第17話 ロリロリのロリ
問題の教会は、森の中にポツリと建っていた。
ずいぶん前から使われずにいたんだろう、石の壁や屋根は砕けて穴だらけそして蔦が巻きつき苔が生え、窓も扉も……、まともな所を探すのが非常に困難な状態だ。
昼だからまだしも、夜とかだったら見るだけで飛んで逃げたくなる。
それにしても吸血鬼が教会とはな……。
弱点なんじゃないのだろうか。
「魔王、アンタ早く行って倒してきなさいよ」
「あ、ああ」
ここまできたらしかたないか。
魔王のスペックに賭けてみよう。
そして俺は教会の扉、既に傾きすぎて扉の体をなしていない木の扉を、強引に引き、開ける。
いや、もう引きちぎったの方が正しいかもしれない。
中はいうほど暗くはなかった、穴の開いた天井から光が差し込んでいたからだ。
場所が教会ということもあって、神秘的でさえあった。
「あの~誰かいませんか~?」
人の気配が全くしない……まあ、いなければそれに越したことはないんだけどね。
しかしこの流れでいないわけもなく。
突然ゴットっという……。
間違えた、突然ゴトッという音が聞こえる。
「ひいっ!!」
飛び上がって音のした方に視線を向ける。
そしてもちろんその視線の先に、天井から差し込まれた光の下に、それはいた。
「どうしたの!?」
俺の悲鳴を聞きつけたであろうラヴが慌てて教会の中に入ってくる。
やっぱりいざという時は頼りになる。
ちなみにさっきからなぜ、ネネネがおとなしいかと言うと。
彼女は今、森の妖精になった気分だと言って、どこかで踊っているからだ。
ネネネの場合は盛(も)りの妖精だけどね。
そんなことを言っている間に、“それ”はゆっくりと立ち上がる。
「はっはっはっはっは、おぬしらよう来たのう」
そこにいたのは、真っ赤、赤よりも深い紅(あか)、血よりも濃いアカ。
鮮やかには程遠く、しかし決してくすんでいるわけじゃない。
そんな黒さえも飲み込んでしまうような、圧倒的な赤い髪を背まで垂らし。
髪とは対照的に透き通るような赤い二つの目を、爛々と輝かせた……。
「「幼女!?」」
幼女だった。
しかもゴスロリの格好をした。
つまりゴスロリのロリ、ロリロリのロリだ。
いやまあ、これが本当にゴスロリと呼ばれる格好かは俺にはよく分からない。
全くといっていいほどそんな知識は俺にはない。
ただ漫画とか、ラノベとかで見たことあるだけで。
でも、シロとクロのミニスカドレスに、これまたシロクロの縞々ニーソ、頭にはちょうちょ結びの黒いリボン。
素人の俺の認識で行くとゴスロリだ。
「……」
とりあえず可愛いので、俺は無言で脳内メモリに幼女の姿を保存した。
しっかりいくつも複製をして、バックアップも怠らない。
最後にファイル名をごまかし、ロックをかけたら完成だ。
それにしてもこいつが吸血鬼(ヴァンパイア)か?
もしそうだとしたら、教会にいてかつ日の光も浴びて、弱点ないじゃん。
そんなやつにニンニクが効くとも思えないし。
ちなみに俺は今、ラブの作ってくれたニンニクネックレスを首に巻いている。
でもだよ、ということは、吸血鬼に襲われてここに逃げてきたってこともありえるじゃん。
襲われるから、吸血鬼の弱点の多い場所に逃げ込んだ。
いやいやでも、そうだとしたら助けを求めている幼女の、人に会って第一声が高笑いで『おぬしらよう来たのう』なはずがないんだよ。
もしそんな幼女がいたら親の顔が見てみたい。
とにかくこの子は吸血鬼じゃないかもしれないので、やさしく声をかけないと。
「お、おじょうちゃんこんな所で何してるんだい?」
お菓子上げるからおじさんについておいでよ……グフフ。
「ワシはここでちと人間の血を吸っておったのじゃ」
吸血鬼だった。
「さあ、おぬしらもワシのご飯になるがよい」
深紅の髪の吸血鬼は、幼女に似つかわしくない妖艶な笑みをその顔に浮かべ、そう言った。
いや、この場合、妖艶と言うより
「……」
幼女がこんな色気を出せるものなのか、出してもいいものなのか……。
もしかすると……もしかしなくても、ネネネよりも魅力的で魅惑的で蠱惑的な。
そんな危険なほどに惹きつけられる色香を漂わせ、尖った歯を舌でペロッと舐める。
どうしてこんなに違和感がないんだ?
だって、幼女でゴスロリで、手にはカボチャのお人形持ってるんだぜ?
ハロウィンパーティーかよ!
こんな子が『トリックオアトリート』って家に来ても絶対お菓子は上げない。
いたずらしてもらっちゃうよ!
「魔王! 何してるのよ早く倒しちゃいなさい!」
「はっ……」
ラヴの声で我に返った俺だったが、構えようとして頭を振る。
まてまて、まずは話し合いだ。
それで解決すればそれが一番いい。
楽しくお話して終わればそれが一番いいじゃないか。
まあ楽しくお話とはいかないだろうけど……。
「ほう、おぬしらワシを倒しに来たのか」
「待ってくれ、俺達は君に危害を加えるつもりはない。ただ人を襲うのをやめて欲しくて来たんだ。やめてもらえないか?」
「ふむ……」
吸血鬼は腕を組み手に持ったカボチャの人形を見つめる。
きっと今は相談中なんだ、とか勝手に想像しつつ。
「いいじゃろう、その代わり条件がある」
「なんだ?」
「ワシとお話をせい」
「……? 何だって?」
「じゃからワシとお話をしようと言っておるのじゃ、長いこと退屈じゃったからのう」
……お話!? お話!
ほら来た! 俺の読みどおりだ! 楽しくお話して解決だ!
「わかった、条件を呑もう」
「ちょっとアンタな――」
「大丈夫だ俺にここは任せておけ」
さっきまで腰が引けていた俺はここぞとばかりに格好をつけ、吸血鬼の元へ向かう。
内心ではあわよくばいたずらをしてもらおうなんて、絶対に思ってない。
『トリックオアトリック』だ!
お菓子をあげないからいたずらをしてくれ!
なんて、神に誓っても思っていない。
「さあ吸血鬼、話をし幼女」
おっと口が滑った。
「話をしよう」
「ふむ、久々に張り合いのありそうな相手じゃ、ワシも少しは本気を出せそうじゃ」
なんだよ張り合いって、なんだよ本気って、言葉の暴力でも奮おうってか?
「何の話をするんだよ」
「勝負は三本先取じゃ」
勝負?
ゴスロリのロリは、白黒ニーソを上に引き上げたかと思うと、体から赤いオーラのようなものを放ちだした。
おいおいこんなやつ、ラヴも出してなかったか?
しかも俺を殺そうとしてたとき。
この吸血鬼、お話ってまさか
とんだ格闘家だ!
「第一回戦!!」
「お、おい待ってくれよ!」
まずいぞ、ラヴに助けを求めるにしても、散々見栄を張って来てしまったし……。
いやでも、背に腹は変えられない。
でもでも背中をを刺された一撃が結局腹にまで達するかもしれないし。
あーもうっどうしよう。
しかしそんなうろたえる俺に吸血鬼が放ったのは、予想だにしなかった一言だった。
「一回戦は、あっち向いてホイッじゃ」
「へ?」
あっち向いてホイ?
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