039_君はオークなんかじゃない
さて、課外授業に参加するなら他にパーティーを探さないとな。
折角のイベントなのだから、計画の為にも是非参加しなければならない。
その為には多少の無茶でもするつもりだ。
だんだん目的と手段が入れ替わってきたような気はするが……
「フラれてしまったのなら、僕と組まない?」
「ルティナか、魔法実技科だったんだな」
1週間ほど前に町で声を掛けてきたルティナがいた。
銀色で少し癖のある長めの髪に瑠璃色の瞳は、肌の白さと相まって、まるで深窓の令嬢のようだ。
隣にはもう1人、軽装備だけど明らかな前衛と思われる、人の良さそうな男も一緒だ。
「はじめまして、ライナードです。
ルティナとは幼なじみで、今回のパーティーでは護衛役をすることになっている」
「えぇ、僕が護衛役じゃないの?」
ルティナは腕を組んで不服そうな顔をしているが、そんな顔もまた美人さんだ――男だけど。
「俺はカズト、折角だからよろしく頼むよ。
魔法実技科のBクラスだ、多少は期待してくれていい」
「こちらこそよろしく。
とても心強いよ。ルティナだけだと頼りなくてね」
そう言うライナードは、爽やかさ溢れる好青年だ。
少し短めの金髪に黄金色の瞳、ルティナと違って男らしい力強い顔立ちだが、何処か気品も感じられた。
幼なじみと言うくらいだからライナードも平民なのだろう。
学園に通えるということは上流なのも一緒か。
お金の掛かるところにはお金持ちがいる。
当たり前だが、借金の多い俺にとっては長いお付き合いをお願いしたいところだ。
「それじゃ受付に行こうか――」
ルティナが踵を返そうとした時、近くで別の声が上がる。
「おい、豚がパーティーお願いしますだとよ!
お前ら女の子にお願いされたんだから聞いてやれよ」
「勘弁してくれよ、オークと一緒出来るのはオークだけだろ」
「ゴブリン共ならメスってだけで相手してくれるんじゃねぇか」
「失せな!」
「きゃっ!」
オークと呼ばれた少女? が、背後に回った男に背中を蹴られ、地面に倒れ込む。
俺は、この世界で魔人族と呼ばれる種族の登場に心躍る。
この国ではエルフやドワーフといった亜人族、それに獣人族を見掛けることがなかった。
出会わないのはたまたまだったが、それらを飛び越えて魔人族の登場だ。
厄介ごとはゴメンとばかりに遠巻きに見ている野次馬はいるが、助けようとする者はいない――俺以外には。
倒れ伏し、痛みと悔しさに震えるオークに3秒で駆け寄り、その手を取って優しく抱き起こす。
擦りむいた肘と膝は『回復』魔法で既に癒やしていた。
「君はオークなんかじゃない……」
「えっ……いた、くない?」
単に太った女の子だった……後ろ姿しか見ていないとは言え、何という紛らわしさ。
魔王を目指す俺にとって、魔人族との繋がりは願ってもいないチャンスだ。
張り切って飛び出したのに何という失態。
「……ありがとうございます」
目を潤ませてお礼を言うオーク――もとい少女を立たせ、抱えた時に付いた汚れを魔法で払う。
たまたま近くにいた少女の服もついでに綺麗になった。
「お前何余計なことをしているんだよ」
「放っておけ、時間だから行くぞ」
少女をからかっていた男は他の仲間に連れられ、パーティー受付へと向かっていく。
「カズト君、優しいね。
余りの速さに出遅れたけど、あの4人は僕が懲らしめてこようか」
「ルティナ、負けるから止めておけ。
カズト、見事だよ。俺は呆気に取られるだけで動けなかった」
「思わずだな」
ほんと、思わずだよ。
当たり前だが、敵対している魔人族が街にいる訳がない。
神落ちした元神様を魔神として崇める魔人族と、その他の種族は基本的に敵対の関係にある。
冷静になればわかることなのに、興味だけで突貫したら駄目だという良い例だな。
「あ、あの、荷物運びでも魔物の解体でも何でもやりますので、一緒に連れて行ってください!」
何故か頬を赤らめた少女が、決死の覚悟といった感じで目を瞑り、俺たちの返事を待っていた。
「カズト君、かまわないよね?」
「リーダーはルティナだろ、リーダーの決定に従うさ」
「えっ、僕がリーダーなの?」
「俺はリーダーとか面倒だ」
ただでさえタキシスの町を動かすのに気を使っているんだ、学園くらい気楽に過ごしたいさ。
「俺もルティナの護衛だからね」
「えぇ~、まぁ、いいか。
それじゃリーダーとしてマチルダさんをパーティーに誘うよ」
このオー……少女はマチルダって名前か。名前負けとは言うまい。
緑色で短めの髪に同じく緑色の目。縦と横の比率がちょっとおかしいけれど、身なりは良かった。
ルティナはマチルダのことを知っていたようだし、やっぱり金持ちは金持ちを知ると言ったところか。
良縁ではないだろうか?
取り敢えず、パーティーの紅一点には違いない。
男所帯よりはましだろう……多分。
どうみてもルティナの方がヒロインぽいのは内緒だな。
◇
私はマチルダ・エルベトラ。
王都からミストリア学園に通う為に来ました。
残念ながら魔法適性は低く魔法実技科には入れませんでしたが、力だけはあったので、戦闘実技科に入ることが出来ました。
特技はお菓子作りと料理。
甘い物が大好きです。
私が美味しそうに食べる姿を幸せそうに見ている両親を見て、私もまた幸せになるのでいっぱい食べました。
そしたら人より少しふくよかになってしまい、これでは体に良くないと学園に通い、少しでも体を動かすことにしたのです。
両親は、有名なミストリア学園の戦闘実技科に入れたことを、心から喜んでくれました。
どうやら痩せることに関しては賛成のようです。
ですが、心配も大きいみたい。
大きな街で暮らしているだけであれば魔物の脅威はありませんが、実技では実際に魔物と戦うことになるからです。
私は大丈夫。
そう伝えたくて課外授業への参加を決めました。
本当は恐いけれど、護衛が付いて守ってもらえるから大丈夫と、自分に言い聞かせます。
ですが、思い切って声を掛けても、誰も私をパーティーには入れてくれませんでした。
「勘弁してくれよ、オークと一緒出来るのはオークだけだろ」
知っていました。私が影でなんと呼ばれているかを。
デブ、豚、オーク、酷い時には肉とか……
今も背中に衝撃を受け、堪らず地面に突っ伏します。
膝や肘に痛みがありましたけれど、幸いにして? ふくよかな体がそれ以上の怪我を防いでくれました。
痛みは立てないほどではありません。
でも、心に力が入りませんでした。
何故こんな扱いを受けなければならないのか。
まるで人として扱われていないことに、とても悔しくて、とても悲しかった。
「君はオークなんかじゃない……」
「えっ……いた、くない?」
突然、誰かが優しく私を引き起こしてくれました。
不思議なことに感じていた痛みは消え去っています。
そして、私が否定したかった言葉を掛けてくれました。
黒い髪に黒い瞳の彼は、私を立たせてくれると、汚れた服を魔法で綺麗にしてくれました。
赤の他人に、こんなに優しくされたのは初めてかもしれません。
物語で見た王子様の登場に、胸が高鳴ります。
顔も何故か熱くなってきました。
でも、ぼーっともしていられません。
彼が背を向けようとしていたから。
だめ、もう少しだけで良いから傍にいたい。
「あ、あの、荷物運びでも魔物の解体でも何でもやりますので、一緒に連れて行ってください!」
今までのような駄目で元々なんて気持ちではなく、ただ本心から願い、その願いは叶いました。
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