第2話 セミプロろーぐ

「これで終わりよ魔王!」


 いくつもの松明で照らし出された、だだっ広い石造りの部屋。

 大きく開け放たれた入り口から一直線に続く赤い絨毯。

 その絨毯の先には、煌びやかな装飾の施された巨大な玉座が。


「おのれ……勇者め」

 そしてその玉座の前にひざまずく、一つの人影。

 魔王と呼ばれるその男は、頭からつま先まで、いたるところに傷を負っていた。

 身に着けていた衣服は切り刻まれ、そこから見える肌は血にまみれ、魔王の象徴であると言っても過言ではない頭についている立派な角は、今や片方が折れてしまっている。


「さあ、覚悟しなさい」

 そう言いながら一振りの剣を胸の前に掲げる、もう一つの人影。

 勇者と呼ばれる彼女は、相対する魔王よりかは幾分余裕をその顔に浮かべている。

 しかしそれでも無傷ではない。

 装備した頑丈そうかつ機動性に優れているであろう鉄の胸当ては、ボコボコにへこみ原型を失い。

 出血は少ないものの、体力が限界なのか肩で息をしている。 

 

 勇者と魔王の姿もそうだが、彼らが向かい合っているこの四角い部屋の有様を見ただけでも、相当激しい戦いが繰り広げられているであろうことが、容易に想像できた。

 敷かれた立派な絨毯は火に焼かれたのか黒焦げになり、石の床は大きく陥没。

 そして床に倒れ血を流す、二つの獣のような姿の生き物。それらは既に息をしていない。

 しかしそんな戦いも、どうやらもう佳境らしい。


「勇者の名において、お前を断罪する!」

 勇者はグッと腰を落とし、地面にひざまずく魔王を睨みつける。

 すると彼女の体は瞬く間に光に包まれ、目をしかめたくなるような輝きを放ち出した。


「はぁぁぁぁ!」

 鬼のような咆哮と共に地面をけりだしたかと思った瞬間、勇者は稲妻のような速さで部屋を駆け抜け、一瞬で魔王との距離を詰める。


「小娘の分際で!!」

 そして魔王の目の前まで詰め寄ると、手に持った剣で魔王の体を一突き。

 満身創痍の魔王には叫ぶことで精一杯、それ以上の抵抗は何一つ出来なかった。


「……カハッ……ク……ソ……」

 胸を突かれた魔王は口から血を吐き出し、剣が刺さった傷口からは血が滲み出す。


「あの世で己の行いを悔い改めなさい」

 そんな勇者の言葉も、魔王にはもはや届かない。

 彼の目には既に精気は宿っておらず、完全に息絶えていた。


「…………」

 勇者は魔王の死を確認すると、剣を彼の体から引き抜く。

 支えを失った魔王の肉体は、音を立てて床に倒れこんだ。

 勇者は横たわる魔王を見下ろしながら、血のついた剣の切っ先を振り払うと、魔王に背を向けて歩き出す。

 そして最後に一言。


「またつまらないものを斬ってしまったわ」

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