020_ローカル過ぎて泣いた
なぜこんな簡単なことを他の『魔力炉』を持つ都市がやっていないのかというと、『魔力炉』はいずれ枯れるからだ。
1度枯れたら2度と魔力を生み出さない。
だから、枯らさないように自分の懐の中だけで使うことになる。
一度慣れた者にとって、魔道具のない生活など考えられないからだ。
だが、この町のように小さい、あるいはまだ他の用途に使っていない『魔力炉』であれば当面使い切ることはない。
それに、この『魔力炉』は攻略されずに残った大規模ダンジョンの物だ。
一国の王都でさえ、使い切るまでに数十年は掛かるだろう。
ただ悲しいかな、その生み出される魔力を有効に使う魔道具が少ない為、今は魔力を売ってお金を稼ぐ位にしか使い道がない。
インフラが整えば、税収を上げるという手もあるが、ない物を嘆いても仕方がないか。
今は魔道具工房をフル稼働させているところだから、徐々に揃い始めるさ。
そんな訳で、一夜にして膨大な資産家になる、と言うことは出来なかった。
それでも、これを担保にお金は何とかなるはずだ。
『魔力炉』その物を売るという手もあるが、正直金に換えられる物じゃない。
俺が満足いくだけの金を用意出来る国はないだろう。
『魔力炉』だけに収入源を頼るのは難しい。
本格的にお金を産み出すには、まだ人口が少なすぎた。
よって、何かもう1つか2つは金のなる木が必要だ。
残念ながら地下資源はないようなので、打てる手は多くない。
1つは『魔力炉』がおびき寄せる魔物を相手にした素材商売だ。
強力な魔物の素材は希少価値が高く、素材としても優秀な為、高価な金額で取引がされる。
だから、この町に冒険者ギルドを誘致し、北のダンジョンを中心に活動させればいい。
北のダンジョンマスターはすでに俺が倒してしまったが、強烈な魔力溜まりとなったダンジョンはいまだに残っている。
巨大なだけに、今後数百年は魔物を生み出し続けるはずだ。
ぶっちゃけ、俺が魔物を狩りまくった方が早いのだが、俺1人が頑張ったところで『思いの力』は集まらない。
無料で素材を配りまくれば、一時的には俺に媚びる者たちの思いが集まってくる。
でも、それだけだ。
俺が他の町に行ってしまえば消え失せるだけの思いだ。
それどころか、素材を他の町に配ることで妬みが生まれ、マイナスにさえなりかねない。
それでは意味がなかった。
もう1つ思いつくのは宗教だな。
ロリィ聖女計画を元に宗教を立ち上げ、そのお布施で賄っていく。
幸いにしてロリィは、この町が全滅の危機に瀕している時から関わっているいる1人で、町人の信頼も厚い。
進んで公共事業に着手し、怪我人や病人がいれば煽てられてホイホイ魔法で直している。
本人も満更でもないようで、聖女計画には乗り気だし、丁度いいだろう。
他の神々は魔法で一気にことを成していないのかと聞いたら、なんと他の神々は魔法が使えないらしい。
そう言えば、ロリィが魔力の概念を生み出したと言っていたな。
他の神々は魔法が使えない代わりに、人々が奇跡と呼ぶ力を振うことが出来る。
奇跡は事象の改変というチートオブチートな能力らしく、魔法を覚える必要がないとも言えた。
そんな力があるのに、何故魔法という概念を産み出し、ロリィがそれを使っているのか。
それをロリィに聞くことはなかった。
実は、ロリィには奇跡が起こせない、などという落ちが見えていたからだ。
進化したい理由は、ほぼ間違いなく奇跡の力を手に入れる為だ。
そうでなければ奇跡を使わない理由がない。
他の神々は、下界に降りて直接力の行使をするなど、神霊を穢す行為だと考えているらしい。
だから、信託とたまに起こす奇跡を用いて『思いの力』を集める。
奇跡はたまに起こるから奇跡なのであって、常用化されたら有り難みもないから、丁度良いのかもしれない。
それじゃロリィの1人勝ちじゃないか?
と思ったが、信仰の力は意外と侮れないんだった。
それを俺は元の世界でよく知っているはずだ。
そういう意味では、暗黒神だけあって信仰する者がほとんどいなかったロリィは、自分で直接動くしかなかったわけだ。
「ロリィ、もしかしてボッチなのか?」
「そんなわけないでしょ。
2番地の石屋のベルベットとは3時のおやつをよく一緒するし、5番地の大工のミミルはいつも私の後を付いて回るかわいい子よ」
ローカル過ぎて泣いた。
◇
俺は1つ、事を進めるにあたって重大な問題を抱えていた。
今はそれに対する対策を考えているところだ。
この問題をうまく解決しないと、俺は威厳が保てなくなる。
有名税ではないが、もし失敗すればそれは尾びれがついて広がる可能性を秘めていた。
その時、俺を目にした人々は頭の中に思い描くのだ。
そして現れるのは嘲笑と哀れみだろう。
それだけは避けなければいけない……
だから、失敗を避ける為に計画は念入り建てた。
後は、いつどこで実行するか、それが問題だ。
いつはともかく、場所は今後も全く無縁の場所が最適だが、それは何処か。
異国のさらに辺境とか……まさかとは思うが、試してみるか。
俺は
「冗談みたいな話だな……」
いつもの『空間転移』と同じ感覚で、俺は元の世界に戻っていた。
日の落ちた公園は、僅かな外灯だけが照らし出す不気味な雰囲気を纏っている。
まだ2ヶ月程度の時間しか空いていないにも拘わらず、懐かしい光景に懐かしい匂い。
俺はいつでも戻ってこられる……
万能すぎる魔法に、驚きと呆れ、ついで笑みが溢れた。
可能性が広がるのは嬉しいじゃないか。
幸いこの公園は広く、近くには人影もない。
この暗さなら、突然現れたところを見た人はいないだろう。
問題は服装がちょっと、いや全くこの世界観に合わないことか。
ここはまだ自然公園だからいいが、街に出られる格好ではない。
俺は知識を探り、服を作るのに便利な魔法がないか調べた。
さすがに素材自体は必要だが『生成』の応用で何とかなりそうだ。
今まで着ていた服を素材に、新しく作り出したのはごく普通のシャツとジーンズ。
ここで意表を狙う必要もないだろう。
靴は今はいている革靴で問題ない。
と言うか、魔法が使えて良かったな。
もしこの世界で使えなかったら戻れないところだった。
その時はロリィが怒って呼びに来る気もするが、それがまた死ぬ時だと先が長すぎる。
ともあれ、本来の目的に従い俺は動き出す。
この世界での失敗であれば向こうの世界には全く影響しないから、安心して失敗が出来るというものだ。
さすがにこれから行うことは知識だけでは難しく、実際に自分で動いて体験しないといけないのが問題だ。
魔法は知識だけで何とかなるが、剣技は知識だけじゃ全く駄目なのと同じだな。
ただ、剣を振るうこと自体は格好が良いので、その格好良さに似合う剣は用意している。
さて、元の世界は元の世界で面白いことがあるから、派手なことをするにしても身バレは防いでおきたいところだ。
『造形』の魔法で姿は変えられるが、カメラは誤魔化せるのだろうか?
俺は試しに『造形』を使い、30歳前後に見えるようにした。
そして美男子度を半分に落とし、髪の色といくつかの特徴点を変えてみる。
一言で言えば埋没した個性という感じだな。
元が良かったので、随分と不細工になった気もするが、まぁいい。
この状態でトイレの鏡に映る様子を見たところ、きちんと『造形』が掛かっていた。
これなら多分カメラとかも誤魔化せるだろう。
精神に作用する魔法ではなく、光を屈折させている訳でもないようなので、触られても安心だ。
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