第36話 生徒会と時の流れ

 テニス部部長、黒い機械生命体であるオルバイファスは、帰りの足として、自らの戦車態を提供した。


 生徒会長、超振動能力者で最強のユニバース・ニューマンは、その車内にいた。

「ねえ、ママは帰ったら何がしたい? 」

 爆発の前には、ユニは息子のクミとの会話を楽しんでいた。

「ソレはね、アンタといっぱい遊ぶことよ」

 副会長、念動力を持つ石元 巌も加わる。

「俺は、何でだろうな。うちに帰って、普通にご飯を食べたい。いつもしていたように」

 クミはウンウン頷いた。

「巌さんの家のご飯、美味しいもんね」

 ユニの地球でのアルバイトは、石元家での住み込みメイドだ。

 クミのことは、巌の両親が見てくれた。

 だが巌が食べたい料理とは、ユニの作った料理の事だった。

 他にもやりたいことがある。

「指輪を買いに行きたい」「ユニに渡してプロポーズしたい」

「一緒にクミの成長を見届けたい」

 見聞を広めたいと30を過ぎても高校生からやり直す男は、そういう事には煮え切らない男だった。


 新聞委員会長、電撃を放つアラン・オーキッドが、その様子をスマホで動画撮影していた。

「僕は、今まで撮影したのをまとめて、発表したい! 本にするのもいいな! 」

 そう言って屈託なく笑った。

 風紀委員会長、千里眼のスバル・サンクチュアリ。

「私は、部屋の掃除がしたい。3ヶ月も留守にするとは思わなかったからな」

 環境美化委員会長、身長が3メートルの怪力巨人になるティモテオス・J・ビーチャムは。

「その寮のことだけど、鷲矢とアイドルたちが、掃除業者を雇って片付けたらしいぞ」

 そう、どこか青ざめた様子で教えた。

「鷲矢とアイドルたちが直接手伝う様子をテレビで放送したら、多額の寄付が集まったそうだ」

 スバルの顔も、青ざめる。

「まさか、全国中継に…………」

 アランの声が、震えて縮れたように途切れてしまう。

「NO NO。全世界中継だ」


 保健委員長、テレパシストの城戸 智慧は。

「私は、自首します」

 皆の背に、恐怖が冷たい物となって触れた。


 オルバイファスのセンサーが、山が吹き飛ぶのを9秒前に知らせた。

 できたことと言えば、無理やり車体正面を持ち上げ、最も装甲が熱い部分をそこへ向ける事だけだ。

 車体が傾いた直後、警告を発する。

 それを聞いた智慧はテレパシーで人間、有機的異星人に警告を送る。

 同時に彼女の喉から嗚咽が飛びだした。


――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――


 オルバイファスにつづく銀色の4輪駆動車は、オルバイファスの私設秘書、マイルド・スローン。

 書記、予知能力者の黒木 一磨は、爆発を10秒前に予知していた。

 マイルド・スローンはそれを聞き、同族同士のデータリンクを通じてそれを知らせた。

 そしてオルバイファスと同じ行動をとった。

 文化祭実行委員会長、時間を操り、戦闘用サイボーグでもある入船 有希が、黒木に食って掛かった。

「本当に、僕らは元の生活に戻れるんですか?!」

 普段からは考えられない怒鳴り声に、黒木はひるみつつも答えた。

「戻れるんだ。戻れるのは確実なんだ。奴らが何をしようとそれは覆らないはずなのに、なんで? 」

 早口で、「何で。なんで」と捲し立てるしかない黒木。

 その予知には、殲滅される敵の姿しか見えない。

 神獣ボルケーナの、死をおさえる力が消えた世界で。

 音楽部部長、物質の結合力を操る竜崎 舞の意味をなさない喉が、青ざめた息を放つ。

「こーほう」

 格闘部部長、ドラゴンスレイヤー、テレジ・イワノフが、ため息をついて立ち上がった。

「まったく、だらしないわね」

 何の変哲もない、自動車のドアを開け、外に出ようとする。

「要するに、戦えばいいわけね」

 武器のライフルは、チェ連でへし折っておいてきた。

 それでも、黒いドラゴンと獣の幻だけで十分自信がある、という足取りだ。

「有希。アンタもおいで」

 自分と同じ、銃の扱いを知る仲間をよんだ。

「待ってください! 」

 だが、有希は呼び止めた。

「勝手に戦うのですか? スイッチアからの義務もないって、政府に言われたのに」

 テレジの、深く、激しいため息。

「そんなこと言ってるうちに、こっちは焼き尽くされてしまう!

 私、なんか変なこと言った!? 」

 それに反論したのは、一番おとなしそうな一磨だ。

「よく言いますよ。あなたの自慢のベンガルトラだってレッドデータアニマル。絶滅危惧種じゃないですか! 」

 テレジの動きが、ドアノブに手をかけたままピタッと止まった。

 その一瞬のちに。

「覚えておきなさい。女の子は素敵な物と、ちょっぴりの罪悪感でできている」

 

 マイルド・スローンは、装甲車ではない。

 大きな窓がついている。

 後について来た白い車、同じくオルバイファスの私設秘書、ジャニアル・アイ。

 そこからチェ連からの避難民をかき分け、生徒会がかけてくるのが見えた。

 体育祭実行委員会長、空気中の窒素を操る川田 明美だ。

 ドアを叩いてくる。

 テレジが開けると、明美は必死の形相で踏み込んできた。

 そして開口一番。

「今から、私たちの家族を助けに行くの。付いてくる人、いる!? 」

 後には魔法部部長、レミュール・ソルヴィムがいた。

「わたしもいきます! 」

 顔半と羽、左手を樹で補った魔法使いの左腕から、折りたたまれた同じ素材の弓矢が飛びだす。

 明美のまわりでは、周辺の大気、窒素が黄色い光を帯びて刃に変わる。

「あいつらが、寄ってたかってお爺ちゃんを! 」

 召喚された間に、自分待ちながら死んだ家族のための恨みが、力の根源だった。

「レミ! 明美! 待って!! 」

 体育委員会長、瞬間移動を使うキャロライン・レゴレッタが、あわてて駆け寄る。

「あなたのお爺ちゃんは、あなたが戦う事に耐えられなかった。

 おばあちゃんは耐えられるの!? 」

 その言葉に、明美は立ちすくんだ。

 科学部部長、物事の起こる可能性を100%にできるティッシー・泉井もやって来た。

 だが、何と声をかけていいのかわからないのか、悔しそうな顔で押し黙ったままだ。   

「まってくれ」

未来文化研究部長、物体が運動するとエネルギーが減る変化を引き延ばしたり縮める能力者。聖剣の騎士でもある白 明花(ペク ミンファ)が声をかけた。

「落ち着いて聴いてくれ。敵は現れるが、下りて来れないようだ」

 へっ?

 一同の空気が、一瞬で間の抜けた物に変わった。

「黒木さん、もっと落ち着いた方がいい」

 ミンファの手にある、鞘に収めた十字架型の聖剣。

「剣よ。積み重ねた選択肢をしめせ」

 そう言って、つかの先を額に押し付けた。言葉を続ける。

「われらの立ち向かうべき未来を知らせよ」

 一瞬の沈黙。

 視線がミンファに集まった。

「敵はスイッチアから来る。 いや、主力は宇宙帝国の残党のようだな。だがとんでもない数だ。だが……」

 一瞬、じっくりと予知を見渡している。

「敵は空の爆炎を、突破しにくいようだ」


 こんなやり取りも、外でひしめき合う避難民たちには関係ない。

 それでも、ただ事ではないことが瞬時に伝わった。

「ミンファ。今言ったことは本当か?! 」

 頭上50メートルから、声がする。

 青鬼のような姿のバスケ部部長デミーチだ。

「だったら城戸に伝えろ! オルバイファスに乗ってる。

 テレパシーでみんなに伝えてもらうんだ! 」

 同じく巨大な異星人である、カマキリを二本足で立たせたような野球部部長カーマ。

 その背中の羽が激しく羽ばたき、手近なビルの屋上に飛び乗った。

「ジル! 飛べるならはなれなさい!

 避難する人のジャマになるわ! 」

 こういう素早い決断には、2人の冒険者である習慣が生きている。

 1年A組学級委員長、ジルは、あわててカーマの真似をした。

 銀色の甲殻に走る青いライン、超常物質バルケイダニウム。

 そのラインが明るさを増すと、地球からの引力を断ち切って体がふわりと浮かぶ。

 背中の昆虫そっくりの羽をゆっくり動かしてビルに近づき、人間そっくりの手でそっとつかむ。

 左手は巨大なハサミの様だから駄目だ。

 そして再び引力に捕まり、鍵爪のある4本足で傷つけないよう、そっと降り立った。

 2台の建機ロボ。料理部部長、ダッワーマと美術部部長クライスの対処は、少しばかり時間がかかった。

 まず、周囲に人がいるからジェットで浮き上がるわけにもいかない。

 それでも手足を出すと、人だかりが道を開け始めた。

「キャー!」

 星を離れても、恐怖はやって来た。

 それを知った人々が、悲鳴を上げながら逃げだす。

「「ごめんなさーい!!」」

 激しいモーター音と金属の衝突音を響かせ、二体の建機からいったん身長が15メートルを超える人型に変形する。

 それが20秒。

 そこからさらに、2本の腕を1本に、2本の足を1本にまとめ、無数のコンセントを取りだす。 

 2人の体は、一つの人型ロボットに変わった。

 身長は20メートルを超え、体重は165トンに達する。

 フォルテス・プルース。

 右腕に巨大なドリルを、左腕に開店するカッターを備えた、さらに巨大な機械生命体となった。


――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――


 雨を一気に蒸発させ、爆発は広がる。

 上空を行く生徒会にとって、まさに周り一面で起こっていた。

 3年B組学級委員長、竜崎 咢牙は眼下の山々を見た。

 およそ100メートルごとに、段々に高さを増していく。

 最高で500メートルほど。

 大昔に周期的に地震があり、そのたびに海底が持ち上がった結果だと聞いた。 

 壊れた風力発電所、そしてその下の山々と街を見た。

 発電所の標高は、約300メートル。

 爆発はまだ広がる。

 

「危ない! 高度を下げろ!」

 空気を震わせる、シンプルな声。

 水を司る龍神サイガは、異星の装甲を通り抜ける大声と共に、僚機の高度を無理やり下げさせた。

 幸いにも天気は雨。

 雨粒を神の力で膜状に固め、力づくで押したのだ。

「あそこの谷に逃げ込め! 」

 深い山々でも、意外と道路がある。

 今は街から逃げ出す車でひしめき合い、渋滞になっていた。

『ただいまー! 』

 フーリヤが一言あいさつ。

 それが彼のいいところ。

 道路を避けた標高200メートルほどの所に、人の手の入らない場所がある。


 谷に飛び込む前に、サイガは首をめぐらした。

 山腹の魔術学園が見える。

 ふもとからは最近すっかり増えた、タイル状の壁を持つ家々。


 その向こうの港。

 全長241メートルの船。

 ファイドリティ・ペネトレーター

 忠義の掘削機という名を持つ、急襲揚陸艦らしからぬ白い船。

 PP社の移動要塞。

 優美な曲線で覆われ、甲板の前後はヘリポート。

 艦橋は甲板から直接ヘリを入れられる、倉庫を兼ねる。

 その艦首からは、ふだん壁面にはめ込まれた4本の巨大な腕が伸びていた。

 腕は港から地上に伸ばされ、巨大な光のかたまり、ポルタを発生させていた。

 そこから現れた避難民が、あらゆる方向に進んでいく。


 ぺネトの隣に、見慣れない船があった。

 色はペネトと同じ白。

 二つの船体を横に並べ、甲板でつないだ双胴船のようだ。

 その全長はペネトよりわずかに長い。

 そして甲板の上には何も載っていない、真っ平らだった。


 さらに海の向こうにある岬。

 学園を見渡せる場所には、すでに多国籍軍の陣地ができあがっていた。

 今のところ、動くつもりはないようだ。


 巨大な生徒会が、谷になだれ込んだ。

『あの爆発、爆弾がないのに起こってる! 』

 文芸部長のフーリヤが空を見渡して弱音を吐いた。

 タコの足を丸め、大ガラスの羽の下に隠した機械生命体の声は、サメの様な宇宙戦艦の艦内にも響いた。

 水泳部部長、ノーチアサンのブリッチに。

『じゃあ、どこから起こるか分からないってわけか? 』

 スピーカーから声がする。

 ブリッジの席に座る一人、2年A組学級委員長、緑の翼あるヤギ超人に変身するドディ・ルーミー。

『あれは、KK粒子。カルツァ・クライン粒子と呼ばれる物だ』

 説明を始めたのは、2年B組学級委員長、発明家にして魔術アイテムコレクターの熊 明明(ユウ メイメイ)。

『この世界とは違う次元を持つ世界、高次元世界で動く粒子は、この世界ではあのように見える』

 爆発は、次々に、しかも不規則な形をもって空を照らす。

 しかし、起こる高度は一定で、今の所高い山の上以外に被害はなかった。

 2年A組学級委員長、怪力を持つサラミ・マフマルバフがあることに気付いた。

『あの。爆発が起こっている場所が、連なってますよね。

 あの形、フセン市の地形に似てませんか? 』

 地面に対し平行だったり。所々で上下に連なりながら、その下には決して来ないKK粒子の光。

 それは確かに、あの山岳要塞やその周辺の山々を下から見た形だった。

 さらに上空では、散発的な爆発しかない。

『きっとそれだ。あれが地上への爆撃かも知れない』

 メイメイの推論を聞いて3年A組学級委員長、光の速さを超えて宇宙を飛べる医師、ブライセスは。

『それなら、出獲 蠍緒(イズラエ カツオ)が心配だな』

未だ帰らない毒の鎖を持つ3年B組学級委員長の名を上げた。

『出獲は、ルルディ騎士団に復帰したのだぞ』

 艦そのものが、ノーチアサンが口をはさんだ。

『向こうに残った戦力は、確かな物だ。むしろこちらの方が気を引き締めてかからねば』

 ノーチアサンは、オルバイファス指揮の下、何百年も宇宙で戦った猛者だ。

 その言葉に、皆は事の重さを感じ取った。

 その間、メイメイは「いやおかしい。あの山脈は3000から5000メートルの標高があったはずだ。ここの標高はせいぜい500メートル。この差はどうなってるんだ?」

 無数の疑問が口を突く。

 そして、一つの決意に至った。

『ノーチアサン! ハッケ!

 俺はこの現象を観測したい! 力を貸してくれるか? 』

 ノーチアサンは、この発明家の応用力に何度も助けられてきた。

『では、サブブリッジに行け』

 図書委員会長、ハッケは船内放送越しに答える。

『マスター。では、そこで落ち合いましょう』

 メイメイに量産されたロボットである16の体を、格納庫に車いすとして、というより車高を変えられるバギーカーとして、しまってある。

 それが人型に変形する音がした。

『コンピュータを連結処理モードにして、お手伝いします』

 2人の提案に、メイメイはすぐにうれしそうに答える。

『頼むぞ』

 だが、一瞬おいて。

『待てよ。みんなが逃げるなら、人間サイズになって道路を使った方がいいかもしれない。ハッケを使いたいか? 』

 フーリヤが答えた。

『ぼ、僕に乗り込めば大丈夫だよ。それに、誰か来たみたい』

 こんな事件中に、しかも雨に?

 そう誰もが思った。

 だが、深いブナの森の中から、人間サイズの影がたしかに現れた。

「おーい! 大丈夫か? 」

 1人は青いナマズのような顔。

 もう一人は茶色い稲妻のような角を持つ、鹿のような顔。

 2人の雨合羽を着た異星人が現れた。

 暑いのか前を開いているため、魔術学園高等部の制服が見えている。

 2人とも男だ。


「冒険者か? 大丈夫だ」

 サイガが見たところ、山菜取りでは無いのは明らかだ。

 彼らの手には、異星のビーム銃が握られている。

 冒険者。

 未知の惑星の発見。新たな資源。恐ろしい被害をもたらす怪獣退治。

 それらがもたらす利益。または名誉を求める者達。

 宇宙社会の最前線は、こういう者達に支えられている。

 魔術学園には、そう言った冒険者が平穏な生活を送りたいと、多く入学してくる。

 だが、その生活を支えるのは、やはり冒険らしい。


「それより、なんでここにいるんだ? 」

 サイガの質問に、2人の冒険者は機嫌よさそうに答える。

「スイッチアや周辺の星の兵器は、高く売れるんだよ。

 今この山近くに、60人は潜んでるはずだぞ」

 フーリヤが、空の高いところを見上げた。

「それって、あれ? 」

 山脈型に燃え上がるKK粒子。

 その中で、透明な、だが揺らめく物がある。

 冒険者たちの移動拠点。

 光学迷彩を含め、地球にとっては夢のような技術が施された宇宙戦艦だ。

 それが衝撃で迷彩がはがれていく。

 何隻もの戦艦が、爆炎にもてあそばれていた。

『雨が当たれば、迷彩を施しても濡れてわかる。

 ばれないよう高度を上げていたのか』

 ドディの声だ。

 当然のことながら、冒険者と言えど無限に戦力を発揮していいわけではない。

 欲をかいたから罰が当たったんだ。とサイガは思った。

 誰のバチかは、知らないが。

「お恥ずかしい、ほんの物置で」

 ナマズの冒険者が頭をかいた。


「スイッチアと言えば、滅んだはずのハイテク遺産だからな。

 逃げるやつはいない」

 シカの異星人の、真剣そのものの宣言。

 それを聞いて、フーリヤは怪訝になる。

「滅んだ? みんな元気で生きてるよ」

 谷からは見えないが、港から市街地まで、大勢のチェ連人がいたはずだ。

「それが、滅んでるんだよ」

 シカの冒険者も引き下がらない。

「冒険者ギルドの、最新映像を見てみろよ! 」

 冒険者ギルドとは、冒険者への情報や、装備を用意し、冒険者同士の相互を可能にする組織。

 スイッチアの遺産(?)を買い取るのも、そんな組織。

 PP社もその一つだ。

『ン……これは……』

 ノーチアサンの中で、ドディがそれを見た。

『これ、前と変わってないじゃないか!? 』

 ドディも同意する。

『本当だ。海も空も、公害で真っ黒だ!

 生命の気配がないぞ! 』


 スイッチアで、自分たちを地球に連れ帰るはずだったパーティ。

 添えが潰された時、自衛官の一人が放った言葉が思い出される。

「弟が! 福岡にいたんだ! 」


 2年前、北九州の福岡市を襲ったロボット軍団。

 その出身地がスイッチアだと、ロボットたちは言っていた。

 彼らが開いたポルタの向こうで、垣間見えたスイッチアは、冒険者ギルドが撮影したその物だ。

「それだけじゃない。付近の生命生存が可能な惑星も見てみろ」

 シカの冒険者の言葉が、暗さを増す。

「軒並み滅ぼされてる」

 その言葉に、生徒会に動揺が走った。

 自分たちが、過去のスイッチアに飛ばされていたことは分かっていた。

 でも、3か月間の、あの激しい戦い。

 それがのちの歴史に何の影響も与えなかったとは、にわかに信じられい。

 それを吟味する時間は無かった。


「君たち。魔術学園の生徒か? 」

 山肌を這うように伸びる、自動車道路。

 ほとんど進まないその車列から、一人の男が手を振っていた。

『はい。そうです』

 サイガとフーリヤが首をのばすと、道路のそばまですぐ届いた。

「一つお使いを頼まれてくれないか? 」

 そう言って、1枚のCDを差しだした。

 ロシア民謡だ。

「この4曲目。{郵便トロイカがゆく}という曲を、スイッチアの人のために流して欲しい」

 フーリヤが、振り向いて他の仲間に聴く。

『どうするの? 』

 サイガが男に聴く。

「なぜ、これを流そうと思うんです? 」

 男は緊張しているが、後ろを見ながら答えた。

「息子たちが、この曲を演奏するはずだったんだ」

 後の車からは、縦笛の音色が聞こえてくる。

 1人の、小学校低学年ぐらいの男の子が生徒会を向きながら吹いていた。

 となりには、確実に怯えている母親の姿がある。

「チェ連の人は、地球のロシアの人に似ていると聞いてな。

 それに、ここでただ逃げても、芸がないだろ? 」

 サイガは、それに納得した。

「分かりました。フーリヤ。口からCDプレイヤーを出せただろ。

 受け取ってくれ」

 開かれた巨大な鴉の口に、男はCDを差し込んだ。

「ありがとう。君たちの無事を祈ってるよ」

 そう言って、自分の車に戻っていった。

 

 正直、サイガは複雑な気持ちだった。

(はばかりながら、僕も神なのに)

 しかし、考えてみればボルケーナもレイドリフト・メタトロンもクリスチャンだ。

 空にいる宇宙戦艦を数えてみる。

 ざっと10隻。

(誰が彼らに罰を与えたかはわからない。でも、僕も与えたっていいでしょう? )

 彼らのスピーカーから{郵便トロイカがゆく}を流せば、十分な人の耳に届くだろう。

 それを吟味する時間もなかった。


『おい。KK粒子から何か出てくるぞ』

 メイメイが言った。

『反応は2つ。レイドリフト・ワイバーンとレイドリフト・ドラゴンメイド……何!? 』

 メイメイの声が驚愕に変わった。

「どうしたんだ!?」

 サイガの質問に、メイメイは。

『いや、ドラゴンメイド……真脇の性能に問題は無いんだ。でもこれは……まともな状態じゃないぞ! 』


 KK粒子の中から、2つの小さな影が飛びだした。

 影はまっすぐ、魔術学園に飛んでいく。

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