第11話 穏やかな一日
ーー暗い、真っ暗だった。
気づいたらここにいた。
(アレッ? 何で私ここにいるんだろう、ーーって身体が動かせない)
段々と視界が戻る、目の前には、積み重なる山のように大きい魔物の数々。
しかもこんな巨大で不気味な魔物は見たことはない、中には龍のような姿の魔物までいる。
終わった、すべてではないが被害を最小に出来た。
(う~~ん、何だろう身体が勝手に動いてる、あぁ、なるほどこれは夢ね、でもなんでこんな戦いの跡のような夢を……そうか、昨日の初めての実戦のせいね)
「さぁみんな、これで救われたよ、アレに怯える日々は終わった」
私? いや、この身体の持ち主は心から喜んでいた。
(心がとても温かい、すごく良い人のようね、まるで私みたい)
そして喜びを分かち合うため、皆に振り返えろうとした。
「あぁ、アンタはよくやってくれた。流石最……の〇〇だ、ご苦労さん、おやすみ〇〇〇、永遠にな」
「----ッ!!」
突然、背中に激痛が走る。
振り返ると、そこには各々武器を持ち、狂気に満ちた目をした兵隊達の姿。
鎧や剣の金属音が耳に響いてくる。
むせ返るような鉄のにおい、血のにおいが周囲に充満してくる。
ゆっくりと自分の胸を見る、そこには槍が、まるで大地から無数に竹が生えるようであった。
浴びせられる罵倒、狂ったように発せられる言葉、死ね、死ね、死んでしまえーーと。
何故このようなことに、自分は皆の為に戦ったのにどうして。
頭に響くのは死ね、死んでしまえという罵声の声。次第に声が大きくなる、耳を塞いでも塞ぎきれないほどの音量になっていた。
しばらくすると、最早どうでもよくなり、流れる血により、赤く染まりつつある視界を閉じ両の手で耳をふさぐ。
痛い、痛い、しばらくするともう痛みは感じなくなっていた。
違う、この痛みより別の痛みの方が強かったから、肉体的ではない、心が痛かった。
体の痛みなど、この痛みに比べれば……ちっぽけでとても些細なものに感じた。
真っ暗の闇、漆黒の闇にしずむ心、もう止まらない、最早止められない。
体が小さくなるようだ、痛みはないが次第に何かが奪われていくのがわかった。
「もう、いやだ、……もう誰も信じることが出来ない、……駄目、駄目だ信じるんだ、もうあのーーひ……げ……」
(頭が、身体が引き裂かせるよう……くっ、この人物の心が壊れていくのがわかる、だ、誰か助けてあげて……)
私自身、夢だと思えないほどの痛みを感じていた、これは本当に夢なのか、こんな理不尽なことが本当に……
「----!!って、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー」
掛け布団を吹き飛ばし、ベッドから転げ落ち顔面を強打する美しい少女。
蒼い髪がふかふかの絨毯にゆっくりともたれかかる。
その美しい彼女、現在どのような状態かといえば、まさに逆立ちに失敗し顔面から着地したような格好(ポーズ)であった。
自らは重力に逆らうことのできないパジャマは捲れ落ち、ほっそりとした白いお腹はとてもまぶしかった。
とてもかわいらしいピンクのレースのパジャマ、ゆっくりではあるが胸まで捲れかかったのだが、残念ながら彼女の両足が床に届いてしまう。
……しかし、一向に動きがない、首が曲がったままの姿勢で思考が止まっている、数世代前のPCのようにフリーズしたのであろうか。
そして、再起動する気配がないまま1分が過ぎようとしていた。
「一体何事なの、あっ、やっと起きたのね、もう心配したのよメル」
「……えっ、何よ何事なの?」
扉を壊すほどの勢いで開け放ち、彼女の室内へ駆け込んできたのは、彼女の隣の部屋に住む幼馴染でもある同級生であった。
最初は心配そうな表情であったが、いつものような元気な姿を確認すると、ほっとした笑みが浮かぶ。
「もう~~何の話、何なのよ~~説明してってば~~」
友人の彼女はベッドの隣に腰掛け話始めた。
部屋の窓から外を見ると、陽は完全に落ち外は真っ暗であった。
「そうね、何から話ましょうか、そうねーーって何よメル、重いから首にもたれかかってこないでよ、いやいや重いってのは嘘だって、えっ、何?」
「あっ、あの~~お腹が空きすぎて力が入らないんだけど……何か食べるものを……がくっ、メルは死んでしまった、……あぁ神の使徒メルよ、死んでしまうとは何事だ……」
まだまだ余裕のありそうなメルであった。
数分後。
持ってきてもらった特大おにぎり(1升おにぎりINしゃけ、たらこ、おかか、マヨネーズ等々他多数)2個を軽く完食し、お茶をすすってようやく一息つくことが出来た。
再度ベッドに腰掛け、友人は話を再開し始める。
「メル、あなた達は5日も眠り続けていたのよ。一応アテネ先生が見にきてくれて別段異常はないから、そのまま寝かせておいたんだけど心配したのよ」
「う~~ん、あの日戻ってきて食事して風呂に入ってから、いつものように寝たのまでは覚えてるけど」
翌日、休みではあるが食事時間を過ぎても、一行に来る気配がない彼女達を心配し、部屋にまで呼びにきた友人達。
部屋には鍵がかけてあり、いくら声をかけても返事はない。そして電話すると室内から呼び出し音が聞こえてきた。
万が一があってはならないので、寮長に合鍵で鍵を開けてもらい室内へ、ベッドの上には死んだように眠るメルの姿。
普通なら昨日の初の実戦の疲れで、ただ眠っているだけと思うであろう。
しかし長い付き合いの幼馴染の彼女は異変にきずいた、普段の彼女ならどれだけ疲れていても食事だけは欠かさない。
昔幼い(幼稚園位)ころ、流行風邪で高熱(軽く40度)をで身動きできない状態でも、月に1度のお楽しみ、給食でついてくる地域限定のデザートほしさに自宅のベッドを抜け出し、3km離れた学園に這ってやってきた逸話をもつ彼女。
まぁその後は、当然悪化し1週間身動きひとつ取れなかったのだが。
食欲だけはまったく落ちなかったその彼女が、食事時間になっても起きないのはおかしいと。
しかしメルはいくら起こしても、叩いても起きなかった、そこで夕方まで様子を見てやはり起きないので学園に連絡を取り、アテネ先生を呼び診察してもらっていたと。
残りの4人も同様で、ずっと眠り続けていたがメルの1時間ほど前に目を覚まし、今は部屋で食事をしていると聞かされた。
学園はあれから休校が続いており、再開は明後日からとの通達が彼女のメールに入っていた。
「そうだったの、心配掛けてごめんね、まぁ私はこのとおり大丈夫だからーーーーって何、人の身体の匂い嗅いでんのよ」
「……ふんふん、メル、あんた汗臭いわよ、仕方ない風呂(大浴場)に連れて行ってあげる、ほらいくわよ」
「--って、こらぁーー離しなさいってば、自室のシャワーでいいってーー離せーー」
「いいからいいから、ほら~~アンタがどれだけ成長したか確認してあげるからさ」
暴れ、抵抗するメル。しかし長身の彼女はメルの身体を軽々と肩まで担ぎ上げ連行していく。
消灯時間前の静かな廊下にメルの叫びが響いていた。
さて、お久しぶりです。
何かややこしいことになっています、上からの圧力とか、無のーーいえ、あまり真面目に仕事をしない彼等に期待するほうがおかしいのでしょうね。
アノ闇喰いのことは口外できませんし、まぁする気もありませんが。
私達の体のことも訳がわかりません、確かにあの時私は、記憶が正しいのなら腹部に致命傷を受けたはずなのですが、いくら見ても傷ひとつありませんでした。
記憶が間違っているのでしょうか、しかし皆の記憶も違うというのはおかしいです。
訳がわかりません、誰か教えてほしいです、説明責任を果たしてください……と、言っても仕方がありません。
そこで私は、たった今、心機一転するにあたって。
丁度、今朝寮にあった朝刊の折込チラシに、美容院のカット89%OFFチケットが入っていたので紙をーーいえ、髪をばっさりと切ってまいりました。
自分で言うのもなんですが、ショートの私もかなりいけてると思います。
休みは明日までなので、今日はゆっくりとした時間をすごすことにします。
街でピナ達と待ち合わせしてます、今日は気分をかえ昼食を外で食べようと朝話しをしました。
今日は少し位体力をつける為、仕方なく、--そう、仕方なくお肉(食べ放題)を食べることを満場一致で決定しました。
確かに彼女のいうとおりであった、短くしたことで活発な感じが強まったが、それでも彼女は極上の美少女である。
今日の彼女、白と薄い青のプリントシャツに黒のホットパンツ姿、ジーンズ素材の袖なしのジャケットを上から羽織っていた。
中でも彼女の髪と同じ色の蒼いソックスと、ホットパンツの間の絶対領域が自然と目に付いた。
長い髪の時、見た目は別として決して態度や言動は、おしとやかとは言えなかった。
しかし髪を切ったことにより、見た目にも健康的で活発そうな美少女となっていた。
道行く人が彼女を見るため、自然と振り返るのがわかる。
ゆっくりと歩き始めるメル、途中小腹が空いたのか、パン屋で焼きたての食パン(1斤)を買い、さらに揚げたてコロッケ10個を買ってはさみ、軽くつまみながら待ち合わせ場所へ向かう。
5分ほど歩き、噴水のある大広場に到着。
すでに先ほどの巨大なパンはおなかの中に消えていた、手と口元をハンカチで拭きながら周囲を見回し彼女達を探す。
「ねぇねぇ~~きみーーーー!!」
「彼女ってばさーーーー!!」
振り返ることもなく、裏拳1発でナンパ男どもを沈める。
やはり目を引くほどの美少女のメル、ここに到着し数分しか経過してないが、彼女の拳に沈められた男の山が出来ていた。
次第にイラついてきたメル、うんざりしてきた、そろそろ本気で切れそうであった。
今まさに、こめかみ付近に血管が浮かび上がりそうであった。
その背後に2人の男性の影が浮かび上がった、ゆっくりとメルの肩に手を伸ばす1人の男性。
「そこの元気そうな彼女~~俺達とーーーーーって、危ない俺達だ、冗談だって、落ち着けよメル」
「なんだクリス達だったの、いい加減うっとおしくて帰ろうかと思ってた所よ」
彼女の全身のバネを使った高速裏拳、それを難なく受け止めた左手をさするクリス。
「どうだクリス、私の言った通りだったろう、メルは無意識でも必ず人体の急所を狙うって」
彼の言うとおりであった、メルの裏拳は巨人のクリスの顎先を狙っていた。
「さ~てメル、遅くなってごめんね、じゃあ軽い食事を取りに行きましょうか」
「ん、焼肉、食べ放題、45%OFFチケット持ってきた」
人通りの多い噴水広場を抜け、目指すは焼肉食べ放題。
お昼前の街は人と誘惑に満ち溢れていた、肉を揚げる悪魔のごとき香り、食欲をそそるスパイシーな食べ物が彼女達に襲い掛かる。
それらの誘惑を振り切り、馴染みの定食屋にやってきた一同。
「おばちゃーーん、こんにちわーー、まだ席は空いてるかな」
彼女の元気な声に、店主とおぼしき風貌の50代半ばの恰幅の良い女性、店の奥から厨房と店内を仕切る暖簾を手で払いのけ顔を覗かせる。
「おやおや、あんたたちかい。この魔物のお肉大量に狩ってきてくれたんだってね、おかげで肉の新商品や食べ放題が好評でこの商店街も潤うってもんさね」
「……あっ、そうなんだよかったわね、まぁいいわとりあえず食べ放題5人ね、それで席は空いてるかしら」
アルバイトの若いウエイトレスに奥の座敷に案内される、堀コタツ式のテーブルを皆で囲む。
山のように詰まれた肉が次々と鉄板で焼かれていく。
赤々と熱された鉄板、肉汁とたれの香りが若い彼女達の食欲を刺激する。
不意に誰かに呼ばれたような気がした、周囲を見まわすと、様々な人たちが彼女達特殊科の学生に感謝の言葉をかけてきた。
「みなさん聞いてください、私はシスター、神官ですので無益な殺生は好みません。今回の実戦討伐でも非力な私は皆の援護しか出来ませんでしたの」
彼女の言葉に周囲が静まり返った。
「……あっ、いやシスターだったのかこれは申し訳ない、特殊科の生徒って聞いたので前線組かと勘違いしてたよ」
「いや、おじさん謝らなくていいですよ、こいつは確かに神官だが、こう見えても今回トップクラスのキル数(討伐数)を獲得してるんだから」
「ん、破壊神官、暴走シスターの異名は伊達じゃない」
「----ッ、あんた達ぃぃーーーー余計なこと言うんじゃないわよーーーー」
笑いが店中に響き渡り、お昼の穏やかな時間が過ぎていく。
街は今日も平和である。
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