第4話「もう一つの世界」
都市を吹き抜ける冷たい風がエンスの髪を優しく撫でる。
エンスはゆっくりと目を開け、辺りを見渡す。どうやら眠ってしまっていたようだ。
エンスはあくびをしながら立ち上がる。すると淡い光がエンスの前に集いフィランが現れた。
「目覚めましたか?」
フィランはエンスに微笑みながら問う。エンスは人差し指で頬を掻きながら答える。
「寝ちゃってたみたいだな。スマン」
フィランは首を横に振った。そしてフィランは両手を組み、瞼を閉じ空を仰ぐ。
すると、フィランの足元から蒼い光が立ち昇った。
フィランは瞼を開け、蒼い光のから出るとエンスの隣に立った。
「これは星と星とを繋ぐポータル。と言っても正式な道では無く、飽くまでも抜け道程度と考えて下さい。なので、時間が経てば消えてしまいます」
フィランが言うにはポータルとはドロルを破壊する事により一時的に闇の力から弱まるので星と星との間にある星の狭間を越える事が出来るらしい。
「つまり俺はこれから分けられた星の1つにこのポータルで飛べばいいんだよな?」
エンスの言葉にフィランは頷いた。
「しかし、私の力はこの星でしか適用されません。他の星へ飛んでしまえば私はアナタを手助けする事も導く事も出来ません」
「つまりこれからは俺一人で頑張れって事だな」
エンスは頷くとポータルへと足を踏み入れた。
「じゃ、行ってくる」
エンスはフィランに手を振り姿を消した。中央広場にはフィランだけが残された。
フィランの美しい金色の髪が冷たい風に靡く。フィランは悲しそうな表情をし呟いた。
「私はまた誰かを犠牲にして永らえようとしてる………本当に烏滸がましい」
エンスがポータルで飛ばされた場所は湖の畔だった。
辺りは木々に囲まれ鳥の鳴き声や木々のさざめきが心地よい。余りに空気が澄んでいる為、心無しか空気が美味しく感じられた。
「ここは何処だ……? そっか、ここが分けられた世界の一つなんだ」
エンスは目を閉じた。エンスは森と言うものが珍しくて仕方が無かった。自分の知っているデセスペラシオンは都市外は荒野ばかりで緑は無い。故に森が珍しく感じられる。
乾いた風じゃない、湿気を含む風が頬をすり抜ける。
その時だった。
「来ないで!」
森の奥の方から少女の叫び声が聞こえて来た。
「なっ、なんだ!?」
エンスはその声がした方へ駆け出して行った。するとそこには黒い鎧の男に腕を掴まれている紺髪の少女の姿があった。
「離して!」
少女は必死に黒い鎧の男から逃れようと藻掻くがビクともしない。
すると何処から現れたのか、同じ鎧を着るの男がもう一人現れた。
「我等の主の標的を確保した」
少女の腕を掴む鎧の男はもう一人の男に言う。するともう一人の男は頷き少女の脚に足枷を着けた。
「永き時を経て、我等の主の復讐の時は訪れたな」
そう言って男は歩き出した。
「待てよ!」
エンスは茂みに隠れて様子を見ていたが我慢の限界だった。
鎧の男達は振り向きエンスを見る。
「何者だ」
「その子をどうするつもりだ!」
エンスは鎧の男達に叫ぶ。すると鎧の男の一人が答える。
「それを聞いて何になる? 貴様が知る必要はない」
「嫌がってるだろ! 離せよ!」
エンスがそう言うと、鎧の男は腰にある鞘から剣を引き抜いた。
「この娘を離す事は出来ない。邪魔をするならお前を斬る」
鎧の男は剣をエンスに振り下ろした。エンスは辛くも攻撃を避ける事に成功した。
エンスは素早く二本の剣を引き抜き、鎧の男へ攻撃を仕掛けた。
しかし、鎧で身を包む男にはなかなかダメージは入らない。
「貴様の剣で我鎧を砕けぬ! 己と敵の力量さえも見抜けぬ者は闘う資格はない!」
鎧の男の一振をエンスは剣をクロスさせ防ぐ。しかし敵の攻撃は重く、弾く事が出来ない。
「ぐっ……!」
エンスはとっさに鎧の男の胴に力強く蹴りを入れ押し返し、少女の腕を掴む男の方へと駆け出す。
蹴りを喰らった男はバランスを失い倒れる。
「その子を離せ!」
エンスは片方の剣を男へと振り下ろした。鎧は剣を弾きエンスは男の体当たりで吹き飛ばされてしまう。
エンスはすぐに立ち上がり再び男へと駆け出し男へ突進をかました。
その瞬間、男の手は少女の腕を離した。その隙にエンスは少女を抱え森の奥へと走り出した。
客観的に見ればかなりかっこ悪いだろうが、これが今のエンスにとってのベストだった。
今のエンスでは鎧の男達には敵わない。それに自分よりも相手の方が強いのは分かりきっていた。
しばらく走り続け振り向くと、後ろに鎧の男達の姿は無かった。
「逃げきったか……」
エンスは少女を降ろすと、足枷の鎖を二本の剣を器用に使い破壊した。
「ありがとうございます。えっと……」
紺髪の少女は困った表情をした。エンスはとっさに自己紹介をすると彼女は微笑みながらお辞儀した。
「ありがとうございます、エンスさん」
エンスは“さん”付けをされて少しだけ歯痒くなった。
「“さん”は止めてくれ。エンスでいい」
紺髪の少女は右手を自分の胸元に置き自己紹介をした。
「私の名前はレニス=ベネウォルス。よろしく。私もレニスでいいわ」
レニスはそう言ってエンスの顔を覗き込んだ。そしてエンスの周りを回りながらじっくりと見る。
「コンタギオでは無いのよね?」
エンスは首を傾げた。
「“コンタギオ”? 何だそれ? 俺、違う星から来たからさ」
そう言うとレニスは呟きながら再びエンスの顔を覗き込む。
「嘘をついてるって訳じゃなさそうだし……コンタギオではないって事ね」
「えっと、だからその“コンタギオ”って?」
エンスの問いにレニスは笑いながら言う。
「コンタギオってのはさっきの鎧の人達の事よ。」
「何でレニスは追われてるんだ?」
エンスの問いにレニスは視線を逸らし暗い表情になった。そして低い声で答えた。
「アナタはそれ以上知ってはイケナイ。無知な方が幸せな事は沢山ある」
エンスは何も言えなかった。レニスの表情には深い何かがある様で。
「違う星から来たならこんな世界、直ぐにでも去った方がいいわよ。こんな星、最悪だもの」
そう言うとレニスはもう一度感謝の言葉を言い森の中へ去っていった。
エンスは木々の隙間から覗く灰色の空を静かに見つめた。
Hate Disaster 蓮根画伯 @kagiyama
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