救助ロボ始動。
全ての授業を終え真やモモが先に向かった部室の扉を開ける。
「ちーす」
適当に挨拶して中に入ろうとすると部長が立ち塞がる。
「ちーす。じゃないわよ。昨日部室に着なさいって言ったでしょ!」
「はい。すみません。ところで、知恵は?」
部室を見渡すが知恵の姿は見えない。と思ったら、後ろの扉から知恵がちょうど入ってきた。
「あ」
知恵は俺と目が合った後。部長がお怒りモードなのを見て声を漏らす。
「ちょっとトイレ行ってきます」
そう言って知恵は扉を閉めた。
「おい。逃げるな」
俺が知恵を追いかけようと、もいと部長から逃げようとしたが無理だった。
「あんたが逃げるんじゃないわよ」
肩をつかまれ部長の方に向き直る。
「昨日は、この子の実験だったのよ? わかってる?」
真がいじっている蜘蛛の形をしたロボットを指差す。
「いや、俺が居なくても実験できるじゃないですか」
「あんたがプログラム組んで実験開始予定だったでしょうが。それに先生はあんたが居ないと実験許可おろさないし。もう暴走しないっつーのに」
説教から愚痴へと変わっていく部長。
「あれは酷かったっすよねー」
真がロボットの螺子を締めながら言う。
「凄かったね」
と、モモは真に工具を渡す役なのかドライバーを眺めながら言う。
「何か言った?」
部長が二人に向かってドスの聞いた声で聞く。
「なんでもないっす「です」
と、二人は背筋を伸ばして返事をする。
「プログラムは組んできましたし。それで簡便してもらえないですか?」
俺が聞くと部長は頭をガシガシ掻きながら言う。
「まぁ、いいわ」
そう言ってこちらに手を指し出した。
「俺は持ってないです」
「はい? 組んだんでしょ?」
「知恵のパソコンの中にデータ入ってます」
「あ、そう。戻って来たら直ぐにでも始めるわよ」
腕を組んで近くにあった椅子に座る部長。
「変形後以外のデータは取れてますし安全だから、そこは省いて変形後だけ実験しますよ」
真が卓上のパソコンを眺めながら言う。
「じゃあ、許可取ってきますね」
モモは工具をしまってから部室を出て行った。
入れ替わりに知恵が部室に入ってきて何もなかったかのように蜘蛛の頭にコードを刺しながら言う。
「プログラム移しますね」
部長がうなづくのを確認してからパソコンのキーボードを叩く知恵。
「そういえば、モモさんはどこに行ったんですか?」
「許可取りに行ったわ」
部長が知恵に答える。
「許可ないと動かない救助ロボってどうなんだろうな」
真が言う。
「実験だしな。問題起きたら誰かみたいに逃げれば良いだろ」
知恵を見ながら言うと、目を逸らされた。
「失礼ね。問題なんて起きないわよ」
「前回のアレは問題じゃないんですか?」
知恵が部長に向かって言う。
「違うわよ。アレは・・・・・・アレはね・・・・・・」
言い淀む部長に代わり真が言う。
「そうだぞ。知恵。あれは違う。アレは失敗って言うんだ」
「そうだな。大失敗だった。実験じゃなくて事件だった」
俺が真に便乗して言う。
「失敗は成功の元よ! とっとと準備しなさい!」
部長は立ち上がり声高らかに命令してきた。
「失敗は認めるんですね」
知恵が呆れたように言ってエンターキーを叩いた。
俺と真はプログラムの変更に伴うロボット本体の微調整を行い始める。
しばらくするとモモが書類一枚を持って部室に戻ってきた。
部長はその書類に目を通しこちらを見る。
「調整は完了です」
俺と真が言うと部長は頷いて言う。
「実験開始よ!」
蜘蛛のお尻にあるスイッチを押す。
八本足をガチガチと鳴らしながら蜘蛛が立ち上がる。
「・・・・・・暴れませんね」
と、知恵。
「暴れないな」
真が言う。
「暴れ始めないな」
俺も言う。
「暴れないね」
モモも言う。
「暴れるのが前提みたいに言わないでよね!」
部長が言う。
「よし、とりあえず、今回の犠牲者決めようぜ」
真が気を取り直したように言う。
「私は嫌ですよ」
知恵がくい気味に言う。
「うちは無理」
モモも否定する。
「俺っち監視役だし」
真が言った。
「私は監督役だから部室出れないわよ?」
部長が言うと全員が俺を見る。
「俺ですか・・・・・・久保君は来てないもんな」
「久保先輩は前回酷い目にあってますからね」
知恵が腕をさすりながら言う。
「被害者だもんな」
真まで腕をさすっている。
「怖かっただろうね」
モモは自分の肩を抱いて言う。
「俺も怖いんだけど」
腕をさすろうとしたとき部長に背中を叩かれる。
「男の子でしょ。文句言ってないで早く行く」
「はい」
俺は部室の扉を開け廊下に出ようとする所で後ろを振り向いた。
「がんばってね」
モモが親指を立てて俺を見送る。
「お気をつけて」
そう言って知恵は軽くお辞儀をした。
「お前の事は忘れない」
真は敬礼した。
「さっさと行きなさい」
部長の激励を受け廊下に出て階段に向かう。
階段を上って四階。積み上げられ並べられた机をくぐり抜け、屋上に出れる扉前の掃除用具に入る。
携帯でビデオ通話を掛ける。
「どうですか?」
知恵が画面端で言う。
画面中央には蜘蛛ロボットの視界が表示されている。
「準備できたぞ」
俺が言うと、知恵が頷く。
「始めてちょうだい」
部長の声がスピーカーから聞こえてくる。
「了解。ヘルプ信号出します」
俺は携帯の画面に表示されているヘルプと書かれた部分をタッチした。
「蜘蛛ロボの目が青から赤に変化したのを確認。廊下に向かって走り始めたぞ」
真の声がスピーカーから聞こえる。
画面には蜘蛛がどこを見ているかがわかる為、どの位置にいるか把握できる。
廊下を勢い良く走ると階段を普通に上り始める。
目の前に机と言う障害物が現れると壁をのぼり天井を進み。俺が入っている掃除用具の前まで来た。
掃除用具の隙間からロボを見るとこちらにお尻を向け吸盤つきワイヤーを出して掃除用具の戸を静かに開けた。
こちらに向き直り俺の状態を確認すると目が赤から青へと変わりその場で停止した。
「実験は成功です」
俺はほっと息を吐いた後、携帯に向かって報告した。
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