034_実はだいたいのことは知っている
北にダンジョンがあり、西には人の手が入っていない山脈。
盗掘するとしたら、麓にあるここタキシスの町は絶好の場所だった。
何せここから真っ直ぐ南下すれば直ぐにバラカス領であり、川を使えば鉱石の運搬も楽だ。
バラカスの領主は何かしらの方法でここにミスリル鉱山があると知り、住民を追い出し、利権にありつこうと考えたのが濃厚だろう。
そして恐らく、その傀儡としてアセドラを使っていたと。
ここの領主は暗躍を許しすぎだろう――あ!?
そう言えば、領主の使いとか言って会いに来た奴が居たな。
俺は捉えていたヴァッセル男爵の元に向かう。
一応身分が身分なので、牢屋ではなく館の一室に監禁している状態だった。
部屋の中には、醜く肥えていた体も随分と引き締まった男の姿があった。
どうやら1日2食が健康的な生活だったらしい。
「随分と健康そうだな」
「貴様はっ!
俺にこんなことをしてどうなるかわかっているんだろうな!
さっさとここから出せ!」
「いや、あれから随分と経つが何も起きていないぞ」
「そんな馬鹿な……」
「それが証明に俺は生きているし、お前の助けも来ていないだろ」
ヴァッセル男爵は初めこそ食って掛かるといった勢いだったが、現状を認識し、膝から崩れ落ちる。
あれから3週間。
信じたくはなくても考えずにはいられなかったのだろう、自分が切られたとは。
ヴァッセル男爵と共に来た護衛の騎士はとっくにとっくに解放していた。
本当なら泣きつく護衛の言葉に後ろ盾が動くことを期待していたが、動かなかったな。
「と言うことで、お前にはもう飯を食わせる価値もない。
何かしら俺に利となる情報がないなら後は死んでもらうだけだ」
「俺が死ぬというのか!?」
「だれだって死ぬ。
その心臓に剣を突き立てるだけでな。
貴族が特別不死身って訳でもないだろ?
それともお前は心臓に穴が開いても死なないのか?」
俺は死なないみたいだけど、それはおいておく。
「……ある」
「あるなら話せ。
十分に利のある話なら、お前を解放しよう」
ヴァッセル男爵はしばらく思い悩む様子を見せたが、結局命を取ったようだ。
「俺が『魔力炉』を要求したのは領主様の要求じゃない、俺の私欲だ。
この町が急に発展し、あまつさえ『魔力炉』を手に入れたなどと俄には信じられなかった。
だが、理由はどうあれ『魔力炉』を手に入れれば、領主様の救いになると考えたからだ」
嘘は言っていないだろうが、本当のことも言っていないな。
町が発展したのは最近だ。
だが、ドルトスやガマガエルはその前から動いている。
2人とは関係ないという可能性もあるが――
「ミスリル鉱の為じゃないのか?」
「なぜそれを知っている!?」
言ってからハッとした表情を見せるが、時既に遅し。
「実はだいたいのことは知っている。
だからお前が嘘をつけばその場で終わりだ。
この町に最初に手を出した時から話せ」
観念したヴァッセル男爵の話す内容は、概ね想像通りだった。
ただひとつ違ったのは、ヴァッセル男爵がここアセリア領の貴族ではなく、南のバラカス領の貴族だったと言うことか。
俺はてっきり、この領の話だからこの領の領主の命令で来たのだと思っていた。
だから一度領主の顔でも拝もうと領都に行ったというのに……まぁ、学園ライフという目的もあるが。
ドルトスとの関係も自白した。
ヴァッセル男爵が表の仕事を、ドルトスが裏の仕事を担当。
隣町ビルモをかつて支配していたアセドラとも繋がりがあり、資金援助も行っていたようだ。
アセドラにより、この辺一帯を吸収合併という名目で吸収だけをし、後は無人に。
抵抗が大きければ井戸に毒を流し、復興が始まれば盗賊を放って商人の足を止め、その邪魔をする。
だが、一向に潰れる気配を見せないタキシスの町を、一度視察の名目で訪れたのがヴァッセル男爵だった。
「全てはバラカスの領主がミスリル鉱を手に入れる為か?」
「それがあれば南部領でも一番の資源を得ることが出来る。
そして領軍の装備も格段に上がり、それはそのまま領の発言力となる」
「随分と強引な作戦だな」
「われわれも焦っているのだ」
「そりゃ、戦争中だからな」
ここクオルディア王国と南のルドニア王国は長らく戦争の最中にある。
ただ、領土が接する部分は少なく、局所戦と言った感じだ。
その場所が問題のバラカス領となる。
タキシスはバラカス領の境界に近い町だが、魔物の住む森がある為、商隊も迂回する必要のあるこの道を通らない。
ビルモの町を抜けていくのが普通であり、忘れられつつある町といっても良かった。
獲物が獲物だけに、多少強引であろうと南の領主が手を出すには十分な理由でもあった。
ましてや、戦の最前線となればなおさらだろう。
ミスリル鉱は軽量で高剛性だ。
それを購入ではなく入手出来るのであれば、武装を国内でも随一と言える程には強化出来る。
当然、武力を背景とした発言力も高まる。
間が抜けているのは、そんな工作に気付かないここの領主だ。
とは言え、俺も気付いていなかったのだから間抜けは一緒か。
おかげでミスリル鉱の存在に気付かせてもらったので、間抜けと言われるのも甘んじて受けよう。
「だが、これは領主様の知らないことだ。
俺が勝手にやったことに偽りはない」
知らないのはあちらの領主もだった……
本心にも聞こえるが、真相とかどうでも良いか。
邪魔なら潰すし、利用できるなら利用するだけだ。
これによってタキシスの方向性は大きく変わる。
地下資源が無いと思った時、何かしら金の成る木を用意する必要性から『魔力炉』が生み出す魔力を売ることで外貨を得ていた。
だが地下資源としてミスリル鉱が使えるならそれを売ればいい。
そうすれば『魔力炉』を今度は動力として使えるようになる。
鉱山の運営には様々な動力が必要になるわけで、それを自前で用意出来るなら馬鹿みたいな利益になるだろう。
売る先はきちんと考えないと、自分の首を絞めることになるが、目下の所は金が必要だ。
先のことを考えすぎても、目の前の問題を乗り越えられなければ意味がない。
何せ、国と戦える程度の力を手に入れるという話なのだから、やる事はいくらでもあるし、お金はいくらでも掛かる。
「いい情報だった。
約束通り解放する」
ヴァッセル男爵は冷や汗を拭うとホッとした表情を見せた。
俺は約束通り解放したが、ヴァッセル男爵に戻る場所があるかどうかは知らないし、そこまで気を回してやるつもりもなかった。
後はいつまでもこの町にちょっかいを出している奴に、釘を差して置くくらいか。
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