第21話 ラヴ風邪をひく?
ドカーン! ドカーン! という大きな音で、俺は目を覚ました。
横に首を倒すと、隣に寝ているのは、ネネネでもルージュでもない。
かと言ってラヴでもない。
俺の隣に寝ているのは、カボチャ。
ルージュの持っていたカボチャの人形だった。
昨日の悪夢のような水泳大会は、ルージュの勝利ということで終わった。
で、約束どおり俺の部屋にいたルージュだったけど、散々しゃべり散らかした後、眠いと言って目をこすりながら影の中に入って行った。
初めて吸血鬼らしいところを見たような気がしたがそんなことより、話してる間終始どきどきしていた俺のときめきを返して欲しい。
今夜はこの妖艶な幼女、妖女はどんなことをしてくれるだろうと、話どころじゃなかったっていうのに。
いや別に期待していたわけじゃない、決してそんなことはない。
ただ純粋に思っていただけだ、グヘヘ、と。
「朝から何やってんだあの二人」
ベッドから起き上がり窓の外を眺めると、ネネネとルージュが庭でドンパチやらかしているのが見えた。
おいおい、畑には被害を出さないでくれよ……。
ただでさえ実りが悪いんだから、餓えるぜ。
「おはよう、ラヴ」
朝食を食べに食事の間へ行くと、ラヴがまた何か料理をしていた。
「あら遅かったわね、お坊?」
お坊……?
ポン、ポン、ポン、チーン。
「寝坊だ」
来るのが遅くなったのは、朝からお勤めをしていたからだとか、そんな理由では全くない。
「昨晩はルージュが全然寝かしてくれなかったんだよ」
「なっ……!? アンタってほんっとうに最低の変態ね!」
目を見開き、顔を耳までまっ赤にさせるラヴ。
「おいおい、一体何を想像してるんだよ」
まさか俺がルージュに手を出したと思ってるんじゃないだろうな。
俺がそんなことするわけないだろう、未遂だ未遂。
「あのなあ、俺はただおしゃべり――」
「話しかけないで、変態がうつるわ。 変態! クズ! アンタなんてゴミ未満よ!」
ゴミ未満って……。
確かにゴミ以下だとゴミも含むわけで、ゴミ未満はゴミを含まないから、ゴミ未満の方がレベル下っぽいけど。
何だか全然傷つかないな。
『アンタなんてゴミ以下よ!』って言われるより『アンタなんてゴミ未満よ!』って言われる方が気分的にはマシだ。
それにしてもどんな想像したんだよ……顔赤くしすぎだろ。
と、思った瞬間だった。
ラヴは糸が切れた操り人形のように、何の抵抗もなく地面に倒れこむ。
「おいラヴ、大丈夫か!?」
「うぅ……あっ……ぁん」
「大丈夫か? どうした」
駆け寄って抱き起こすも、意識はない。
何だこれ、どうしたっていうんだよ。
顔は赤く、体は熱い。
「風邪か?」
いや、風邪じゃない……?
「あっ……んぁ」
何だか知らないけど、とにかく凄い辛そうだ。
まじかよ、どうすればいいんだ?
薬飲ませればいいのか? でもどこにある? どれを飲ませればいい?
「あーっもう!」
一番まともなラヴが寝込んだら、俺はどうすればいいんだよ!
とにかく慌てながらも、ラヴを彼女の部屋に連れて行きベッドに寝かせた。
そして庭でドンパチやらかしている、ネネネとルージュを呼んだ。
無駄だと思われた二人の登場人物だったがしかし、意外とそうでもなかったらしい。
ベッドで横たわるラヴを見てルージュはこう言った。
「ふむ、これはもしや……」
「どうした、何か分かったのか?」
「まあそう慌てるでない」
ルージュはそう言うと、ネネネの方を一瞥する。
「おい年増、厨房に行ってキノコが落ちとらんか見て来い」
「どうしてネネネですの!?」
「それで今日のことはなかったことにしてやる」
「全く、ネネネじゃないと何度言ったらわかるんですの」
本当に中の悪い二人だな……。
「仕方ありませんわね、まおーさま少々お待ちくださいな」
「ああ、何だかわからないけど頼んだよ」
「まあまおーさまこんな状況でですの? かしこまりました、ではご奉仕しいたしますの。キノコだけに」
胞子ってか!?
「エッチなサービスを頼んだ覚えはない」
「サービスエリアですの」
「休憩の意味が変わってきそうだな」
「ドライブスルーもございます」
「車の中はよせ!」
「店内でお召し上がりですか? それともお持ち帰りですか?」
「どっちかって言うとお持ち帰りで」
「何やっとるんじゃ! 早う行かんか!」
とうとう痺れを切らしたルージュが俺達の間に割って入る。
おっと、危ない俺もついつい乗せられてしまった。
ラヴがこんなに辛そうにしている前で、こんなことをしている場合じゃない。
「本当に朝からガミガミガミガミと。ではまおーさま失礼致しますの」
ネネネはそう言うとなぜだか再度、俺の下半身をまさぐり始める。
「ネネネ、サービスはもういいから」
「何をおっしゃってますのまおーさま、ネネネはキノコを探してますの」
「厨房に行ってって言われただろ!」
どこのキノコを探してるんだ。
それにこれはキノコなんかじゃない。
「乳房ですの?」
「ああそうだな! 見ようによっては乳房にもキノコが生えてるかもな!」
「なんじゃと!? 乳にキノコが生えとるのか?」
ルージュは不思議そうに胸元をがばっと開けて、自分の体を見る。
「アスタ、ワシの乳にはキノコが生えとらん……どうしたらええんじゃ」
泣きそうになる彼女に、俺はそっと頭をなでながら言う。
「君の花園には小さなつぼみがあるから、大丈夫だよ……ってルージュも乗ってる場合じゃないだろ!」
いい加減厨房行ってくれよ、お願いだよ……。
で、ここからまたなんだかんだあった後――
「ではまおーさまネネネは厨房にイッて参りますの」
「……ああ」
――やっとネネネは厨房に行った。
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