010_3分クッキングコーナー

 ダンジョンとは魔物を生み出す巣だ。

 この世界のどこにでもあり、魔力溜まりでもあるそこには強力な魔物が徘徊し、最奥にはダンジョンマスターがいて、『魔力炉コア』という魔力の源泉があった。

 それがあれば、多くの魔道具を使うことが出来る。

 様々な魔道具は人々の生活を豊かなものとし、約束された富をもたらすという。


 魔道具は『魔力炉』以外に、魔力を持つ者――多くは貴族――が魔力を供給することで機能する。

 多くの都市では『魔力炉』が得られず、魔力を持つ者が代わりをするのが常だが、人の持つ魔力量は微々たるものだ。

 それでも、インフラを抑えているからこそ貴族の力は絶対でもある。

 一度便利な生活に慣れてしまえば、貴族に不満があろうともなかなか不便な生活には戻れないものだ。


 更に小さな町になると、平民の魔力持ちがその役目を果たす。

 平民の場合は魔術師の適性があっても十分な知識を得ることが出来ず、魔法が使えないという事が発生する。

 だから多くの魔力持ちは、魔力を切り売りすることでお金を貯め、それを元に師の元に付く流れが出来上がっていた。


 その他、魔物が死ぬとその体内の魔力が結晶化して魔石となり、魔道具の動力として使う事が出来た。

 それを使えば『魔力炉』や魔力持ちの助けがなくても魔道具は機能する。

 むしろ、このパターンの方が一番多いと言って良い。

 駆け出しの冒険者が糊口を凌ぐ為、最初に始めるのが魔石集めになる。


 魔力はそれだけ人々の暮らしに密着していた。

 水を汲み上げるのも冬に暖を取るのも魔力があるとないでは、そこに取られる労力が全く違う。

 だから人は求める、膨大な魔力を生み出す『魔力炉』を。


『魔力炉』は簡単に手に入る物ではなく、そこから得られる力は国家のパワーバランスを狂わせるほどの物、と言うのがこの世界の常識だ。

 それほどの物が簡単に手に入る訳がない。

 この場に集まった町の有力者たちが、言葉もなく俺の真意を見極めようとしているのは、ある意味正しい反応だ。


『魔力炉』には、もちろんデメリットもある。

 ダンジョンがそうであるように、『魔力炉』が発する魔力に引き付けられて魔物が寄ってくるようになる。

 放置するとより強力な魔物に進化する為、早めに討伐する必要まであった。


 しかし、魔物の素材が食料、武具、魔道具、各種治療薬などになることもあって、必ずしもデメリットとは言い切れない。

 それに、魔物を狩る冒険者が集まることで素材の売買による税収が上がるのは、メリットと言えるだろう。

 魔物を討伐し続けることが出来れば……だが。

 歴史上、魔物に飲み込まれた町や都市がそのままダンジョンとなることもあった。

 この辺のバランスを取り続けることが『魔力炉』を有する都市の重要事項でもあり、領主あるいは国のトップの見せ所だ。


 そんなリスキーな物を用意すると言うのだから、困惑は仕方がない。


「心配ない『魔力炉』は俺が取ってくる。

 冒険者にはその後を頼みたいだけだ」

「それでしたら願ってもないことですが……しかしお1人では……」


 そう思うのも当然だ。

 そもそも『魔力炉』がそれほど有用な物なら、世の中にもっと出回っていてもおかしくない。

 それが出回っていないのは、単にダンジョンマスターに勝てる冒険者が少ないというだけだ。

 ダンジョンにも当然規模があり、それは『魔力炉』の発する魔力量に比例する。

 そして規模の大きいダンジョンは、強力なダンジョンマスターが支配していた。


 小さいダンジョンの『魔力炉』はほぼ取りつくされ、新しくできるダンジョンも先を急ぐように攻略される。

 あるいは国の管理下で育成・・される場合もあった。

 結果として、残っているのは手が出せないような大規模なものばかりであり、魔物を間引く為に解放されている。

 つまり、この町の北にあるダンジョンもそんな規模の大きい内の1つだ。

 それを1人で攻略するというのだから、無謀とも思われるのも仕方がない。


「まぁ、無理なら諦める。

 冒険者を集めるのは結果が出てからでいい」


 冒険者ギルド長がほっとしたような表情を見せた。

 集めるだけ集めて、仕事がありませんでは立つ瀬がない。

 中間管理職は楽じゃないのだ。


 取り急ぎ出来ることから手を付けるよう指示を出し、解散する。


 その後3人娘を呼び出し、現金出納帳を付けるように命令した。

 感情はまだ閉ざされたままだったが、金勘定くらいは出来るだろう。


「げんきんすいとうちょう?」


 しかし意味が通じなかった。

 カノンが首をこてっと倒し、アリアもフーガも続く。


 そして計算が出来なかった。

 文字の読み書きも出来なかった

 アリアとフーガも同じだった。

 使い物にならない。


 仕方がないので資産管理人のバートンから計算の出来る者を派遣してもらい、アリアとフーガも含めて勉強させる。

 わざわざそんなことをするのは、俺自身もこれから動くお金が大きくなる為に管理が必要と考えたからだ。


 そこに3人娘を付けたことには大した意味はない。

 俺がやりたくないから、手短で空いていた3人娘にしただけだ。

 この町の資産管理人に俺の分を任せると、この後移動した時に困るからな。

 その点、3人娘は俺の保護下にあるので連れ回しても問題ない。


 ◇


 ダンジョンの攻略には、すぐに取り掛かった。

 場所は徒歩なら北に1週間といった距離だが、のんびり飛んでも4時間だ。

 森の中を徒歩で進むことに比べれば、飛行魔法のなんたる快適なことか。


 早速ダンジョン内を索敵すると、全5層構造だとわかる。

 最も深くにいるのはダンジョンマスターである地獄の番犬ケルベロス

 炎を纏う巨大な犬型の魔物で、気性が荒く攻撃的。

 敵対した者は、その圧倒的な脚力で蹂躙され体を焼かれて死ぬ。


 理想で言えばSランクとAランクの冒険者混合パーティによる2・30人体制で挑むべき魔物だが、一国にそれだけの冒険者を揃えられる国は少ない。

 かと言って、国家間の協力を得られるかと言えば、なかなかデリケートな問題だった。

 先にも述べたように『魔力炉』は国家間のパワーバランスを崩しかねない存在だからだ。


 それに、冒険者まとめ上げることで営利を得ている冒険者ギルドは、子飼いの冒険者が国に利用されることを常に警戒していた。

 冒険者は兵隊と違い国籍を縛られない自由民だ。

 無理に力をかざせば、冒険者ギルドが有力な冒険者を連れて国外へと移籍することもある。

 そうなった場合、自国の内なる防衛に兵隊を回す必要が出てくる為、国家予算の組み替えを含めて大きな構造改革が必要だ。

 もしそれが遅れれば、自力で魔物の対処が出来ず滅びる可能性まで出てくる。


 もちろん冒険者が全員ギルドに付いていく訳ではないし、高ランクでも愛国心が強く、残る冒険者も多いだろう。

 だが、一時的に国家の危機となり得ることに変わりはなかった。


 だから国と冒険者ギルドの間には暗黙の了解がある。

 お互いが不干渉という物だ。

 もっとも冒険者ギルドもそんな強権を発動すれば、自分の首を絞めることはわかっている。

 国家の安全を冒険者ギルドに頼るべきではないという動きも常にあり、それが強まるは確実だ。

 故に妥協案として、冒険者ギルドが主体となって大規模ダンジョンの攻略が行われ、それで得られた『魔力炉』はオークションという形で売買される。

 多少出来レースじみたところはあるが国ほど予算を持っている個人はいない為、大抵は落ち着くところに落ち着く。

 所謂大人の事情というやつだな。


 大規模ダンジョンを正攻法で攻略するには、上等な魔防具に身を包んだ重装戦士に、上等な魔法の武器を持たせた上級魔術師のサポートと上級治癒師のサポートが必要だ。

 敵の攻撃を前衛が抑え、治癒師がサポート。

 その後から強力な魔法で、敵を一気に葬るというのが定番であり鉄板だ。

 残念ながら、魔法の剣を片手に立ち向かう戦法が通用するのはもっとランクの低い魔物だけになる。


 俺の場合は強力な魔法により色々な手を取れるが、今回はどれだけ低コストで攻略できるかを考えてみた。

 まず、土属性魔法の『整形』を使い地面に穴をあけ、4層の地獄の番犬頭上に直行する。

 途中絡んできた数多の魔物は『風刃』で切り刻み、『風刃』でダメージが与えられない強さの魔物は『火球ファイア・ボール』や『氷矢アイス・アロー』で蹴散らした。

 その後、4層で『重力操作』を行い、大規模な落盤を誘発。

 地獄の番犬を超質量で圧死させると、ダンジョンコアを手に町へ『空間転移』する。


 以上、3分クッキングコーナーでした。


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