第22話 お腹が腹痛で痛い
「ぅんっ……あっ」
依然として辛そうに声を上げるラヴ。
悪夢にでも犯されているのだろうか、酷くうなされている。
「あっ……あっ……」
さっきより顔も赤くなってきたような気がするし、大丈夫なんだろうか。
「んっ……んっあっ……」
そして何より……エロいんだけど。
いやいや苦しんでいる人を前にして何を考えているんだ俺は。
とにかく気を紛らわせないと。
「ルージュ、ネネネと朝から何暴れたんだ?」
「あやつがワシのジャッ君を隠したから問い詰めとったんじゃ」
「ジャッ君?」
「カボチャの人形じゃ」
ああ、あれか。
あいつ名前あったのかよ。
もしかしてジャック・オー・ランタンのジャッ君じゃないだろうな……。
「今朝、朝食を捕ろうと思ったら――」
「朝から狩を!?」
「盗ろうと」
「万引きは犯罪です!」
「録ろうと」
「腹は満たされねえ」
「鳥にしようと」
「朝からなかなか豪華だな」
「ブリにしようと」
「塩焼きか? 照り焼きか?」
「ブタにしようと」
「しょうが焼きですね、はい」
「ああ、朝はトマトジュースじゃったわい」
「なんだよそれ、もうええわ」
「「どうもありがとうございました」」
伝説のコンビ復活だった……。
「朝食をとろうと思ったら、ジャッ君がおらんのに気付いての。年増に聞いても、白を切るんで体に聞いとったんじゃ」
なるほどそれで……でも。
「その人形なら俺の部屋にあったけど」
「……っ!?」
なんだよその驚いたような顔、自分で忘れていったことを忘れたのか。
「昨日、人形持たないまま影に入っただろ?」
「……お、おぉ、そうじゃったわい、はは、ははは」
腰に手をあて、ない胸を反らし、額に冷や汗を浮かべるルージュ。
「ちゃんとネネネに謝っておけよ」
「当たり前じゃ、ちゃ~んと誤る」
「それが誤りだ」
まあ確かに、誤ってネネネを犯人にしてしまったのは間違いないが。
「謝罪だよ」
「
そりゃね、朝からなんか
判決、被告人ネイドリーム・ネル・ネリッサは射罪とする。
「まおーさまー、ネネネ見つけましたの~」
噂をすれば影。
というか、戻ってきてくれないと困るわけだけど。
「ネネネのお手柄ですのね」
そう言う彼女の手に握られているのは、四分の一程切り取られたキノコ。
そのキノコにはなにやら不気味な数字のような模様が浮かんでいる。
「ああ、ありがと。で、ルージュこのキノコがどうしたんだよ」
「九十度
「きゅーじゅーど茸?」
何だそれ? 初めて聞くキノコだ。
まあキノコの種類なんて数えられるほどしか知らないけど。
「あらまぁ、これがあの九十度茸ですの?」
「そうじゃ、それがあの超特急難特殊調理食材」
超特急難特殊調理食材……。
その響きに俺はとりあえず、ゴクッと唾を飲み込んでみる。
「な、何なんだよその超特急難特殊調理食材って」
「その名のとおり、特殊な調理食材の中で一番調理の難しいとされる食材じゃ。調理の仕方を一歩間違えれば、死に至ることさえあるとかなんとか」
「そんな……」
「ラヴリーは今、九十度茸の毒に犯されておる」
「毒?」
「そうじゃ、その九十度茸は九十度に切り取られたときだけ、その身から強力な毒素を発する」
え、九十度のときだけ? 全然調理難しくないじゃん……。
むしろ簡単だろ。きっちり九十度に切り取る方が難しいんだから。
俺はとりあえず九十度茸に手を伸ばす。
「ああ、触らん方がよいぞアスタ、皮膚からも侵食されるでの」
「ギャァァァァッ!」
それを聞いてネネネが、持っていたキノコを急いで宙へ放り投げた。
そしてそのキノコは見事にラヴの顔へ落ちる。
「うっ……うぅ」
おいおい毒に犯されて危険な状態のラヴに何してくれてんだよ。
「どうしてネネネにそんなものを持たせますの!?」
「おぬしはええんじゃ」
「何ですって!?」
「何じゃ? やるか?」
「うっ……あっぁっ……」
「おい、こらやめないか二人とも、ラヴの体に障ったらどうするんだよ」
「チャンスじゃぞアスタ、今のうちに色んなところを触っておけ」
「そういうことじゃねえ!」
誰が『寝てるラヴのあんな所や、こんな所を触ったらどうなると思う? グヘヘヘ』みたいな事を言った。
「あっ……あぁん」
「大丈夫かラヴ」
耳元でそう声をかけると、彼女はうっすらと目を開けた。
「お腹が腹痛で痛い」
そしてそう言うとまた目を閉じた。
お腹が腹痛が痛いって。
式にすれば、お腹+腹×痛+痛いだろ?
つまり2お腹×2痛い=4腹痛
こりゃ相当だ!
「なあ、何か直す方法とかないのか? 魔法とか、何かないのかよ!?」
「まおーさま、魔法はそんな便利なものではございませんの」
だよな……。
回復魔法があるならラヴが自分でとっくにしてるだろうし、そもそも話が終わっちまうよ。
「助ける方法はあるにはある」
「何だよ、それを先に教えてくれよ。で、どうすればいいんだ」
「薬草を飲ますんじゃ」
「薬草?」
便利なものがあるじゃないか。
「そう、じゃが素人にはまず見つけられん」
「な……っ」
「森に行って好き放題に生い茂る草木の中から、欲しい薬草を見つけるなど素人には無理じゃ」
「そんな……城に蓄えは?」
あれだけ倉庫に食材やら何やらとたくさんあるんだ、薬草の一つや二つくらいあってもおかしくはないはずだ。
しかしネネネは静かに首を横に振った。
じゃあ、どうすれば。
「森の民であるエルフに聞けば、一瞬で見つけられるじゃろうな」
「おお、じゃあエルフに聞けばいいじゃないか」
「じゃがのう……」
難しい顔をするルージュ。
「何だ、まだ何かあるって言うのか?」
「エルフは滅多に人前に現れんし、そもそも現れても魔の者であるワシらの話など聞くかどうか」
そんな……、なら本当にどうすればいいんだ。
だめもとで森に探しに行ってみるか?
ギャグパワーで何とかなるかもしれないし……。
「まあそう心配せんでもええ。このワシが無駄な提案をすると思うのか?」
「何か策があるのか?」
「当たり前じゃ」
ルージュはそう言うとネネネを指さして見せる。
「賞味期限は切れとるかもしれんが、あそこに妖精がおる」
「「へ……?」」
俺とネネネの声が重なった。
「妖精ならエルフと仲が良い、見つけるくらい簡単じゃ。のう年増?」
「なっ……!?」
いやぁ無理だろ。
ネネネは夢魔だし、悪魔だし。
と言うかネネネめちゃくちゃ焦ってるじゃん、汗だらだらじゃん。
「ん? どうかしたか妖精、それともおぬしはやっぱり夢魔じゃったのかのう?」
「ば、ばかおっしゃい、ネネネは妖精ですのよ。エルフを見つけるくらい簡単ですの、オホホホホ」
「そうか、ならアスタよ、妖精に連れて行ってもらうとしよう」
そうは言っても……。
「ほんとに大丈夫なのか、ネネネ?」
「え、ええ、当たり前ですわ」
あーあ、見栄張っちゃって。
まあ、彼女たちのギャグパワーにかけてみますか。
こうして俺達はエルフの住まう森へと行くことになった。
「よくもやってくれたわねこのババア、覚えていらっしゃい!」
「お? 何か言ったかの? 年じゃからよく聞こえんかったわい」
「キィィィィ!」
先が思いやられるなぁ……。
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