イカサマたちの昼休み


 

 朝はいつも通り遅刻ギリギリに出席をし適当に授業を済ませ午前の授業が終わった。

 昼休みになり人が疎らに教室から出て行くと俺の周りにいつもの面子が集まり始める。

「俺は購買で買うけど真は?」

 俺が聞くと真は、俺っちも購買だ。と、俺の前椅子に座った。

「くーぼーくーん」

 俺が久保君を呼ぶと真も続いて言う。

「購買だろう? ちゃっちゃとゲームするぞ」

「今行くよ」

 小走りでこちらに向かってくる久保君は、なんか小動物っぽい。

「さて、今日は何で決める?」

と、真。

「イカサマはなしだよ?」

「真はすぐやるからな」

 俺が久保君に便乗して言う。

「お前もな」

と、真が俺を肘でつついてくる。

「今日はトランプで決めよう」

 久保君が提案すると近くに居たトランプを始めようとする奴らから借りてくる。

 直ぐ終わるから貸して? と、久保君に頼まれたら断れるやつはこのクラスにはいないだろう。

 斉藤は今日は休みなので借りることが出来ない。

「トランプで何やるんだ?」

 俺が聞くと真が挙手をした。

「ババ抜きだ!」

「時間掛かるじゃねぇか」

「適当に広げるから、一枚引いて数字が大きかった人が勝ちって事にしよう」

 そう言うと久保君は机にバラバラとトランプを並べた。

「何かルールは?」

 俺が一応聞くと久保君が答える。

「一が一番弱くて、ジョーカーが一番強いんだけど、ジョーカーはスペードの一にだけ負けるって事にしようか」

 久保君が今思いついたかの様な説明をした。

「オッケーだぜ」

「じゃあ、始めるか」

「簡単簡潔なルールだな。じゃ、俺っちは、これ」

と、早速真は一枚引いた。

「俺は最後がいいから久保君どーぞ」

「残り物には福があるってやつだね」

 久保君が一枚引いた。

「まぁ、福があるかはわからないけどな」

と、悩んでも仕方がないと思い一番手前にあったトランプを引いた。

「全員引いたね? せーので出そうか」

 久保君が提案すると真がそれを手で静止した。

「いや、一人ずつ出していこうぜ」

「僕から出して良い?」

 久保君が聞くと真が大きく頷いたので俺も頷く。

「僕は、ダイヤの十一。先手必勝かな? 意味ないけど」

 久保君は、ふふふ。と笑いながらトランプを卓上に置いた。

「悪くねぇ数字だな。だが甘い! 俺っちのカードはジョーカーだぜ!!」

 そういって、手に持ったままカードを俺と久保君に見せびらかした。

「はい。いってらっしゃい」

 俺は机にスペードの一を投げ置いた。

「イカサマだ!」

 真はジョーカーを伏せて机の上に置くと周りのカードに制服の袖を引っ掛け、机の上を散らかしながらスペードの一を手で触って確かめる。

「はい。いってらっしゃい」

 久保君はカードに触ることもなくニコニコしながら言う。

「チクショー!」

 叫びながら教室を出て行く真は俺がイカサマでないことを認めたのだろう。

「焦ったよ。引いたとき終わったと思った」

「勝てたからやっぱり福があったんじゃない?」

「いや、久保君も気が付いていると思うがそれはないな」

「そうだね。ふふふ」

 久保君は笑いながら、真が伏せたカードを取る。

「袖を引っ掛けてかき混ぜる演技下手だったな」

「あれは少しやりすぎかな」

と、久保君は俺に同意しながら、真のカードを表にして机に置く。

 カードはクローバーの九だった。

「勿体無いな。イカサマさえしなければ勝てたのに」

「そうだね」

 そう言って久保君はいそいそとカードを片付けトランプを返した。

 俺はそれ以上イカサマに付いて言及しなかったが、実は今回久保君も何か仕掛けていたのだろう。

 久保君が自分からゲーム内容を決めるときは決まって何か仕掛けてきている。

 久保君・・・・・・侮れないから怖いよなぁ。

 俺は何となく廊下の方を見ると真が走って戻ってきた。

「何か買うか聞いてなかった!」

「俺はラーメンとチャーハン」

「僕はピザパンとメロンパンとチョココロネ」 

 俺と久保君が言い終わると真は息を切らしながら言う。

「おい、晶。運びにくいもの頼むんじゃねぇよ」

「この前の真よりマシだろ」

「いってらっしゃーい」

と、久保君が見送ろうとする。

「くそ。久保め! 甘い顔して容赦ないぜ。ガッデーム!!」

 叫びながら真は走り去っていった。

「あいつ、この前何頼んだっけ? 運びにくいことだけ覚えてたんだけど」

「ラーメンとビビンバ。アイス。焼きそばパンとおにぎり。かな?」

 久保君が指折り数えながら教えてくれる。

「よく一人で食べられるよな」

「授業中寝てるしね。どこにエネルギー使ってるのかな」

 首をかしげて言う久保君。

「はしゃぐことに使ってるんだろう。それだけ食べて、喫茶店でオムライス食べるし」

「ところで、今日もイカサマしたでしょ」

「え?」

「あのトランプセット始まる前にジョーカーとスペードの一抜いておいたんだよね」

「マジかよ。それは気が付かなかった」

「真君のジョーカーは映像だったけど。スペードの一ってどうやったの?」

「あぁ、実はコレ使った」

 俺は制服の袖から名刺入れほどの機械を取り出した。

「え? 何これ? もしかして・・・・・・」

「たぶん思っているので正解だと思うよ」

 久保君は目を丸くしたまま恐る恐るそれの名前を口にする。

「プリンター?」

 俺は黙って機械の横にあるスイッチを押す。

 機械は蚊の鳴くような音を出しながら。スペードの一を排出した。

 久保君は唖然としたままそのカードを触る。

「トランプと同じ素材だ。これはわからないね」

「トランプは紙の物とプラスチックの物を二枚ずつ作れるぞ」

 久保君は機械をしげしげと眺める。

「トランプを作ることよりこの機械を作ってることに驚愕だよ」

「まぁ、普通の人間には出来ない芸当だろうな」

 俺は久保君から機械を受け取ると懐にしまった。

「イカサマなくすためのトランプのつもりだったけど意味なかったみたいだね」

「久保君だってカード抜くとか、なかなか」

「この前のくじが酷かったからね」

「真が袖にペン入れてたやつか」

「そうそう。元々、くじに当たりなんて一つもなかったやつ」

「真はまともな勝負しないからな」

「晶君も人のこと言えないよね」

「久保君こそ、ジャンケンの時は後出しするだろ」

「相手がわからなかったら、イカサマにはならないのが僕らのルールだからね」

 久保君はニコリと笑って言ってのける。

「そうなんだよな。真が決めたルールだし。わからなければオッケーだな」

「今日本当に引いたカードは何だったの?」

「ハートの七」

「ラッキーセブンだね」

「勝てなかったら意味ないだろ」

「真君がイカサマでよかったね」

「まぁ、他のカードも作れるから関係ないけどな。同時に出し合わなかったのが救いだ」

「ラッキーだったね」

「そうだな。ラッキーだった」

 話し終えるとちょうど真が両手に昼食を持って戻ってきた。モモに手伝ってもらいながら。

「またゲームやったの?」

と、モモがパンの入った袋を久保君に渡しながら言う。

「楽しみの一つだからな」

 真が楽しそうに言う。

 俺は机を移動させて四つを付き合わせながら言う。

「真。料理運ぶのは手伝ってもらうの禁止だろ?」

「良いんじゃないかな。減点一だけど」

 久保君が席に着きながら言う。

「容赦ないなー」

「自業自得だろ? 真が自分で決めたルールだし」

「そうだよ。言った事は守らないとね」

 久保君も俺に賛同する。

「久保君って可愛い顔して結構冷酷だよね」

と、モモが言う。

「そうだろ? 助けてくれよ」

 料理を置き終え席に着きながらモモに言う真。

「え。嫌だよ」

 モモが笑顔で否定する。

「何だよ! お前まで敵かよ」

「敵じゃないだろ。味方でもないだろうけど」

 俺はラーメンを食べ始めながら補足する。

「冷酷って所は、誰も否定してくれないんだね」

 久保君がメロンパンをかじり悲しそうに言う。

「否定できない事実だからな」

 割り箸を割りながら真が言った。

「良い奴だけどな」

 俺は悲しそうな顔を続ける久保君の頭を叩きながら言う。

「良い子だよね。いろいろ優しいし」

 モモは久保君の向かい側に座っているため親指を立てて慰める。

「俺一人を悪者にするなよ。覚えてろ久保」

と、真が箸で久保君を指す。

「ラーメンの箸向けないでよ。汁が跳んでる」

 久保君が嫌そうな顔をして言う。

「照れるな。照れるな」

 真は笑いながら言った。

「照れてないよ」

 久保君は呆れた様子でメロンパンをかじった。


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