026_ロリィ様々です
「それで勇者はどうなったんだ?」
「人間に嫌気が差したみたいで、賢者になって数人の仲間と山に引き篭もっていたわ。
魔法は勇者が死んだあとに、仲間が下山して広げたのが始まりね」
与えられた知識の中では、5人の賢者によって魔法がもたらされたとあるが、実際にはその上に勇者が居たのか。
ちなみにロリィの話では、その5人は勇者と共に引き籠もった奴等らしい。
勇者が死に際に魔法を5人に伝え、自信が付くまで鍛えてから下山した5人が賢者と言われているとか。
そんな裏事情、知りたくもなかった。
「他の神々はロリィが魔法を広めたとは知らないのか?」
「知らないでしょうね。
いくら神でも感知していないことはわからないし、私も気付かれないようにこっそりと動いたから。
他の神々は、人間が奇跡を器用に真似したと思っているみたいだけれど、余りにも稚拙だから興味もないみたい」
「神々の力と比べられてもな」
「カズトの力はそれらとは別格よ。
ノーリミットで私の力が使えるんだから」
「ロリィ様々です」
「お礼は契約の履行で十分よ」
ロリィが進化する為に必要な『思いの力』を集める。
それが俺とロリィの契約だ。
その為に邪魔となるのは、ロリィと同じように臣下を求めて動いている神々か。
中でも、考えておくべきは南の勇者だろう。
勇者を別の神様が支援しているというのなら、いずれぶつかる可能性も考えておかなければならない。
まぁ、神様が出て来たらロリィにお願いするしかないな。
俺が相手に出来るのは勇者までだ。
「魔法を使えない人間もいるんだよな?」
「魔力は、魔力を生み出す因子を持つ者だけが持っているの。
これは遺伝で薄まりながら広がっているから、弱い因子を持つ者は多いはずだわ」
魔法を習うには金が掛かる。
誰もが裕福という訳ではない。
だから、因子は持っていても、自分に魔法が使えるとは知らずに一生を終える者も多いらしい。
むしろ、その方が普通だとか。
ん? フーガは使えないけれどカノンとアリアは魔法が使えるぞ。
つまり2人にも魔力を生み出す因子があったという訳か。
そんな事を気にもしないで教えていたな。
自分が使えるからと、みんなが使えるものだと勝手に考えていた。
カノンとアリアに魔法を教える時、フーガは魔法が使えないと言っていた。
その時はスルーしていたが、自分に素質が無い事を知っていたのか。
「中には、薄まった因子同士が反応して強い因子を持つ者が生まれるようね。
ただ、狙って生まれる訳じゃないから、こういった学校で素質のある人間を見いだそうとしているみたい」
魔法は強力だが、
魔力が無限という訳でもないし、魔法で対抗するという手もある。
その程度の存在であれば、手駒として欲しがる者も多いか。
「人間が色々と可能性を求めてくれるおかげで、良いことがわかったわ。
既に因子を持っている者同士が混じり合うことで、安定して中程度の因子を持つ者が生まれるの。
それを歴史として知っている人間は、強い因子を持つ魔術師を囲うようになって力を持ち、貴族となっているのが今の世界の有り様よ」
「力は明確な指標だからな。
上に立つ者が弱ければ、まとまるものもまとまらない」
「1000年経った今では、潜在的な的な魔術師の数は貴族社会よりも多いかも知れないわ」
だが、実際のところ平民の魔術師は少ない。
魔法に関する知識を貴族が独占しているからで、そのお零れを頂く感じで僅かにいるだけだ。
ビルモの町のアセドラに雇われ、今では俺の奴隷となっているちっぱい魔術師も、そんな中の1人だろう。
ダンジョンの攻略や古代遺跡の探索など、魔術師の存在は必須だ。
さすがに平民の魔術師の存在をまったく許さないという訳にはいかず、その結果が学校に通えるほどの富裕層の内2割ほどと言う比率に繋がる。
平民に力や知恵を付けさせたくない気持ちは分かる。
その方が操りやすいからだ。
この辺りは利用できるな……
タキシスの町に魔法学校を作り、才能がありそうな奴に安価、あるいは奨学金制度でも作って教育を施す。
本来なら、魔法を使う為の教育を受ける為にはそれなりの財産が必要だが、その敷居を下げる。
今までは潜在的な魔術師予備軍がロリィの言う通り多いとしても、実際に魔術師になれるのは様々な条件の揃った一部の人間だけだ。
だが、もし魔法が安価に覚えられるとなれば、貴族が黙っていないはずだ。
既得権益が侵されるのだから、平民が力を持つ事に反対し、大きな壁となって立ちはだかるだろう。
今まではそれが出来るだけの力が合った。
だからタキシスの町人も、俺みたいな小僧に頭を下げるのだ。
町を救ったという感謝の気持ちが無いとは言わないが、上級魔術師は平民にとって貴族相応の扱いとなり、俺に対する態度もそうしたことが背景にある。
その貴族を、抑圧され続ける平民にとっての明確な敵として誘導できれば、国を、あるいは世界を二分する戦いに持って行けるかもしれない。
悪くない。
聖女計画が頓挫することも考えて、二段構えで行くか。
「27番、カズト」
そんなことを考えていると、俺の番が来た。
思考が逸れたけれど、今大切なのはこの場をどう切り抜けるかだ。
計画通り確実に事を運ぶ為、まず対象の対魔障壁にこっそりと『絶対障壁』を掛ける。
それすら全力の攻撃の前には絶対ではないという矛盾を抱えているが、ここでは手を抜くから大丈夫だ。
選んだ魔法は土属性魔法の『
いわゆる初級攻撃魔法で、最初に習う魔法と言っても良いほど初歩的なものになる。
火属性魔法の『
眼前に茶色の魔法陣が現れると、その中心に土の塊が生成されていく。
攻撃が良く見えるように、大きさはバスケットボールほどとし、三角錐にしてゆっくりと標的目掛けて飛ばす。
『土弾』が狙い通り秒速1メートルほどの速さで飛んでいくと、対魔障壁にぶつかり、ゴリゴリと音を立てながら先端から砕け散っていく。
対魔障壁にはちょっと傷がついた程度で、備え付けられた魔石から魔力を吸収し、すぐに自動修復されていた。
『土弾』のすべてが木っ端みじんになっても、対魔障壁が無事に残っているのを確認し、やり切った気分に浸る。
しかし、なぜかみんなが目を丸くしていた……なぜだ?
基本魔法でスピードも遅く威力も弱かったはずだ。
「い、今の魔法は何かね。
詠唱をしていなかったようにも見えるが……」
あっ……
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