第18話 ウルウルズッキュンロリッロリ

「さーいしょはグーじゃんけん」

 俺は思考をまとめることも出来ないまま、あっち向いてホイに参加させられる。


「「ポン」」

 俺が出したのはグー、吸血鬼の小さな手が示したのはチョキ。

 よし勝った!


「あっち向いてホイ!」

 俺が指さしたのは右、しかし吸血鬼は見事に俺の指した反対側、つまり左を向く。


「クソッ!」

「甘いのお」

 ペロッと舌なめずりをする吸血鬼。


「「最初はグーじゃんけん、ポン!」」

 俺はパー、吸血鬼はチョキ。

 負けた!


「あっち向いてホイじゃッ!」

 俺の小指ほどしかない幼女の人差し指が指したのは下、俺が向いたのは左。

 よしよし、セーフだ。

 それにしてもなんとも伝わりにくい遊びをしやがって。


「「じゃんけんポン!」」

 俺はパー! 吸血鬼はチョキ!

 また負けた!


「あっち向いてホイじゃッ!」

 ほいじゃぁぁぁぁ!!

 あっぶねえ……。

 今のは危なかったぞ、幼女の指をじっと見てたらつられそうになった。

「ほう、なかなかやるの」


「「ジャンケン、ポン!」」

 俺はグー、吸血鬼はチョキ。

 勝ったぞ!

 これで決めてやる!


「あっち向いて! ホイやぁぁぁぁ!!」

「……」

 俺が指さしたのは上、吸血鬼が向いたのも上。

 俺の指した方向と吸血鬼の顔の向きは見事一致。


「よっしゃ勝ったぁぁぁぁっ!」

 幼女に向かって非常に大人気ないと思いつつも、はしゃぐ俺。

 この年になってやるあっち向いてホイは、なんだかとても楽しかった。


「グフッ……さすがワシの見込んだ相手じゃ」

 吸血鬼は腹を抱えその場にひざをつく。

 え? 何か攻撃を受けたの?


「しかし次はそうはいかんぞ」

 苦しそうに顔を歪めながらも立ち上がる吸血鬼。

 君はいったい何と戦ってるんだい?



「第二回戦、駄洒落勝負!」

「駄洒落?」

「先攻はおぬしからでよいぞ」

「ちょっと持て、誰が判定するんだよ」

 ラヴか? でもあいつ洒落通じないぞ……多分。


「ワシじゃ」

「おいそれはおかしくないか?」

「心配するな、公平を期す」

 心配しかしねえよ。

 まあごちゃごちゃ言ってても仕方がない、駄洒落か……。

 まずは、簡単なところからいかせてもらうぜ!


「布団が吹っ飛んだ!」

 どうだ?


「ふむ、では次はワシじゃな」

 何の反応もなしかよ、ちょっと恥ずかしいじゃないか。


「納豆がない」

「……?」

 納豆がない? 駄洒落なのか? まさか高度過ぎて俺には理解できないのか?

 くそ、こうなったら。


「赤はアカン! 白にしろ!」

 どうだ……?


「焼き魚がない」

 わからない、俺にはわからない、これのどこが駄洒落なんだ……。

 しかたないこれでどうだ!


「アルミ缶の上にアルミ缶」

 放ってやったぜ、アルミ缶の上にあるミカン、じゃない。

 アルミ缶の上にあるのは、アルミ缶だ!

 つまり、缶が積まれてるだけだ!


「ふむふむ、じゃあワシじゃの」

 なんだと、全く通じてない。


「味噌汁もない」

 味噌汁もない?

 納豆も、焼き魚も、味噌汁もない?


「ちょっとお母さんご飯作るの忘れてるよ! てかおい吸血鬼これのどこが駄洒落なんだよ!」

「はっはっはワシの勝ちの幼女な……ようじゃな」

「どうしたらそんな結果になるんだよ」

 そもそもこいつ、駄洒落さえ言ってないじゃないか。


「じゃっておぬし、ツッコまされたじゃろう?」

「はっ!!」

 クソウ! 俺としたことが。

 なんだか腑に落ちないけど、しょうがない。

「ここは負けを認めよう」



「では三回戦、しりとりじゃ」

 しりとり……。


「まずはしりとりの『り』からじゃ、ではワシが。りんごじゃ」

 『じゃ』か。

 この場合『じゃ』でいくのか? 『ゃ』でいけばいいのか。

 そこらへんいろいろルールがあるからな。

 まあいいや『じゃ』でいこう。


「ジャガイモ」

「モモじゃ」

 また『じゃ』か。


「ジャングル」

「ルビーじゃ」


「ジャガー」

「ガーリックじゃ」

 また『じゃ』かよ……じゃ、じゃ……。

 ん?


「おいおいおかしいじゃないか、『じゃ』は君の口癖であって、単語じゃない」

「知らんわい、おぬしが勝手に間違えとったんじゃろうが」

「それは悪かった、もう一度最初からお願いしたい」

 俺は吸血鬼のロリ幼女に深々と頭を下げる。

 少しゾクゾクした……。

 嘘だよ冗談だよ。

 ただ頭を下げた先に見えた幼女の絶対領域は、しっかりと脳内メモリに保存させてもらった。


「いいじゃろう、今回だけ特別じゃぞ」

 そしてまた始めから、今度は『じゃ』に惑わされずに、普通のしりとりを始める。

 そして続くこと約十分。


「薪(まき)じゃ」

 き、き、き……。


「霧」

「ん!」

 ん?


「いやいやロリ及血鬼、『ん』じゃなくて、『り』だよ」

 ロリに及ぶ、実に犯罪的な匂いのする言葉だった。


「霧」

「ん」


「きり」

「ん」

 吸血鬼はどうしても俺に『ん』を言わせたいらしい。

 俺が『きり』と言えば、吸血鬼は口を横一文字にして、胸の前でこぶしを二つ作り『ん』っと必死に言うのである。

 そして最後に上目使いでうるうる目。


「……う」

 さっきまでの色気はどうした、急に幼女幼女しやがって。


「キリ」

「ん」

「……」

 無理だ!


「キリン」

 俺は静かに負けを認めた。


「はっはっはっは、『ん』と言ったな! 三回戦ワシの勝ちじゃ!」

 腰に手を当てそう高笑いする吸血鬼(ヴァンパイア)。

 くそ……。

 こいつは幼女なんかじゃねえ、幻女だ!


「さあこれで二対一、次ワシが勝てば、おぬしの負けは決定じゃ」

 でも突然始まったこの勝負、勝ったときも負けたときも、どうなるか全く決めてないよな。

 勝敗が決したところでどうなるんだよ……。



「さあ次は四回戦、ここで決着をつけてやるわい!」

 そう勢いよく宣言した吸血鬼だったが、四回戦の勝敗は一瞬でついた。

 もちろん俺の勝ち。

 第四回戦の種目、指相撲。

 さすがに幼女と俺の手の大きさが違いすぎて全く勝負にならなかった。

 自分で競技を決めてるんだから、それくらい考えればいいものの。


「あ、あぁダメ、今のなしにして!」

 吸血鬼は負けると、すかさずロリモードに入る。


「はうっ……」

 ず、ズルイ。

 こんなの耐えられるわけが……いや耐えてみせる。


「ダメ?」

 うぁぁぁぁ! 反則だ! 表紙を飾れば販促効果間違いなしだ!

 そんな目で俺を見ないでくれ。

 そんな捨てられた子犬のような目で……。


「くっ……わかった、この勝負はナシに――」

「はっはっはっは、甘い甘い! 己のその甘さを地獄に落ちて後悔するがいい!」

「くそったれぇー!!」

「さあ再び二対一じゃ、次の五回戦にはとっておきの競技を用意しておる」

 あたかも最初から五回戦があったかのようなロリだな。

 間違えた。

 あたかも最初から五回戦があったかのような口ぶりだな。



「五回戦! 勝負は押し相撲じゃ!」

 押し相撲?


「いいだろう望むところだ」

 しかしどうだろう、いざやろうと定位置に付いて気が付いたけど。

 さっきも言ったとおり俺と幼女には身体的な差が大きすぎる。

 幼女とまともに押し相撲をしようとすれば、俺はしゃがむしかない。

 そして完全にひざを折り曲げた状態で、押されて抵抗するのはまあ無理だ。


「こんな不公平なステージを用意したお前の反則負けだ!」

「クッ……ワシの負けじゃ、なかなかやるのお……」

 吸血鬼はあっさりと負けを認めた。

 そして再び地にひざをついたかと思うと、今度は口の端から血を流す。

 吸血鬼よ君はいったい、誰に、どこから、どんな攻撃を受けているんだい?


「さあ吸血鬼、これで二対二だ。どうなろうと次でこの勝負は終わる」

「そうじゃのう、ずいぶん楽しませて貰ったわい。礼の代わりにおぬしは苦しまずに逝かせてやろう」

「俺も楽しかったぜ、だからその言葉はそっくりそのままお前に返す」

「最後の勝負じゃ、最後は単純にじゃんけんとしよう」

 この長い長い戦いの終わりを告げるにはもってこいの競技、じゃんけん。


「泣いても笑ってもこれが最後の戦いじゃ!」

 吸血鬼はそう言うと、カボチャの人形を横に置き、両手を高く突き上げる。


「大地に紅き雨を降らせし冥府の戦士たちよ――」

「なんだ!?」

 幼女が何かをぶつぶつといい始めた瞬間、彼女の紅い髪の毛がブワッと逆立ち始める。


「汝、古の血の盟約に則り――」

 そして幼女から放たれる赤いオーラがより一層大きくなる。


「くっ……」

 なんだ呪文でも唱えてるのか?

 彼女は天に伸ばしていた手を、今度は自分の胸の前に突き出しクロスにする。


「我にジャンケンを勝たせたまえ!」

 そして自らの手を組み、グニッとひねった。

 え?


「急急如律令!」

 その掛け声と共に、ひねった手の中をのぞく。

 ジャンケンの前によくやる、意味のわからない儀式みたいなやつだった。

 おいおいまじで焦ったよ。

 なんだよ『急急如律令』って、でたらめにもほどがあるだろ。


「はっはっは、これでおぬしも終わりじゃ、ゆくぞ!」

「「さーいしょーはグーじゃーんけーんポンッ!!」」

 勝敗は、一発で決した。


「グッ……クハッ……」

 俺はグー、吸血鬼はチョキ。

 俺の、勝ち。


「ワシの……負けじゃ……」

 吸血鬼はその場に完全に倒れこむ。


「おい、大丈夫か吸血鬼!」

 俺は彼女に駆け寄り、倒れたその小さな身体をそっと抱き起こす。


「最後に、ゲホッゲホ――」

 吸血鬼の口からは勢いよく血があふれ出す。


「しゃべるなバカやろう!」

 うつろな目で俺を見つめる吸血鬼(ヴァンパイア)の幼女は、力なくその手で俺の頬をなでる。


「最後に、おぬしの……名前を教えてはくれんかの」

「俺は魔王、魔王アスタだ」

「そうか、アスタよ――」

「お願いだからもうしゃべらないでくれ!」

 幼女の声はしだいに小さくなっていく、それはもう口元に耳を当てないと聞き取れないほどに。


「ワシらは違う形で出会っておったら、いい友になれたかもしれないの」

「なに冗談言ってんだよ! 今からだって遅くはないだろ!?」

「そうか、最後にいい夢をありが……とう」

 頬に添えられたもみじの様な小さな手が、完全に力をなくし地面に落ちる。


「おい、おい、冗談はよせよ! どうしたっていうんだよ、おい!」

 どれだけ声をかけようと、どれだけ揺さぶろうと反応はなく。

 『最後にいい夢をありがとう』その言葉を最後に、吸血鬼は完全に動かなくなった。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ――」












「やってられないわ……私先に帰ってるからね」

「まおーさま、そんな吸血鬼なんかほっときましょう、ネネネそろそろ帰りたいですの」

「え? あ、そうだな帰ろう」

 どうやらネネネも、妖精ごっこを無事終えて戻ってきたらしい。


「じゃあな吸血鬼、お前のことは一生忘れない」

 俺は幼女吸血鬼の死体に背を向け歩き出す。


「ちょ、ちょっと待たんかーいっ!!」

「うおっ!」

 振り向くと口についた血を拭いながら立ち上がる、ゴスロリのロリ。

 頭のちょうちょ結びのリボンが解けかかっている。


「ワシはおぬしが気に入った」

 ビシッっと俺を指さす幼女。

 そして妖艶な笑みでこう言った。


「この我のものとなれ、魔王よ」

「断る!」

「なぜじゃ!?」

 なぜかって?

 それは本来勇者に言うべきセリフだからだ。

 いやもっと言えば魔王である俺が勇者に言うべき言葉だ。

 こんな風にな!


「この我がものとなれ、勇者よ」

「な、なに言ってんのよこのバカ魔王!」

「イテテテ、痛い、痛い」

 耳を引っ張らないで……。


「と、とにかくもう悪さするんじゃないぞ~」

 そうして俺はラヴに耳を引っ張られ、ネネネに腕を引っ張られ、めちゃくちゃになりながら、魔王城へ帰った。


 それにしても、もしもロリモードで言われてたらやばかったな……。

 『ワシのものになって魔王』ウルウルズッキュンロリッロリ。

 『承知!!』

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