第3話「強き想い」
エンスは二本の剣を強く握り締め、そして地を蹴った。
「オラァ!」
掛け声と共に剣を紺巨人の左腕に振り下ろした。しかし鋼の様に硬い紺巨人の身体はエンスの攻撃をモノともせず弾く。そして紺巨人は斬馬刀でエンスを薙ぎ払う。斬馬刀がエンスに当たる事は無かったが、その風圧で吹き飛ばされた。
エンスは地面と接触する寸前に受け身の体勢を取り、ダメージを軽減させる。
「クソッ……」
紺巨人は息を切らすエンスに容赦なく攻撃を仕掛ける。巨大な斬馬刀がエンスに向け振り下ろされた。エンスはとっさに避けた為、直撃を免れたが、風圧により吹き飛ばされてしまう。
「うおおおおおおおお!!」
エンスは紺巨人の攻撃のスキを着き攻撃に出た。鋼と鋼のぶつかり合う音が崩壊した都市に響き渡る。
(ダメだ、硬くて攻撃が通らない……)
そう解ってても攻撃を止める訳には行かなかった。今まさに魔物達の手によって自分の暮らして来た街のデセスペラシオンが堕ちようとしている。平和だった日々、思い出が崩れようとしているのを止めたかった。
そんな思いとは裏腹に紺巨人にダメージは入らない。
エンスの視界は歪んだ。こうして戦う為に剣を渡されて、決意しようとした矢先に自分の街が壊されて、悔しかった。投げ出したかった。誰かに任せて逃げ出したい。
でも、この平和の世を辿ったデセスペラシオンには武器なんて存在しない。都市外では魔物に怯える日々。都市の中だけが安心して眠れる場所だった。
武器を持っても、何一つ守れない無力さが悔しかった。目に涙が溜まる。
お陰でエンスには周囲も殆ど見えなかった。
「ぐあッ!」
エンスは斬馬刀の薙ぎ払い攻撃をモロに受けてしまった。エンスは吹き飛ばされビルの壁に強く打ち付けられる。
エンスは霞む視界で己を嘲笑う。
(やっぱり、ドシロートの俺には戦うなんて無理なんだ……解ってた)
でも、星の神様に選ばれたなら、大丈夫だってさ、俺にも戦えるんじゃないかって、自惚れていた。
その時、霞む視界の向こうに手を差し延べるフィランの姿があった。
─守りたいのでしょう? この街を─
フィランは優しい表情をエンスに向ける。
(守りたい…でも、俺には無理だ)
─私の加護が、信じられない?─
(そうじゃない、でも……)
─大丈夫、アナタが本当に願えば星は力を貸してくれるはずよ─
「ぅう……やって、やるよ……」
エンスは剣を地面とに突き立て立ち上がる。そして紺巨人を睨みつける。
「覚悟しろよこのデカブツ……絶対に許さねえぞ、俺は…この街を絶対に守る!」
どこから湧いて来たのか黄昏色の光源体がエンスに向かって集まる。やがてエンスの身体を黄昏色の光源体がスッポリと覆う。
するとエンスは不思議と力が溢れてくる様な感覚がし、身体が羽でも生えたかの様に軽くなる。
「行くぞッ!」
エンスは力強くコンクリートの地を蹴った。すると一瞬の内にエンスは紺巨人の頭上へと飛ぶ。そしてそのまま剣を紺巨人の頭部へと振りおろした。鋼がぶつかる音がデセスペラシオンに響き渡る。
エンスはバランスを崩す紺巨人の兜を力強く蹴り紺巨人と対のビルの屋上へと移動する。
「すげぇ……身体が軽いし力が湧いてくる……」
エンスはビルの屋上からバランスを崩し倒れる紺巨人を見下ろす。エンスは思わず生唾を飲む。自分よりも遥かに大きい魔物をここまで追い詰めたのだと実感する。
しかしまだ安心してはいけないと自分に言い聞かせ、二本の剣を強く握り締めてビルから飛び降りる。
コンクリートの地面に着地するとエンスは紺巨人へと攻撃を始めた。紺巨人は斬馬刀を地面に深々と差し込み身体を持ち上げた。それにエンスは後方へと跳躍し距離を取る。そして紺巨人の出方を伺う。
紺巨人は両腕を大きく広げ空を仰ぎ動きを止める。エンスが攻撃を仕掛けようと動き出した瞬間、紺巨人の胸から夕闇色の欠片が現れ空へと向かって昇っていく。
「あれがドロルか…?」
エンスは剣の一本を鞘にしまい、残りの一本だけを握り締め駆け出した。紺巨人はエンスを夕闇色の欠片へと辿り着かせまいと大きな腕でエンスを薙ぎ払う。エンスは跳躍し攻撃をかわし、紺巨人の腕を駆け上り肩から再び跳躍する。
エンスの目の前に夕闇色の欠片が浮かんでいる。エンスは剣を強く握り締め身体を捻り剣を振りおろした。
パキッと欠片に罅が入り、夕闇色の霏を放ちながら砕けちった。すると欠片に呼応する様に紺巨人の姿も霏と共に消えていく。
エンスが地面に着地すると同時に自分の身体を包んでいた黄昏色の光源体は無くなっていた。
「今のは……一体…?」
エンスは中央広場を見渡す。魔物の姿は何処にも無く、悲鳴も聞こえて来ない。恐らく先程の紺巨人を倒した事により逃げたのだろうと、エンスは思った。
しかし、デセスペラシオンは酷い有様だった。突然の魔物の襲撃に街の七割は既に壊滅状態と言っても良いだろう。今回の騒動は平和の中に在ったこの都市に壮大な深手を負わせた。
これからこのデセスペラシオンは変わってしまうのだろうか、とエンスは心配になる。魔物の大量の襲撃を受けた今、デセスペラシオンは魔物に怯え始めてる。そうなれば闘い平和を勝ち取るしかないだろう。しかし、この都市の住民達は自分同様戦った事など一度もないし、魔物を倒す為の武器なども存在しない。果たして勝てるのだろうか?
そんな事を思いながらエンスは中央広場の半分壊れたベンチに座り考えるのだった。
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