第4話 小さな声の物語

小さな声の娘は、それはそれはたいそう大切に育てられるのが

この街の風習であった。ただそれは完全に大人の都合であった。


海から吹く風が坂を登り、お犬公方様おいぬくぼうさまの元へと届くころ、

いい匂いやいい音も。 いい匂いも、嫌な音も。


「わたしは大切ではない」


治三郎が良く怒鳴るのもいたしかたない。キサチにはもうその資格が無いのだから。


怒鳴られるたびキサチはまたあの絵描きの事を思い出し、

ビンゾウに盗んで来てもらったそら豆の笛を吹いていた。


そら豆の笛はピーヒョロリリリーと、良い音色を響かせていた。


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