022_この身でよろしければいつでもお使いください

 町長に与えられた館に『空間転移』で戻った俺は、フーガに刺されそうになっていた――いや、刺されていた。

『魔闘気』が仕事をしなければ、その刃は俺の首に食い込んでいただろう。


 まぁ、容姿を戻し忘れて飛び込んだ俺が悪い。

 フーガは秘書として……は、ちょっとやり過ぎな対応をしたまでだ。

 元の姿に戻った俺を見てフーガは困惑し、少女は驚きに目を見張る。


「申し訳ございませんカズト様、このお叱りはどのようにでも。

 もしこの身でよろしければいつでもお使いください」


 お使いくださいって、そんなものじゃないだろ。

 変に壊れてしまったところは、なんとか直しておいた方が良いのだろうか。

 俺の知識を探っても、魂の改変レベルのことをしなければ直せないみたいだから、出来ればやらずに済ませたいのだが。

 さすがにそのレベルになると神の領域であり、その力の一片を授かっただけの俺には難しい。


「いや、俺も悪かった。

 今のはなかったことにしよう」

「それは残念です」


 何が残念なんだか。


「それが本当の姿なの? それも魔法?」

「そう言うことだ。

 死んでこの世界に来る前の、君と同じ世界での姿だ。

 知り合いに会ったら面倒だから姿を変えていた」


 本当はミッションに失敗した時、素の自分でダメージを受けるのは嫌だっただけだが。


「フーガ、しばらくこの子を預かってくれ。

 名前は……聞いてないな」

「私は――」

「リスティナだ。

 今日からその名前を使え」


 リスティナは俺の意図を理解したようで、頷いて答えた。

 あの世界で消えたいと願った少女に、あの世界の名前はもういらない。


 俺はフーガに、リスティナを客人としてもてなすよう伝え、ただし、しばらくは存在を隠すようにも伝えた。

 ある計画が頓挫する予感があり、そのフォロー役にリスティナを使う予定だからだ。

 もしかしたら本人は嫌がるかも知れないが、その時は『隷属』魔法を使えば良い。

 望みは十分に叶えてやったのだから、それくらいの見返りは問題ないだろう。


 ◇


 一通り事を終えた俺は、再び『空間転移』で、とある町に飛ぶ。

 突然俺が現れたように見えた・・・通行人の何人かが目を丸くしていた。

 俺はその反応を無視し、周りを見渡して怪しいネオンの集まる繁華街に足を向ける。


 そう、俺が向かっているのは夜に女の子が働いているお店だ。

 出鼻を挫かれはしたが、リスティナの肢体は実に俺の欲望を刺激し、いい感じにテンションが上がっていた。


 当初の計画通りここで経験を積み、「キャー、カズト様。素敵!」と言われるようになったら本番デビューをする。

 ここでの経験はノーカウントだから問題ない。

 便利だなノーカウント、ロリィ様々である。


 俺は意気揚々とネオン街を歩く。

 お金の心配はなかった。

 ゴミ掃除・・・・をした時に、お金が手に入ったからだ。


 折角だし、へんに安いところは止めて、中々良いお値段のところに入ってみた。

 本来の年齢ならアウトだが、不細工中年の顔になっている今は全く問題がない。

 そもそも俺はこの国どころかこの世界の人間ですらないわけで、動く治外法権だ。

 文句があるなら異世界にまで来い。


 むしろ俺の方が、異世界まで来て何をしているんだか……


 そう思ったところで妙に冷めたが、もう後には引けない。

 俺は差し出されたお品書き・・・・に目を通す。

 なかなか良い感じに加工がしてあり、俺の邪眼が試される時だ。

 ここは最初に軽く顔合わせが出来るらしく、いざとなったらオークやオーガが出て来るということがないらしい。

 その点はさすがに高いだけあって良心的だった。


 そして俺は好みの子に初めてのお相手をしていただき、恥を忍んで色々と勉強させてもらった。

 そう言えば不細工中年顔のはずだが、そこはさすがプロ。

 嫌な顔一つ見せずに対応してくれた。


 勉強会は、それはもうとても言葉には表せない甘い甘い世界に包まれた一時だった。

 これは溺れる者の気持ちがよくわかる。

 優しく、ただひたすら優しく奉仕されるこの身のなんと心地よいことか。


 思わずそんなことまで!? と思うようなプレイもあった。

 なんでも正直に初めてだと告げたことに対するご褒美のようだ。

 外国ではないが思わず嬉しくてチップを支払うと、更にあんなことやこんなことまで……


「ふぅ」


 人はどこから来て、何処へ行くのだろう。

 俺は窓から見える星の見えない夜空を見上げて黄昏れていた。


 今日は人生で最も勉強となり、人生で最も多く果てた日だった。

 今後ともご贔屓にさせてもらおう。

 経験値はそう簡単に得られないのだ、積み重ねが大事である。


 ちなみに初めてのお相手の名前はツバサちゃん。

 心の友として忘れることのない名前になった。

 また来ると約束して別れる。

 待っているね、と少し寂しそうに言う彼女の為に、俺はゴミ掃除を頑張ろうと心に誓うのであった。


 ◇


 とてもとても、それはもう人生で一番すっきりした気持ちで異世界に戻ってきた俺は、「女の子の匂いがする」というカノンの発言ですっかり冷めてしまった。

 今度から余韻はこちらに持ち込まないように、向こうで覚ましてくるとしよう。


「安心しろ、俺はロリコンじゃない。

 フーガ以外は対象外だ」

「それは見た目と歳、どちらが対象なの?」


 ロリィは見た目こそ少女になってしまったが、実際には大人の姿もあり、それは俺の理想を具現化したというだけあって、是非お相手願いたい対象でもある。

 暗黒神というだけあり、当然年齢もはるか高みにあり問題ないはずだ。


 とは言え――


「どうやら見た目が重要らしい。ロリィ、早速大人バージョンに戻ってくれ」

「それを聞いて安心したわ」


 そう言ってロリィは仕事に戻っていく。

 と言うか、真面目に土木仕事を続ける暗黒神ってどうなんだ。


 ◇


 その後、約束の1週間を忘れていたことを思い出し、ダンジョンの2層へ飛ぶ。

 そこにはボロボロになった奴隷たちが待っていた。


「……早いじゃないか。

 後1週間くらい待つことになると思っていたぜ」


 バルドは生き残っていたようだ。

 他にも5人の男と3人の女がいた。

 ちっぱい魔術師も生き残っている。

 ただ、みんな無事とは言い切れないな。

 怪我の酷い者やほとんど死に掛けている者、ちっぱい魔術師も左手を失っているようだ。

 俺が現れても憎まれ口の1つも叩けないようである。


「まぁ、上出来だな」


 俺は『再生』『回復』を続けて唱え、生き残った奴隷を全員元通りにする。


「相変わらず出鱈目ね……」


 呆れられてしまった――あれ、ちっぱい魔術師の腕が再生しないぞ。

 脅威の回復能力を見せる俺の魔法に驚きと呆れが見られる中、逆に治らない怪我にみんなの注目が集まる。


 知識を探ってみると、『再生』の条件として元の腕が復元出来る状態にないと駄目だとわかった。

 切って『再生』を繰り返しても、腕の予備が何本も出来るわけじゃないのか。


 では、復元出来ない状態とは何か。

 それは、その腕が別の用途で使われ、『世界の記憶』として定着してしまった時らしい。


「お前、腕は何にやられたんだ?」


 俺が質問すると、ちっぱい魔術師がいきなり吐いた。


「あぁ、それはなぁ。

 俺も思い出すだけで吐きたくなるわ」


 代わりに答えたのはバルドだった。

 何でもここで魔物と戦っている時に突然現れたそいつは、パッと見は人間の女のようだったが何処か歪な雰囲気を持っていて、バルドは見た瞬間にやばいと思ったようだ。

 白い髪に赤い目をしたそれは、少女のような見た目とは裏腹に、バルドたちが戦っていた魔物を素手で引き裂いたという。


 そいつがちっぱい魔術師に近寄ると「その腕を気に入った、もらうぞ」と言って腕に噛みついたらしい。

 その女は、ちっぱい魔術師の腕を噛み千切るとその場で食べ始め、全てを平らげた後、自分の腕を引きちぎり何やら魔法を唱えた。

 すると、引きちぎった所からちっぱい魔術師の腕が生え始めたらしい。


 なんだそれ、気持ちわるっ!

 ちっぱい魔術師が吐きたくなる気分もわかるわ。

 その腕を取り返せば、もしかしたらまだ『再生』の余地はあるかもしれないが――


「まぁ、片腕でも魔法なら問題ないだろ。

 続けて3層に行くぞ」

「なっ!」

「嘘だろ!」

「約束が違うだろ!」

「お願い、もう許してください……お願い……します」


 冗談で言ったのだが、冗談と言えない雰囲気になってしまった。


「それじゃ、まぁ、この辺にしておいて、町に戻るか」


 わざとそうした訳ではないが、下げて上げたら好感度が増したように思える。


 俺は生き残った8人を連れてビルモの町に飛び、しばらくの休養を与えることにした。

 折角好感度が上がったのだから、ここはそれを膨らませておこう。

 男どもには金を与えて色町へ向かわせ、女には個室と金を与えて好きにさせる。

 すでに童貞ではない俺は懐も深いのだった。


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