかげと言っていいのか、火が消えていく。
『ポイント1、オートクレールとアスカロンの攻撃を許可する』
ヤラからの命令一つで、ポイント1で待機していた約100メートルの2つの影が急降下して襲いかかる。
一つは突き下ろされ、もう一つは振り下ろされる剣のようだ。
突き下ろされる剣は、オートクレール。
小型で軽量の割に分厚い装甲と火力を生かした、一撃離脱を得意とする駆逐艦。
振り下ろされる剣は、アスカロン。
船というより、左右に広がるのは翼。
巨大な戦闘機だ。
2つの剣は落下の運動エネルギーを込めた爆撃を行う。
当たった爆弾が敵戦艦にめり込み、爆発する前にはなれていった。
ダメージを立て続けに食らい、敵はポルタのふちにめり込んだ。
敵艦の艦首は、ゆっくりとせり上がっていく。
艦尾が、シーソーのように下がっていくのだ。
同時に敵艦からの演説が、はっきり聞こえるようになった。
『我々は、祖国爆縮作戦実行委員会!
気高き独立を天地の民に望まれながら、卑劣なる亀裂主義者によって滅ぼされた、宇宙帝国の臣民である!
目的は、祖国爆縮作戦の完遂!
祖国のある宇宙域を完全に独立させ、富と生命そして権利を爆縮するのだ!
我らは、宇宙域に亀裂をもたらしたスイッチアのような無駄惑星や、卑劣な物量戦で持って組み敷く銀河列強を許さない!
たとえ謎であろうと、あらゆる悲劇を許さない!
地球には、我々の戦力が宇宙域の外でも通用することを、示すために来た!
女神ボルケーナには、宇宙の禅譲を迫る!
いかなる人も、神も悪魔も、我らの世界に来ることは許さない!
我らは、調和された宇宙域を作るのだ!
たとえその中で死のうとも、虐げられる人々の勇気となって甦るのだ!
この言葉を、一字一句間違えることは許さない! 』
この言葉が、終わることなく続く。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
「ヘンなのが来た! 」
ドラゴンメイドの、あまりにあけすけな言葉。
演説の勇ましさと反比例して、敵艦の舳先は上がり続ける。
シーソーの原理だ。
「敵艦の全長は2キロほど。このままだとスイッチア側に落ちます」
オウルロードは目測で、敵艦からKK粒子、つまりスイッチア側の地上までの距離を3キロメートルほどと目測した。
上は空。下は白く輝くKK粒子だけ。
「多国籍軍の巡航ミサイルの着弾まで、5・4・3・2・弾着、今! 」
黒い巨体はまさに晒し者。
無数の戦火がはじけた。
それが、まだまだ続く。
繰り返される攻撃に、敵艦は反撃もままならない。
『我々は、祖国爆縮作戦実行委員会! ――』
勇ましいナレーションとは裏腹に、敵艦は轟音と共にずり落ちきる。
そう思われたその時だ。
敵艦を貫いて、無数の光線が放たれた。
その一波が、舳先を断ち切った。
船というターゲットを失って、光線は厚い弾幕となって放たれた。
狙いをつけていないらしく、学園艦隊には当たっていない。
その光に中を、いくつもの黒い円盤が飛び出した。
駆動音はなかった。
だがその大きさ、形は。
「あれって、エアクラウン改にそっくりじゃない?! 」
ドラゴンメイドの言うとうりだった。
すでに学園艦隊では、ポイント2の中心に居たケルヌンノスが降下しつつ後退。
残りも左右に広がり回避行動をとっていた。
レーザー推進リンクはまだ続いている。
レーザーの接点は突撃部隊の後方に設定してある。
後に逃げれば、学園艦隊の弾幕がさらに密度が高くなる理屈。
円盤が飛び込んだのは、広がり、包囲できる体制となった学園艦隊の真ん前なのだ。
その下、KK粒子に覆われた魔術学園では、日本とチェ連の高官を乗せた豪華客船ルルディックが、ようやく移動し始めた。
それを、レイドリフト四天王が援護する。
「四天王。頭上のKK粒子が崩れます」
そう言ったのはオウルロードだ。
「防ぎなさい! 」
敵艦の舳先が落下したのは、ルルディックと四天王の真上だった。
舳先の長さは、およそ500メートル。
丘の上に並ぶ学園施設を押しつぶすには、十分だった。
船の重量は、KK粒子には止められない。
それをかばったのは、レイドリフト・メタトロンの星空の体。
黒い切っ先となった舳先とKK粒子の破片を飲み込む。
しし座にある大クエーサー群、U1.27。ここから違う宇宙へ送り込んでいく。
だが、星空が間に合わなかったKK粒子は、無数の破片となって降り注いだ。
エアクラウン改の3人は、自然豊かな奥深い山々が、それを飲み込んでくれないか。と期待した。
だが、白い、どちらかというとやわらかい印象の粒子が当たると、巨大なキノコ雲が巻き上がった!
「何あれ!? 何が爆発してるの?! 」
ドラゴンメイドは目を疑った。
「……水蒸気爆発だ」
ワイバーンが気付いた。
「雨水が、3000度の熱で一気に蒸発したんだ! 」
KK粒子の中心部に封じられていた高温が、地上に次々と爆発を起こす。
その先には、避難民もいる。
「阻むよ! 」
操縦手のドラゴンメイドが、機体を加速させる。
避難民たちに襲いかかる粒子。
それに肉食恐竜型機械の冒険者が体当たりした。
粒子が避難民を押しつぶすことはなかった。
代わりに、市街地で巨大な爆炎が上がった。
無人であることを、せめてもの幸運であると思いながら、ワイバーンがシステムを起動させる。
「バリア、出力全開! 」
円盤から放たれた波動が、降り注ぐKK粒子を跳ね上げ、無人の山に打ち上げた。
起こしたくない、無数の爆音が響く。
そんな中、ルルディックは完全に逃げ遅れてしまった。
「四天王はルルディックを取り囲んで。KK粒子の範囲外へ連れ出しなさい」
機械らしい、オウルロードの有無を言わさない命令口調。
同時に、エアマフラー改の編隊を差し向ける。
小型とは言えエアクラウン改と同じバリアを持つそれで、逃げる人々を守る城壁とする。
「! 降りてきた! 」
ドラゴンメイドの目が、KK粒子の大穴に向いていた。
その周りでは干上がったところから、火の手が上がる。
そこへ、黒い円盤が降下してきた。
その機体が、真ん中で二つに折れた。
その割れ目から、小さな影が吐き出された。
「あれは……」
円盤だった上下に並ぶ機体が、それぞれ上下に伸び始めた。
頭がKK粒子に迫るほどの人型ロボットに変形したのだ。
円盤のふちが、手足につけた刃に見える。
と同時に、吐き出された小さな影。
それが、一つひとつ巨大化していく。
50メートルほどだから、人型ロボットと比べれば膝ほどだ。
巨大なワニのような顔がある。
当然、ボルケーナではない。
ライオンの前足を、巨大な羽に変えたような怪物もいる。
巨大な猿のような物。
鷲のような頭を持ち、羽で空を飛ぶ、樹。
しかも、立ち上がった異形はさらに増えていく。
「まさか、気高き敗者奴隷バンザイ団!? 」
ドラゴンメイドが言った名前に、ワイバーンもオウルロードも一瞬面食らった。
日本では絶対耳に入らない、得意な命名センス。
それでもワイバーンは、すぐに思い至った。
「あの、スイッチアを裏切った人たちと宇宙帝国が手を組だっていう、テロ組織の!? 」
「そう! それ! 」
だが船のセンサーは、そしてその映像を解析したオウルロードは、さらなる事実を見た。
「それだけではありません。怪獣の体組織を確認しました。
あれは、三種族も改造されて編成されている様です」
それまで、故郷になかった選択をした、ある意味での冒険者。
敗北の対価に裏切りを行う奴隷たちは、まっすぐ駆けだした。
その先には、ルルディック。
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