第8話 再会 

 馬車が学園の校庭に到着する、しかし誰一人として言葉を発することはなかった。

 馬車の扉が開く、すると中からは頭を下げ、重苦しい空気に包まれた教官達が降りてくる。

 学園の雰囲気もいつもとは違った。

 広大な敷地に整備されたグラウンド、普段なら部活で青春の汗を流したり、帰宅する大勢の生徒達でにぎわう時間。

 だがグラウンドや校舎に、生徒の姿は誰1人として見ることはなかった。

 闇喰いの出現報告を受けた学園長、その彼の指示により全生徒を帰宅させていたのだ。

 当然命からがら逃げ帰った1年も、簡単な治療を受け病院や寮へ向かっていた。

 ここハカータの街の中心には、この国の司令塔である巨大な城が立ち誇り、様々な機関が設立されている。

 街の警備の最終的な決定権、他の街との連絡網もすべてここで連携稼動している。

 すでに中型の闇喰い出現の連絡を受けた守備隊、しかし彼らが動くことはなかった。

 学園の周囲に、しかもすぐ裏の森に出現の例など過去1度もないとの理由で、虚偽報告として内々で処理されていた。

 さらに、そのような噂や嘘が街や国に広まると、余計な混乱を招くとのことで学園には箝口令をしかれていた。

 

 守備隊からの正式な書類を受け取った学園長。

 いかにもお役所仕事とばかりに、無数の署名やハンコが押されている。

 しかし学園長はその内容に目を通すこともなく破りすて、自らの魔法で燃やし灰にしてしまう。

「まず会議室にB級以上の教官を集めてください、アテネ先生の意識が戻り次第話を聞きます」

 眉間にしわを寄せながらも、教官達には冷静を装い指示を出す。

「学園長、私は彼女達の親御さんに連絡してまいります、それでは6人の遺……いや身体のことは頼みました」

「……」

「--!!うっウル教官」 

「……あの~~」

「話は後にしろ」

 他の教官の言葉を聞き、彼は少し苛立ちを見せた。

 彼女達、教え子の無残な姿を見るたび思い出すたびに怒りが湧き上がる。

 耳に聞こえる言葉や風の音すら彼をさらに苛立たせる、そして目にするものすべてを破壊したくなる。

 仕方ないとはいえ、あのことを受け入れた過去、自分自身すら破壊し尽くしたい衝動にかられる。


「……え~~と教官、あのですね」

「どうしたのかしら私達、ねえナナは覚えてる」

「ん、覚えてない、確かに1度」

 どこかで聞いた声。

 緊張したこの場所に、まったく似つかわしくない間の抜けた声。


「クリスよ、君や私はあの時確かに」

「あぁ、そうだ」

 呆然とする学園長と教官達。

 目をまるくしたまま動かなくなっていた。

 なんと完全に死んだはずの彼女達、ゆっくりと起き上がり喋りだしたのだった。

  


 突如地面が揺れ、聞き覚えのある声が近づいてくる。

「お~~い、お前達無事だったのか~~無事なら返事をしろ~~」

 陽もだいぶ傾き、長い影がこちらに向かって伸びてくる。

 大きなスライドでジャンプし、急制動でなんとか止まった。

 ものすごい砂煙が、静まりかえった校庭に舞い上がり、その人物を覆い隠す。


 霧が晴れるかのように、ゆっくりと砂煙が薄れていく。

 皆の目に、その人物の正体がはっきりと映し出される。


 あの時、皆を救い、そして彼女達の目の前で崩れ落ち、死んだはずのアイアンゴーレムの彼が目の前に立っていた。

「「「あっ、あっ、アゴちゃぁぁぁぁーーーーーーーーーん」」」



 感動の再会も終わり積もる話は後にして、一先ず彼女達の体の状態を見ることに。

 学園長とウルはその場に残り、あの後の話をガードから聞いていた。


 保健室へやってきたメル達。

「まったく一体どうなっているんだ、うわっ制服が血まみれだ」

「そうだなクリス、俺のもボロボロでもう使い物にならない」

 いきなり血で染まり、ボロボロになった制服を脱ぎだす男子2人(モー君は体内よりボロになった制服を排出? していた)

「----!、って、純情な乙女の前でいきなりぬぐなぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー」

「「おしおき」」

「「ぐぁぁぁーーーーー何するんだよーーーーーー」」

 女子3人の連携技(コンボ)攻撃が見事に炸裂した。

 光と消えた2人、残された女子は個室に入ると服を脱ぎ始めた。

「……う~~~ん、これは、いえ……まさか」

 メルのきめ細かい肌のお腹を、穴が開くほど見つめる女保険医。

「あの~~どうかしましたか」

「いえ、なんでもないの。それよりあなた、すぐに隣の治療室にいって頂戴」

 学園内で怪我をした場合、保健室に常勤している保険医の回復魔法で傷はほとんど治る(傷が塞がるが体力は回復しない)

 保健室の隣に位置する治療室、別名学園研究室。

 多数のQ先生が配置されている学園の機関、一般にはあまり知られていないが、戦闘訓練中の不慮の事故で回復が間に合わないほどの大怪我(指や腕を失うなど)の治療をすることが出来る。

「えぇぇ~~なんでマッド研究所ーーいや、治療室へいかないといけないの」

 下着の上からボロボロに破れ、駄目になった制服の変わりの白衣を羽織り、ぶつくさ言いながらも隣へ移動するメル。

 隣と言っても保健室はかなり広く作られている、廊下を20Mほど歩くと治療室と書かれたプレートが見える。


 部屋の前には他の皆もそこにいた。

 いつもは騒がしい学園内、しかし今は静かで誰一人としていない廊下。

 暗くなった廊下にいるのはこの場の5人だけ、明かりすらない廊下に不気味な治療室から明かりが漏れていた。

「うぅぅ~~嫌だな、こんな不気味な部屋に入りたくないよ~~」

「ん、私も嫌」

「そうよ、なんで……か、わからないけど無事だったんだから、かっ、帰りましょうかメル」

「そっ、そうよね、アレは夢だったのよ、そう、夢なのよ。じゃあ私達女子は帰るから後はよろしくね」

 男子2人に押し付け、あの経験地豊富なメタルスラ〇ムのように逃げ出した女子達。


 暗い廊下を無我夢中で失踪する彼女達、女子とはいえ流石特殊科の生徒であった。

 100Mなら、軽くオリンピックで金を取れる速度で走っている。

 さらにメルは毎朝の訓練(寝坊の為全力疾走)のおかげで脚力には自信があった。

 今彼女達の頭の中では、長い間虐げられ、光のさす事のない長く暗い場所から逃げ出し、ようやく自由を掴み取れる所まであと一歩のイメージが思い浮かんでいた。

  

「ふふふ……流石まだN、いえ、モー君ね。この私達に追いつくなんて」

 しかし、その自由はもろくも崩れ去ることになった。

 光(あのイメージ)が流れる中、鼻歌交じりの余裕さえうかべた看守、--いや白いマリモが表れ横に並んで走って? いた。

「甘い、甘すぎるぞメル、1年の中で、速度で私に勝てるものはいない。しかも今は妙に体が軽い」

 彼女は、いやアンタ空中に浮いてるから、重いも軽いもないだろう……と思ったのだが、ぐっと堪えていた。

「こらっ、はなせーー、いや離してください。お願いそこは嫌ぁーーーー」

 自由への逃亡は失敗に終わった、彼の体内から無数のロープが彼女達の身体を縛り付けていた。


 扉を開け中へ入る、薄暗い10畳ほどの室内に最新の治療機器が所狭しと並んでいる。

 壁際に並ぶ沢山のモニターに、様々な情報が映し出されていた。

 さらにこの部屋の奥には、強化ガラスで仕切られたここと同じくらいの部屋、そこにはいくつかのベッドと謎の巨大な円柱のガラスが見える。

 巨大円柱ガラスは天井まで届く高さ、中には液体が充満しているようだ。

 そこに忙しく駆け回るQ先生達の姿が見て取れた。

「アっ、体ノスきャんですネ。1人ズつこちラのベッどへ」

 キーボードと格闘していた、1人のQ先生が彼女達に気づき声をかけた。

 

 全員の全身スキャンは、あっけないほどすぐに済んだ、今彼女達は部屋の外の廊下で待たされていた。

「何なのよ~~うら若い乙女の柔肌を、いくらQ先生が肉体を持たない種族だとしても……」

「ん、メル言いたいことはそこじゃない」

「……わかってるわよナナ、私達のこと、いや、傷跡すら残ってないこの体のことでしょ」

 極力考えないようにしていた、あの時のことは、あの瞬間のことは。

 そう、確かにあの時、自分達はあの急激に進化した闇喰いによって致命傷を受けたはず。

 メル本人も、失いつつある意識の中、この親友の無残な姿を確かに見たのだ。

 これまでの言動や言葉。彼女なりに、この嫌な空気を和ませたかったのであろう。

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