第3話 うわ、面倒くさい
「う、うぅん」
おや、格好からして、魔法使いの娘の目が覚めたらしい。女の子の声を聞くのは久しぶりだな。
「んー……お母さん、顔に熱したロウソク垂らすのやめて……」
「いやちょっと待て、どんな夢を見てやがります!?」
「踏んで欲しいなら四つん這いになりなさい」
「だからどんな夢見てるの!?」
「あ、ちょっ、ご主人様ぁ」
「微妙に攻守交替してる!?」
「んー……ここどこ?」
寝ぼけて言ったことが想定外すぎて、騒いでしまった。と、思った自分に苦笑する。いやいや、こいつらは勝手に僕の家に居座ってるんだから、別に僕が遠慮する必要はないわけなんだけれど……
流石に、見た目十五〜六歳ぐらいの少女が寝てるのを邪魔するのは気がひけるわけで。
「あれ、私一体……!?」
急いでベッド(僕が魔術で急拵えした。『暗黒梟』のほーちゃん、羽毟ってゴメンね)から飛び降りた魔法使いちゃんは立ち上がろうとしたけど、フラついたのか転けそうになったので魔術クイ、と指を曲げて発動し、支えてあげた。
「うっ……頭痛い」
「魔力の消費しすぎです。魔法使いたるもの、どんなピンチでも余力を残さないなんて愚の骨頂と知りなさい」
何、僕も昔通った道だ。これで覚えただろう、と考えてまた苦笑する。
(何言ってるんだ。別に僕の弟子なわけでもないのに)
「……っ!? あなた誰?」
ああ、この子とはこれが初対面か。
「君達を保護した賢者様だよ。敬いなさいな」
「保護……? 私の体をどうするつもり!?」
「……ハッ?」
え、いや。どうするつもりってどういうことですか魔法使いちゃん。
「まさか、もう寝ている私にあんなことやこんなことを? そんな、もうお嫁にいけない……」
「……そんなことより言うべきことがあるんじゃないかな」
「あ、助けていただきありがとうございます」
「よろしい」
なんだ、変な子だけど、いい子じゃないか。魔法使いちゃん、キャラ濃いね。
「私たちはなんでここに?」
「えー、っと。タマに戯れつかれて死にそうだったから助けたんだけど君たち皆気絶しちゃって。放置してたら他の魔物のおやつになるだろうから、仕方なく」
「……そうですか。あれ、ここ、『二つ目の魔界』ですよね? 賢者様ってことは、もしかして?」
「もしかしてとは?」
「……『災厄の賢者』」
「そう呼ばれているね。僕にはアラン・ギルバーツって名前もあるんだけど、あんまり好きじゃないから賢者様って呼んで?」
「はい、賢者様。私はユリィ・フェルファイア。しがない魔法使いです!」
「そうですか、魔法使いちゃん」
「……ユリィです」
「ゴメンね僕、人の名前覚えるの苦手なんだ」
それを聞いて、しゅんとした顔になった魔法使いちゃん。髪は黒いショートカットで、顔立ちはすごい整っていて、可愛い。胸もかなりあるみたいだな。おっと、長いこと女の子を見てなかったから、不躾になっちゃったな。
「胸ガン見しないでください、変態賢者様。やっぱり私のこと……」
「いや、禁欲生活が長かったせいでさ、ゴメンね」
やっぱり女の人にはわかるんだな。男の視線っていうのが。あ、でも僕もホモにお尻を見られたらすぐわかるや。皆そんなもんだね。
「んんっ……ふふふんっ」
お、今度は僧侶ちゃんの目が覚めそうかな?
「すごい笑ってますね。流石勇者パーティの癒し系担当」
「まあ、僧侶だしね」
「上手いこと言ったみたいな顔しないでください賢者様」
「おい、ちょっと当たりが強くないかい?」
「ふふふふふふー……ハムスター食べたい」
「「ブフッ」」
よりによってハムスターかよ!?なんだ、女の子たち濃いな!すっごい濃い。
「ここどこですー?」
「起きた? マーレちゃん」
「はい、起きたですー。ところで私なんでこんなところに?」
「ほら、でっかい金色の虎に襲われて」
魔法使いちゃんが説明しようとしたけど。
「ほぇ、お腹の中ですか? それとも天国ですかぁ〜?」
うん、喋り方からして天然系だな。癒し担当なだけあると思うけど。名前はマーレちゃんか。僧侶ちゃんでいいね。名前もう忘れたし。ポワポワしてる雰囲気で、金髪で僧侶服を着ている。胸は、こちらもかなりあるみたい。可愛い。
「ハッ、そこのイケメンなお兄さん誰ですか?」
「僕はーー……」
「あ、そんなにイケメンでもなかったですー」
「なんだとど畜生!?」
うわ、さっきの切り返しすっごいムカついたよ。ていうか僕イケメンでもないのに普通に返事しそうだった。自意識過剰かよ。
「でも好みのタイプですよ〜?」
「……そうか。僕は賢者様だよ。敬いなさいな」
「はい、賢者様……『災厄の賢者』……はっ、目標発見!」
「僕が君たちを発見したの!」
なんか相手してると疲れるなこりゃ。数年ぶり……二百年ぶりの人間との会話なんだから、手加減して欲しいよ。ほんと。
「ユリィちゃん、『災厄の賢者』見つかりましたよ! 伝説の! 凄い、凄い普通!」
「普通で悪かったな」
僧侶ちゃんちょっと苦手かも、と思ったら、今度は魔法使いちゃんが余計なことをいった。
「結構普通じゃないです。二百年前のお方なのに、まだ枯れてないみたいです」
「そうなんですかー? 私のおっぱいガン見してましたからねー」
「ゴメンね。禁欲生活が長かったんだ」
さっきとほとんど同じやり取りをした。魔法使いちゃんめ、余計なこと言いやがって。
「すみません、年の差婚はちょっと……」
「私も体だけが目当ての人はちょっと……」
僧侶ちゃんと魔法使いちゃんが二人で弄ってくるが、その本意に気づいてる僕からすれば笑ってしまいそうになってる。微笑ましい。
「ああ、時間稼ぎとか面倒なことしなくても、ちゃんと皆が起きるまで待ってあげるよ?」
「!?……ばれましたか」
「えー……なんでわかったんですー?」
「そこはほら、考えてみなさいな? 親しげに話しかけるときは、瞳から敵意と緊張を消しなさい」
「「……はい」」
だから、僕はなんでこの子たちにアドバイスしているんだろう。そう自分の、僅かばかり残った良心が理解できないでいた。
それにしても、この子たちキャラが濃い。
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