昼休み



「久保くーん」

昼食買出し要員を決めるため、クラスメイトの久保を呼ぶ俺。

「今日は何で決めようか」

 身長が低く子供らしい幼い顔つき遠くから見なくても女の子に見える。仕草も女の子そのもの。真曰くおとこの娘とは、久保大志の為にある言葉だそうだ。ちなみに久保君はアンドロイドだ。

「このサイコロで決めようぜ」

 真がポケットからサイコロを取り出し机に転がす。

「久保君悪いけどそのサイコロをスキャンしてくれ真の事だ何か仕掛けがあるに違いない」

「あ、うん、いいよ」

 久保君はサイコロをつまむと右目の前にかざす。

「っちょ、待ってくれ」

 まぁ、落ち着けよ。と久保君からサイコロを取り返そうとする真を椅子に座らせる。

「あぁ、中に何か入ってるね。これは小型マイクかな? とりあえず電子機器が入ってるよ」

「このサイコロは却下だな」

「何だよ。二週間掛けて作ったのによ」

 久保君からサイコロ受け取りポケットにしまう真。

「ジャンケンで決めようか」

 久保君が珍しく提案する。

「それも却下だ」

「久保君の後出しジャンケンに勝てるわけねーし。」

 真は人間がアンドロイドの処理速度に勝てないと言いたいのだろう。

「そんなズルしないよぉ」

 目を潤ませて言う久保君だが、俺は知っている。

「過去に何度かやっただろ?」

「え? 気がついてたの?」

 もちろん気がつくさ、久保君が自分からジャンケンを提案して負け所を見たことがないからな。

「マジかよ。気がつかなかった」

 真も気がついているから後出しの話しを持ち出したと思っていたがどうやら違ったらしい。

「考えても仕方がない。今日のゲームはサイコロの目を当てる事にするか」

「そのサイコロは使わないけどね」

 意気揚々とポケットからサイコロ出す真に久保君が言い放つ。

「信用ねーのな、俺っち」

 信用して欲しいなら、そんなサイコロ作ってくるなよ。

「斉藤サイコロ貸してくれ」

 斉藤はサイコロをこちらに投げる。

サイコロは窓に当たって床に落ちる事無く俺の机の上に転がった。

ちなみに斉藤って言うのはクラスメイトだ。

周りからはミステリアス斉藤と呼ばれている。

髪が全体的に長く鼻まで隠れていて、彼の目を見たものは居ないはずだが噂では目が合うと石になるとか。

下の名前が不確かで教員たちも斉藤としか呼ばない。なんと名簿に下の名前が記載されていないのだ。学園成績が常に十位で必ず教室の一番後ろ廊下側に位置する席から移動しない。不動の斉藤なんてあだ名も合った気がする。

基本無口で何か用がある時はメールが届く。

何でも出来て、何でも持っている事でも有名。質問すれば必ず答えが見つかると女子たちからは恋愛相談の相手としても人気で、告白されることもかなりあるらしい。

アンドロイド説が浮上したこともあったが間違いなく人間であることは健康診断時に判明。だが、一番の問題点はそこではない。

斉藤は男なのか女なのか分かっていないのだ。

体育の授業は男子側に出ることもあれば女子側に出ることもある。

それを確認すると自分の身に何が起こるかわからないので皆真相を確かめようとはしないのだけれど。

 ちなみに、着替えはどこで行っているかも不明。後をつけた男子や女子はかならず途中で見失うそうだ。

そんな頼もしい斉藤に普通のサイコロを借りて今日のゲームを始める。

「斉藤君って、何でも持ってるよねぇ」

 久保君の中では斉藤は男らしい。

「斉藤さんは部活いくつも入ってるらしーな」

 真はどちらでも構わないのだろう。

「今日はサイコロで決めるんだ」

 と、言って購買から戻ってきたももが席に寄ってきた。

「ルールは一度だけ数字を決めて、後はその目が出るまで振り続ける。最後まで出なかった奴が買いに行く」

 俺が提案すると早速久保君が数字を口にする。

「僕は三にするよ」

「おれっちは五」

「じゃあ、二でいいや」

 俺が言うと。

「そこは一だろう。奇数だろ」

 と、真。

「何でもいいだろ。別に」

「運だけで決まるからねぇ」

 と、久保君。

 じゃあ、投げるぜと言いながらサイコロを掴もうとする真を止める。

「真じゃなくて、ももに転がしてもらう」

「そうだね。真君いかさましそうだし」

「本当に信用されてねーな。おれっち」

 涙を拭う真を横目で見つつ、ももにサイコロを振るよう促す。

「行っくよー!えい」

 掛け声にと共に手から離れたサイコロは転がる事を放棄し即座に目が出た。

「最初の目は一だね」

 楽しそうに出目を言うもも。

「晶君一にしておけばよかったねぇ」

「だから言ったじゃねーか」

 久保君と真の言うことを無視してももに言う。

「全員ハズレだ。もう一回振ってくれ次はちゃんと転がせよ」

「うん。頑張る。えい」

 頑張らなくてもサイコロは転がると思うんだけどな。

コロコロと弱弱しく転がるサイコロはすぐに止まった。

「三だね。僕はオムライスとイチゴパフェとオレンジジュース」

 久保君は出目を確認すると言った。

「あのパフェおいしいよね」

 甘いもの好きの、ももと久保君は手を合わせて話してる。女子同士意見が合うのだろう。あ、久保君は男だったな。

 目が出た奴が買いに行くルールにすればよかったな。今更思っても遅いが。

「当たった奴が買いに行くルールにすりゃあ良かったな」

 真が悔しそうに言う。

「俺も同じこと考えてたよ」

「でも、こっちの方が盛り上がるよね」

「勝者は余裕そうでなによりだな」

 悪態をつく真に対して久保君はニコニコしながら言う。

「勝ったからねぇ。今更ルール変更はなしだよ」

「俺っちは牛丼とチンジャオロース定食と」

「勝ってから言ってくれ」

 真の発言ををさえぎってももに振るよう頼む。

「はい。ラスト行きまーす」

 勢い良く振られたサイコロは机の上を転がるのではなく、コマみたいに卓上で回転した。

「どうやったらこうなるんだ」

「ある意味才能だよねぇ」

「もも本当にスゲーよな」

 男それぞれに言われももはえへへと笑っている。

勢いが無くなって来るとサイコロは転がりだし止まった。

「チンジャオロース定食な。行ってらっしゃい真」

「あ、ももにもイチゴパフェ買ってきて」

「行ってらっしゃーい」

「ぐぬぬぅ…… ももまで俺っちをパシリにするとは」

 頭を抱え左右に体をくねらす真。

「この前ももに手伝ってもらってただろ?」

「借りは返さないとねぇ」

「お願いしまーす」

 笑顔で敬礼するももに対し。

「しゃーねーな。行ってくるよ」

 と、言い。下を向いてとぼとぼ廊下に向かって歩く真。

廊下に出る直前で振り返って真は言った。

「太るぞもも!」

「うるさい! 早く行けー!」

 両手を挙げて叫ぶももの声を聞いてから、笑いながら真は走って食堂に向かった。

「久々にまともなゲームだったな」

「そうだね。今日はいかさまなかったね」

「いつも、いかさましての?」

 両手を挙げたまま振り返り質問するもも。

「してるな。主に真が」

「いかさまするけど。一番負けてるよねぇ。真君」

「確かにそうだな。週に必ず三回は真が買いに行ってるな」

「そうなんだ。あ、そういえば、文化祭手伝って欲しいって部長が言ってたよ」

「晶君は、何でも出来るもんねぇ」

「いや、手伝うのは俺じゃないと思うぞ」

「手伝いに呼ばれてるのは久保君だよ」

 両手を挙げたまま久保君を指差すもも。

「え? 僕? 遠慮したいかなぁ」

 苦笑いをする久保君。

「久保君部長に好かれてるからな」

「入部してくれた時とかすごい喜んでたよね」

 頭の上で拍手しているもも。いい加減腕下げないのかな。

「入部って、あんなの無理やり入れられたようなものじゃないかぁ」

「そうだな。入部しないと留年して同じクラスになる。とか、言ってたな」

「あの人ならやりかねないよね」

 何故かガッツポーズをとるもも。

「でも、実際同じクラスになれるのかなぁ?」

「なれるだろ。学校にコネあるらしいぞ」

「先生も恐れてるみたいだよ。部長の事」

 腕が疲れたのか、だらりとしている。

「入部したのは正解だったのかなぁ」

 と引きつった笑いの久保君。

「ちなみに、手伝ってくれないと進級させないって」

 トドメを刺すような発言をするもも。

「頑張れよ。久保君」

「手伝うしかないのかなぁ。いい人なんだろうけどちょっとね……」

 肩を落として久保君は言った。

「お待たせー」

 と両手に袋を提げた真が戻ってきた。

「買いに行く途中で部長見たぞ。久保君久保君言いながらスキップしてたぞ」

 買ってきた物を机の上に並べながら言う真。

「愛されてるな久保君」

 俺は弁当を袋から取り出しつつ久保君を見る。

「勘弁してよぉ。この前、隣のクラスの子が生徒会長と付き合ってるんでしょ? って、聞いてきてさぁ」

 オレンジジュースを取り出しながら困り顔をしている。

「その噂、ももも聞いた事あるよ」

「部長が流した噂だぜ」

 真は疲れたのか、肩をまわしながら答える。

「自分で言ってたのかあの人」

「悪い人じゃないんだけどねぇ」

 と、言いオムライスを頬張る久保君。

「いろいろされても邪険にしない久保君やさしいよな」

「その優しさに漬け込まれてるって気がついた方がいいぜ」

 にやりと笑って言うと牛丼を食べ始める真。

「女の子にその優しさは凶器だよ」

 スプーンを咥えて話すもも。

「その内デートしないと退学って言うんだろうな」

 俺は割り箸を割りつつ言った。

「脅かさないでよ。もぅ」

 頬膨らませて、ストローを咥えオレンジジュースを勢い良く吸った。






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