013_カズト様が全力を望まれましたから

 読み通り、きっちり2週間後にアセドラは実力行使に打って出てきた。

 どうやら振り上げた手を降ろす気になったようだ。

 今までその手でうまくいっていたのだろうが、今回はどうかな。


 もちろん俺はこの戦いを楽しむ為に、2週間に渡って3人娘の内カノンとアリアに、ひたすら戦う術を教えてきた。

 なにせ暇だったから。

 大人しめのフーガには、魔法が使えないので代わりに俺の秘書になりたい、と言うので、適当に買い付けた本を与え必要なことを学ばせている。


 戦いは俺がカノンを、ロリィがアリアを育て、2人の勝敗を競う遊びにした。

 俺は知識の中を検索し、カノンに最も合う戦い方を選び出していく。

 カノンは小柄だが胸が大きい。

 だから胸を使った攻撃が効果的なはずだ。主に男向けに。


 でも、ここでは相手がアリアの為、この作戦は断念する。

 断念はしたが、胸のサイズが悲しいことになっているアリアには、意外と精神的なダメージを与えていたので、再考の余地がある。


 次に考えたのは魔法だ。

 やはり、本体が非力でも高い攻撃力を得るなら魔法が1番だ。

 魔力は誰でも持っているが、魔法を使うにはその術を知る必要がある。

 その為にはお金が掛かるので、富豪でもない限り町人そのいちにいさんでは習うことが出来ない。

 だが、俺には知識があり、知識を合わせることで効率的に教えられた。


 しかし、このままだとロリィの教えるアリアに対して優位性がない。

 と言うことは、個人的にかっこよさナンバーワンの魔法剣士として、物魔最強の駒を目指すべきだろう。

 案の定ロリィは、非力なアリアを魔法少女とすべく育成にご熱心だ。


 フーガはその様子を見て剣を所望してきたので、小ぶりの物を2本『精錬』『生成』で作り上げる。

 物凄い嬉しそうにそれを受け取ると、何を思ったか剣を両手に踊り始めた。

 好きにさせておく。


 だが、ここで誤算が発生した。

 カノンがいまいち剣を上手く使いこなせない。

 普通の片手剣サイズだが、それでも重いようだ。

 剣の重さに振り回され、危なっかしいったらない。


 俺が失敗した、という顔を見せた時、ロリィのしたり顔が目に入った。

 どうやらこうなることを想定していたらしい。

 このままでは俺のカノンが負けてしまう。


「ごめんなさい、カズト様」


 肩を落とし、小さい体をより小さくさせたカノンが力なく歩いて来る。

 少女さえ殺すことに躊躇いを感じないとは言え、敵対もしていない少女に八つ当たりする趣味はない。


「いや、少し配慮が足りなかった。

 やり方を工夫すれば問題ないさ」

「はい、次はがんばります!」


 カノンは元の性格か、それとも洗脳の効果か素直だった。

 子猫のように懐く姿は、悪いものじゃない。

 他の2人も同じだが、最近では笑顔も良く見られるようになったし、良い手駒に育ってくれているようで申し分ない。

 とは言え、対アリア戦については一考する必要がある。


 俺は再び知識を検索する……良いのがあった。

 強化魔法の1つ『身体強化』だ。

 魔力で筋力をサポートし、身体能力の増強を図る。

 強化中は常に魔力制御に意識を取られる為、かなり熟練しないと他の魔法が使えなくなるが、『身体強化』だけでも魔法には違いないから魔法剣士で良いはずだ。


 だが、俺のカノンは負けた。

 カノン自体はよくやった。

 短期集中講座のわりに何とか魔力制御の感覚を掴み、拙いなりに力として発揮出来るようになった。

 俺が無理矢理外部からカノンの魔力を『魔力制御』で操り、感覚を掴ませたのが良かったのだろう。

 多少は自力で『身体強化』が使える様になった為、剣を振るうにも余裕が出来た。

 でもこれって、ただ普通に剣が振り回せるようになっただけの剣士だった。

 ただの剣士では魔法少女にかなう訳もなく、『水矢』の前になすすべもなく散った。


 勝ち誇ったロリィに対して屈辱のポーズを決める俺。

 しかし、そのロリィも今は俺の隣で屈辱のポーズを決めていた。


 勝ったのは飛び入りで参加したフーガだ。

 特に戦うべく練習をしていなかったはずなのに、フーガはアリアの魔法を踊るように躱し、舞うように双剣を繰り出すと、その刃がアリアの首に刺さっていた。


 というか、寸止めを失敗するなよ!!

 血を吹き倒れるアリアに『再生』を使い傷を治す羽目になった。


 フーガの踊りは嬉しさを表現しているのかと思ったが、まさか戦いの練習だったとは。

 どうりで毎日のように踊っていた訳だ。


 俺はカノンと対策会議を行う。

 何がいけなかったのか、どうすればより強くなれるのか。

 アリアとフーガを倒す為の方法と作戦を練っていく。


 ロリィはアリアに対して強く、大きく、速くと魔法の強化を図っている。

 だがロリィは知らない、「当たらなければどうということはない」と言った賢人の言葉を。

 と言うか、フーガに魔法が当たらなくて負けたじゃないか。


 カノンの提言で、基礎体力の向上と必要な時だけ『身体強化』を使い、それ以外は威力が小さくても発動の早い魔法で牽制していく作戦となった。

 それからのカノンは頑張った。

 馬車を追いかけて20キロ走り――切れなくて転がったところを、『回復』魔法で無理やり回復させ、再び走り続ける。

 100段はある集団マンションの階段をうさぎ跳びで登り――切れなくて転がり落ちたところを『回復』魔法で直し、登り続けさせる。

 その他、ひたすら『回復』しつつ腹筋、背筋、腕立て伏せ、体幹強化に明け暮れた結果、俺のカノンが筋骨隆々になってしまった。

 さすがに見た目が良くないので、食べさせて食べさせて食べさせて……脂肪で覆ってごまかす。

 おかげで、少し丸みを帯びた美人さんに戻った。

 危険な戦いだった。


 そして決戦の日はきた。


「ロリィ、雪辱を晴らさせてもらうぞ」

「ふっ。寝言で魔法が暴発するほど鍛え上げたアリアの魔法は強力よ」


 なんて恐ろしいことをさせるんだ……まるで暗黒神のようじゃないか。

 夜中寝ているアリアに『魔法障壁』が掛かっている理由がわかった。

 朝になったら自爆して息も絶え絶えだったわけだ。


 戦いが始まる。

 カノンが、鍛え上げた肉体から爆発的な加速で、それでいて直線的ではなく鋭角に方向転換しつつ突き進む。

 狙いは的を絞らせないことだ。


 だがロリィには余裕の笑みが浮かんでいた。

 アリアが呪文を唱えると地面から無数の手が生え、カノンの足に絡み足止めをする。


「きもっ!」


 カノンも気持ち悪そうな表情を浮かべるが、すぐに『身体強化』を使いその腕を引きちぎって脱出する。


「うそっ! まだ『身体強化』使ってなかったの!?」


 今度はロリィが焦る番だった。

 動きを止め、特大の魔法でカノンを仕留めようとしていたアリアに焦りが浮かぶ。

 アリアの唱えた魔法もカノンに致命傷を与えるには十分なものだったが、それは当たればの話だ。


 足止めできずに接近されたアリアをカノンの剣が襲う。

 横なぎに振るわれたその剣は、魔術師特有の魔闘気を切り裂き、アリアの腕を切断してわき腹に深くめり込む。

 アリアは血を吐きながら倒れ、脇腹からは見えてはいけないものが溢れ出ていた。


「!?」


 さらに止めを刺そうと剣を振り上げたカノンを慌てて止め、アリアに『再生』と『回復』を使う。


「カズト様、ありがとうございます。

 なんとか致命傷で済みました」


 致命傷で済むとか何かおかしいから。

 と言うか、カノンを殺すほどの大魔法を唱えるアリアもアリアだが、そのアリアに止めを刺そうとしたカノンもカノンだ。

 いくら何でもやり過ぎだ。


 戦いの様子を見ていたロリィもさすがに目を丸くして絶句状態にある。

 俺の将来の理想に変な顔をさせないでいただきたい。


 俺は2人を正座させ、やり過ぎを注意し、念のため理由を聞いた。


「「カズト様が全力を望まれましたから」」


 ……俺が悪かったようだ。

 俺もロリィに正座させられ、3人で仲良く怒られた。


 いつの間にか、後ろで戦いの順番を待っていたフーガも隣に正座していた。

 どうやらフーガも殺る気だったらしい。


 前に、アリアの首にナイフを刺したのも、寸止め失敗じゃないのかよ。

 もしかしなくても育て方を間違ってしまったかもしれない。


「ごめんなさいカズト様」

「カズト様、ごめんなさい」

「申し訳ありませんカズト様」

「カノン、アリア、フーガ。

 もういい、俺の言い方も悪かった」


 とにかく仲間内では命の取り合いを禁止する。

 折角レベルアップさせたのに、また最初から育成するのは面倒くさい。

 素直なのは良いが、素直すぎるのも問題だな。

 使いやすい手駒を育てるというのは、思ったよりも難しいことだった。


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