第3話 思いがけない課外授業

 日々坦々とした時間が過ぎ行く。

 その穏やかな日常を打ち砕く出来事。

 メルやこの年頃の少女なら誰でも夢見る運命の転校生……ではなかった、がそれは突然やってきた。

 雲ひとつない晴れた空、穏やかで温かい風が心地よい日のこと。

 彼女はいつもの日課、いや、……多少ぎりぎりに登校し、ようやく息を整えたところであった。

 本日の授業内容をPCで確認しながら、風でぼさぼさになった美しい髪を櫛でといていく。

 出席をとりおえた教官は静かに出席簿を閉じると、さらに鋭い目つきとなり生徒全員に話しかける。

「本日の1限目は調合の予定だったが、急遽1年全体の課外授業、いや野外実戦に変更となった」

「ーーえっ?? 野外実戦ってことは街の外でピクニック」

 つい言葉がでてしまう。

「いや、ピクニックじゃないし」

 メルとピナのナイスなボケ突っ込みに、急な実戦訓練に戸惑いの表情だった生徒達の緊張が解けたようだ。

 そして教室内にはクスクスと笑いがこぼれたのであった。

 ここの教室や他の教室にいる1年生はほとんどが実戦経験がない、いや逆に実戦経験がある者のほうが珍しいのである。

 それ以前に街の住民のほとんどのものが、結界内から1度も出ずに生活し生涯を終えるので、実戦をおこなうほうが稀である。

 街や村は結界で守られ、その区間の移動も安全な馬車で行き来する現代では、本来の冒険者の数も激減していた。

 徒歩の一般人が、街道や森で少し凶暴な熊や動物などに遭遇すれば危険かもしれないが、そのレベルの危険など、特殊科の新1年である彼女・彼らでも中等部で基礎訓練済みである為問題なく対処できる。

 冒険者見習いといっても、一般人とは生まれながらにして反射神経・筋力などは桁違いなのである。

 

 それで普通の人は、冒険者に絶対かなわないかといえば、一概にそうではない。

 資質をもちながら、様々な事情により学園の特殊科に進まない場合もある。

 さらに身体能力は普通の人と変わらない冒険者も数多くいる、しかしその場合かなりのレアな能力をもっているのだが。

 

 科学が発達した現在、普通の人であっても、金さえあれば身体能力の強化や魔法は使用することが可能になっている。

 ただし小型PC内蔵機械で制御しているため、時間や使用回数など様々な制限はある。

 またそのような場合、普通は冒険者の資格は得られない。これがこの国で大きな社会問題にもなっているのだが。


「この馬鹿ものどもがーーー今日は半仮想空間での実習じゃない実戦だ、気を引き締め真面目にやらないと、大怪我じゃ済まないぞ本当に命を落とすぞ。それでもいいのかお前らはーーーー」

 緊張感のない彼女達の雰囲気に、少し苛立ちを見せた教官が怒号を発した。

 ……それまで騒がしかった教室内がシーンと静まり返る。

  う~ん、やっぱり教官は怖い、そうねこれはよく言われる鬼教官ね。でもまぁ今回は私達が悪いかな。


「しかしまぁ、今回の実戦は真剣にやればお前らの実力なら大丈夫だ、それに教官も各班につけるからな、そして今回の装備は標準(ノーマル)以上の装備なら可とする、壊れかけとか数日手入れしてない装備は問題外だ」

「では教官、魔法の制限はあるのでしょうか」

 そこに、クラスメイトの魔法使いであろう風貌の男子生徒が質問する。

「……そっ、そうよ私もそれが聞きたかったのよ、いや本当よ」


「魔法は発動させ成功したことのある魔法までとする、契約したもののいままで成功したことのないものは駄目だが、装備での補助があるなら可能とする 」


 通常魔法は長い呪文を読み上げて、それぞれの精霊などと契約するのが一般的です(これがまた長ったらしくてめんどくさいのよ)

 でも契約さえ済ませておいて、自分の能力に問題がなければ名称を発するだけで発動(ただし名称発動は威力が多少落ちる)可能よ。もちろん自分のLV以上のでも契約できることはあるけど。

 ……まず確実に使ったあとぶっ倒れるし、副作用で頭痛がね~~これがまたキツイのよ二日酔いの起き抜けに……って違う、私は未成年で若いのよ、お酒なんて飲まない。


 使用回数は本人の力量次第、私の魔力と総量は1年でトップクラス、初級なら数十回は楽勝よ、楽勝。

(1年の一般の特殊科の生徒で1つの魔法の平均2~5回って所かな、そうねまさに自分の完璧さが怖いわ)

  さらに道具は何個までですか? と他のクラスメイトが確認していた。

「そうよね~~そこ重要、あまりたくさんだと重くて動きが鈍るしね、私はか弱い神官だから軽装備までなのよ」

「実戦なので、アイテム倉庫に入れれるだけ入れておけよ」

「は~~い、でも金欠の人はどうすれば……」

 皆が席を立ち準備に取り掛かる。


 少し経ったころ、廊下から駆け込んできた人物が教室の扉を開けた。

「ウル先セイ、準備デキ次第、生徒ヲ校庭マデオ願イシマス」

 その人物はどうにも、見た目もしゃべりも機械的であった。

 簡単に言えば見た目は、表情のない金属で出来た人形(ざっくりと言ってしまえば超簡易的なロボット)

「はい、わかりましたQ12先生」


 ※Q先生(機械憑依生命体)

 物理的な身体を持たず、ある宝石らしきものに宿り生まれてくるらしいがその生態は多くの謎に包まれている。

 人間に模倣した機械で作られた依代に、その宝石を体内にセットすることで憑依して自立活動することが可能。

 別に体内は機械(鎧のように空っぽでも可能)でなくてもかまわないが、その場合簡単な作業しか出来ない。難しい作業や高度な技術が必要な場合は精密機械のロボット並みの身体が必要となる。

 そしてこの学園の多くの雑用をこなしている(この学園には用務員や教官、さらに研究者としてかなりの人数の機械憑依生命体が働いている)

 そしてこの学園の彼らはすべてQ先生と呼ばれている、基本的に彼らの多くは個々の自我があまりなく、宝石を通して繋がっている(ある程度成長すると宝石から欠片が生まれ、それにより分裂する。それが1個体から多数の個体となり宝石を通し繋がるが、他の宝石の個体とは繋がることは出来ない)


(う~~ん、体に刻印があるからわかるけどなければわからないよ絶対、だって見た目全部同じ人型のロボット? 中等部時代から見ているけどやはり区別つかない、う~~ん一応繋がってるから区別する必要はないと思うけど)

 メルは額にしわをつくり悩んだような表情であった。


「よーーしお前ら、装備完了したら者から校庭にいそげ、薬等不足してる者はすぐに購買部にいって調達してこいーーでは急げ」


 皆各々準備を進めている中、メルは教室で1人なにもしていない人物にきがついた。 

「ねえ、準備しないでいいの?」

 しかし話しかけたが反応がない、メルが心配になって顔を覗き込むと。


「……zzz」

(寝ていた、まったくこの子は~~)

「ちょっとナナ起きて~~もうみんな行っちゃったよ~~」

「……ん、メル? ……何?」

 ……などと、寝ぼけた表情のナナと呼ばれた、小学生と間違うほど小柄な少女。


 ※ナナ・F・シルフィー 

 私の親友、エルフ(森の狩猟民族)彼女はその中でも、ある森にのみ生息するといわれている特殊なエルフの種族。

 まぁ言わなくてもわかると思うけど、通常より恐ろしく長生きする種族で耳が長いのが特徴。

 成人するまで身体が成長し、それ以降はものすごくゆっくりと成長(歳を取る)する。

 天使族と並んで線が細く美男美女が多い。さらに弓や魔法が得意で、さまざまな特殊能力があるといわれている。

 彼女の特殊能力は超感覚(ものすごい距離であっても集中すれば、極僅かの時間だがまるで至近距離にいるように見える。それ以外の詳細は不明)

 いつも眠そうな顔をしてるけど、魔法の実力はトップクラス(学園入学時の魔法適正能力1位なのだが、生来のめんどくさがりやであまり真面目に授業を受けない)

 身長150センチ(本人申告は151cm)足らずで、綺麗な長い金髪サイドテールの、ついついお持ち帰りしたくなる人形の様な少女。

 彼女は普通の制服ではあるけれど、成長を見越してかサイズが2つばかり大きいのを着用している。

 この子も可愛いけど、私も男子達から良く噂されているのよ、この新1年の中でもっとも可憐で美少女ってね。


 ……実は(動かなければ)可憐で(見た目だけ)美少女(胸がないのは残念)なのだが、それは彼女の名誉の為黙っておくことにしよう。

「まったくも~~あんたって子はいつもマイペースなんだから」

 そう言いながらも彼女は、ナナと呼ばれた小さい少女の手を取り購買部へと向かった。


 2人が到着した時には特殊科がある校舎の購買部はすでに戦場であった、皆薬・武器・防具を求め我先にと争っていた。

 ここは先に説明したように広大な敷地に数多くある校舎の中の1つ、特殊科1年と特殊科の中でもさらに特別な1年のクラスがある校舎である。

 2~3年は隣接してるが普通科などは別の校舎となっている。只の学園の購買といってもそこは特殊科、広さが半端ではなかった。

 普通のコンビニくらいなら軽く20店舗は入るほどの広さで、さらにそこらの武器屋などとは比べようもない数の武器・防具などが所狭しとばかりに並んでいる。

 しかし一般の街に置いてあるような実践向きの品(高い品質の高級品)は置いてはいない。


 2人はその光景に圧倒され立ち尽くしていた。

「あ~あどうしょっかな、武器・防具は神官だから今の装備(制服)でいいとしてエナ薬はほしいかな」

 あまりの人数に少しうんざりとした表情のメル。

「まぁしょうがないか、とりあえず特攻して買ってくるわね」

 よーしいっちょいきますか、などと聞こえそうなポーズで腕まくりしている彼女。

 そしてまさに、彼女がその戦場へ特攻しようとした所をナナの小さな手が止めた。


「ん? ナナどうしたのっ……て、なんでエナ薬がそんなに……ってしかも、そっそれは最高級のエナ薬じゃないの」


  ※エナ薬=魔力小回復(小瓶・ユン〇ルサイズ)

 失った魔力(精神力)を一定時間(約1時間ほど)の間だけ回復させることが出来る薬。

 只魔力が回復しても各魔法には1日の使用限界数(個人の能力で変化する)がある為、未熟な低レベルの者がすべて使い切った場合摂取しても意味がないことになる。


 その魔法薬の中でも最高級(完全近く回復)といわれているものがナナの小さな手の中に持ちきれないほどの数があった。

 それは学生しかも一般の1年生では買えないような高価な物である(もちろん普通の1年ではそこまでの魔力量がないので必要ない。2~3年であっても普通は必要ない高価な品物。この学園の購買部では取り寄せ以外では入手不可能なのである)

 通常の1年であればノーマル(1番安い)のマナ薬で十分回復するので、1人3~5本あれば問題ないことになる。

 

 この薬は魔法使いや、メルの様な神官には必須アイテムといえよう。

 この世界にはゲームのような体力回復薬などは存在していない、メルたち神官の回復魔法も傷のみを塞ぐだけであり失った体力は戻らない。


 そうよねーーだって魔力が尽きた私なんて、ねぇ~~わかるよね。

 戦闘ができないし~~只の可憐な美少女でしかないじゃない ん? なんか頭にツッコミがきたような気がする……誰?

 あっ、言い忘れましたがこれは独り言ではなく、私がいつか執筆しベストセラーを生み出す為に必要な、脳内記録のようなものなの、けっして電波やかわいそうな子ではありません。

 で、話を戻します、あまり飲み過ぎは禁物ね、激しい動きでお腹痛くなるし。

 それにそんなに大量に飲めないって、大体1人3~5個基本かな(ユ〇ケル瓶サイズ)

 私やナナやピナなんかは魔力総量が多いからそれ以上は必要なんだけどね、だから5段階あるマナ薬のノーマルプラス(下から2番目)を5~8本くらいかな。

「どうしたのよ、なんで、ナナがそんな物を大量に……」

 私は……彼女に恐る恐る尋ねてみた。

「ん、作った自分で、多分大丈夫…………なはず(ボソッ)」


 ふむ、よく見ると良くできた手書きのラベルの最高級の後ろに(仮)と貼ってあった……いいのかなこれは。

「作ったって……最高級エナ薬は薬学に精通した最終学年ですら、本当に極一部の生徒が作れるかどうかなのに」

「ん、クリスと調合した、だから多分それに近いくらいの……おそらく……(ボソッ)」


「その最後にボソっといわれると、なんか心配になるんだけど、まぁあのクリスとの共同作業で作ったものならいいか~~」

 彼女はそれで本当に良いと思っているのであろうか、どうにも心配になってくるが。

 その2人の所に毛玉がふわふわ飛んできて合流した、モー君・クリス・ピナであった。 

「うむ、なんとか買えたよ。見てくれこの造形美と機能性にあふれるフルプレートアーマー(全身鎧、学割で銀貨10枚人気商品)を」

 全身から喜びがあふれるくらい、とてもご機嫌な様子のモー君であった。

「「「ーーーーハァ? 」」」

 その言葉に一瞬、その場にいた私達女性陣の時が止まった…………いや、聞き違いだったのかな。 


「「「フルプレートアーマー? 」」」

  私達3人(クリス以外)の声が重なった、そうだよね皆も思ってるよね(聞き間違いではないみたい)

「モー君って手足、いや体ってどこ? そもそも目は見ればわかるけど、本体って毛玉の顔じゃなかったの!!」 


 うんうんと皆が(周囲にいた同級生達も)頷いた、そーだろう、そーだろう誰でも思うよね。

 結構長い付き合いだけど、やはり謎が多いわねモー君は。


「みんな何いってるんだ、このアーマーぴったりじゃないか、なぁクリス」

「あっ、……あぁそうだな」

 私は言葉を失い黙り込むが、心の中で(これはボケでツッコミ入れて良いのか……と考えていた)

 このモー君、実はかなりのアイテム・武器オタク(コレクター)なのよ。珍しいものやレアモノに目がないので有名。


「……っと、まぁいいや、それじゃあみんな校庭へ行きましょう」


 あっ、と先ほど出てきた、この世界(この国のみ使用可能)での通貨を簡単に説明しておきますね。

 大きく分けて金貨(約1万)銀貨(1000円)銅貨(100円)の3種類。大体そちらで言う500円硬貨くらいかな。でも一応これは基本サイズではってこと、それ以上のサイズもありますが、それはまたいずれ。



 数分後に校庭に着いた私達が周囲を見渡すと、そこは誰一人としてしゃべることなく静まり返っており、まさに緊張感に包まれた雰囲気であった。

 新1年の皆は何度も道具を確認したり、武器、防具をチェックしたりと、さらに極度の緊張で震えたりしてる生徒の姿も。

 数回目の1年生で、この実戦訓練を何度か経験したであろう生徒達の顔でさえ緊張しているのが見て取れた。

「う~~ん、しかしながら予想通り、あの連中はいないみたいね」

「それはそうでしょう、あの連中はかんちが……いえ、特別なんだし」

 まぁ居たら居たでめんどくさいことになるから居なくていいけど、やっぱり私はあの連中達のことは大嫌いなの。

 あっ、そうそう、気になってると思うけど、武器や防具、それにアイテムはいつも手に持ってるわけじゃないの。

 普段は特殊科の生徒全員が、腕に取り付けてある強化金属のバンド(腕時計ほど)についた小さな水晶の中に入ってるの(どういう仕組みなのかは理解不能)

  取り出したい物を心に思うだけで取り出し、瞬時に装備が可能なの、まぁ先に設定は必要だけどね(声を発しての音声認識方法が現在の主流)

 でもーーちゃんと設定しないと危険なの、肝心な時に壊れた武器を取り出したり、違う装備をだしたりしてね。

 こまめな設定と修理が基本よ、基本……う~ん、なんか簡単に言えばゲームみたいだけどね。


 教官達が整列させ、皆が落ち着き校庭が静かさを取り戻したと同時に、白く長いひげの落ち着いた雰囲気で全身より神秘的な淡い光を発している見た目50代の人物、この学園の最高権力者である学園長が少し高い壇上に現れた。

 彼が現れただけで、その場の、この広い校庭の空気が変わった。

 威圧感などではない、ただそこに存在しているだけで緊迫した空気がさらに加速した。


 すでに皆を整列させ終えた大声のウル教官がマイクを切る、教官……マイク必要ないんじゃ。

「新1年生のみなさん急遽予定を変更して申し訳なく思います、しかし今回の変更は初めから決まっていたことなのです、黙っていましたが冒険者なら急に入る仕事など当然あります」


 さらに張り詰めた空気の中、緊張を隠しきれない私達の前で学園長がさらに話し続ける。

「冒険者としていつでも冒険に出られる心構えをもっていてください、そして今回は新1年には初めての実戦となるわけですが、武器・防具・薬等なにか不備がある人はこちらで用意してありますのであとで取りに来るように」

 そこにウル教官がマイク越しに叫ぶ。

「お前らーー今回は初実戦だから許してやるが、次は無いと思っていろよ。それと代金は休日のボランティアで返してもらうからな、そもそも冒険者ならいつでも出れるように……」

(も~~だからマイクなんていらないってばーーっ耳が)


「まぁまぁウル教官今回だけですので、それでは教官から説明していただけますか」

(ふぅ、また小言がはじめるかと。でも流石学園長ねナイスタイミングよ)

 冷や汗をぬぐうような仕草で安心感を漂わせるメルである。


「よし、では今回はここにいるほとんどの者が初の実戦なので1PTに1人教官がつくことにする、PTはバランスを考えて自分たちで結成していいぞ、ただし1PT5人以上8人以下でだそれ以上だと今のお前達では連携が取れずお互いが逆に邪魔になるだけだ。例外として探索系は数に入れないでいいぞ。あと最後に戦士系ばかりで固めてるとあとで泣きをみるぞ~~では実戦の内容はPT結成の後で説明するから急ぎPTを組め」

 少し早口で一気にまくし立てたウル教官が説明を終えると、いつも穏やかな学園長が皆に声をかける。

(う~~んいつも穏やかね学園長は、あっ……でも確か学園長って、この国最強クラスの魔法使いだったはず)


 ※学園長 外見は50代後半に見えるが年齢不詳で、噂では5百歳とかそれ以上とか、この国が開国された当初から、生きているなんて言われている。

 この学園発祥当時からいる最年長者(これは本当で最低でも二百年以上生きているのは間違いない)

 元高レベル・高ランクの冒険者といわれている。

 種族は魔族(魔族といっても悪い意味の魔族ではなく、多数の攻撃魔法を生み出し使うことからそう呼ばれている)と神聖族(聖なる魔法を好んで生み出し使用する種族)とのハーフ、両族とも非常に魔法適正が高い。さらに魔族は身体能力も非常に高いといわれているが数が少ない。

 国王や王族にさえ口を出すことができるらしい実力者(真意は不明)


「では30分以内にPTを組んでください、そして代表者1名がメンバーの名前、クラスを教官まで知らせてくださいね、ほとんどの人は初実戦なのでみなさん気をつけて、そして緊張しすぎないようにして大怪我をしないように、各教官は生徒が危険と判断した時のみ手を出すことを許可します、危険と判断した時は全力で生徒を助けてください、お願いしますね」

 学園長は先ほどの教官とは対照的にゆっくりとした口調で言い放つ、その雰囲気に少し皆の緊張もほぐれたようだ。


 学園長の励ましの言葉を聞き、僅かに緊張が解けた雰囲気の1年生達。

皆一斉に知り合いや仲の良い友人をPTに加入させる為に動き出した。様々な装備の1年生達があわただしく動き回っていた。

 強い生徒のPT加入をめぐって校庭のいたる場所で小規模な争いが起きていたが、教官達の介入によりすぐさま鎮圧していく。

 

 その中でメルはもうすでPTメンバーはきまっているようだ。

 まぁ皆の予想通りというか、当然のようにピナ、ナナ、クリス、モー君のさきほどまでに紹介した5人で構成された友人チームである。

 しかし実はもう1人仲の良い親友を誘っていたのだが、もうすでに別のPT組んでしまっており断られていた。


 ここで少し私達の現在の職業と武器・防具を簡単に説明しておきますね。

 私ことメル、神官見習い。

 一応今の職業は仮って感じです、資質や能力は私達のような成長期には大きく上下するので、学生のうちは、今は適正がなくてもある程度の職につくことが出来ます。

 例えば魔力はほとんどない場合でも魔法使いになることも可能、装備も能力次第で魔法使いで大剣を装備したりすることも可能となります。

 防具=学園の特殊科基本の制服(完全ノーマル)と左手に装備されたライトバックラー(革製の小型盾)

 武器=ホーリースタッフ参号(私の母命名)※参号なのは入学後1月しか経過していないのに壱~弐はすでに砕け散り再起不可能な状態。

 う~~んそうね、多分おそら……いや間違いなく不良品ね、だって以前豪快……いやほんの少し遅刻した時に、ふと目に付いた門以外の壁から侵入を試み、その壁をただ破壊しようとしただけで殉職(砕け散った)してしまったのよ。

 だけど……アゴちゃんに見つかり何故か取り押さえられたの……おかしわよね、なにか私が悪いことしたとでも言うの。


 まぁその後、彼女は駆けつけた教官に、こっぴどく説教を受けていたのは言うまでもないが。

 さらにメルの持つホーリースタッフ参号、誰がどうみても杖などではなく、巨大な遠近法の狂ったサイズの金属のハンマーにしか見えない。しかしこれには理由がありメル本人は今でも本当に杖だと思っている、いや性格には杖だと教え込まれされた(強制的に刷り込まれた苦い記憶)悲しい過去があるのだが。それはいずれ話す機会があれば語ることになるだろう。


 ピナ、魔法使い(中級ランクの下位)+精霊使い(これは魔力の総量や質はあまり関係なく、個々の精霊と精神的に繋がり話すことができる資質が必要)

 武器=箒(あの魔女の乗る形)一応本物の杖らしいが何故箒の形なのかは不明。

 防具=私と同じくノーマル制服・魔法使いの帽子・革製の胸当て・マント。

 見た目が変な杖以外はよくいる魔法使いって感じね、まぁこれは別に変な意味ではなく、高価な製品を身につけ、あの連中……いえ、あたかも自分がすごいって勘違いした者とは違うって意味ね。


 クリス、薬剤師(薬を使った戦闘補助をメインとした職業)+拳闘士(肉弾戦を得意とする前衛攻撃職であり、剣士と同じくこの年頃の男子に人気の職業)

 彼自身巨人族ということもあり、魔力適正はほぼ絶望的です。

 男の巨人族で魔法を使う職業は長い歴史でも数人しか出現していない(女巨人族は20人に1人程度は低レベルの魔法適正がある) 

 武器=アイアンナックル改(金属製防具兼用武器)

 これはクリス設計でモー君が製作し、ナナがカスタムした完全オリジナル武器。

 彼の大きな手をすっぽりと覆う両手拳用武器、この武器は消耗が激しく修理5回ほどでリサイクル行きとなります。なので安く流通している鉱石で作られていますが、それでも金銭的にも負担は大きいです(学園内の戦闘訓練で使用しているのはデータ入力武器。仮想空間なので消耗しないがそれ以外の場所で使う場合は耐久がおちる)

 学園では一般よりさらに安い学割で購入することが可能です、完成品は学割価格で両手セットで銀貨5枚(約5000円程度)

 この彼オリジナル品では、自分自身の攻撃の威力で拳を傷めないように内側に衝撃吸収素材を内蔵し、さらに鉱石を彼独自の特殊配合で、耐久力を大幅にアップさせています。

 防具=普段の訓練時は制服の上から分厚い金属製のライトアーマー(上半身鎧)と、腰と肘・膝部分にも金属防具を着用してます。


 モー君、アイテム使い。

 かなり謎が多い職業です、現在わかっていることは様々なアイテムを使った補助(サポート)系だということ。

 彼自身の訓練での様子は、素早い動きで相手を翻弄し、身体から次々と飛び出す武器での攻撃がメインで普通の前衛職、中等部時代から今まで実際アイテムを使った補助の戦闘は見たことがありません。

 武器=槍や弓矢、剣など様々見たことがあります、実際はお気に入りの武器があるみたいです。

 本人曰く超レアな聖属性武器らしいが……誰も見たことがないので不明。補助職なのに1年でトップクラスに強いってどういうことよ。まぁ中等部時代のあの時の……ってこれは話が長くなるのでまた今度ね。


 ナナ、弓使い(弓を使った攻撃後衛職業)+精霊使い。

 彼女はエルフってことで弓矢、まぁ無難といえば無難ね。そしてピナと同じ精霊使いだけど、彼女とは桁違いの数の精霊と契約している(だけど制御にかなりの難あり)

 さらに言わないでもわかると思うけど、深い森の戦闘では1年最強の実力を持っています。

 武器=先に紹介したように弓ね。

 防具=制服、彼女専用装備のマント(特殊効果有りだけど詳細は不明)

 戦闘は後衛職なので、対人訓練の時はあまり真面目にやらない超がつく問題児。


  一応私達5人はかなりの戦闘力と噂されています、実際高等部になってまだ1月なので、数回しか対人訓練してないけど個人戦では敵なしね。

 多分他のみんなが弱すぎるのね、でなければ私みたいに。か弱い女性がね~、う~んなんかそろそろツッコミがほしいわね。


 そして30分後、皆のPTが決まってたのであった。

 人数限界の8人が10組、7人が2組、私達の5人1組である。


「よしそれぞれのPT及び教官は決まったな、では実習内容だか……」 

 教官達がそれぞれの担当するPTの前に移動していく。

「……あれっ、教官~私達には教官がいないんですけど」

 しかし私達の前には誰も教官がいません、もしかして虐めでしょうか。虐めかっこ悪いです。

 私は正義を貫く為、その巨悪に立ち向かうことに、皆の見ている前ではっきりとウル教官に発言しました。

「お前達には、私と保険医のアテネ先生が付くとさっき話しただろう。聞いていなかったのか」

(ん? そうだっけ、それならいいけど。なんで私達にはアテネ先生がつくの?)


「ウル教官なら1人でも見える範囲であれば、私達1年全員まとめて見れるじゃないですかなんでわざわざ保険医のアテネ先生まで私達につくんですか」 

「俺はお前達が他のPTに危害を加えないためのお目付け役だ、そしてアテネ先生は実践なのでもしもの時の回復にだ」

「……は~い…私達ってなんでそれほど信用されてないのかな」

 メルはふてくされた様子で足元の小石を蹴っていた。


「よし内容は学園裏の森で今大量発生している熊タイプの魔物退治だ、一応低LVだとはいえ力は強いので十分気をつけるように。それと退治した魔物は学食や街の様々な施設に配られることになっているので、日ごろの恩返しと思い気合入れていけ」

 国に多数ある学園や特殊科の資金のほとんどが税金でまかなわれている。なのでたまには街の人々に恩を返しておく必要がある。


「あとまずないであろうが、運悪く小型の闇喰いに遭遇した場合、絶対に戦おうとせず教官の指示で撤退するように……いいか絶対に戦おうとするな、今のお前達の力量ではまず歯が立たないからな。かっこ悪くてもいい逃げることだけ考えろ」


 ふぅーん、そんなに強いのかな、まぁ私は噂でしか聞いたことないから。でもまぁ中型以上の闇喰いなんて絶滅した大昔の敵でしょ、今の最新鋭の魔法科学や、磨き抜かれた技なら小型程度の相手なんか楽勝でしょ。

 多分、実際見たことのあるみんなが大げさにいってるだけよね。それに平和ボケした冒険者達の言葉なんかどこまでが本当なんだか。


 学園の校庭からいくつもの校舎を横切り、敷地内多数ある森の奥深くにひときわ頑丈に作られた重厚な金属の裏門に到着した。辺りはいくつかの外灯で照らされているが、人の手が入っていない奥側の森であるため草や木々で生い茂り日中でも薄暗く感じる。

 時折学園の敷地内に放し飼いされ、個々で繁殖した鳥や動物達の鳴き声が響いている。

 最奥の校舎より門までは最短距離でも軽く50キロ以上ある、生徒達はここまでは学園の専用馬車でやってきていた。

 学園専用馬車、一般に使用されている10~20人乗り馬車とは違い、最大50人乗車可能の街間移動でも使用されるもの。それを引くのもただの馬ではなく、召還された大型の魔獣(学園では草食の魔獣)

 馬車を降りた生徒達はあまりの迫力に圧倒されていた。

 彼女達が通学で毎日見ている表側とは門や壁の高さが格段に違った、高さ10M 以上はありその向こう側はまず見ることが出来ない。

 厚さも対物理魔法陣が描かれた鉄筋コンクリート製で1Mもある、その壁のすぐ向こうから結界が見えている。つまりこの壁の向こう側は結果外となっている。

 この学園設立以後、この壁側からの魔物の進入はない(ガードのみ許可された転送魔法で彼が見回っている)

 いまだかつて破られたことのない無敵の壁といわれている。


 大きな分厚い門を越え、中とはまったく違う空気をその肌で感じ取る生徒達。

 緊張の隠せない1年生達、なんの抵抗もなく結界外で出ることが出来た。

 皆の目の前に続く道は結界内の舗装された街道の森とは違い、朝だというのに中側よりさらに薄暗く深い森、 木々も軽く10Mの高さはある巨木ばかりである。多くの魔物や野生の獣である動物達の気配が周囲から漂っている。

 そう今にも生徒のすぐ横の茂みから魔物が飛び出し、極度の緊張で隙だらけの生徒に襲い掛かってくるようである。


 そんな中メル達はすでにおのおの武器防具を取り出し、完全に戦闘体制に入っていた。

 流石、先ほどから自信満々のメル達であった、数回この実戦訓練を経験している他の生徒達以上に、リラックスしながらも周囲の気配を探っていた。

 

 周囲を警戒しながら、簡易ではあるが舗装された道をゆっくりとした足どりで進む生徒達。

 5キロほど進んだ所で少し脇道に入ると、獣達の気配のない全員が集まれるほどの広場が見えてきた。教官の指示により整列すると彼らは安堵の息を吐くことができた。

 しかし極度に緊張していた彼らにとっては、普段ではどうでもない5キロほどの距離と時間でさえ数百キロ・何十時間にも感じていたであろう。


「よし全員そろったところで、おのおの各組戦闘訓練開始しろ、範囲はここより学園の敷地側を除いた半径10キロまでとする、では解散」 

 しかしそのわずかな安堵感もむなしく、すぐに現実に引き戻され実戦が開始されたのである。


「ね~ね~ピナ~、実際闇喰いってどれくらい強いのかな~~真剣な話し、私達なら倒せるんじゃないかな。ね~みんなもそう思わない」

 軽く30キロはあるであろう金属製のハンマーを、片手で振り回しながらメルが聞く。 

「あんた……教官の話ちゃんと聞いてたの? 私達の力量じゃ無理だって、それに私達には・あ・の・ウル教官がつくのよ」


 あきれた顔をされてしまった、あっ……そうだった教官がいたんだ。

 まぁ、もし戦うことになってもウル教官なら余裕で倒せるだろうし。なんたってこの国最強とまで言われてる鬼教官でもあることだし、まったく私達の出番なんてないと思う。

 そうね最強の教官がついている私達の組が、逃げる状況なんてありえないわね。

 漁夫の利……虎の意をかりる狐、などのことわざが頭に思い浮かびそうな、彼女発言(脳内発言)であるが。


「そうだな、もしかしたら私達5人なら倒せるかもしれないが、指示無視でそのあとウル教官の説教12時間+素振り5千回+校庭100周くらいは覚悟しないとな」

「うむ、罰を受けるならメル1人だけにしてくれ。私達は関係ないし、当然逃げるぞ」

「う~説教……嫌」

 クリスとモー君の発言に、いつの間にかちゃっかりクリスの背中のバッグに入り込んで楽をしていたナナが唸る。

 

「だ・か・ら・闇喰いが出たら、教官の指示で撤退するのよ♪」


「ーーひっ、ひああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 私達は本当に心臓が飛び出るほど驚いた(モー君はウニのように毛が立っている)

「アテネ先生……びっ、びっくりした~いつの間に後ろに……」

「ふふっ……まぁあなた達は確かにそこそこ強いけど、注意力が散漫すぎるわね♪」

「ん? あれっ、そういえばアテネ先生って学園の保険医で介護師ですよね、戦闘になったら危ないんじゃ?」


 ※アテネ 保険医(学園の特殊科専門の保険医、特殊科に配属されているので回復魔法と薬学に精通している)

 武器・防具ともになし(見た目的には)

 ピンク色のニットのセーターと、タイトな黒のミニスカート姿の上から白衣を着用している。

 完全な場違いな格好、いいのかなこんな素人丸出しの服装で。

 外見は切れ長の眼、きめの細かい真っ白な美肌に、真っ赤なルージュがポイント。

 そして黒いサラサラロングヘアーの超がつくほどの美人、スタイルも……くっ。まさに全女生徒の敵、いえ嫉妬するほど完璧で清楚な美女。

(神様は不公平、二物を与えるなんて……ふん、でも私達には若さがある、そう若さが)


 その瞬間、何故か私達の周囲の空気が凍りついた気がしました。

  ーーびくっ、と一瞬無防備な背筋に、真冬の氷水をかけられたようでした。

(……なっ、なによ今の殺気は)

 私は気配を察知するように見回したのだが、隣にアテネ先生が微笑んでるだけ……なんだったの?

(う~~ん、何かこの気配、昔感じたような、懐かしいというか……いや恐怖は……駄目だ何か霧でかすんだようにまったく思い出せない) 


「何だお前達おぼ……いやそうだったな、このアテネは以前戦闘師範だったんだぞ、私達の教え子の中でも優秀な師範だったぞランクも……」

「う、ウ ル 教かぁぁぁぁぁーーーーん」

 ーーアテネ先生の声がウル教官の言葉を遮り、よく聞き取れなかった。

「あぁ……すまん………しかしあの鬼軍曹と呼ばれ……」

「 おっ、いえ、いい加減にしてください教官っっーーーーーーーーーーーーーーーー」

 アテネ先生の声が森に響き渡ったが、すぐに木々のざわめきや獣達の鳴き声により、かき消されていきました。

「鬼軍曹? ……それにおって?」

「 ふふふ……メル、いいこと……なんでもないのよ♪」

 私はアテネ先生の背後に恐ろしい気配を感じました、これ以上聞くと命の危険があると本能が直感的に察知しました。


 その後は多少は真面目な表情で索敵しながら、目的の魔物を求め深い森の中へと移動するメルPT。

 先ほどより10分後ほど経過した頃。

 私達は目標である、熊タイプ魔物の大群と対峙していいました。

 外見は2M足らずですがかなりの巨体、熊に良く似ているがものすごく大きな目で、手の先より50センチは飛び出した5本の爪がかなりの脅威。

「えっと……この数は……魔物ってこんなに大量にいるのね」

 目前に迫る魔物の大群、私は一瞬思考が停止した気がしていた。

 それに教官達は私達の後方10Mほどの位置で傍観に徹している、でもしかし、教官にいたってはいつでも武器を取り出し攻撃態勢に移行できるような姿勢。


「あんた本当に教官の話聞いてないのねっーー大量発生っていってたでしょ」

 ピナは囲まれないように多数の魔物の爪攻撃を、横やバック移動でさけながら、箒を前に突き出し発動の速い名称のみで氷の魔法を放つ。

 ナナはその小柄な身体を最大限に生かし、巨体な魔物の足元を回転回避しつつ、的確に弓矢で仕留めていく。しかし時折クリスの背後に隠れていたのを私は見逃さなかった。

 まぁしかしそのクリスも、まるで彼女がそうするのがわかっていたかのような動きで、自身に向かってきた魔物を左右の拳で仕留めていく。


「まったく~だから実習で、数を減らすんじゃないの」

「まぁまぁ、メルが人の話を聞かないのは、今に始まったことじゃないですから」

 体? から無数の槍が飛び出し、そのまま体当たり攻撃で次々と仕留めていくモー君。

 かなり目の良い私から見ても、彼はやっぱりずば抜けた速度です。しかしその様は高速移動するウニそのものだよ(いや普通のウニはそんな速度で動かないけど)

  

 かなり速いペースで魔物の数を減らしていく彼女達。

「なんだよーーみんなして、ちょっと聞いただけなのにそこまで言わなくても……」

 少しへこんだ様子のメル、両手で武器を握り締めると、目の前にいた3体の魔物に向かって武器を振り下ろした。

「「「「……あっ、……」」」」

「えっ、……?」


 彼女は、いやその場にいた教官2人を除いた生徒達は、周囲の木々や草花を消し炭にするほどの大きな爆発とともに吹き飛ばされていた。


 メル達は今まさに迫りくる地面の光景を最後に、意識を失ったのである。

「……はぁ~~、まったくこいつらは、やはりこうなったか。すまないが回復を頼む」

「はい、お、いえウル教官」

 

 彼女達の身に何が起きたのであろうか、教官達は予想していたようであるが。

 実は彼女達、能力、実力的には問題ないのであるが、個々の能力が平均より高すぎて、それを制御しきれず自爆することが多々あるのであった。

 それに能力が他の生徒より高いせいか個人技に頼りすぎて、うまく連携が取れずパーティーとしては、学年で最低とまで言われるほど欠陥だらけであるのだった。


 先ほどの出来事は、メルが仕留めようとしていたのだが、その周囲でも同じく他のメンバーが同じ相手を仕留めようと魔法や武器で攻撃。

 普通のPTなら連携を意識し戦うので、このような初歩的なミスは起こさない。

 止める暇もなくピナの魔法が彼女に命中、そしてそれによりすっぽ抜けたハンマーがモー君を直撃すると、彼の身体から槍が飛び出し、クリスの背中に突き刺さった。

 その拍子に彼のアイアンナックルがナナの下っ腹に……そして彼女の発動前の魔法力が暴発したのであった。

 ……とまぁ、まるでコントのようなその光景ではあったが、それがさきほどの出来事の一部始終である。

 さらに彼女達には個々致命的な欠点がある、今回はナナで例をあげるとしよう。

 彼女能力のみで見れば一級品、新1年生ながら中級ランクの魔法を簡単に使いこなす実力。しかし気が動転した場合暴発したり、基本の魔法がまともに使えないという欠点がある。


 保険医のアテネの回復により復帰した彼女達、少しぼやける頭を振る。

「回復したわね、それじゃあいくわよ」 

 次の瞬間、数回はじけるような乾いた音が森に響き渡った。

 そして数秒後、頬の痛みによりわれに返った彼女達。

「ーーっ、わ、私達はなんて……」

 彼女達は保険医であるアテネに、思い切り強い平手打ちを受けていたのであった。

 そして自分達の愚かな行いを、心より恥て後悔していた。

 初の実戦だというのに、最初からうまく対処できたことにより戦闘をなめてかかっていたのであった。

 これが教官がいない本当の実戦であったなら、彼女達は間違いなく、残った魔物により全員殺されていたであろう。

 反省した顔つきなったメル達、その様子を少し離れた場所で魔物を、彼女達に近寄らせないように戦っていたウルが交代するよう声をかけた。 


 その後、完全に心を入れ替えたメル達は、魔物の群れを慎重にそして確実に1体ずつ仕留めていくのであった。

 先ほどとは違い、ぎこちない動きながら連携して戦っている。

 そして数十分後、彼女は最後の1匹、この群れの魔物のボスと向かい合っていた。

 今までの熊型魔物とは少々サイズが違う、巨人族のクリスでさえまるで子供のように感じる250センチはある巨大な身体であった。

 しかし今回はなんとかうまく連携が取れている、4人の連続攻撃を受けた巨体の魔物がふらついた。


「これで~~最後だーーーー!!」

 大地に打ち付けられたハンマー、その威力に大地が割れ、大小の岩が次々と魔物に襲い掛かった。大量の砂煙が辺り一面に舞い散り、メルの一撃が炸裂(クリーンヒット)したのである。

 断末魔の叫びをあげる間もなく、その魔物は絶命していた。

 彼女は地面にめり込んだ武器を片手で拾い上げると、軽々と肩に背負う。

 戦闘方法はどうみても神官のそれではない気がするが、とりあえずすべて終わったようである。

 数にして27体(ウルが倒したものはカウントなし)の魔物を倒しきったメル達、問題はあるもののかなりの能力であることは間違いない。

 倒した魔物をモー君がその体内に取り込んでいく。

 実際魔物が生きている場合は収納不可能であるが、倒すとアイテム扱いになるので可能となる。

 

「ふ~~いい汗かいた、準備運動には丁度よかったね、ねぇみんな」

「いや、私達はそうだろうけど、クラスメイト達には重労働なんじゃ」

 先ほどの失態をまるで何事もなかったかのような態度で、自信満々に言い放つ彼女達であった。

 しかしこのような軽口を言う彼女達の顔つきはいたって真剣であった、けっして先ほどのことは忘れてはいないようだ。

 彼女なりに重い空気をどうにかしようとしていたのであろう。


「ん……他のPTはかなりギリギリだと……こんなに大量だと」

「そうだね、でも教官がついてるから大事にはいたらないと……」

「う~んそうかな、そんなにきついかなこの敵……こんなに弱いのに」

 やはり失敗をなかったこととしているようだ。


「この馬鹿者どもがぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー」

「「「「「ごっ、ごめんなさぁぁーーーーーい」」」」」





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