第3話 great sea & big ship キサチの秘め事

ビンゾウとキサチの二人は、お犬公方様おいぬくぼうさまの事をよく知らなかった。

「なにか凄くて秘め事が詰まっているもの」程度の認識だった。


この街では、豊漁を願って毎年「坂道」を作る習わしがある。

治三郎のおじいさんもそのまたおじいさんも続けてきた、いわば伝統のようなものだった。


街の真ん中の大きな坂。キサチの育ての親の坂。

あの伝説となった「与謝の月の豊漁よさのつきのほうりょう」を呼んだ坂でもあった。


「キサッチャンがよければ、俺、舟に乗るよ」


呼吸が整ったビンゾウがボソリと呟いた。


特に問いかけてもいなかったキサチは、突然のビンゾウの言葉にビクっとなったが、

「そうだねえ」とだけ小さい声で答えた。

ビンゾウに届いているかもわからないぐらいの小さな声。


小さな声の持ち主はキサチの他に4人いる。正確には4人いた。

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