第23話 魔王と夢魔と吸血鬼と

「パパ」

 いやルージュ、俺は君のパパじゃないから。


「まおーさまがパパならネネネはママですの。まあこんなババアな子供にはいりませんけど」

「何をわけの分からんことを言とる、お前は曽祖父じゃ」

「では、まおーさまは女!?」


「ツッコむところはそこじゃねえだろ!」

「あん、まおーさまに突っ込まれたですの」


「こうしてワシが産まれたのじゃった」

「あなたなんて生んだ覚えありませんの。ネネネの産んだ子達はみんなおいしくいただきました」

 受粉のくだりか? 野菜を産んだのか? ってかよくそんなことを覚えていたな。


「はぁ~」

 薬草を探して、エルフのいる森に来たわけだけど……。

 この二人、どうしてこんなにはしゃいでいられるんだ?

 俺は正直この森が怖いよ。

 いや、ビビッてるわけじゃない、恐怖の意味での怖いわけじゃないのだ。

 なんかこう、神々しいと言うか神秘的と言うか、とにかく立ち入るのが恐れ多い。


 地面にはいっぱいに敷き詰められた草や葉の絨毯じゅうたん

 生い茂る木々はどれも樹齢数百と言わんばかりの大樹ばかり。

 木々の間から差し込む光の下に、ぼっちのデイダラさんがいたとしても不思議じゃない。

 木霊が俺達をエルフの下へ導いてはくれないだろうか。

 姫に出会ったりしたらどうしよう……ひとまずヤッコォーでも呼んでこうかな。

 まあそんな森に入ってかれこれ数時間ほど経っただろうか、とにかく俺達は――


「おい年増、エルフはどこじゃ」

「あ、あっち……だと思いますの、オホホホホ」

 ――案の定道に迷っていた。


「本当に大丈夫かよネネネ」

「ええ、お腹の子は無事ですの」

「そんな心配はしてない、エルフの話だよ」

「まおーさまそんな心配なさらずに、後三秒で会えますの」

 ……嘘つくならもう少しまともな嘘つこうぜ。

 嘘にまとももそうでないのも、あったもんじゃないけど。


 分かっている、これは俺のせいだ。

 こうなることは十分に予想できた、むしろこうなることしか予想してなかった。

 それでも決行した俺の責任だ。

 だがしかしどうだろう、三秒後、どこからともなく声が聞こえたような気がした。


「おい今何か聞こえなかったか?」

 二人を黙らせ、全員で声に集中する。


「うわぁ~ん」

 誰かの泣き声?


「まおーさま……」

「どうした?」

 まさかエルフか?


「産まれましたの」

「紛らわしいこと言うんじゃねえ!」


「アスタあっちから聞こえたぞ」

「ああ」

 俺達は急いでルージュの指さす、その声のした方へ向かった。

 そして、駆け寄った先で俺達が目にしたもの。

 それは、小さくて青い髪の……。


「何だこれ?」

 女の子?


「妖精じゃの」

「ネネネを呼びまして?」

「おぬしじゃないわい」

 妖精……これが。


「ふぇ?」

 妖精は俺達の存在に気付くと、泣き止みそしてこちらを見上げた。

 そう、見上げた、ルージュのことでさえも見上げた。

 それほどに小さい妖精。

 青髪で手乗りサイズの妖精の女の子。


「おじょうちゃんこんな所でどうしたんだい?」

 グヘヘヘ、とは言わずに俺は優しく声をかける。


「ヒック、みんなっと、はぐれちゃったん、です、うあぁ~ん」

 そう言うと再び泣き出す妖精ちゃん。

 迷子になってしまったのだろうか。

 でも俺おまわりさんじゃないんだよ、どっちかって言うと、迷子のおまわりさんだし。

 さらに言うと俺がおまわりさんにお世話になる方だし……。

 異世界についてはおのぼりさんだし。


「アスタ、これはチャンスじゃ」

「チャンス?」

「妖精ならエルフと仲が良い、こやつを仲間の下へ連れて行ってやれば、教えてもらえるやもしれん」

 おお、なるほどそうなのか、それは願ってもない幸運じゃないか。


「でも妖精の方が、エルフよりも見つけにくいじゃないですの」

「そうなのか?」

「それはワシらだけで探した場合じゃ。確かに妖精はほとんど見えすらせんがのお、今はその妖精がそばにおるのじゃ。偽者じゃなくて本物が、のう」

 ルージュは目だけをチラッとネネネに向ける。


「何ですの?」

「いいや、何にも」

 ということは、この子を仲間のとことに送り届け、そしてエルフのいる場所に連れて行ってもらえばいいわけだ。迷う必要はない。

 俺は未だに泣き続けている、青い妖精に声をかける。


「お嬢ちゃん、よかったら俺達が仲間を探すの手伝ってあげようか?」

 すると妖精は、輝きを放ちながら羽をふるわせ、俺の目の前まで飛び上がった。


「ヒクッ、ほんとう、で、っすか?」

「ああほんとうだ」

 俺が頷くと、青い髪の妖精は「ありがとうございます」と、笑顔を作った。


 そして俺達は木霊ではなく、妖精に導かれ……木霊も妖精か?

 まあ何でもいい。とにかく青い妖精の仲間を探し、一路森の中を進む。

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