024_穢されし者
と言う訳で、早速町を出ることにした。
その事を3人娘に伝えると、捨て置かれた子猫の様な表情を見せたが、一緒に連れて行くと伝えると、安心したのかその場にへたり込んだ。
俺は3人娘を放置して、今後の展開をロリィに伝える。
「取り敢えず方向性は間違ってなさそうなのでこのまま継続するが、いい加減にお預けを食らっていた花の学園ライフに身を投じたい。
折角だからこの辺で一番大きい領都の学園に行きたいと思う。
ちょうど新年度の学生募集をしているし丁度いい」
「まだ固執していたのね」
「働いて食べる食事は旨かっただろ。
学校で学ぶのも楽しいと思えないか。
それにカビの生えた知識を更新するチャンスだぞ」
ロリィは少しだけ思案する様子を見せ「面白そうね」と答えた。
パパッと空を飛んで行っても良かったが、よく考えたら何も急ぐ必要はなかった。
急いで行ったところで入試が早まるわけでもない。
それに、俺は不老だし魂の寿命も1000年はあるという話だ。
そんな長い人生の中で意味もなく急ぐ必要はない。
だから、この世界を楽しむべくこの世界らしい移動方法、つまり馬車を利用することにした。
だが、途中で乗り心地の悪さに辟易した俺は、馬車の改造を行う。
知識を探りそれらをつなぎ合わせて、『精錬』と『生成』の2つの魔法を駆使ししてバネを作成する。
それだけでは納得がいかず、衝撃緩和装置を追加することでようやく満足な乗り心地になった。
たかだか馬車にどれだけ情熱を注ぎこむのか、という話だが、我慢しすぎるのも体に毒である。
それに、あれこれ対策をとってどんどん良くなっていくのは、実に生産的で面白かった。
「これ、すでに馬車っていうのかしら?」
「馬が引く車だから馬車でいいだろう」
「まぁ、この居眠りしたくなる感覚は好きだけれど」
乗り心地が良くなりすぎた馬車では3人娘が仲良く昼寝をしていた。
この3人は身の回りの世話をさせる為に連れてきたのに、主を差し置いて寝るとはけしからん。
取り敢えずお仕置きにフーガの胸を揉んでおく。
ほどよい大きさで弾力のある、なかなか良い揉み心地だった。
流石に目を覚ましたが、俺の行為に頬を赤らめてじっと耐えている。
そんな表情をされたら止まらないのは男として正常だろう。
呆れたロリィに止められるまでもみもみもみは続く。
とても至福に満ちた時間が得られたと思えば、馬車の改造を頑張った甲斐があるというものだ。
◇
いくつかの町を抜け、いくつかの都市を抜け、何人かの盗賊を返り討ちにし、何匹かの魔物を討ち取った後、ようやくアセリア領の領都リンブルグでに辿り着いた。
領都はしっかりと石壁で囲まれた都になっていて、魔物だけでなく危険な動物や外敵となる人間も容易には攻めてこられないようになっていた。
石壁は人が上を歩けるほどの幅があり、適当な間隔を置いて衛兵らしい人が見回っている。
地方都市で抑えきれなかった魔物が、数年に一度という程度で王都にまで達することがあるらしい。
殆どの魔物は道中で騎士団や冒険者に狩られるが、それを生き延びた高ランクの魔物は、大型の『魔力炉』がある王都を目指し、ただひたすら突き進む。
手を出さなければ人間の存在など気に掛けることもなく進むことから、逆に人間への被害は少ない。
むしろ、それら高ランクの魔物を盾に、お零れに預かろうと出てくる魔物の方が狂暴で厄介だったりする。
だから小物のみを排除し、大物は王都の鉄壁とも言える壁に到達した時点で包囲し、あらんばかりの火力を持って一気に仕留める作戦が使われる。
その方が遠征に出向いたあげく、動き回る魔物を相手に散々な目に遭うよりも、被害も費用も少なくてすむようだ。
背水の陣だけあって抜かれた時は一国の終だが、それだけ守りに自信があるのだろう。
門越しに見える領都の中央には城らしき建物が見え、付近には神殿や豪奢な造りの館がいくつも立ち並んでいた。
そして、それらを中心に広がる町は活気に満ち溢れ、通りを往く人々にも笑顔が多かった。
「流石に地方の町とは違うな」
意外と良い領主が収めているのかもしれない。
その使いで来た貴族は馬鹿だが。
「人がいっぱいいるです!」
「こういう時は人がゴミのようだ、と言うらしいですよ」
「人がゴミのようだ!」
和やかにとんでもないことを言っているカノンとアリアに呆れつつ、教えたのが自分だったことを思い出す。
ここはスルーしておこう。
領都に入るには、石壁の東西南北に作られた門を抜ける必要がある。
当たり前だが、門には門番らしい衛兵がいて、入門に絡む手続きをしていた。
俺たちは怪しくないので問題なく通り抜けられるはずだ。
「どこから来た?」
定番の質問に、俺はすぐ答えられなかった。
なぜなら自分のいた町の名前を知らなかったから。
大誤算だ。思わず戸惑う俺に衛兵が訝しがる。
「タキシスの町から来ました」
答えたのはフーガだ。
さすが俺の秘書、頼りになる。
「目的は?」
「学校の入学試験を受ける為だ」
今度は言えた。俺は目的を持って行動する男だからな。
「全員か?」
「いや、試験を受けるのは俺と隣のロリィで、他の3人は身の回りの世話役になる」
「……わかった。最後にここに手を乗せてくれ」
なんか透明な水晶球みたいなのを示す。
素直に手を乗せてみた。
その瞬間、体の中を小さな電気か走り抜けるような感覚があり警戒したが、それ以上は何も起きなかった。
「賞罰はないようだし行って良し」
改めて知識を探る。
なるほど。この水晶球は個人の生体情報をキーワードとして『世界の記憶』を覗ぞき、『称号』を確認するものだった。
『
そして『世界の記憶』に俺の『称号』として記録されているものは何もない。
つまり賞罰を受けていないと判断された。
あれだけ暴れて来たし、そのうち手駒を裏切って魔王になるつもりの俺に賞罰がないというのも不思議だが、気にするだけ無駄だ。
次はロリィの番だが、ロリィも『称号』が何もなかったようだ。
おかしいだろ。
さすがに『暗黒神』とは出なくても何かしらあってもいいと思う。
それらから考えるに、個人の生体情報に紐づく『世界の記憶』を探るので、この辺に鍵がありそうだ。
例えば、異世界から転生してきた俺や、そもそもこの世界の理とは違うところから来たロリィは、この水晶球の仕組みでは確認出来ないといったところか。
壊れていないのは3人娘が称号を得ていたことでわかっている。
カノン。『無慈悲なる剣士』『穢されし者』
アリア。『無慈悲なる魔法少女』『穢されし者』
フーガ。『無慈悲なる舞踏家』『穢されし者』
3人の称号を見て、衛兵が俺に疑いの目を見せる。
と言うか、最後の称号いらないだろ!
なんでわざわざ『称号』になるんだよ。
それになんで3人とも無慈悲なんだよ、訳がわからん!
疑いの目で見られつつも賞罰がないので、領都へ入ることは出来た。
危うくつまらないところで計画が頓挫するところだった。
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