第22話 荒らしの前

「そうじゃ、『魔脈融合』というのはのう……」


 タナキアが語り始めた。

 それは実際には、エンキーネがその魔脈融合を成し遂げるまでの時間稼ぎであるのだが、アズマもタツロウも何が起こっているのかわからずうかつに動けない。


「そもそも、魔脈というのは知っておろう。

 この世に流れる魔力の大いなる流れ。

 それは地、水、火、風のそれぞれに別れて独立しておる」


 とタナキアは意気揚々と、自分自身の知識のひけらかしのためと、時間稼ぎのために語るのであるが、アズマ、タツロウ、そしてそんなことは百も承知のほーちゃんは聞いていなかった。


「ヒノジロー、どうしたんじゃ!?」


『大丈夫? やっぱり魔脈が?』


「どういうことじゃ!?」


『大精霊ってのは、魔脈の魔力を一手に引き受けるだけの器があるのよ』


「うお! 頭の中に声が聞こえる! 誰だ?」


 タツロウが驚くのも無理がない。

 ほーちゃんの念話を経験したのは、初めてである。

 継剣の儀の際にほーちゃんはその場に居た全員に向けて発信していたのであるが、タツロウはその前に退出していたのだ。

 しかし、仮にその時のことを経験していて覚えていたとしてもあの時の芝居がかったほーちゃんと今のナチュラルほーちゃんとを結びつけることは難しかったかもしれない。


『ほーちゃん、タツロウを?』


『認めたわけじゃないけどね。非常事態だから。

 ボクは聖剣ホシクダキ。念話ってやつでね。言葉を介さずに直接やりとりできるから』


『お、おう……』 


 タツロウ自身平常心と保っていれば、この念話とやらが自分の知らない間に繰り広げられたことを察しただろう。これまでも不自然な会話の流れなどが多々あったのだ。

 そして、のけ者にされていたことを少しさびしく思い、それを怒りに変えて外へと漏らしていたかもしれない。


 が、さすがに緊急事態であり、初対面? の挨拶もそこそこにほーちゃんの話に聞き入ることになる。


『いま、エンキーネがやろうとしてるのは、その大精霊の管理する魔脈の力を横取りしようってこと。

 本来ならば、今のヒノジローですら魔脈からは力を借りている程度なのに、エンキーネは魔脈の力を根こそぎ自分のものにしようとしてるの』


『そんなことができるのか!?』


『無理でしょ!』


 そこにミリアが割り込んだ。体の自由はないものの、念話であれば参加できるし参加させているのだ。


『だって、魔脈の流れなんて、割り込む隙なんてないわよ。

 あんな奔流に晒されたら、一瞬で消滅してもおかしくないわ!』


『で、それとヒノジローとどういう関係があるのじゃ!?』


『だから、精霊も大精霊もその力の源は魔脈の魔力なんだよ。

 魔脈が乗っ取られたら、良くて力を失うか、悪いと邪悪に染まるか。

 とにかく普通じゃいられない!』


『でも! ほんとに可能なの!?』


『前に一回、四悪柱が、今とは違うメンバーだけど、挑戦したことはあるんだよ。

 その時は失敗したけど、そもそも四悪柱も四元素の化身みたいなもんだから可能性は〇じゃない。

 それに、普段は大精霊であるヒノジローが魔脈の流れを穏やかに保ってるけど』


『制御が乱れたとか言ってたな!

 あいつ、さぼりやがって!』


『さぼったわけじゃあない。

 そもそも、ヒノジローを酷使したのは儂らのせいじゃ。あやつを攻めるな』


『とにかく、魔脈の流れが万全でない以上、付け入る隙を与えちゃってるのは確かなんだよ!』


 と、アズマ、ミリア、タツロウ、ほーちゃんで念話を繰り広げている間。


 タナキアは一人で演説を続けていた。魔脈融合の詳細についてである。

 観客は、それは新知識ではなく復習でしかない、グアッドルフ、ダイタルニアである。


「ぐぁああ、頭が……、頭が割れるんだぜ……」


 ヒノジローがより一層苦しみだした。


「ああ、頭が……割れそう……」


 上空ではそのヒノジローの苦難の原因を作り出したエンキーネも同じように苦しんでいた。


「というわけでじゃな!

 そもそも、大精霊が管理しているとはいえ、魔法の力の根源は人間であろうと精霊であろうと、魔族であろうと魔物であろうと同じなのじゃ。

 こちらの世界の魔脈は大精霊が管理しているから、わらわたちはそのおこぼれを拝借しつつ、魔界との経路パスを繋ぎ、あちらの魔力を使用することで補っておるがの。

 火の大精霊が、そのような猫となり、管理がずさんになったのであれば。

 火の魔脈の力、その全てをエンキーネが手に入れることは可能なのじゃよ」


 ようやく、タナキアの長い解説が終わった。真面目に聞いているものは誰一人いなかったが。


「が、がるるるぅるるぅ……」


 ヒノジローが唸りだす。


「ああ、これ、この感じ……」


 エンキーネが上空で恍惚の表情を浮かべる。


「な、何が起こるっていうんだ!」


 この世界の新参者であり、一番知識がないことを自覚しているタツロウはこれから生じることの詳細を求めて問いを放つ。


 が、何が起こるか正確に把握しているものはその場には誰も居なかった。

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