第10話 正体

 扉を開け中に入るメル一向。

 内側の部屋には1人のQ先生しかおらず、奥にはいまだ忙しく動き回る多数のQ先生の姿が見て取れる。

 

「どうも~~Q先生、私達の体どうでしたか。あっ、ちなみにサイズのこと喋ったら潰しますよ」

 パソコンの入力作業中のQ先生に冗談……か、どうかは不明だが明るく話しかける。

「おヤ、みなサン丁度ヨカっタ、結果はゼンゼん問題ナイでスと、伝えニいこうカトしてタ所です」

「そうか、それはよかった、これで心配事が1つ減ったな、なぁみんな」

「そうね、詳しい話はまた今度にして、私達以外の大怪我した生徒の治療はまだすまないんですか、もうかなり時間経過してますけど」

 皆は一応の異常なしとの結果に、まずは胸をなでおろすことができた。

「いイエ、治療ドコろか彼ハ謎ダラけで、解析すラ不可能デス」

「……えっ、それって、どういうことなのかな」

「それデ、たっタ今心理の解明ノタメ、完全解剖ニ取リ掛かル準備ガ終わっタ所デス」

「……?」

「「「「「…………!!」」」」」

 淡々と喋るQ先生、彼女達はその言葉の意味を理解しようとしていた。

 何かがおかしい、不適切な言葉が聞こえたような気がした。

 だが、いくら変人……いや、多少他の人とは違うとはいえ、一応は先生なのだからと、どうにか信じようと、聞き間違いであろうと考えようとしていた。

「……って、ちょっと待ちなさいよ、解剖って何、生徒に何しようとしてんのよ」

「イイえ、彼ハ学園ノ生徒デはありマせん、ソレどコろか……」

 彼が言い終えるよりも早く動き出していた。

 強化ガラスを睨み付ける、すぐさまバンドを操作し、取り出したハンマーでぶち破った。

 ガラスの破片が飛び散る、部屋の照明により反射するさまは幻想的に見える。

 隣には開閉されたままの扉が見える、実際ガラスを破壊する意味はないと思うのだが。

 それほど焦っていたのであろう、時に正義の為に多少の犠牲(物や悪人限定)は仕方ないというのが彼女の理念である。

 中に飛び込むと、スカートであることも忘れメスを受け取ったQ先生に喧嘩キック、別名ヤク〇キックを喰らわせ、壁に叩きつける正義の使者の彼女。

 

「……メス、じゃなぁぁぁーーーーーーい、何考えてんのよ治療はすんだの、まったくも~~、やっぱりマッドサイエンティストの研究所って噂は本当だったのね」

「いヤしかシ、謎ハ解明しなケレばならナイのでス、新たな探究心ナクしては人ハ進歩しマセん」

「そうデス、これハ必要ナノです、この少年の犠牲ハ……いエ身体ノ提供は新たな道を進む第一歩なノデす」

 そんな彼女達が言い争いをしている間。

 危うく解剖されてしまう所であった人物、その彼? をベッドから開放するクリスとモー君。

 巨人のクリスは天井に届きそうな頭をかがめ、彼に掛けられていたシーツをめくる。

「「!!」」

 目を見開き言葉をなくす、いや正確には言葉が出なかった男子2人。

 ひどい姿であった、赤黒く染まったボロボロの服の下から見える体。

 体に残されたのは右腕のみ、両足は膝から下、左腕は肩より下を失っていたのだ。

 それだけではなかった、破れた服から除く体には無数の傷跡が刻まれている。

 幼い顔立ち、小さな身体とは裏腹に、彼のこれまで生きてきた道は普通でないことはすぐに感じ取った。

「ひどい傷だ、おいクリスよ、まずこのボロボロの服を脱がせてくれないか」

「あぁ、そうだな」

 彼のこの大きな手は、どのような繊細なものでもやってのける、普通の人より大きな指であるが彼の服を起用に摘み脱がそうとしていた。

「待ってクダサい、その服ハとても貴重なーー」

 ーー突然扉が開いた。

「何をしているお前達、これは何の騒ぎだ」

「Q先生、彼の治療は終わったのですか」

 突然の来訪者にこの場の全員の動きが止まった。

「あァ学園長、ウル教官いいとコロに来ましたネ、彼等を止めテくだサイ、この人類の進歩を止めよウとスルのデス」

  


 数分後、学園長から説教を受け真面目になったQ先生達。

 興奮から覚めたようにおとなしくなった、1人のQ先生は彼の状態を報告していた。

「……ト、いうワケです」

「そうですか、困りましたね、まさかクローニング出来ない、いえ、細胞すら分析できないなど」

 Q先生の報告はこうである。

 クローニング作業の為、普段のように彼の傷から細胞の一部を取り出し、学園で最新のコンピューターで分析することにした。

 

 ここ数十年、ある人物によりマザーコンピューターは大きく格段に進歩した。

 この国、同盟国のすべての情報をリアルネットで統一し管理している。

 これまで数千、いや、数百万以上の難題をいとも簡単分析しクリアしてきた。

 そのマザーコンピューターにあり得ないことが起きたのだ、それは何度やり直しても解析不能、NO DETAとしか表示されないのだ。

 しまいにはその細胞をモノ」として認識しないようになってしまっていた。

 さらに何度レントゲンや体内スキャンを撮っても、彼の体の内部はまったく写らないのである。

 結局、どの検査を行っても同じ結果であった。

 それ以前にここで1番の問題は、彼に回復魔法が効かないこと。

 失った体のパーツが解析不能な為、複製は絶対不可能ということ。

 唯一良かったことは、彼が非常に高い生命力を持ち合わせていることであった。

 通常、ここまでの傷で、ここまで出血すればほぼ間違いなくあの世生きである。

 普通ならば、手足を失った時点でショック死してもおかしくはない。

 なのに彼は、意識のない瀕死の状態であるのにもかかわらず、ただ眠っているだけように呼吸はととのっていたのだ。


「では彼の欠損している体のパーツですが、機械で補うことは可能ですか?」

「ハい、ソれクラいなら可能ですガ、--あっ、コラ君達その服は貴重ナ資料ナノですよ、乱暴に扱わナいでくだサイ」

 メルは彼のボロボロの服をはさみで切断しようとしていたのだが、Q先生達によって止められ取り押さえられていた。

「おォ、これハすばらシイ、い、イやまさカ……」

 戦利品を勝ち取ったQ先生は、恍惚とした表情(のようにみえる)で服の一部を色々な角度より見つめていた。 


「--ではウル君、彼のことをお願いします」

 騒がしい彼女達を静かにさせた学園長、壁に横たわるQ先生達を横目に冷静に指示を与えていた。

 彼の首に手を当て、少し体を浮かせると、学園長は残った服を切り裂いた。

 顔や体の血をお湯につけたタオルできれいにしていく。 


 まだ血で薄汚れてはいるが、とても整った顔立ちをしている。

 2人が彼の傷跡や傷口の処理を済ませた頃、気を失っていたメル達が目を覚ましはじめていた。


「……ん、い、痛い、あれっ、私達どうしてたんだっけーーって、キャッ!その子裸じゃない」

「ん、体中傷だらけ、ひどい……その傷あの闇喰いから受けただけじゃない」

 同様に目を覚ましたナナは思わず言葉に出してしまった。

「ここまでひどい傷だったのか、ん? 右肩の後ろに、傷跡の下に何か見えるぞ」

「----!!、こっ、い、いや……まさか」

 クリスの言葉に皆の視線がそこに集まった。

 直後、それを見た学園長とウルは目を見開いたまま黙り込んでしまう。

 正体不明の彼の背中、傷の下には刺青のような印が薄っすらと確認できた。

 学園長の表情が変わった、常に冷静沈着な彼が生徒にこのような表情を見せるのはめずらしいことである。

 

「はいはい、ではそろそろあなた達は寮に帰ってゆっくり休みなさい」

「お前達、一応明後日までは臨時休校となったから休んでいろ、それと言っておくが学園は立ち入り禁止だからな」

「えっ、それってどういうこと」


 彼女達は、治療室より問答無用で追い出されてしまう。

「も~~何よ説明くらいって、あっメールだ」

 メールにはこう書かれていた。

 1、本日の闇喰い出現は決して口外しないこと。

 2、B級以上の教官が、明後日まで裏門周囲を調査し安全を確認する。

 3、安全が確認されない場合、休校期間を延長する。

 4、普通科の生徒など、人に尋ねられた場合、校舎・施設全体のメンテナンス作業の為と答えること。

 5、本日の損害はすべて学園に請求すること(学園長)

 6、もしも警備兵に闇喰いのことを聞かれた場合、非常に強力な特殊能力を持った魔物の間違いと答えること。


「何よこれ、無かったことにしろっていいうの、ふざけないでよ」

「おい落ち着けメル、私達にだけ追加のメールがきてるぞ」

 切れて武器を振り回す彼女に、距離をとっていたモー君冷静にが答える。

 それは彼だけではなかった、流石に長い付き合いだけあり、この場の皆が彼同様メルから距離をとっていた。

 メールを読み終えた直後、誰一人として彼女にきずかれることなく移動していた。

 

 追加(いつもの彼女を除いたメル達へ)

 申し訳ありませんが、上からの命令で箝口令を引かれています。

 一般人に余計な心配事やパニックを起こさせない為、アノ中型のことは内緒でお願いします。

 もし万が一体に違和感、異常を感じたりしたら何時でもかまわないので連絡をしてください。

 それと重症の彼のことです、あの場所で発見救助されたこと口外しないようにしてください。

 最後に一言、今回のあなた方の活躍は聞きました、他の生徒達を避難させるため頑張ったこと誇りに思います、--が、しかし即時撤退の私の言葉を破ったあなた達には、後日罰を与えますので覚悟しておくように。 

「そっか、そういうことだったんだ、それにしても学園長メール打つの速いなぁ----って罰ぅぅぅ-----嫌ぁぁぁーーーーーーーー」


 騒がしい彼女達も帰宅し、室内では慌ただしく動き回るQ先生の姿が。

 時折、金属同士が当たる音が鳴り響いていた。

 

 静かになった室内に残されたのは、いまだ眠り続ける長い銀髪の彼。

 あの後、髪の血も洗われた様である、所々くすみ、千切れてはいるが美しい銀髪がとても印象的。

 彼の体には、おそらく仮となる単純なつくりの機械式の手足が装着されてた。

 隣の部屋では機械音や、キーボードを叩く音が響いている。

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