009_ちょっとつまみ食いしても良いかな
町に戻ると町長たちが出迎えた。
一応衛兵もいるようで、衛兵長らしい男もいた。
「カズト様、これはいったい――」
「ライデン殿、こいつらが町を襲ったやつらだ!」
「よくも俺の弟を!」
今にも殺しかねない剣幕で詰め寄る町人の前に立つ。
「まだ、殺すな」
俺の言葉に、衛兵以外にも野次馬のように集まった人々から不満の視線が集まる。
だが、人気取りをしていた俺に声まで上げる者はいなかった。
「安心しろ、楽に死なせるつもりがないだけだ。
こいつらの始末は、被害にあった家族と本人に任せる。
そいつらが望むなら、奴隷として一生こき使おうが殺そうが自由にしていい」
まだ殺すなと言った理由を聞き、誰もが納得の表情を見せた。
この世界に私刑の制度があるのかと言われれば、無い。
さすがに、それを戒める程度の法はあった。
だが、その法をきちんと知り、徹底させる教育や監視役のような者がいるかと言えば話は別だ。
大きな町や都では、爵位を継げない貴族の子がその役を担っていたりするが、この町にはいない。
田舎町の多くは、上納先の都で学んで戻った者が言い伝える中で、その町のルールや常識と混ざり合い、守るべき事として法のような物が存在している。
管理する貴族側にとっても、法の明文化などはされない方が色々と都合が良い面もあったので、そう言った教育は遅れているのだろう。
もっとも、盗賊には法が適用されないので、ここで殺したとしても何の問題もない。
ちなみに法が適用されるのは、市民権を持つ者だけだ。
そう言った意味でも盗賊に人権はなく、どう扱おうが問題なかった。
「マリア! マリア!」
野次馬の中から中年の女が飛び出し、遅れてロリィが『重力操作』で運んできた少女に駆け寄る。
それを皮切りに、何人かの家族らしい人々が集まってきた。
「今は寝ているだけだ。すぐに目を覚ます。
身寄りがはっきりしているなら、すぐに引き取ってくれて良い。
家族を失った者やこの町の者でないなら、一時的に俺が引き取る」
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」
まるで呪文のように言葉を吐く人々に、さっさと休むように伝える。
残ったのは3人だった。
1人はこの町の少女だったが、襲撃の際に家族を全員失っていた。
残りの2人はこの町の人間ではないようだ。
「ライデン、さっき言ったとおり、あいつらの処分は任せる。
自由にしていいが、楽には殺すなよ」
「承知いたしました。
この様な機会を与えてくださり感謝いたします」
「それより、何度もこんなことがあると面倒だ。
町の防衛を強化するから、明日にでも各組織のトップを集めてくれ」
「仰せの通りに」
あっさりと盗賊団を壊滅させた上、復讐の機会まで与えた俺に『思いの力』はより強く集まる。
「ちょっとつまみ食いしても良いかな……」
「駄目だろ」
ロリィがワクワクしているのを窘める。
そうやってちょっとずつ『思いの力』をつまみ食いしているから、前回は失敗したんじゃないか?
その様子が容易に想像出来て、先が思いやられた。
◇
その日の夜、俺の前には3人の少女がいた。
簡素だが清潔そうな衣類を身に着けている。
シンプルな服が逆に
攫われるだけあって、3人ともそれぞれ方向性の異なる美少女だった。
ただ、3人とも心を閉ざしたように表情に変化がない。
あんな事があった後だけに、男の俺を見れば騒ぐかとも思ったが、そんな事もなかった。
「お前たち3人に新しい名前をやる。
それぞれ今日からカノン、アリア、フーガだ」
順にチビで胸が大きい(15歳)、チビで胸が小さい(15歳)、背が同じくらいで胸は普通(17歳)。
胸の大きさを確認するのは俺の癖なのだろうか?
それぞれ短めの赤い髪で中性的なカノン、群青色の髪が腰まであるアリア、淫乱ピンクの髪がフーガだ。
「後日仕事を割り振る。
それまで与えられた部屋で休んでいろ」
殆ど反応を見せない3人を、女の使用人が腫れ物にでも触るかのように連れて行く。
「思ったより冷たい扱いね。
もう少し優しく接するかと思っていたわ」
3人が下がった後、ロリィが言う。
「心が壊れ掛けているからな。今は何も聞こえないさ」
「確かに、全く『思いの力』を感じないわね。
なら構うだけ無駄じゃない?」
「手駒が増える分には問題ない。
それだけ俺が他のことに手を出せるからな。
この状態からどう変わっていくのか興味もある」
「まぁ、見せてもらわ」
壊れていようとロボットのように働いてくれるなら、それはそれで使い勝手が良い。
むしろ今はそういう人間が周りに欲しかった。
これでも意外と忙しいのだ。
◇
翌日。
町長の家には資産管理人、衛兵長、商業ギルド長、木工ギルド長、鍛冶ギルド長、冒険者ギルド長、その他、町長の指示で町人を管理する町人代表が5人集まった。
この世界では15歳で成人として扱われる。
だから18歳の俺も子供とは言えないが、それでも年下の生意気そうな男を相手に
上級魔術師は生まれが貴族でなくても、男爵相当の待遇が得られるからだ。
ただし権利や権限がある訳ではないので、嫌ならば呼び出しに応じる必要はないが、そこは先に人心掌握に走った結果だな。
「昨日この街を盗賊団が襲ったのは知っての通りだ。
同じようなことがあれば、折角良い流れが出来ているのに、また水を差されることになる。
それは俺の本意じゃない。
だから、この町の防衛力を上げる為に、町を塀で囲うつもりだ」
まずは集まってもらった目的を伝え、その反応を確認する。
大規模な襲撃を受けた直後でもあり、町の防衛態勢を整えることに異論のある者はいなかった。
「とは言え、先立つものが必要だ。資産管理人の――」
「バートンでございます。
カズト様のおかげで予算はある程度確保出来ますが、作業を行う人手が足りません」
馬鹿どもの洞窟を襲った際に、集められていた金品も全部戴いた。
使い道がないのか溜めこんでいて、その額は金貨250枚ほどになり、この町の年間予算同等だった。
「よろしいですか」
町人代表の1人が声をあげ、俺はそれに対して頷く。
「町人は日々の生活を維持す為、防衛に多くの労力を割くことが出来ません。
代わりといいましては何ですが、2つ隣の町に大きな奴隷商がございます。
そこで一時的に奴隷を買い取り、防御柵を作らせ、建設が終わりましたら売り払うというのはいかがでしょう」
馬鹿どもから回収した分で100人ほどは雇えるらしい。
後は維持費と治安の問題だが、食料くらいなら俺が適当に用意すればいいか。
治安に関しては『隷属』という契約魔法があるので問題ない。
特に反対意見もないので、奴隷を工夫として雇うことにする。
「木材ギルドには防御柵になる木の選定と量、鍛冶ギルドには工具100人分と杭や釘だ。
掛かる費用を見積もってバートンに出してくれ。
価格が折り合えばすぐにでも発注する」
それぞれの了承を得る。
「商業ギルドには奴隷100人の購入手配と、仮住まいの用意を頼む。
衛兵には一時的に人口が増えるから治安維持の徹底を頼む」
仮住まいは、この間の襲撃で家主を失った家を宛がうことになった。
奴隷とは言え、見知らぬ人が増えて町人と接すればトラブルも起きるだろう。
そこは衛兵に任せることにした。
「冒険者ギルドには冒険者を集めてもらいたい」
「集めるのはかまいませんが、どのような目的でしょうか。
それにより得意とする者を集めたいと思いますが……」
「北のダンジョンを攻略する」
この場にいた全員が硬直した。
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