016_ここにひとつの夢が尽きた
「ロリィ、何か面白いことはあったか?」
「アリアが刺されたから回収して『再生』したくらいかな」
「それが面白いというのはどうかと思うが、アリアはまた刺されたのか。
攻撃に特化させ過ぎじゃないか。
少しは身を守れないとダメだろ」
「そうね……そもそも魔術師として育てているのに、何で前線でロッドを振り回しているのかしら」
「攻撃の手段は教えても、それを効率的に使う方法を教えていないからじゃないか。
先に飛べるようにして空中から魔法を放てば随分違うだろ」
「私には当たり前の事を伝えるのは意外と難しいわね」
ロリィが腕を組んで首を傾げる。
確かに自分でやるのと教えるのじゃ勝手が違う。
「まぁ、俺もカノンに飛んでいる魔術師への対策を教えていないし、お互い様だな」
「次の決闘までに考えておくわ。
カズトの方は何かないの?」
「こっちは面白いことになる。
数日後じゃないと結果は出ないが」
「そう、楽しみね。でも、この戦いはもう飽きたわ」
「それじゃ、このまま手駒が減っても面白みがないから一つ手を打つか」
俺は戦場に降り立ち、ここで戦う衛兵、冒険者、傭兵、そして町人に、この戦いが終われば2代に渡って免税を約束すると伝えた。
越権行為だが、その分は俺が払えばいい。
人頭税だから人数分のお金さえあれば、上は誰が払おうと関係ないからな。
ざっと見たところこの場にいるのは100人位だし何とかなる。
あれ、最初も100人、だいぶ死んでいるのにまだ100人いるな。
後から参戦してきたやつらも多いのか。
俺の言葉が噂となり広がったのか、時間を追うごとに手に木を削っただけの槍を持った町人が増えていく。
それにはアセドラの私兵もたまらず、押し出されるように町の外へと逃げだしていった。
「うおおおおおっ!!」
「追い返したぞ!」
「町を守ったぞ!」
戦いの高揚感からか、それを見た町人の中から勝ちどきが上がり、それが伝播していく。
その勢いのまま追撃を始める者まで出ていた。
最後にアセドラ側の魔術師が唱えた『火球』が、後を追うように外まで追いかけていった奴らの近くで炸裂し、10人ほどが火だるまになっていた。
戦況が優位になったところで、飛び出していったところを狙い撃ちされている。
勇み足での追撃とはいえ、きっちり対応してくるあたりは慣れているといえた。
あの魔術師、手駒に欲しいな。
度胸があるし、周りも良く見えている。
ないのは雇い主を見る目だけか。
逃げる先は、後方に待機させてあった馬車だろう。
残念ながら追う方は最初の『火球』で心が折れているようだ。
倒れて大やけどをしている中にはカノンの姿もある。
一番先頭だった……
まぁ、一人先頭を突っ走っていた為、『火球』が巻き込んだ町人が少ないと考えれば役には立ったといえよう。
カノンは酷い火傷で見るに堪えない状況だったが、生きていたので『再生』『回復』を掛けておく。
戦争中は直接手出しをしなかったが、もう終わっているので構わないだろう。
『火球』をまともに喰らって生きていたのはカノンだけだ。
防具や衣類の焼け落ちたところはさすがに治らないので、色々と素肌が見えていたが、生きていただけましと思ってもらおう。
どっちみち15歳のロリッ子に欲情する奴はいない。
「ありがとうございますカズト様。
わたし、全然お役に立てませんでした」
「別に面白し――勉強になることもあったから構わない」
俺の渡したマントで肌を隠し、しょげた様子を見せるカノンは何処か犬っぽい。
なんとなくその頭を撫でながら「またがんばればいいさ」と言っておく。
目を細めて嬉しそうな様子を見せるカノンに、何処か癒やされた。
◇
戦争の決着が付けば、今度は後始末だ。
俺はいったん町の門を全部閉めさせ、現在町に残っている人を全員リストアップする。
その後、ライデンに新しい市民票を発行するよう頼んだ。
今残っている750人がこの町の新しい住人となる。
町を捨てて逃げていった者などどうでもいい。
戻ってくるのは自由だが、その時に市民権を与えるつもりはない。
市民権がなければ、当たり前だが町の優遇処置は受けられない。
今はそれがどんな意味を持つのかわからないだろうが、いずれ後悔することになる。
十分後悔させたところで、市民権を餌に十分働いてもらうとしよう。
それから、前線で最初から戦った者、そこで死んだ者の家族に2代に渡る完全な免税を与える。
後から参戦した者には1代限りの免税だ。
減った税収は俺が払うことを約束することで、ライデンを納得させた。
現金という意味では大分借りを作っているな。
早めに『魔力炉』を動かさないと借金王になって、また3人娘に笑われてしまう。
その日は死者の埋葬を行い、生き残った者は全員『再生』『回復』を掛けておく。
翌日から1週間は戦勝パーティーだ。
食料店には俺の名前で請求書を書かせ、品物を惜しみなく出させる。
町にはすぐに逃げ出した町人が戻ってきたが、そいつらは空気を読んで参加してこなかった。
その程度の認識はあるようだ。
この戦いで、少なくてもこの町に残って戦った750人には、町人としての自負が出来ただろう。
ライデンの説得はそれなりに町人に行き届いていたともいえそうだ。
後は戦後のケジメを付けるだけだな。
「今のところカズトに対する思いはそれほど変わっていないわ。
今回は傍観していたのに不思議ね」
「それなりの見返りも与えたしな。
それに、逃げた町人が戻ってきたら、今後の扱いの違いに対して逆恨みしてくるはずだ」
「そうすると『思いの力』が分散してしまうわね」
「ここでは減るが、ビルモの町で増えるさ。
まだどんな感情かはわからないが、俺を無視できない程度の『思いの力』はあるはずだ」
◇
俺は約束の2日後、ビルモの町のボイドを訪ねる。
ボイドはずっと待っていたようで、俺を見るとほっと安心した様子を見せた。
それを見ればボイドが俺の側に立ったとわかるようなものだ。
ボイドの周りにはそれなりに着飾った重鎮と思われる人たちがいて、口を開くべきか悩んでいるように見える。
俺は先に答えを訊くことで、余計な話になるのを阻む。
「お約束通り、アセドラと手駒と思われる者たちの2親等までを捕らえています。
理由はビルモの町に対する反逆罪です」
今までは反逆罪に問わなかったのに、負けた途端にこれか。
まぁ、わかりやすくていいが。
「理由はどうでもいい。
これがライデンから預かった、町での売買につて関税の半額免除に関する契約書だ。
「わかりました、至急手配しましょう。
アセドラの私兵の方はいかがしましょう」
「そうだな……全員奴隷に落として俺がもらうか」
「ではそのように」
生き残ってこの町までたどり着いた私兵は40人。
その内15人が抵抗し、その場で死亡。
最後まで残った内で5体満足なのは20人だった。
俺はその20人に対して暗黒魔法の『隷属』を使用し、支配下に置く。
男が15人で女が5人、その中にはあの魔術師もいた。
魔術師がいて良く捕らえることが出来たと思ったが、最初は敵対する様子を見せず、魔術師を捕らえたところでことを起こしたらしい。
その知恵が俺の町の町人にもあれば良かったのだが。
この駒を連れて戻っても軋轢を生むだけなので、別の用途に使うことにした。
実戦慣れしている駒は今のところ貴重だし、使いどころは多い。
しばらくボイドに預け、後でダンジョン辺りを使って叩き上げるとしよう。
さらに2日後、ボイドに連れられてアセドラとその一味が町に着いた。
それを迎えるのは衛兵を先頭とした町人たちだ。
「カズト、アセドラを見せたのは失敗じゃない?
町人の『思いの力』がアセドラへの憎悪で染まっていくわよ」
「憎悪を晴らせばいいさ。
見せなくても内心はくすぶり続ける。
だったらさっさと終わらせた方が良い。
明確な敵として認識させ、それを町人の意思をもって罪を償わせる」
俺はアセドラの前に立つ。
「貴様がっ!?」
アセドラが殴りかかろうとするが、それは衛兵に取り押さえられる。
「言ったはずだ。
戦争はやる、お前は殺す、お前の家族も女子供関係なく殺す。
安心しろ、おまけでお前の仲間も一緒に殺してやる」
「なぜ子供まで殺す必要がある!」
「お前の子供は俺たちを恨む可能性が高い。
将来邪魔になるのなら今殺しておいた方が良い。それだけだ」
「お願いします、どうか子供だけは、この子だけは!」
そう泣いて縋ってきたのはアセドラの妻なのだろう。
子供2人を抱き、絶対に守るという姿勢を見せる。
「アセドラが攻めてきたことで、子供が5人死んでいる。
その5人の親が許すというなら俺も許そう」
アセドラの妻は絶望したようだ。
自分がもし子供を殺されたら、自分も相手の子供を殺すと思ったのだろう。
ならば自分の子供を見逃すはずはないと。
「何でこんなことに……」
「アセドラ貴様のせいだ、貴様に従ったばかりに俺たちは!」
「ふざけるな、殺すならアセドラだけにしろ!」
「なんで俺の家族まで、全く関係ないだろ!」
アセドラに従った重鎮たちが声をあげてアセドラを批判する。
たが、それをここで言ったのは失敗だった。
それを聞いた町人が殺気立つ。
「アセドラ、すべては自分やったことだ。
認めたくはないだろうが終わりだ」
「くっ、殺せ!」
ぐはっ!!
俺は精神に絶大なるダメージを受けた。
そのセリフを、こんな中年くそおやじに言わせることになった自分を責める。
俺はこの場をライデンにまかせ、フラフラになって立ち去ることしか出来なかった。
3人娘が心配そうに声を掛けてくるが、応える余裕はない。
そして自分の部屋でひっそりと泣いた。
ここにひとつの夢が尽きたことを感じて。
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