第1章 異世界転生学園の日常-4
男の仲間たちは、予想より早く動揺から立ち直った。
「よくも!」
槍装備の男が手にした槍を突き込んでくる。
なかなかの速度の突きを体捌きで躱す。
側面から槍の柄をつかみ、巻き込むように引き下げる。
「うぉっ!?」
槍装備の上体が泳ぐ。
顔面が、俺の腰辺りに無防備に流れてくる。
その顔面に、思い切り膝を叩き込む。
鼻血を噴きながら槍装備がよろめく。
追撃をかけようとするが、
――ュン!
かつて聞き慣れていた弓鳴りの音。
矢だ。
矢には風魔法が乗せられていた。
俺は矢の風魔法に干渉して風の魔力を強制的に擬人化、風精霊へと変化させる。
風精霊は俺の言うことを聞かなかったが、強制擬人化で矢の軌道が乱れた。
矢は俺の髪をかすめて抜ける。
二の矢が来る前に、俺は体勢を立て直しつつあった槍装備の顎を蹴り上げた。槍装備が白目を剥いて昏倒する。
俺は振り上げた足を地面に落ちていた剣装備の剣の柄へと振り下ろす。
跳ね上がった剣を空中でつかみ、飛来する二の矢を斬り落とす。
――この切れ味、やっぱり魔剣か。いいものを拾った。
「なっ……、なんだこいつは……!」
悲鳴を上げながら飛び退り、次の矢を放とうとする弓装備。
俺は一旦弓装備を無視することに決め、ちんたら魔法を詠唱している杖装備に側面から迫る。
「くっ!?
仰々しい
何かと思ったが、単なるC級
そして3歩。
それだけで杖装備は目の前だ。
「――くっ!?」
杖装備の前に不可視の盾が現れた。
杖装備の手には高価そうな魔道具。
敵に接近された時のための奥の手か。
が、
(こんなもんが通じるか!)
俺は剣に次元の精霊をまとわせ、不可視の盾を斬り捨てる。
「なっ……!」
動揺する杖装備。
そこに、またしても矢が飛んでくる。
俺は杖装備の身体が弓装備の射線に入る位置を取っていた。
対複数戦では当然の用心だ。
俺を狙って放たれた矢が杖装備に当たる。
「ぐぁっ!」
「――くそ、外れたか!」
杖装備が死に体なのを見て、誤射覚悟で矢を射かけてきたらしい。
とことん外道だ。
外道のくせにそこそこ――いや、かなり腕が立つのが嫌らしい。
元の世界では相当悪辣なことをやってきた連中なのだろう。
俺は心の中の容赦を切り捨てるついでに、杖装備を剣で斬り捨てた。
振り抜いた剣は、そのまま弓装備へと投げつける。
剣が、危険な速度で弓装備に向かって飛んでいく。
俺はもちろんその後を追っている。
弓装備は弓を射るべきか剣を避けるべきかで一瞬迷う。
が、弓装備は剣を避けず、弓を射ることに決めたらしい。
――肉を切らせて骨を断つ。
確かにそうでもしなければ俺に勝てる目が見えてこない。
弓装備の鎧に剣が激突する。
弓装備の脇腹から血が噴いた。
同時に弓装備の放った矢が俺の眉間に突き刺さる――わけもなく、俺は飛んできた矢をつかんで弓装備へと投げ返す。
矢は、痛みで動きを止めた弓装備の左目へと突き刺さった。
「ぎゃあああっ!」
のたうち回る弓装備。
俺は弓装備に近づき、みぞおちにローファーのつま先を叩き込む。
弓装備は左目を押さえたままの姿勢で動かなくなった。
――これで、終わりだ。
◆
「……あの」
異世界からやってきたらしい四人の男を倒した俺は、最初に倒した男(剣装備)に近づき、その腕を制服のベルトで後ろ手に縛り上げた。
身体強化して本気を出せば引きちぎれるだろうが、本気を出すための溜め時間の間に殴って気絶させればそれでいい。
他の三人は既に致命傷を負っている。
こちらを殺そうとしてきた人間をわざわざ治してやる趣味など俺にはない。
ま、ここの警備が駆けつけてきたら、治癒魔法師を呼んで治してしまうのだろうが。
「あの!」
「……なんだ?」
剣装備が倒れているのはセリカリアのすぐそばだ。
剣装備に近づけばセリカリアにも近づくことになる。
話しかけてくるのはむしろ当然だった。
遠くからドタバタと物音が聞こえる。
遅まきながら警備システムが作動したのだろう。
すぐにアナポの警備員が詰めかけてくるはずだ。
「助けていただき、ありがとうございました」
セリカリアはそう言って頭を下げた。
ふと気づく。
あのバカでかい
まさか
勇者のようには見えないが……。
セリカリアは立ち上がりながら返し刃付きの
「おまえを助けたわけじゃない」
「……え? でも、助けてくれましたよね?」
思わず言ってしまってから気づく。
うん、確かに俺はセリカリアを助けたな。他にどんな理由があるってんだ。
「それは――」
俺が何かを言って誤魔化そうとした瞬間、俺の足下に魔法陣が広がった。
直径3メートルほどで、魔法陣それ自体が魔力によって描かれた高度なものだ。
こんな魔法陣を構成できる人を、俺は1人しか知らない。
「いけね、そういや――」
俺のつぶやきが完成するよりも、魔法陣が完成する方が早かった。
魔法陣の中にいた俺とセリカリアは、力強い魔力に包まれ、一瞬意識が断絶する。
断絶から立ち直り、俺はつぶやきの続きを口にした。
「――
魔法陣で召喚されたその先には、怒り顔のクラス担任が立っていた。
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