第4話 説明回は読む気失せるでしょ?でも、読んでください!
「……ここどこだ」
おお、今度は戦士君が起きたみたいだね。女の子たちみたいに面白い寝ぼけ方はしてないけれどーー
「おおー、ファインさん、起きました?」
「ほんと寝起きの顔最悪ですねー」
うわぁ、涎垂らして凄い目つきで起きてきた。どこの野蛮人だよ。顔は整ってるのに無精髭と目つきの悪さで台無しだ。うん、とっとと追い出そう。
「俺は確かー……はっ、『金王虎』は!?」
急に戦意を剥き出しにしてガバッと跳ね起きる戦士君。ファインとか呼ばれてたような気もするけど、あ、だめだ、もう名前忘れちゃったよ。
「僕が追い返しておいたよー。戯れつかれて死ぬって恥ずかしいよねー」
僕はニヤニヤしながら、ちょっと挑発してみる。僕の顔を見て戦士君は顔に疑問符を浮かべる。
「いや、汚い顔でこっち見るなよ。表に井戸があるから、顔洗ってきなさいな」
「……うす」
髭のせいで年食って見えるけど、まだ全然若いね。今年で二百十五歳になる僕からしたら大抵の人間は若いけれど。彼多分十八歳ぐらいかな?
「ふぅ、さっぱりした。で、お兄さんどちら様で? 状況からして助けてもらったのは理解したんだけどよ、出血多量で意識が朦朧としてたからあんまり覚えてないんだよ」
「そうだよ。盛大な死亡フラグをおっ立てた君達を助けた賢者様だよ。敬いなさいな」
「『災厄の賢者』様ですか。よかった、見つかったのか」
「僕が君たちを見つけたんだよ」
「そうだった」
ニカッと歯を見せて苦笑する彼。粗暴に見えて、割とこの子もいい子かもしれない。いや、叩き出すんだけど。
「無精髭が鬱陶しいな」
ただ、割と幼い顔つきと髭が致命的に合わないので勝手に魔術で剃ってやった。
「うわ、あんな精度で魔術行使できるなんて、さすが賢者様」
魔法使いちゃんが目をキラキラさせながら僕を褒めてくる。もっと敬いなさいな。いや、敬いすぎると僕調子に乗っちゃうから程々にね。
「うわ、俺の髭が……勝手に剃らないでくれよ!」
え、何?そんなに汚いヒゲに愛着があったの?
「ファイン君は、若く見られるのが嫌で髭を生やしてたんですよ〜?」
「あ、そうだったの。汚いし違和感マックスだったから、ただのだらしない子かと」
「失礼だな!」
「寝起きの顔がとことん酷かったからね。今の顔の方がよっぽど男前だよ。羨ましい」
僕なんて悪くないのにパッとしないよね、なんて昔の恋人に言われたものだ。くそ、あの姫様も僕を裏切りやがって。
「……おはようございます」
勇者君が目覚めたみたいだ。寝起きの顔でもイケメンはイケメンか?むかつく。そして、僕の方を見て、辺りを見渡して。
「おやすみなさい」
「おいこら起きろ」
戦士君がベッドの横ら辺にポケットの中の銅貨を投げつけ、それを勇者君は人差し指と中指で目を瞑ったまま飛び出してキャッチし、ベッドから転がり落ちる。
「銅貨頂き」
「相変わらずの守銭奴だな」
「さすが金に汚い」
「これが無ければいいのに」
え、勇者で守銭奴ってどゆこと?勇者って教会の犬だから金には困らないはずなんだけど。銅貨一枚なんて、雑巾一つ買えない価値だったはず。いや、今じゃ物価は変わってるか?
「目が覚めました。助けていただきありがとうございます、『災厄の賢者』様。俺の名前はラインハルト・ユースフォード。勇者に選ばれ、魔王討伐の役目を負い……」
「無理だろうね。あと、僕人の名前覚えられないから」
あーあー、痛い事言ってるし。聞いても無い事をペラペラ喋りそうだったから遮ってしまったよ。
「そんな、やってもないのに無理だなんて」
「少なくとも、『金王虎』ごときに遊ばれる程度の実力なら魔王様には勝てないよ」
「それはわかってます。でも、魔王を倒さないと……」
凄い既視感。魔王様を倒すなんて事に意味なんて無いのにね。昔出会った勇者もこんな感じだったな。
「倒さないと、どうなるの?」
「魔物に襲われる人間の被害が、永遠に収まりません」
「はいそれ間違ってまーす」
そう、これだ。教会の連中はこれだから、僕が粛清したのに、まだ理解してなかったのか。喉元過ぎれば熱さ忘れる、と言ったところか。それか……嘘が真実になっちゃったのかな? 二千年も経ってるしね。
「どういう事です? 魔王が魔物を作り、人間を絶滅させようとしている。子供でも知っている一般常識でしょう」
間違った常識を平然と口に出すことの愚かさよ。それを正してあげるのも、賢者様の務めかな?いや、そんなつもり無いんだけど。
「小さい頃に読んでもらった絵本や、聖書にそうやって書いてたぜ?」
「司祭様が言ってたですー。魔王は悪そのものだってー」
「魔法学校の歴史学と魔物学の先生も言ってた」
おう、それら全部教会の思想操作の一貫だぞー。綺麗に騙されている民衆に、僕は憐れんだ。
「じゃあ、聴こうか。魔族の骨が発掘されだしたのは十万年前の地層から。人間の骨が発掘されだしたのは五万年前の地層からで、それ以前からは全く出土していないんだけど。あ、魔物は十億年前から繁栄している。魔石と一緒に発掘された。これからわかる事は?」
「ごめん、俺は学が無いからわかんねぇ」
即答された。ああ、戦士君は脳筋だったのか。この程度を理解できないとは。学校に行けよ。
じゃあ、一番教養のありそうなのは……魔法使いちゃんだな。言いたくてうずうずしてる顔だ。ここが学校なら、わかる人ー、といえば、手をピンとあげるだろう。当ててあげようか。
「魔法使いちゃん、わかる?」
「はい! 魔族より魔物の方が先に出現していたのに、魔王が魔物を作れるはずがありません! ずっと疑問に思ってたんです、何をどうしたら魔王が世界中に繁栄する生物を作れるのかって! 地学の先生も教会の教えを疑問に思っていたんです。教えてあげたい!ああ、スッキリした!」
魔法使いちゃんは学者に向いているな。知らない事を知りたがる欲求。僕の弟子にちょうどいいかもしれない。いやいや、何を考えているんだ僕は。
「はい、地学から魔王が魔物を作った、なんて常識がデマだとわかりましたね?」
「で、でも、教会の人はみんな……教会の人が嘘をつくわけ無い! それに、魔族は侵略者だ! 人間の後から出てきて人間を滅ぼそうとしている悪なんだ。きっと魔物を操作する術を身につけたに違い無い!」
勇者君は教会を完全に信じきっているね。これは拙い。
「いえー。ちょっと、そこまで教会は清廉潔白じゃないですよー」
お、僧侶がそんな事言うとは珍しい。教会と密接に関わる僧侶ちゃんが教会のマイナスな事を口に出すとは思わなかったよ。
「これまで、異端審問にかけられた人の名簿を見た事があります。歴史学者や地層学者、発掘家などの職についている方が、かなりの頻度で教会に虐殺されてるんですー。まあ、大抵が殺人、強盗、強姦の罪ですが」
「うん、大抵殺されたのは、僕がさっき言ったような事実に辿り着いた者だよ。僕の友人も、僕の目の届かないところで殺されちゃった」
僕に地学を教えてくれた、友人。彼は教会の権威を揺るがすような事を僕と一緒に発見しちゃって、無惨に殺された。友人の生首を抱えて一晩中泣いたよ。
「それにさっき言っただろう。世界中の地層を見て回った学者様に聞いたんだけど……あ、彼も殺されてるよ、教会にね。どの地層を見ても、魔族の方が、人間より先にこの世界に出没してるんだってさ」
「それで、魔族が後から出てきて人間を侵略してきた、なんて話は嘘になるわけか。それを知った学者たちを不当に教会が殺してんのか?」
お、戦士君が理解したようだ。頭が悪いわけじゃ無いんだな。
「そうですね。教会の聖書には人間本位の胡散臭い事ばかり書いてある、と歴史の先生もこっそり教えてくれました。色々根拠も見つかってるし、って。口に出したら殺されるから、内緒だよって! 学者の間では一種の不文律で、わかった事があってもそれを口にしない事があるって!」
うわぁ、大胆。その先生が生徒にそんな事言ったのばれたら、処刑されてたかもね。罪をでっち上げられてさ。ところで、魔法使いちゃんなんかすごい興奮してるね。ほっぺた赤く染めて、可愛い。
「じゃあ、魔王が魔物を操作してるって言うのは……」
「そう、それだよ。魔王様が全ての魔物を操作なんてできないよ。この僕でさえ、君たちが戦った『金王虎』なら十体までしか同時に操れない。しかも、半径十キロメートル範囲内まで。世界中に繁栄している魔物を全部なんて無理だ」
「それは、あなたの常識だろう! 魔王ならできるかもしれない!」
「いや、できないよ。そもそも、魔王様だって魔族だって普通に森を歩けば魔物に襲われるし。あ、魔王は威圧しながら歩けば力の差を悟った魔物が避けていくけど。それは『魔界』……魔族の領地を見て回った僕が確認した。間違いない」
一呼吸おいて締めくくる。
「似たような特徴を持ってるからって、魔族が魔物に襲われない理由なんてなかったんだ」
「教会では魔王が……」
「いい加減認めろよ、ライン。教会にはいいところだってあるさ。だが、どす黒い面があるのはわかっているだろう?」
戦士君は、やはり頭は悪くないのか。知識をつければ、化けそうだ。
「っ……俺は小さい頃から、物心つく前から徹底的に戦闘訓練を受けてきた。魔王を倒すためだけに」
「僕の知ってる時代の勇者は兵器扱いだったよ。心根はいい子だったけど、いい子のままに曲げられて教育されてた。他国を不当に侵略する戦争の時も出陣して意気揚々と無双してたね」
まあ、後世に残す史実は都合の悪い事を省いているんだろうけど。
「僕が勇者の仲間として魔王討伐の旅に出た時も、人間界にある魔族の隠れ里を見つけたら虐殺しようとしてたけど、僕が止めたよ。魔族領に行った時も、一般人を殺そうとしてたから、僕が勇者を殺した。彼らは悪い事を一つもしてないとわかったから」
「それはー……」
あ、僧侶ちゃん気づいた?戦士君はもう頭から煙を噴きそうな感じだね。魔法使いちゃんはもう続きが聞きたくて仕方がないようだ。勇者君は日を食いしばって、僕の言葉の続きを聞こうとしている。
……ああ、むかつく。あの勇者も素直でいい子だった。それを、無理やり曲げて成長させられたせいで、自分の心との矛盾に苦しみ、最後は虐殺鬼になり果てた。この子はそうなって欲しくない……いや、なんでここまで感情移入してるんだくそ。
こうなるから、僕は人里離れて過ごしていたのに。
「僕が『災厄の賢者』と呼ばれるようになったのは、その時からだね。その後、嘘つきな神官や欲にまみれたクズどもを殺し回り、晴れて大軍を差し向けられたからここまで避難したんだ。まあ、殲滅することは出来たけど……何も知らない兵士を殺すのは気が引けたからね」
僕がクズどもを殺し回ったのは、色々とあったからなんだけど、それはまた別の話。
「さて、魔王様を殺すことで魔物が人を襲わなくなる、なんてことは無いってわかったかな? 僕が知ってる魔王様は良い人だったよ。魔界は資源も豊富だし、人間界侵略とか考えたこともなかったみたい。自国の民を思いやってる人だった。魔物の相手で精一杯だ、って笑ってた」
「……それが本当なら、俺はすごいピエロです」
「うん。事実を飲み込むのに時間はかかりそうだよね」
「ただ、俺は自分でそれを見つけたわけではない」
「僕は見てきたし、専門の人にもいろんなことを教えてもらった。けど、君は賢者様たる僕に聞いただけだね」
さあ、どうする、勇者君?
「じゃあ俺は、なおさら魔族領地に行かないと。真実を確かめもせず、はいそうですか、って教会に戻るわけにもいかない。魔族は見つけ次第殺せ、なんて法律もある。それを改正させるには証拠も必要だ」
来た。あの時、あの勇者が考えつかなかった道を、この子は見つけた。さあ、どう来る?
「だが、どうしても魔族領に行くのに、俺の力は足りてない。賢者様、どうか、俺たちの旅についてきて力を貸してくれませんか?」
「嫌だね。だが、戦い方は教えてあげよう。今の君たちじゃ、タマに戯れつかれて死ぬぐらいだしね」
僕引きこもりたいから、連れて行くなんて真似はしないよ。ただ、戦い方ぐらいは教えてあげよう。魔法使いちゃんと僧侶ちゃんには最適な魔法とその使い方を、勇者君と戦士君は強い魔物との戦い方を。
あれ、僕結局協力することにしちゃったよ、ばかだな。
「……そこをなんとか! 神託で賢者様に力を借りて旅をしないと必ず全滅するって……神様に場所を教えてもらってここまで来たのに!」
「僕の居場所を知られたのは神様のせいか畜生!!」
ようやく当初の疑問が晴れた。
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