第25話 あなたが落としたのは

 と、いうことで泉へ。

 傷ついたア○タカや傷ついたアシ○カは倒れていない、そんな湖だ。

 ところでいったい……。


「どうやったらお母さん出てくるんだ?」

「おかーさーん」

 さっきから青い妖精ティアが呼んではいるものの、一向に出てくる気配がない。

 水面みなもは少したりとも揺れることなく、まるで凍りついたように、鏡のように、ただ光と景色を反射している。


「何か物を落とせばいいのか?」

「よし、年増おぬしちょっと飛び込んでみろ」

「なぜネネネですの、あなたが行けばいいじゃないですの。そもそもネネネは物ではありませんの」

「おぉおぉワシの勘違いじゃったか、おぬしはアスタのモノじゃと思っておったんじゃがの」

 おいおい、人聞きの悪いことを言うんじゃないよ、俺がとんでもない人間みたいじゃないか。


「まあよい、ワシはおぬしと違ってアスタのモノじゃから、ワシが飛び込むとしよう」

 何だって? ルージュが俺のもの?

 道具袋を確認すると、そこにはブラッドレッド・ボルドー・ルージュの名が刻まれているのだろうか。

 それとも装備品?

 だとしたら呪いつきだ……。


「な、何を言ってますの、ネネネだってまおーさまのモノですのよ」

「そんな無理せんでもええ、ワシが行くわい」

 ネネネを煽るようにルージュがいたずらな笑みを浮かべながら、泉の淵へ歩み寄る。


「お待ちなさい! 私が行くと言ってるでしょう!」

 歩くルージュに猛スピードで駆け寄るネネネ、しかしその途中、

「きゃあっ」

 彼女は転がっていた石に見事に足を引っ掛け、宙へ舞う。

 そして勢いはおさまることなく、ルージュ共々大きな音と水しぶきを上げ泉の中へ。


「あれ、なかなか上がってこないな」

 二人の落ちたところからは、白い泡がプクプクと浮き上がってきていたが、やがてそれもなくなる。


「あはは、どうしちゃったんでしょうね?」

 この妖精ちゃん笑ってやがる……こここそ泣くところじゃない?

 しかししばらくすると、突然水面が大きく揺れ、水が意思を持ったかのようにうねり始める。

 そのうねりはしだいに大きな渦となり、そしてその渦の真ん中から眩しいほどの光を放ち何かが出てくる。


「おぉ……」

 出てきたのは、まさに絵画に描かれているような美しい女性。

 まあでも正直なところ、俺は絵画の女性が美しいと思ったことはないんだけど。

 とにかくこの人が妖精の女王、ティアのお母さんなのだろう。

 そのティアのお母さんらしき人物は、渦から完全に出てくると元気にこう言った。


「お帰りなさいませご主人様! ニャンニャン!」

「「……」」

「おっと、こっちじゃなかったわ」

 兼業か!? 落し物拾ってるだけじゃ生計立てられないから、メイド喫茶で兼業か!?

 女王様、メイド喫茶でニャンニャンしてるのか!?

 どうせならSMクラブに行けよ。


「あなたが落としたのは……あらどこやったかしら」

 女王様は突然足をお相撲さんのように開き、スカートの中に手を突っ込んだ。


「あの、何やってるんですか?」

「ゴホン……、あなたが嘔吐おうとしたのは」

「何も吐いてない!」

「私は履いてます」

「パンツはね」

 さっきからパンツ丸見えなんだよ女神様……。


「ああ、ありました」

 そう言うと妖精の王女様はスカートからズボッと手を引っこ抜く。

 その手に握られてるのは二人の人のようなもの。

 どっから出してんだよ、どこに入ってたんだよ!


「あなたが落としたのは、このゲイル・サンダークラップですか? それともこのウメコ・サンダークラップですか?」

「どっちも落としてないわ!」

 大体どうしてここにこいつらがいるんだよ!

 ってかウメコなんだかんだで出てくるよね?

 固定メンバーの座狙ってるよね絶対。

 最初だけ登場するはずだった超モブキャラが、いつの間にか名前までもらって。


「ああ、ウメコ、僕もう我慢できないよ」

「あぁん私もよぉ、ゲイルゥ~」

「……」

 俺はそっとティアの目を指で覆った。

 そもそもこの問い自体がおかしいよね?

 せめて問うとしたら『あなたが落としたのはこの金のゲイルですか? 銀のゲイルですか? それとも普通のゲイルですか?』 だろ?


「正直なあなたには全て差し上げましょう」

「いらんわ!」

「まぁまぁそう言わず、私が持っていてもしょうがないものなので、さっさどうぞどうぞ」

 俺にだって手に余る代物だよ。


「あぁこれもこれも」

 何だよ、帰省したら何でもかんでも持って帰れって言う、おばあちゃんかアンタは。


「ではいきますよ、第二問!」

 何だか楽しんでないかいあの人……。


「あなたが落としたのはこの淫乱な夢魔ですか? それともこのエロい夢魔ですか?」

 あなたはいったいその問いで俺の何を試そうとしてるんだ!?

 いったい俺の何を見極めようとしてるんだ!?

 大体どっちもネネネなんだよ……。


「処女の方でお願いします」

「確かめてきます」

「……」


「こちらです」

「どうも」

 俺はグルグルに目を回したネネネを手に入れた。


「では第三問!! ジャジャンッ!」

 自分で効果音までつけ始めたよ。


「あなたが落としたのはこの幼女の吸血鬼ですか? それとも闘魚とうぎょの吸血鬼ですか?」

「幼女の方でお願いします」

 闘魚の吸血鬼も気になるけどね……。



「どうぞ」

 俺は目をバッテンにしたルージュを手に入れた。

 というかこれ普通に返してくれただけじゃん。


 まぁここに落ちたのがラヴじゃなくてよかった。

 だって『あなたが落としたのはこの金髪の勇者ですか? それとも銀髪の勇者ですか? それとも普通の勇者ですか?』って問われたとしたらどうするんだよ。

 金髪のラヴと、普通のラヴにどういう違いがあるのかわからないじゃないか。

 ってそうじゃなくてだな、くだらない話をいつまでもしてる暇はないんだ。


「落し物をしたのは俺達じゃなくてあなたですよ」

 俺は手の上の青い妖精ティアを、そっと差し出す。


「まあティアーズ」

「お母様」

 きれいな光の粉を撒き散らし母の元へ飛んでゆくティア。


「ああティアーズ、探しましたよ」

 絶対嘘だ。


「あの人たちがここまで連れてきてくれたんです」

「まあ、ありがとうございます、なんとお礼を言っていいのか」

「いえいえ別にいいんですよ」

「あらあなた、よく見たらバ……魔王じゃないですか」

 今明らかにバカって言おうとしたよね!?


「そんなことはともかく、ありがとうございました」

 妖精の女王様はバカにもお礼を言える、とてもいい妖精だった。


「あ、じゃあ俺達帰りますんで」

 無事にティアを仲間というか母の元に帰せたわけだし。

 何か忘れてる気がするし、目的がすり替わってる気もしないでもないけど。

 空は少し暗くなり始めてる、完全に真っ暗になる前にこの森から出ないと。


「おい二人とも起きて、そろそろ帰るぞ」

「まあまおーさま、とうとう私たちの子供がかえるんですのね」

 ネネネ、今度はいったい何を産んだのかな?


「さよーならー、魔王さーんまた来てくださいねー」

 小さな手を振るティアに別れを告げ、俺達は森を後にした。


 ちなみに後でルージュに聞いた話によると、九十度茸の毒には、超強力な性的興奮を高める作用があるらしい。

 簡単に言えば凄まじい媚薬。

 その毒に犯されると、あまりの快感に意識を失うも尚、夢の中でその快感を味わうとのこと。

 だからラヴはあんあん言ってたんだな……。


 それもあってルージュはキノコをネネネにとりに行かせたのだとか。

 別に意地悪をしたわけじゃなくて、年中発情状態のネネネにとっては、九十度茸の毒素は何の意味を持たないらしい。

 それにしてもルージュは色々なことを知っているなぁ。

 さすが九百九十七歳、侮れない。 


 この日結局ラヴは朝から晩まで喘ぎ……嘆き続け、村では『勇者はヤレる』と、ちょっとした噂になったのであった。

「あんっあんっあ~んって、どうして私だってばれてんのよ~!」






「よくある終わり方じゃな」

「そうですわね“吸血鬼が幼女”くらいよくある終わり方ですわね」

「そう思うなら出て来ないでくれよ」


「もーさま、お腹の子になんてこと言いますの」

 もーさまって何だ『もーまおーさま』か?

 『もーまおーさま』略して『もーさま』か?


「そうじゃぞアスタ、犯人にそんなことを言ってはいかん」

「立てこもってないで出てきなさい! 人質は何人だ!?」


「双子ですの」

「犯人はお前か!」

 腹の中に人質を取るなんて。


「じゃなくてだな

「どんなたなじゃ?」

「ぼたもちが落ちてくるやつだよ……じゃなくてだな! もう終わってるんだよこの回、静かにしてくれよ」


「あぁ~ん、生まれるぅ~、これぞ腹からぼたもちですの~」

 まあ、確かに幸運かもしれないけどね、うん。

「埋もれろ年増が」


「ウメコォ~」

「ゲイルゥ~」

 こいつら……。

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