040_今のマチルダも魅力的だ
課外授業への参加パーティーは全部で5組だった。
ここアセリア領で管理されているダンジョンまで1日掛けて移動し、2泊3日の予定で魔物との実戦を体験することになる。
魔物との実戦と聞けば大層なことのようにも思えるが、元の世界で言えば日常に猪や熊が出るような世界だ、戦える者が戦うことに疑問を持つ者はいない。
普通は戦う方法を殆ど習うことも出来ず、行き当たりばったりでの戦いになることが当たり前の世界だ。
冒険者や兵士でもなければ、誰れも魔物と戦いたくなんかない。
教える方も教わる方もそんな感じだから、結果的に教わるという機会がなくなる。
運悪く魔物に出会ってしまえば、ただただ逃げるだけだ。
もちろん、魔物も素直に逃がしてくれる訳でもなく、否応なしに戦いになる。
結果、基本だけでも習っておけば生き延びることが出来た、と言う事実だけが待っていた。
そんな事もあり、課外授業は日常的に遭遇することが多い魔物を中心に、実戦慣れをしておこうという考えの元に行われている。
それだけでも結構な効果はあるようで、死亡率は明らかに下がったとか。
◇
ロリィたちAクラスのパーティーの馬車が先に出発し、マチルダを足蹴りしていた男のパーティーが続く。
彼らはBクラスが中心のメンバーで、その中で1人いる女の魔術師は俺とクラス同じなので顔くらいは知っていた。
確か下級貴族の御令嬢だったと思うが、平民を見下した態度がまるでマンガのようであり、なかなか面白い。
そんな彼女のことだ、パーティーの仲間も下級貴族以上だろう。
俺たちは5番目の馬車に乗り、先行した馬車の後をのんびりと付いていく。
各パーティーには実戦慣れした講師が2人付き、課外授業中は付かず離れずで俺たちをサポートすることになっている。
一応、課外授業は自己責任だが、良いところの御息男や御息女が相手だ、問題が発生したときの為に体裁だけでも必要なのだろう。
過去に課外授業で死者が出たことはないと言われている。
重傷者程度はでたようだが、それも回復魔法で後遺症なく治ったとか。
移動中、俺たちは軽く自己紹介をする。
「戦闘も魔法も自身ありませんが、料理は任せてください」
マチルダが脂肪に埋もれた胸を張って言う。
それは駄目だろと思ったが、俺はそのどっちも問題がない代わりに、料理は自信がなかった。
思ったよりも需要と供給がマッチしているのではなかろうか。
マチルダの肌の色艶はとても良く健康的だ。
平均的に貧困層が多い世界だが、見事なまでに肥え太った体は、毎日の食生活が充実していることを示している。
俺もその恩恵にあずかれるのであれば、マチルダを入れたのは悪くない。
それに、ぷよぷよとした体は意外と触り心地が良さそうで、興味が沸いてきた。
清潔感もあるし、性格も悪くない。
顔も丸いだけでとりわけブスということもなく、太っている以外は普通だな。
「マチルダさんの実家は、王家御用達の料理人を何人も出している名家なんだ。
庶民向けにも料理店を出していて、たまに食べに行くけれど、とても美味しいよ。
今から食事が楽しみだねぇ」
「俺も楽しみになってきたな」
「そんな……(カズトさんの為にも)精一杯作りますね」
一部聞き取れなかったが、頬を染めながらもやる気を見せていた。
本当に美味しかったらロリィに自慢しよう。
俺やロリィが万が一にも大怪我をする事はないだろうが、もしもの時はマチルダだけは助けよう。
マチルダの言葉に嘘がなければ、ロリィもご満悦のはずだ。
ルティナは男の娘枠で助けてやらなくもないが、ライナードはどうでも良いか。
◇
少し日が傾き始めた頃に、目的のダンジョン近くに作られた町へと到着した。
ダンジョンは、ある日突然現れた『魔力炉』の核が徐々に地下へと浸食していく過程で、迷路のようになって出来上がる。
『魔力炉』はダンジョンの成長と共に巨大化し、最終的には魔界への門を開けるという。
それが事実かどうかは不明だが、この世界では見掛けない魔物が溢れ出してくることで、そう考えられているようだ。
だとすれば『魔力炉』を動力として使う事など不可能とも思えるが、どうやら地下深くに存在しない限り魔物を呼び出すことはないと、過去の経験からわかっている。
だから魔界は地下深くにあると信じられていた。
魔界には魔人族がいて、魔人族を統べる魔王がいる。
そして魔人族は神落ちした神――魔神を崇め、いつか神への反逆の為に地上を支配しようとしていた。
ダンジョンは様々な魔物を産み出すが、魔物は死んだ時に魔力の結晶体として魔石を産み出す。
その魔石は人がこの世界で暮らす為に必要な動力の1つを担っている為、一概に魔物がいなくなれば良いと考えるのは難しい。
ただ、人に対して害意を持つ魔物が多く、基本的には討伐対象となっている。
魔物を倒すには、動物を倒す以上に強力な武器が必要だった。
その為に人は、魔物自身の素材から強力な武器を作り出し、対抗している。
ここ数百年は魔法の存在もあり、多くのダンジョンが攻略され、『魔力炉』として人々の生活を豊かにしていた。
ここは既に『魔力炉』を失ったダンジョンだが、しばらくは魔力溜まりが残り魔物を産み出し続ける。
それもいつかは尽き、その時この町も自然と廃れていくのだろう。
まさに現役の冒険者といった感じの装備をした人々が多く行き交う通りは、なかなか活気がある。
他の町なら食べ物の露店が並んでいそうなところには、武器や防具それに魔道具といった物を売る露店も多かった。
日が落ちるまでは自由時間だ。
当然俺たちパーティーは露店の並ぶ通りを見て回ることにした。
珍しい露店が多いとはいえ、食べ物の匂いを漂わせる露店も多い。
そして、露店と言えば――
「ロリィ、お前いつも食べているな」
「あら、カズト。
いつもじゃないわ、ここに着いて初めてだし。
これ、中々美味しいわよ。カズトにも一本あげる」
今日は昼間話題に上がった、マチルダの手料理が振る舞われることになっていた。
宿泊予定の宿はマチルダの父親が経営している食堂の1つらしく、夕方の忙しい時期にもかかわらず一部を借り受けることが出来た。
随分とマチルダが張り切って借りていたようだが、食べるだけではなく作るのも好きなようだ。
「いや、折角だけど今日は夕食までお腹を空かせておくよ」
「そう? 美味しいのに」
ロリィはよく食べるが、全く太らないな。
まぁ、人間とは異なる摂理の中にいるのだろう、ちょっと羨ましくもある。
あれ、俺も結構食べるが太った感じはしない。
それに、筋肉が付いた気もしないし、薄いとは言え髭も伸びない。
もしかして成長が止まっているのか?
それとも物凄く遅いとか……1000年は生きられると言われたしな。
まぁ、1000年も歳をとり続けるよりはきっと良いはずだ。
100歳くらいから全く動けないとかじゃ、長生きできる意味がないからな。
「カズトさんのお知り合いですか?」
「珍しいくらい美少女だな」
ルティナには紹介していたけど、マチルダとライナードはロリィを見るのが初めてだったか。
マチルダが何処か深刻そうに聞いてくる半面、ライナードの反応は普通だ。
まぁルティナを見慣れていれば、美人にも慣れてもいるか。
「俺の理想だな、後3年もすればだけど」
そう言った途端マチルダが固まった。
え、なに、もしかして俺、惚れられている?
……1番最初に惚れていいのはヒロイン役に決まっているだろ!!
マチルダ、お前ちょっとそこに正座しろ。
いや、正座したら転がっていくから立ってろ。
まずはだな、そんなに丸いヒロインはいないからな!
俺は3分ほど心の中で説教をする。
声に出さない俺は大人だろう。
「3年以内に痩せないと……」
「痩せたらお前の良いところがなくなるかも知れないぞ」
「えっ?」
むにむにと触って楽しむには丁度いい感じだ。
それに痩せたからといってロリィ以上にはなれない。
何せロリィは俺の理想を具現化した存在なのだから。
どんなに痩せたマチルダが美人だとしても、理想ではない。
美人なだけじゃロリィには勝てないのだよ。
美人なだけで惚れるなら、すでにフーガやリスティナに惚れていたさ。
ツバサちゃんは俺の癒やしなので例外である。
「カズトは今のマチルダも魅力的だと言っているんだよ」
「魅力的……」
ルティナのフォローは、なんか語弊がある気がするのは気のせいだろうか。
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