第2話 学園生活
活気のある朝の商店街、通勤で遅刻しそうなのか少し急ぎ足でいく中年男性、開店準備の最中なのであろう、エプロン姿の翼の生えた若い女性がショーウインドーのガラスを磨いている。
中には店の外に設置された椅子に腰掛け、モーニングセットを食しながら、新聞を読む優雅な振る舞いの初老の紳士の姿も見受けられる。
春の温かい日差しの中、長い髪をなびかせ少女は走る。
流れる汗が太陽の光を浴び、キラキラと輝いていた。
「おやおや、今日もぎりぎりなのね、まったく~たまには早起きできないの、どうせ朝食まだなんでしょ、ほらこれあげるから食べながら急ぎなさいな」
開店準備中の、若い店員達の声援と施しを受ける人気者の彼女。
遠近法かパースの狂ったようなパンを咥え、右手にはスープの入った20センチほどの巨大マグカップを持ち、なんとも器用に朝食を取りながら街を全速力で駆け抜けていく。
運動をやっている部活の生徒が見たら、卒倒しそうなほど丁寧に均された校庭で、砂煙を舞い上がらせながらも校舎に駆け込み、下駄箱に靴を仕舞い込んだ彼女、その時チャイムが鳴り響いた。
廊下で遅刻寸前の同志(戦友ともいう)達に別れを告げる、彼女のはるか遠くには、教室の扉を開けようとしていた教官の姿が見える、2人の目が会った。
「いけるわ、今日も(※自己申告)私は間に合った、これも信仰心の表れなのね」
後ろの扉から低い姿勢で自分の席に滑り込み、今日はなんとか遅刻を逃れることが出来たメル。
教官が大きなため息をつく。
「メ……まぁいい良く聞け、ここにいるお前達は中等部から真面目に訓練してきたものばかりだと信じている、そして高等部になりそろそろ1月が過ぎようとしている……」
開口一番いつものお説教、いや教官である彼は本当に生徒達の為を思っていた。 この中途半歩に慣れてきだした頃が、1番危ないと誰よりもわかっているからである。
滞りなくHRも終わり、1現目の調合が始まった。
本日は基礎の初級調合の復習や、素材の見分け方法などの学科であった。
皆真剣に黒板の内容をキーボードを打ち込み、自分のPCに保存していくいつもの授業の風景。
暖かく、そして穏やかな風が教室内を吹き抜けていく。
その中でもやはり絵になるであろう美少女のメル。男子生徒たちの視線をその身に受けながら授業を受けていた。
「……zzz」
……かに思えたが、当の本人は教科書をモニターの前に立て、思いっきり爆睡していた。
「こっ、この。お前はなぁーーいつもいつも寝てるんじゃないメルーーーーーー少しは真面目に授業を受けんかーーーーーー」
この日、外は雲ひとつない晴天だというのに雷が数回落ちた。局地的に大荒れの天候という前日の天気予報が当たったようだ。
そのように穏やかな時間は進んでゆく、そして本日最後の毎日必ず行なわれる基礎訓練(体力UPという名の訓練、主に持久走5km×2本・短距離走100m×10本・腕立て伏せ50回・腹筋100回)も終了し帰宅となった。
特殊科の生徒は部活は必須ではない、放課後は自主訓練(任意・学園で訓練するのも自由・外でバイト? も可能)となっている。
ただし本人が希望すれば可能(部活の助っ人はいつでも可能)である、実際は6割以上が帰宅部に所属? している。
「あ~~毎日毎日基礎訓練ばっかりで退屈よね~~」
「そうね、でもあんたにはそっちのほうがまだましでしょ」
帰宅中の彼女達、これもいつもの日常の風景となりつつある。
陽も傾き、人々の行き来でにぎわう街には、多くの学生達の姿が見受けられた。
夕食前であるにもかかわらず、悪魔の誘惑に負けた彼女達、途中で買ったであろうたい焼きを頬張りながら、彼女達は寮へ足を進める。
普通科の生徒や帰宅する人々を乗せた馬車が、徒歩の彼女達を次々と追い越していく。
学園からおよそ15キロ離れた場所、にぎわう街から少し離れた一角に彼女達の住む学生寮があった。
この地区一帯は、おもに学園関係者が住む地区である。
2Mほどの高さの白い壁、しかしその壁は薄汚れて灰色に見える。
正面に両開きのガラスばりの入り口が見えてきた、隣にも同じような建物が並んでいる。
築20年以上経過している5階建ての寮、外観は年代を感じるレトロな風情あるレンガづくりである。
しかしレトロなのは外観だけで、最新の耐震工事済、対物理・対魔法防御の障壁(生徒どうしの争いや暴走から守る為)を備えている。
一昔前の公団ほどに多く見られたその小さな建物、小さなマンションと考えてくれればよい。
そこには寮生の全員が1度で食事できる大食堂、そして休憩場や共同風呂が完備されていた。
1~2階部分はさきほどの設備以外に男子生徒の部屋となっており、3~5階は女子の部屋がある。
さらに言えば2階から上への行き来は一応男子禁制、女子専用(女の園)となっている。
特殊科生徒は先に語ったように学費と寮費は免除だが、自立のため、それ以外の毎日の食事や着替えの服などすべて自費でまかなうことになっている。
当然親からのおこずかいや援助も不可となっている。つまり自分でバイトなど金策しないと食事さえ取れないのであった。
夕食を終え、お風呂に入り身を清めた私。
4階にある私の個室、小さいけど一応バストイレ付き、10畳ほどのワンルームとなっています。
塵ひとつない清潔なフローリングの床、丁寧に磨かれたガラス窓、薄いピンクのカーテン、真新しいシーツのかかったベッド。
……とまぁ、一言で言えばパステルカラーで統一された、洋風の部屋。
冒険者を目指しているといっても、そちらの極々一般的な、いまどきの女子生徒(女子高生)と同じです。
自室に戻ると聖書(ベッドに横になり、ラノベや漫画)に目を通し日課のお祈り(最新の音楽を聴きながら流行歌を口ずさむ)を捧げます。
23時を少し過ぎたころ、睡魔のささやきが聞こえてきます、しかし私は寝る前にTVで明日の気になる運勢を確認することにします。
「ふ~~ん、なになに、明日は最高の日になる……そして数日中に新たな運命の出会いがある予感があるのかもしれないーーかってどっちなのよ。まぁいいわ、さて、おやすみなさーーい……zzzz……」
わずか数秒で眠りに落ちたメル、ものすごい好タイムであり、あの未来の猫型ロボットで有名な、のび〇君レベルであった。
ーーーーリィーーーーーーィィィィーーーーーーーーーーーーー
物音ひとつしない静寂な空間、突如けたたましいほどの大音量のベルが鳴り響いた。
(……うん、何よーーうるさいわね、寝不足は美容の大敵なのよーーzzzz)
ィィィィーーーーーーーリリリリィィィィーーーーーーーーーーー(ハッ)
彼女は急ぎ飛び起きる。
一目散に手を伸ばし、目覚ましのベルを止めた。
そして、おそるおそる時間を確認ーーーーッ!
まさか……、またなのか、とメルは嫌な汗を流した。
「はぁーー、なんだーーまだ7時前じゃない」
かなり焦った様子だった彼女、しかし目覚まし時計を見て全身の力が抜けた。
流石に毎日……いや週に複数回遅刻するのはまずいと思い、最新の大音量目覚ましを用意していたのであった。
彼女の部屋の片隅には、毎朝の激戦に無残に敗北した、しかし勇敢に彼女に立ち向かった目覚まし時計の残骸が山となっていたのは秘密である。
緊張が解けリラックスした表情、寝癖のついた髪を手櫛で整えながらゆっくりと起き上がる。
そして彼女は目を覚ますためにシャワーを浴びることに。
「ふんふんふ~~ん♪、ハァ、どうして胸に栄養がいかないのかしら……おかしいわね寮生活だから、食べているものは変わらないはずなのに……まぁいいわ、来年には私も…n…ふふふ」
……夢見る年頃なのである。
メルは、その見事なまでの艶と張りと腰のある長い髪を乾かしていく。
そして内心、朝食は~~どうするかなどと考えていた。
「そうね~、時間もあることだし、自分で準備することにしましょうーーふふっ、今時の何も出来ない若者と違い、私は出来る美少女なのよ」
私は鼻歌混じりで朝食の用意することにしました。ちなみに私は料理が得意(自己申告)です、これならいつでもお嫁にいけます(まぁ相手はいまだにいませんけど)
パンを切り、ハム・チーズ・野菜をはさんで、さらに仕上げのマヨネーズをーーっと……さらに隠し味のアボガドを~入れるのがポイントなのです。
「ハムマヨサンド(チーズアボガド入り)完成ーーーーーーーーーー」
出来上がったばかりのサンドイッチを、様々なゲームで見受けられる勝ち取った獲物のように頭上に掲げるメルであった。
……確かに完成し、とても美味しそうではあるが。
ーーあきらかにおかしい、そう見た目がーーいや形ではなくサイズが。
普通は薄く切った食パンに、様々な具を挟むのだが……彼女のものは。
なんと一斤を半分に切り、さらに同じくらいの厚さの具材を挟み込まれていて、とてもサンドイッチには見えないのであるーーしかもそれが5個(5斤)も。
「ふんふん~♪ さーて紅茶でも入れて、優雅な朝食にするかな~♪」
作るときにでたあまり具材を口に放り込みながらTVを付けるメル。
……と、時が止まった、完全にフリーズしたPCのように動かなくなってしまった。
「えぇ~~~~~~~~8時~~~23分ーーーーーーーって嘘ーーーーーーーー」
どうやら新品の目覚まし時計が壊れていたようだ、メルは椅子から立ち上がり、制服を取りに振り返った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーガッ!!っと嫌な音が、メルの部屋に響いた。
「~~~~~~~~%$&@~~~~~~~ゃゃぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー」
声にならない叫び声をあげ、肌けたパジャマのあわれもない姿で部屋を転げまわっている。
本人の名誉のため、このシーンはカットすることに。
「ーーーーあ、足のーーーー小指にーーーーーーーータンスの角がーーーーー」
焦っていたせいで、タンスの角に足の小指が直撃したのであった。
みなさんも、いや誰しも1度くらいは経験したことがあるだろう。
そう、この痛み半端ではない……どのような屈強な男でも、そう、おそらくあのDBの孫〇空でさえも、のたうち回るほどの痛みなのだ。
しかも、不意に来るから一層タチが悪い(なので魔神の一撃といわれています)みなさんもご注意を。
私は、なんとかこの痛みに耐え、ふらつきながらも立ち上がりました……「神よ、これも試練なのですね」
軽く十字を切り祈りをささげる。
試練? を乗り越え、寝巻きを脱ぎ捨て、アイロンのかかった真新しいYシャツを取り出し、急ぎ制服に着替えていく彼女。
すぐに駆け出すかと思えば、脱ぎ捨てられた寝巻きをたたみ始める。
豪快な性格かと思えば、意外と几帳面な性格のようだ。
そして先ほどのサンドイッチを2個手に持ち、残りを袋に詰めて背負いカバンに強引に直し込む。
「--よし、これで完璧、さぁいくわよ」
メルは突如、4Fにある自室のガラス扉を開けるとベランダへ。
急がなくてはならないのに部屋の空気の入れ替えであろうか?
瞬間、彼女の姿が消えた。
なんの躊躇いもなく、手すりに足を乗せると空中高く飛び出した。
まさしく華麗で優雅としかいいようのない完璧なジャンプであった。
完全な自殺……美しいヒロインの突然の死。
まさかこんなに早く、正ヒロインが亡くなるとはーーここでこの物語りは終わりをつげる。
……などと、終了させるわけには行かず、急遽ヒロイン候補を選ばなくてはならない。
……第1部完。
というわけにはいかないのが現実。
……が、しかし、飛び降り自殺したはずのメルは完璧に受身をとり着地すると、すぐに体勢を立て直し駆け出していた。
時刻は8時29分ーーーー完全に遅刻寸前であった。
4Fから飛び降りた彼女ーー本当にヒロインで神官(見習い)なのだろうか……理解に苦しむが本当らしい。
朝のハカータの街、昨日と同じように多くの人々が行き来している。
何度も言うが学園まで約15Kmである、しかし彼女は諦めない。
確実に無理だとわかっていてもーーメロ〇のように明日を、友? を信じて走り続けるのであった。
砂煙を巻き上げながら進む、この時すでに1つ目のサンドイッチはその手から消えていた。
「どうしよう~~このままじゃあ人生初の(完全に常習犯とも言う)遅刻だ~~何よ、何が今日は最高の日なのよーーーー」
彼女は心の中で叫んでいた、毎回毎回見当はずれの運勢占いなんか、あの腐敗した〇△□と同じよ、☆△〇すればよいのよと。
※うら若き神官(見)少女の言う言葉ではないので名前と禁止ワードは伏字。
まぁ運勢など、別段気にしなければ良い話なのだが、やはりそこは異性などが気になる夢見る年頃の少女であった。
実際メルは、外見のある1部を除いて完璧な美少女なのである、幼い頃よりもらったラブレターは数知れず。
高等部になってからの、この1ヶ月にしても普通科の男子生徒から数多くのラブレターをもらっている。
……が、未だに特定の男子と付き合ったことはない。
見た目は清楚で可憐であってもかN…………
メルは高い身体能力を生かし、壁を飛び越え最短ルートで商店街に到達していた。
商店が立ち並ぶ一画を抜け、大きな十字路に差し掛かかろうとしていた。
その時、彼女の脳内に電撃が走った。
メルは頭は神の頭脳(本人談)といわれたほどの高速処理が可能なのであった(注意、これも本人談)
過去の様々な出来事・文献・古文書などの知識から、今の状況を導き出していた。
(こっ、この状況は、まっ、まさかあの伝統的儀式……いやお約束とまで言われているアレよね。そう、昨夜神、いやTVのお告げで運命の出会いがって……)
時間にしてコンマ1秒も経過していない。
しかし彼女はすでに次の行動に移っていた、背中のバッグより新たなパン(1斤)を取り出していたのだ。
素早く、その小さな口でパンを咥える。
「いやぁ~~~遅刻、遅刻する~~」
十字路に差し掛かった瞬間、メルはかわいらしい声で、わずかに重心を後ろにかけながらその瞬間を待ちわびていた。
彼女が待ちわびていたのは、あの伝s、いや学園モノではお約束となっている。
1、ヒロインが遅刻寸前で学校へ向かう。
2、パンを咥え曲がり角でぶつかる事故を起こす。
3、その相手は美男子(又は美少年)
4、教室で再会(転校生)
……とまぁ、3の後下着を見られ大喧嘩(平手打ち)と言った別ルートもある。
……が、しかし、その瞬間が来ることはなかったのである。
「はぁ~~、今日も駄目だったみたいね、結局そんなに美味い話はないってことね」
実は今回こそ、と内心かなり期待していたのだが、すぐに雑念を捨て駆け出していた。
本日1時間目であった基礎訓練を終えたメル達。
スパッツタイプの体操服姿の彼女達、健康的に鍛えられた若者の肢体は美しくまばゆいものである。
訓練専用であるドーム型の体育館、それはF岡Yドームほどもある巨大な建物であった。
様々な仕掛けのある内部のグラウンドが見える。
女生徒達が白い壁が続く長い廊下を進むと、そこには個室のシャワー室付きロッカールームが完備されていた。
「はぁ~~~今日の朝は本当に危なかった~~、もう少しで遅刻するところだったわ」
メルはロッカーから柔軟剤入りの洗剤で洗濯された、真っ白でふわふわなタオルを取り出す。
そしてシャワールームへ向かいながら、同じく下着姿のピナへ話しかけた。
「あんたね~~、どこがもう少しで遅刻なのよ。完全に遅刻で1時間目開始15分してからやってきたくせに」
「--っ、なっ、何言ってるのよ。外の人? が勘違いしたらどうするのよ。まるで私がいつも遅刻してると思われたらどうするの」
彼女の言葉にあきれたような顔のピナであった。
特にものめずらしいことも何もなく、変化のない日々が過ぎてゆくのであった。
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