第30話 たりたり
「HEY魔王様遅いぞHURRY UP up! HURRY UP up!」
「ようゲイル、お前生きてたんだな」
村に帰ってくるなり、踊りながら、わけの分からない出迎えをしてくれるゲイル。
あきれて立ち止まった俺の肩が、トントンと叩かれる。
「ん? 何?」
肩を叩いたのはエルフちゃん。
「病気」
エルフちゃんはゲイルを指さしながら俺にそう呟いた。
「そうだ、アイツは病気だ、うん、うん」
「そう」
やっと現れた理解者。
今まではゲイルのおかしな行動にツッコむ奴がなぜか俺しかいなかったから、嬉しい限りである。
だから俺は思わずエルフちゃんの頭を、ナデナデいい子いい子した。
「ん……」
くせっ毛で硬いのかなと思っていたその首まで伸ばされた銀髪は、意外と柔らかかった。
「まあでもアイツはどうでもいいから、他の村人を見てもらえるかな?」
「そう。わかった」
「いてっ」
歩き出そうとした俺の背後から、頭に何やら硬いものが。
とんで来たのはラヴのげんこつ。
「何するんだよラヴ」
「アンタ今どさくさに紛れて女の子に触ったでしょ!? この変態!」
「何だよラヴもなでて欲しかったのか? だったらそう言えよしょうがないなあ、よしよし」
俺は今度こそ金メダルをその手にした。
「なっちょ、ちょっと触らないでよ! この変態!」
しかし命と引き換えにだ……。
腰の剣を素早く抜きさり、俺に突きつけるラヴ。
「ひいっ! ごめんなさいごめんなさい、もうしません冗談です許してください」
「妊娠したらどうするつもり!?」
「するわけないだろ!」
「ふんっどうかしら、変態になら可能なんじゃない?」
何!? もしかしてヘンタイには触れるだけで人を妊娠させる能力があるのか?
「じゃあ、責任取らせてもらいます」
「なっ……この――」
その先は聞き取れなかった。
俺の耳の真横に剣の刃先が通りすぎたからだ。
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁ!! 切れたよ? ほっぺたから血出てるんですけど!?」
「ふん、自業地獄ね」
「どこの地獄ですか!?」
まあ、自分の行いが招いた地獄、あながち間違いではない。
「どうして?」
「へ?」
「どうして頭触ったら、妊娠するの?」
泣き叫ぶ俺にそう問いかけてきたのは、もちろん銀髪エルフちゃん。
「さあ、どうしてだろうね、勇者の特技じゃないかな」
「そう」
俺が答えると、診察をするべく一軒目の家に向かうエルフちゃん。
「私に変な特技つけないでくれる!? 大体どうして私なの? アンタの特技でしょ、ヘンタイ!」
「まぁまぁ落ち着いてラヴ。そんなことより、ほっぺた痛いんだけど……」
「……あ、その、もうっ! ……ごめんなさい」
うつむきながらも、ラヴはちゃんと謝れる子だった。
「ラヴ」
「何よ」
「ありがとう」
「な、何が?」
「さあね」
グヘヘヘ。
「そんなことより早く行かないと」
俺は足早にエルフの後を追う。
「ちょっと待ちなさいよ、何がなのよ!」
「あはははは、つかまえてごら~ん」
浜辺のカップルのように『いや~ん待って~』とはならなかった。
「捕まえてやるわっ!」
「ォゥグヘェ……クル、チイ……シ……ヌ」
それから俺達はエルフちゃんについて、各家を回った。
エルフたんは一軒一軒、一人一人丁寧に診察を行った。
黙って、黙々と。
まあ、もともとあまりしゃべらないけど、この子。
「その人で最後だ」
最後の一人、この村の村長さんを見たところで、俺はエルフちゃんに声をかけた。
「そう」
「何か分かった?」
「わかった、けど……」
「けど……?」
けど何なんだ?
もしかして治らない病気だとでもいうのか。
「あれの病気はは分からない」
エルフちゃんが指さしたのはもちろんゲイル。
「YO! YO! YO! YO!]
ゲイルは親指・人差し指・中指を立てながら両手を振り、何かを言ってみたり、突然回転し始めたりしている。
「YAHHHHHHHH!!」
「「「……」」」
「ああ、アレはいいんだよもう不治の病だから」
「そう」
そう言うと急に家から出て行く銀髪エルフちゃん。
なんだか本当に先の読みにくい子だ。
「どこに行くんだ?」
「あなた、頭大丈夫?」
おっと、またまた女の子に体の心配されてしまったぜ。
もしかして俺のこと好きなんじゃないか?
何て、久しぶりに思春期をこじらせる。
俺の病も治して貰いたいところだ。
「森に戻らないと薬草採れない」
「そ、そうだよね……さあ森に行こう」
コクコクと頷く銀髪ちゃん。
そして俺達は再びエルフやらなんやらが住まう森へ。
森へ戻って来ると、エルフちゃんは生い茂る草の中からすぐに薬草を見つけ出し、それをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
そして投げた薬草を見下ろしながら、彼女は俺にこんなことを言ってきやがった。
「拾って」
だから俺は強気でこう言ってやった。
「はいっ」
それから俺達は、はぐれたり出会ったり、歩いたり走ったり、喋ったり話したり、殺されかけたり、とにかくたりたりしながら森で薬草を摘み、村へと帰った。
村に帰ると、エルフちゃんは採ってきた薬草をちぎったり揉んだり、石のよく分からない道具でゴリゴリしたりグリグリしたり、絞ったり丸めたり、木の実を入れてみたり入れてみなかったり、とにかくたりたりして薬を作った。
そして各家に回り、出来た薬を渡し、用法用量を伝え。
ようやくこの病気騒動にいったんの終止符が打たれた。
「よくやったYO! 魔OH! SUMMER!」
なんだよ『魔OH! SUMMER!』って、俺に暑い夏でもやってくるってか?
まあこいつの病気は治ってないけど、別にどうでもいし。
依然としてネネネとルージュが帰ってこないのも、別に大丈夫だろう。
なんにしろ……。
「君のおかげで助かったよ」
「君じゃない、エメラダ」
「ん?」
「名前、エメラダ」
ああ、そう言うことか。
「ごめんごめん。エメラダ、ありがとう助かったよ」
「そう…………お
「お
「……?」
おっと、俺のボケが通じなかったようだ。
完全に頭の上に“はてな”が浮かんでる。
それにしても、最初出会ったときは少し得体の知れない感があったけど、慣れてくると何だろう、すごいポワポワした雰囲気で、この子を見てるとだんだん眠たくなってくるな……纏ってる空気凄くが柔らかい。
表情があまり変わらないし、目が半開きなのも合わさって余計そう感じるのかも知れない。
「お礼」
「あ、ああ、そうだね、お
どうしようか、あの時勢いと調子に乗ってお礼をするなんて言ってしまったけど、何にも用意してないんだよな……。
この子は何が欲しいんだ? この子は何をあげれば喜ぶんだ?
「なあラヴどうしよう」
俺はひとまず隣に立つ勇者ラヴに相談を持ちかけてみる。
「知らないわよ、あんたが勝手に言ったんでしょ? 責任持ちなさいよ」
ううん……どうしたもんか。
あっそうだ!
「お礼と言っちゃあ何かも知れないけど、城にご飯を食べに来るってのはどう?」
これくらいしか思いつかない、だって考えてないから。
「何? その私の料理が微妙みたいな言い方」
「そんなことない、おいしいよ?」
「大体それ作るの私よね!? アンタ結局何もしてないじゃない」
「まあまあそう言わないで、頼むよラヴ」
「……ふんっ、まったくしょうがないわね」
ラヴの了承を得たのはいいけど、エメラダちゃんにそんなものはいらないって言われたらおしまいなんだよな。
「それじゃあダメかな? エメラダ」
「いい、食べる」
おお、よかった。
しかし本当にそれでよかったんだろうか。
ラヴのご飯は確かにおいしいけど、他に何か欲しいものとかなかったのかな。
喜びもしなければ、がっかりもしない。
エメラダがこのお礼をどう受け取ったのかは、いまいち分からなかった。
まあとにかく、俺達は魔王城へと向かって歩く。
「なあ、ほんとにその目貰えない?」
「目は取れない」
「何言ってんのっっよ!!」
「いてぇ!」
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