032_お前が好きな物をくれてやる
「まじめにやっているじゃないか」
「ダンジョンの3層は御免だからな」
見渡せばバルド以外に男が4人。
女はちっぱい魔術師ともう1人、ちっぱい魔術師に『回復』魔法を使っている2人だ。
今更だが、魔術師がもう1人いたんだな。
ただ、『再生』の魔法は使えないようで、傷は治るが目の機能その物は失われていた。
お願いされたら喜んで直してしまうところだが、ちっぱい魔術師は目を合わせようとしない。
なかなか強情だな。
俺としては困る訳ではないので、取り敢えずこのまま様子を見よう。
それに、どことなく中二病らしくなっているじゃないか。
今度、義腕でも作ってプレゼントしよう。
後、眼帯もだな。
きっと喜んでくれるに違いない。
それより――
「1人足りないな」
「すまない、3日前の戦いで拉致られた」
なんだと!?
「私がいけないんです、相手に情けを掛けたばかりに人質になった私を助けようとして身代わりに……」
もう一人の魔術師が涙ながらに事情を話す。
奇妙だな。
別に人質交換などせずに2人とも連れ出せば良かったのに。
仮に1人しか連れて行く余裕がなかったとしても、だったらなおさら人質交換なんかしている場合じゃないだろう。
それにしても、この3人はいずれ俺のハーレム初期メンバーにするつもりだったのに、なんてことだ計画が狂った。
俺は直ぐに『索敵』魔法を使い、連れ去られた女の所在を調べる。
すると、バラカス領北部のバネッサの町にある、大きめの屋敷にいることがわかった。
領主が囲っている男、今回の黒幕がここにいるかもしれないな。
連れ去られた女の名前はリディア、たしか剣と盾を使う剣士だったはずだ。
タイトスカートに眼鏡の似合う、赤毛の少しきつめの顔をした女だった。
3人は『鑑定』魔法で処女だとわかっていたが、たった今鑑定の最中に処女から非処女に変わった。
残念でならない……
どうしてその瞬間が俺の手によるものでなかったのか。
経験不足というのは、それほど業の深いものなのか。
こうなったら、直ぐにでもツバサちゃんの集中講座を受けなければなるまい。
でなければ思わぬところでハーレム要員がいなくなってしまう。
今頃、リディアは俺の想像も付かないようなことになっているのだろう。
その様な場所に向かうのはわりかし度胸がいるものだ。
カノン、アリア、フーガを助けに入った時は未経験だったから、想像もある意味空想だった。
だが、経験済みとなった今では妙にリアルな想像が頭をよぎり、経験値の低さからリディアを貪る男どもを尊敬してしまうかもしれない。
先輩、素晴らしいです!
その技を俺にご教示ください!
言いそうだ、いや、きっと俺は言う。
そしてリディアを相手に練習してしまうのだろう。
だが、そこでバレるのだ、この下手糞がと……
俺にとってその一撃は致命傷に至る。
未来永劫トラウマとして心に残るに違いない。
それだけはなんとしても避けなければ。
「なぁカズト様よ、さっきから何を難しい顔してるんだ」
あっ、いいことを思いついた。
別に俺が助ける必要はないじゃないか。
俺は全員まとめてリディアの連れ去られた館に『空間転移』をする。
実は転移先が認識出来なくても、『索敵』と合わせることで行ったことがない場所に飛ぶことが出来るとわかった。
ひとつの目的を達成したことで満足し、その先を知ろうとしないから色々と抜ける。
「ここは一体?」
「その階段を降りたところにリディアがいるから回収してこい。
そこにいる男どもは殺すな。
代わりにアレを切り取って口に突っ込んでこい」
「……そいつぁ最悪だな」
「後はリディアの好きにさせればいい。
俺はちょっと野暮用をこなしてくる」
それだけを言い俺はその場を後にした。
◇
夜の館は薄暗く、どことなく不気味な感じを受けるのは、元の世界と違って
リディアが穢される前、その場から離れていく反応があった。
向かう先はこの屋敷の3階の奥、おそらく私室と思われる部屋。
その反応を取り巻くように4つの反応もあることから、1人ではない。
その部屋に直接転移すると、目の前にいたのは醜悪な姿をした、おおよそ人間とは思えない容姿の男だった。
まるで巨大なガマガエルの様な体形の男が、キングサイズのベッドでさえ狭いといわんばかりに身を横たえている。
その周りには、這いつくばるようにしてガマガエルに奉仕する女が4人いた。
逃げられないようにだろうか、四肢の健が切られている様で、手足は投げ出されるようにして力なくぶら下がっている。
全員が素晴らしいプロポーションの持ち主で、美女、美少女といっても過言ではない美しい女たちだが、その四肢が動かないのが非常に惜しすぎる。
これでは魅惑的なポーズをとってもらい、恥ずかしがる様子を堪能するというプレイが出来ないじゃないか……もったいない。
そして何故リディアがここにいるのかがわかった。
4人の女はリディアと同じ特徴を持っている。
どうやらガマガエルは、赤毛でキツい顔立ちの女を服従させるのが好みのようだ。
それは成功している様で、女たちはガマガエルに奉仕することが至上の喜びとでも言うような、恍惚とした表情を見せているのが気にくわない。
その表情を見せるなら、是非俺にしてもらいたい。
「誰だ貴様は!? いつ入ってきた!!」
「リディアを攫ったのはお前か」
俺はガマガエルの質問に答えず、聞きたいことを聞く。
「ドルトスの奴め、俺を売ったのか!」
ゴールじゃなかった……まだ後ろがいるのか。
「それでお前は何が欲しいんだ。金か女か?」
「どっちもに決まっているだろ」
「はっ、強欲なガキだ。なら――」
ガマガエルが俺に向かって左腕を差し出す。
その腕の先、汚らしい指に付けられた指輪が光り、菱型の土の塊が出現すると同時に、俺に向かって飛んで来た。
俺はそれを左手で掴みとり、投げ捨てる。
そのまま食らっても『魔法障壁』で防げるが、土系は砕けて埃が舞うのでわざわざ受け止めておいた。
逆に土埃で視界を奪うのもまたこの魔法――『
「馬鹿なっ!?」
「さて、お返しが必要だな」
俺はガマガエルが使った『土矢』を再現する。
その先はまるまると太ったガマガエルの腹だ。
「ま、魔術師か!? や、やめろ!
こいつをやる、俺の最高傑作だ!」
ガマガエルは、こんな状況においても股間に顔を埋めて奉仕を続ける女の頭を鷲掴みすると、そのまま投げ放つ。
いくら小柄な女とはいえ、片腕で人を投げつけるとかどんな腕力してるんだよ!
俺は投げつけられた女を受け止める。
女は首の骨が折れたのか、口から泡を吹いて意識を失っていた。
俺は取り急ぎ『回復』魔法で命を留め置く。
敵対している訳でもないのに、美人さんが死ぬ必要はない。
「ドルトスとは何者だ?」
「領主様の使い走りだ! クソがっ人のことを売りやがって!」
「なぜ盗賊を街道に放つ?」
「そんなこと知るか!
俺は捕らえた女を自由にしていいと言われただけだ!」
「知っていることがそれだけだというなら、もうおまえに用はない」
「さっさと消えろ、目障りだ!」
ガマガエルは怯えていた様子を隠すように上体を反らし、冷や汗を垂らしながら虚勢を張る。
「あぁ、だが先に言ったとおり金と女はもらっていく」
「糞ガキが……」
「代わりにプレゼントじゃないが、お前が好きな物をくれてやる。喜べ」
「なっ――ぐわああぁぁぁあぁああ、いでえぇぇえ!!」
俺はガマガエルの四肢を切り取り、傷口を焼く。
吹き出したどす黒い血が焼け、胸糞悪い匂いが鼻を突いた。
自分でやっておいてなんだが、部屋の中でやることではなかったな。
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