054_私は大変女好きですがよろしいですか?

 俺がアセリア領の領都リンブルグにあるミストリア学園の寮に着くと、ヘルベティカと名乗る人物が待ち受けていた。

 もともと会う計画を立てていた領主様だ。

 その領主様が頼みがあると言ってきたのだから、訊かない手はないだろう。


 領主であるヘルベティカは大人の魅力溢れる女性で、執務の為か腰の辺りで広がりのあるドレスではなくスマートな緋色のドレスを着ていた。

 質素だが上質な布地でできたドレスが、紺色の髪によく似合っている。

 少し痩せ気味ではあるが胸は大きく、気持ち胸元が開いているのは狙ったものか?


 大変良いものです。


 しばし見とれていた俺に、ヘルベティカの護衛と思われる騎士が蔑みの目を見せてくる。

 でも、これだけ魅力的な女性を前にして見とれない方が失礼だと思う。


 ……取り敢えず、話を聞くか。


「拝聴しましょう」

「そう構えないで訊いてもらいたい。

 まずは何から話すべきか……そうだな、タキシスの町の件からが良いか」


 そこからきたか。


「だいたいのところは既にロリィ嬢に伺っているが、貴殿に直接聞いて欲しいと言われた件もあってな」

「わかりました。

 特に隠すこともありませんので、なんなりと」


 嘘である。隠すことが多すぎて困るくらいだ。

 だが紳士である俺は、そういうことを微塵も感じない態度でありたい。


 そんな俺の内心は知らずに、ヘルベティカは少し安心したような様子を見せた。

 慎重にこちらの様子を窺いながら話してくるのは、機嫌を損ねたくないという思いからか?

 さて。ロリィが何処まで話しているかはわからないが、さすがに暗黒神の顕現化した姿だとか、俺たちの真の目的までは話していまい。

 一応ある程度の筋書きは引いているので、それに添って答えれば問題ないか。


「タキシスの町の再建に尽力を頂いたと聞いている。

 それについては領主として感謝の念に堪えないが、大した見返りも期待できない小さな町に、どうしてそこまでしてくれたのだろうか?」

「女神の信託を受けまして、是非御使い様の力になりたいと」

「ご神託か!? それは素晴らしい。それで女神様はなんと?」


 あれ、話してないのか?


 ヘルベティカが僅かに身を乗り出すようにして興味を示した。

 俺はロリィに視線を送るが、呆れた顔をしている。

 伏せていたのかよ……でも、何故だ?

 女神の御使いを通しての信託と『魔力炉』については、交渉のカードとして利用することは前々から決めていたことだ。

 どちらにせよ既に話してしまった以上、流れは崩せない。


「欲ある者がこの地を狙ってくるだろう。

 祝福されたこの地をどうか守ってくれ、と」

「欲ある者が……思い当たる節はあるか?」


 俺は少しだけ考えた振りをする。


「今、タキシスの町には『魔力炉』があります。

 必要とする者には大変魅力でしょうね」

「やはりその話は本当だったか。

 入手したのは貴殿だと聞くが相違ないか?」

「はい。私が入手し現在はタキシスの町で運用しています」

「そっ!?」


 ヘルベティカは何かを言い掛けたあと、気を静めるように大きく息を吐き、しばし目を閉じる。

 美人さんが目を瞑っているのに、手を出せない状況が辛い。

 いや、手を出してはいけないルールとかあったか?

 惜しい。逡巡している間にヘルベティカが目を開いてしまった。


「それは、私にとっても大変魅力的だな」

「他にも魅力を感じる方はいるようです。

 噂に聞いた程度ですが、南のバラカス領が北に向けて出兵したとか?」

「噂になっているのか。

 だがそれは盗賊団討滅の為と、越領の許可願いがでている」

「では、私たちが盗賊団ということですね」


 一瞬、眉を顰めたヘルベティカだったが、直ぐに俺の意図を掴んだようだ。

『魔力炉』は盗賊団に奪われ、その一味がタキシスの町に持ち込んだ物。

 それがバラカス領の掲げる大義名分ということだ。

 俺が入手した物だという証拠はどこにもない。

 ならば事実などどうにでもねじ曲げられる。

 俺は力があっても後ろ盾のない平民で、強引だがリスクに見合う価値があると考えられても不思議はない。


『魔力炉』の持つ魔力を都市防衛の為に利用すれば、バラカス領の戦いは大分楽になる。

 平民が相手であれば多少の強引さなど、結果として国防が成り立つのであれば、見て見ぬ振りをする者も多いと判断したのだろう。


 まぁ、そうなるように情報を流しているのは俺だが。

 ドルトスは欲望に身を染め、良い仕事をしてくれている。

 メディカを与える建前を考えないといけないな……身分差的に婚姻関係は難しいし、御使いの言葉では強引すぎるか。

 男爵位のドルトスでも活躍次第ではなんとかなるか。

 その活躍で上位爵を授爵すれば良いし、死なない程度に頑張ってもらおう。

 しかし、愛らしいと噂の少女メディカとネズミ顔の男ドルトスか、泣く者が多そうだ。


 ――とか、今考えている場合でもない。


「盗賊団はいないのだな……」

「女神フィオレンティーナ様に誓って」


 暗黒神の使徒である俺の誓い……こんなにも信用のない誓いはない。

 だが、盗賊団がいないのは本当だ。バルドたちが真面目に働いたおかげで、最近は出没数も少なく困ったものである。


 しばし沈黙が流れる。

 ヘルベティカもどうすべきか悩んでいるのだろう。

 前に俺の元を訪れたヴァッセル男爵は、開口一番に『魔力炉』を寄越せと言ってきた。

 権力を笠に、ある意味潔いほど意思を明確に伝えている。

 おかげで俺も明確な意思を返すことができた。


 でもヘルベティカは、俺に対して十分な礼儀を持って対応をしている。

 当然、気分も悪くない。美人さんだしな。


 ヘルベティカの言葉ひとつで、今後アセリア領に対する方針が決まる。

 そんな俺の思惑には気付いてはいないだろうが、民を統べるという正しい思想から、答えを慎重に検討しているようだ。

 その真摯な姿に、俺の方針もいくらか修正する。

 初めは使い潰す気でいたが、状況を見て考え直すのも良い。


「貴殿の言葉を信じ、領兵を派遣しよう。

 バラカスの領兵も、こちらに正規兵の姿があれば無茶をしないだろう。

 だが、今は訳あって多くは派兵できない。

 力ない私を許して欲しい」


 できないだろうな。

 今はタキシスも含めてバラカス領を見捨てようという流れだ。

 さすがに領主であるヘルベティカが、その話を知らないはずはない。

 恩を売る為に、全兵力をもってなどといい出さないあたりが、冷静に物事を考えられる証拠だ。


 それでも200人ほどの領兵を派遣するという。

 ヘルベティカ自身も、女神の神託が降りた土地を無碍にできないと考えたのかもしれないし、『魔力炉』が惜しいと考えたのかもしれない。

 いずれにせよ協力的なのは助かる。

 もしバラカス領が攻めてくれば、現存兵力では守るのが精一杯だし、守っていては流通が止る。そうなれば、遠くないうちに飢えに苦しむことになるだろう。


 そこに僅かとはいえ、戦う訓練をしている兵士が加わるのは大きい。

 バルドの遊撃部隊も併せれば、門を攻めるバラカス軍の横を突ける位の戦力なので、流れも変わる。

 自分でけしかけたとはいえ、さすがにタキシスの町人に全滅されては困るのだ。


 最悪の場合は俺とロリィが動けば良いが、個人に頼り切った戦いではいずれ破綻する。

 俺の力はあくまでも一騎当千であり、所詮は一騎だ。

 戦場が1つの今はどうにでもなるが、増えてくれば何処かで行き詰まる。

 だったら育てていくしかないだろう、それが今は遠回りに見えても。

 俺には国を動かすほどの兵が必要なのだから。

 でなければロリィが進化する為の『思いの力』が集まらない。


 ロリィは俺に十分な力と時間をくれた。

 恩返しの為に働こうと考えるくらいには感謝をしている。

 最優先事項ではないが……


 とにかく新生タキシスの町人には頑張ってもらいたいところだ。

 理想は奮戦しつつも押し込まれ、心が折れる前にアセリア領軍が駆けつけ、痛み分けといったところか。

 新生タキシスの町人は、この戦いにより女神の御使いであるリスティナの戦士として、心をひとつにしてもらわなければならない。

 そうなれば三人娘とバルドたち奴隷に次ぐ、三つ目の駒としてようやく纏まった軍隊を手に入れることができる。


 アセリア領とバラカス領を旨くまとめ上げることができたら、南部の反乱というシナリオも良いな。

 そうなった時、クオルディア王国の出方が楽しみだ。切り捨てようとした民に噛まれる気分はどんなものか。


 何とか収めようとするヘルベティカには悪いが、俺にかかわった以上は波乱の人生を歩んでもらおうじゃないか。


「心中お察しします」


 再びヘルベティカが眉を顰める。

 政務に就く者がそんなに顔に出して良いのだろうか。


「貴殿、何処まで知っている?」

「私が知っているのは、ヘルベティカ様が苦渋の判断をされたということだけです」


 まさか、裏で俺が画策しているなど、言えるわけないじゃないですか。


「まぁ、この後の話次第では、無理に聞くことでもない」


 え、なにそれ、そっちのほうが恐い。

 もう少し色気を武器に使ってくれると、俺も吝かではないのに。


「それでは頼みごとの話だ。できれば2人で話したいのだが、構わないか?」

「もちろんです」


 ヘルベティカに従うオリオと、護衛の騎士は不満をいうこともなく席を立ち、部屋を後にする。

 そこにはヘルベティカに対する絶対の信頼があるようだ。

 普通に考えて男とふたりきりにはさせないのではないか?

 ましてや領主という肩書きまである人物だ。なおさらである。


 考えられる要因はふたつ。

 実はヘルベティカが物凄い武術あるいは魔術の使い手。もうひとつは何かしらの不可侵を約束する魔術具や神技の類い。


『鑑定』魔法で明らかになったのは、後者だ。

『閉鎖領域』の魔法を内包したペンダントにより、自分の周りに異なる次元壁を呼び寄せ、あらゆる干渉を遮断する。

 物魔対抗障壁のひとつで、俺の使う『絶対障壁』の劣化版だ。

 劣化版とはいっても、単体防御能力でいえばかなり上位の能力とされている。

 恐らく魔力が尽きない限り、破れる者は俺や勇者のような存在だけだろう。

 装備した者が恐怖を感じると自動で展開される点は、魔法より便利と思えた。


 なかなか席を立たないロリィに視線を送ると、ロリィはそっぽを向いた。

 おいっ!?

 ここは俺の意図を掴んでくれると格好いいところなのに。

 むしろ、意図を掴んだから残るといいたいのか。


「お恥ずかしい話になりますが、そのままでも構いません」


 俺が思わず困惑した様子見せたのが可笑しかったのか、ヘルベティカが苦笑しつつも折れてくれた。

 そして、さっきまでの口調とガラリと変わっている。雰囲気も柔らかくなった。

 外向きの口調から、私人としての口調に変わったといったところか。


「これからが面白い話なのに、仲間はずれはないでしょ?」

「面白いってなぁ……」

「本当に、こちらから勝手をいっていますから」


 思わず俺の口調も崩れた。

 溜息をひとつつき、これ以上はいっても無駄だろうと諦める。

 そんな俺の様子を見て、ヘルベティカが話し始めた。


「カズトさんのことは、失礼ですが色々と調べさせて頂いています。

 今日はそれ以上のお話も聞けまして、より覚悟が決まりました」


 ヘルベティカはそこで一端言葉を切り、顔を赤く染めた。

 随分と覚悟のいる話なのか?


「ヘルベティカ、本当にカズトで良いの?

 もっといい男はいっぱいいると思うけれど?」

「失礼だな。そういうことは俺がいないところで言え」


 ロリィが目をぱちくりとさせた後、吹きだした。

 その上、咽せて苦しそうにしているので、仕方がないから背中をさする。


「あの、おふたりの関係はもしかして……」

「安心して、そういうのじゃないから。

 ごめんね話の腰を折って。カズト、ヘルベティカの頼みを聞いてあげて」

「まったく……

 ヘルベティカ様、失礼いたしました。

 それでご用件とはどのようなことでしょうか?」


 ヘルベティカは意を決したのか、背筋を伸ばし、紺色の髪と同じ紺色の瞳で真っ直ぐ俺を見つめてくる。

 白い肌はさっきより赤く染まっていたが、からかうところでもない。


「わ、私の夫になってください」

「は?」

「私の……夫になってください」

「え? どうしてそうなるのか理解できないのだけど?」


 思わず素で答えてしまった。


 余りにも真剣なヘルベティカの様子に、事情を知っている感じのロリィへ視線で説明を促す。

 しかしロリィは知らん顔だし、ヘルベティカは顔を赤くして伏せ気味に俺の返事を待っている。


 つまりなんだ、プロポーズを受けたのか?

 生まれて初めてなので、結構嬉しい。

 ヘルベティカはアセリア領の領主であり、爵位は侯爵代理にあたる。

 つまり結婚すれば俺が侯爵になれるわけで、メリットは大きい。


 では、ヘルベティカにとって俺と結婚するメリットはなんなのか……聞くのが早いか。


「失礼。突然のことで少し戸惑っております。

 私としてはとても光栄ですが、ヘルベティカ様にとってメリットはあるのでしょうか?」


 ここで恋だの愛だのといわれるほど自分がモテるとは思っていない。

 侯爵にあたる身分を持ちながら、平民である自分と結婚したいと思うのは、相応のメリットを感じたからのはずだ。


「し、正直に言いますと、カズトさんの力とお金が目当てです」

「それはなんとも……わかりやすくて良いですね」


 正直すぎないだろうか?

 でも、それだけに信用に値する言葉だ。


「権威と権力を得た私が、圧政を行うとは思いませんか?」

「政務は今まで通り私が行いたいと思います」

「本当に力とお金が目当てですね……」


 モテ期終了。

 ヘルベティカは嘘偽りなく紳士的ではあるが、もう少し男を手のひらで転がすような手腕はなかったのだろうか。

 胸元を強調したようなあざとい衣装は着ることができるのに、どこか初心だな。


 さて、そうなると、俺が得られるのは権威だけだ。

 それでも公式な立場に立てることで、今後の仕事がしやすくなるというメリットは残る。

 もうひとつ。わざわざいわないが面倒な政務をやってくれるのは、大いに助かることだ。

 なにせタキシス程度の規模でも俺には手がいっぱいだ。

 それを今まで内政を担当していた側近と共にヘルベティカが動いてくれるのであれば、理想といえよう。


 俺は力を示すという得意な面で働き、苦手な面はそれのできる部下に任せるのが理想だと思っている。

 利害は一致。デメリットは既婚者になるというくらいか……女の子遊びができなくなるな。それは大きい気がする。


「大変失礼かと思います。

 それでも、今はそれが必要なのです」

「必要……ですか。

 今日の話をまとめますと、ヘルベティカ様はアセリア領南部の切り崩しを良しとしないのですね?

 国策からは外れるようですが、よろしいので?」

「なぜそれを!?」

「情報を合わせて導き出したまでですが」


 白々しい。自分でも実に白々しいと思っているさ。


「……はい。

 アセリア領だけでなく、アセリア領が現状を維持する為には、バラカス領も失うわけにはいきません。

 その為にはカズトさんの力と『魔力炉』が必要です」


 新たな国境と考えているロール川の南にタキシスの町がある以上、バラカス領がルドニア王国に吸収された後、間違いなく戦地となる。

 であれば、ヘルベティカとしては現状の国境を維持するのが理想なのだろう。


 強力な魔術師の力は一騎当千。

 俺が前線に出れば、戦術程度なら覆すことが可能だ。

 気になるのは、南の勇者に思ったより早く近付くことになるくらいか。


「では、私が夫となることで得られるメリットに対して、ヘルベティカ様は具体的に何を望まれますか?」

「アセリア領とバラカス領が協力し、ルドニア王国の侵攻を食い止めることが可能だと、国中に知らしめたいのです」


 それで国王の心変わりを狙うか。

 国の兵力を南に割くことはできないが、南部が自力で防衛し失わずに済むのであれば、それにこしたことはない。


「では、私からの条件です。

 私は大変女好きですがよろしいですか?」

「!?」

「カズト、あなた馬鹿なの!?」


 いや、一番重要なことだし。

 とはいえ、俺もちょっと馬鹿正直すぎたか。

 ヘルベティカが絶句し、ロリィが呆れていた。

 それでも、これだけはいっておかなければならない。

 いくら高位貴族が側室を持つことが多いとはいえ、それは正室の許可あってのものだ。


「私が望むのは力とお金です。

 それ以上を望むのは強欲でしょう」


 なんとか気力で立ち直ったヘルベティカが、顔を引きつらせながらしおらしいことをいう。


 実際のところ、タキシスの西にあるミスリル鉱山の存在を明かせば、南を放棄するなどとはいっていられないはずだ。

 つまりヘルベティカの願いは簡単に叶えることができる。

 だからといって無償で行うことでもないが。

 大きな貸しを作るにも、俺が動いたほうが誠意を感じられるか?


「ヘルベティカ様のお気持ち、わかりました。

 ですが、その申し出を受けることはできません」

「そ、そんな……」

「カズト、最低ね……」


 美少女の蔑むような視線はご褒美だといわなかっただろうか?

 ロリィにはもう少し元の世界の文化を学んでもらったほうが良いな。


「ですが、女性の方に恥をかかせた責任は取らせていただきます。

 微力ながら南部の守りに力を貸しましょう」

「本当ですか!?」


 おおっ、良い笑顔だな。

 ヘルベティカとの新婚生活とか楽しみではあったが、実は既にその身の使い方は決めてある。

 実に惜しいが、色々と面倒事が纏まるので、計画を変えるのは止めよう。


「では詳細について詰めていきましょう」


 ◇


 ヘルベティカたちが去り、室内は元の広さを取り戻す。

 俺はロリィの正面に移動し、深くソファに身を横たえた。


「なかなか疲れるな」

「カズトのデリケートのなさには恐れ入ったわ」

「喜怒哀楽、色々あって楽しかっただろ?」

「楽しくはあったかもね、ヘルベティカには気の毒だけれど」

「無償で願いを叶えると言ったんだ、十分おつりが来ると思うな」

「だからモテないのよ」


 マチルダには明らかな好意を向けられているけれどな。

 ストライクゾーンから大きく外れているのが残念だ。

 またマチルダの料理を食べたくなってきた……


『次元鞄』からティーポットとカップを取り出し、自分とロリィの分を入れる。

 ひとつをロリィに手渡し、自分でも味見をする。

 砂糖も入れていないのに、少し甘みの感じられる紅茶で、疲れた頭に優しく染み入る。


「なぜ御使いのことを話してなかったんだ?」

「折角黙っていたのに、手の内を早々にバラすんだから呆れるでしょ」

「なるほど。立ち合いは強く当たって後は流れで、作戦のつもりだった」

「なによそれ」


 再びあきれ顔だ。


「でもインパクトはあっただろ」

「次はもう少し頭を使った作戦でお願いしたいところね」

「努力するよ。

 計画は少し変わったが、アセリア領とバラカス領を手駒にする算段はできあがった。

 後は『思いの力』を、一端ひとつにまとめ上げるぞ」


 新生タキシスの住人の思いは、今現在女神の御使いであるリスティナに集まっている。

 今度はアセリア領とバラカス領の住民を巻き込むつもりだ。

 舞台を整えるのに思ったよりも時間が掛かったが、学園で遊んでいたからというのは内緒にしておこう。

 ロリィも楽しんでいたし、それくらいは許されるはずだ――といいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る