神様からのお願いとか言われても

 勘弁してくれよ。と言いたい。さすがの僕でも、二千年生きた賢者様でも流石に神様を欺くなんてことは不可能だ。せっかく全ての人間にばれないようにしたのに、神様のせいでこんなところまでこの子たちが入り込んできたのかよ。一歩間違えたら死んでただろうに……


「さっきの話を聞いて確信しました。貴方のことは下界では、『災厄の賢者』と呼ばれ、神敵扱いされてるほどの悪人なんですが……神様が僕たちに頼れと言うほどの人物なら、良い人なんですね?」


 いや、それは知らない。僕は怠けるのが好きだし、積極的には人を助けようなんて思わないし。


「神敵、ねぇ。神様の声が聞こえるほどの純粋さと信仰を持ち合わせた神官なんて数えるほどしかいないだろうに。勝手に神の敵決めるなよ」


 僕が悪人かどうかは人によって意見が割れる所だろうが、神敵っていうのはいただけない。あ、でも神官殺しまくったし勇者も殺したし……


「いえ、神様自身が、神託を下したそうです」


「え。なんで?  僕あんまり悪いことしてないよ」


 つい言ってしまった。どの口が言うかー。


「確か、『一時は本当に悪鬼羅刹になっていた』とのことですが」


 勇者君が聞いた神託で、そんなことを言っていたのか。クソ、忌々しい。あれは完全にお前のせいだろうに。お前があの子を……

 あれ、そう言えば神託が聞こえるってことは、この子すっごい良い子なの?


「まあ、そんなこともあったよ」


「今回の件を聞いてくださったら、神様は神敵扱いを解除する神託を授けるとのことです」


「そうか。だが、僕はこうやって引きこもっている。僕が生き延びているかどうかを知るものなんていないし、誰にもわからない場所で襲われないのに……誰にもわからない?」


「はい!  今回のお願いを聞いていただけなければ、自分の声が聞こえる神官全員に即刻『二つ目の魔界』に潜む『災厄の賢者』を殺しに行かれたし!  って命令をする、と言っておりました」


「マジで勘弁しろよ……」


 僕は引きこもりたいんだ!  人間と会話せず生きていきたいんだ!


「おい、勇者君。もしかして、君たち以外に僕がここにいることを知っている人はいるかな?」


 正直青筋が立ってるんじゃないかってぐらい僕は怒っている。これでもし、彼らがここに来るまでの町や村で、


「ふぇぇぇぇっ、『災厄の賢者』サマを探しに『二つ目の魔界』に行くんでスゥ!  ヨロシクっす!」


 とか言いふらしていたら、僕がこの依頼を受ける意味が無くなってしまうんだが。下界に降りたら『災厄の賢者』とばれないようにしないといけないし。僕が生きていることを知られるのも嫌だ。

 場所を知られるのも問題だ。やはりここは超危険とはいえ、冒険者の精鋭千人ぐらい集めれば、僕の所まで来れそうだ。そしたら、まためんどくさいお願い事をされたり、戦いを申し込まれたり、悲惨なことになる。また別な秘境を探すのも難しいしね。どうしても人間と離れたい僕に、この脅しは効果的だが……


「あ、そこはもう、ちゃんと秘匿しなさいと言われてますので。神様に」


「そりゃあそうだろうな。じゃあ、君たちがここまで来たことを知っている者は?」


「村人数人、と言った所ではないかと」


「十人ぐらいではー?」


 辺境の村人十人。


「消すか」


「やめてください!」


 くそ、本当に忌々しい神だ!  向こうからしたら約束を違えることも平気でできるだろうし、僕にメリットが一つもないのが気にくわない!  神敵扱いにしてもそう、それ自体が不当に自分が決めてるものなんだから、それを解消してやる、なんてのは僕のメリットにならない!


「仕方ないな。手伝ってやるよ。賢者様、頑張りますよ」


「有難うございます」


「うわーい、賢者様がついて来てくださるなら百人力です!」


「おお、良かった」


「やった、賢者様にいろんなことを教えてもらえる!」


 黙りしていたみんなも喋り出す。しかし、この子たちはまだ僕の言葉を全部聞いていない。


「ただし、条件がある」


「条件、ですか?」


 勇者君が不思議そうに問いかける。当たり前だ!僕にメリットがないんだからな!


「一つ目。僕に万事任せっきりでも困るからね。ここで一年修業してもらう。正直、今の君たちは弱すぎるからね」


「はぁ、それもそうですね。了解です。賢者様が見つからなかったときのために、数年部屋を空けるとみんな言ってきましたし」


「二つ目。僕の存在を誰にも吹聴しないこと。旅についていくけど、僕はしがない賢者様で通すよ」


「はい、それも了解です」


「三つ目、先に世界中を回ること」


「……その本意は?」


「どうせ無理やり外に出されるなら、世界中を改めて見聞しなおしたい。人間に期待はしていないけれど、良い所も受け入れないと賢者様とはいえないからね。君たちも、魔王討伐をすべきかしないべきか、それを決めるにあたり、一片を見て決めるのはダメだろう?  魔法使いちゃんなんか、いろんなことを知りたいだろうし」


「はい!」


 ただ、この条件には裏の意味があるんだけどねー。

 だってさ、神様が『この勇者君に付き従い魔王様を討伐しに行け』と言ったなんて話は聞いていない。もちろん僕は魔王様を倒すつもりはないけれど、勇者君は敢えて全部を話しはしなかった節がある。なにか隠してるな?

 あの神様の事だから、魔王討伐は名目上なんだろう。神様は全部知っているしね。

 

 と、なると、もっとヤバイ危険が、この世界に迫っているかもしれないな。僕に対してここまで強行策を取るなんて、彼女らしくないしね。


 はぁ、憂鬱だ。

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完全隠居賢者だけど勇者に見つかった。 Ajaj @sakasakayou

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