008_私の気持ちはすっきりしたし、悪くないわ

 馬鹿どもの住処までサクッと飛び、入り口にいる見張りっぽいやつ2人の首を『風刃』で飛ばす。

 そう言えば、人を殺すのは前世も含めてこれが初めてだったが、なんの忌避感も感じなかった。

 やはり植え付けられた知識の影響を受けているな。

 これからすることを考えれば、良かったのだろう。


 洞窟の中からはカビや汗臭い匂いと共に、何ともいえない淫靡な匂いが漂っていた。

 奥からは女の悲鳴や抵抗するような声、それらに混じり何処か色のある声も聞こえてくる。

 思春期ど真ん中の妄想力により状況を把握。

 手駒を減らされた怒りに、俺ですらまだ経験がないのにこいつらは、と言う怒りを上乗せする。


 その怒りを表す大股で洞窟に入り、ずかずかと進むと直ぐに広間に出た。

 そこには20人ほどの馬鹿どもがいて、雑な料理を並べ、酒をあおっている。

 一仕事の後に飲む酒はさぞ旨いことだろう。

 馬鹿どもの中には女も3人ほどいたが、馴れ合う雰囲気から見て町人ではない。

 ならば馬鹿どもの仲間、つまり同罪だ。


「誰だてめぇ、どうやって入ってきた」

「見張りは寝ぼけてんのか」

「なんだ、ガキだが高く売れそうなの連れているじゃねぇか」

「そのガキを土産に仲間にでもなろうって魂胆か?」


 あ、ロリィの中で敵対フラグが立った。


俺の町・・・を襲った馬鹿どもは全員殺す」

「は? 殺すだ?

 ガキが粋がって正義感ぶるとどうなるか教えてやろうか」


 そう言った男の首が飛ぶ。

 ゆっくりと倒れるからだから、心臓の鼓動に合わせて赤黒い血が噴き出す。


「は?」

「なっ! てめぇなんってことしやがる!」

「やばい魔術師だぞ!」

「散れ! 囲んで一気に襲えばどうってことはない!」


 慌てつつも散開を始めた馬鹿どもの動きは意外と良かった。

 連携して襲うことに慣れているのか。


 その馬鹿どもは剣に斧に槍、中には弓を持った者も含めて扱う武器は多彩だ。

 それらを手に前後左右から襲い掛かってくる。


 俺はそれらの攻撃をそのまま受けた。

 もっとも、魔闘気に包まれたこの体は、そんな軟な武器で傷1つ付けることは出来ない。


 俺がわざわざ攻撃させているのは、何をしても無駄だという絶望感を味合わせる為だ。

 殺すのは簡単だが、俺の手駒を減らした以上は後悔して死ぬがいい。


 俺には刃が通らないと気付いた馬鹿どもの内、何人かが逃げ出そうとしたが、それは足首を切り飛ばして対処する。

 突然自身を襲った激痛に喚き散らしていて煩いが、それが残った馬鹿どもの恐怖心を煽った。


「や、やめてくれ、殺さないでくれ」

「町を襲ったのは謝る、金と女は返す、それでいいだろ!」

「もうあの街には2度と手を出さないと誓う」


「何を言っても無駄だ、全員殺す」


 俺の言葉を受けた馬鹿どもは散り散りになって逃げだす。

 もちろんそんなことは許さない。

 男だけでなく女も含めて全員の足首を切り飛ばし、行動の自由を奪う。

 大した対処も出来ないここでは出血多量で死ぬだろう。

 その間ただひたすら後悔するがいい。


 部屋中を襲う阿鼻叫喚の様に少しだけ溜飲が下がった。


 騒ぎを聞きつけた馬鹿どもの残りが、奥の広間に集まっているようだ。

 脇道に逸れたところにいる何人かは、俺の背後を突くつもりだろう。

 索敵が便利すぎて不意打ちにもならない。

 それを使いこなせなくて手駒を失ったことは棚に上げておく。


 馬鹿どもの策を気にせず奥に進むと、そこには20人ほどの馬鹿どもと、10人ほどの衣類を乱して泣き崩れる少女と女がいた。

 ほとんどは街で見かけた顔だったが、知らない少女も混ざっている。

 町ではなく街道辺りで攫われたのかもしれない。


 抵抗した為か誰もが顔や体に痣を作り、中には手足が折れたように腫れあがった者もいた。

 ほとんど体を隠しきれていないただの布と化した衣類は、あまり考えたくもない液体で汚れている。

 俺の登場に、それでも何とか体を隠そうとする様子が痛々しかった。


 馬鹿どもはどうやら俺を怒らせるのが得意らしい。

 俺が汗水流して働いている間に可愛い子とやりまくっていたとかうらや――まったく、治安が悪いというか道徳がないというか。

 改めてこの世界の民度の低さを感じさせられる。


「魔術師だか何だか知らないが、こいつらを助けに来たっていうなら失敗だな。

 もし魔法を使うそぶりを見せたら半分くらい殺してもかまわないんだぜ。

 どうせ町に行けばいくらでも手に入るんだ惜しくわねぇ」


 馬鹿どもの中から同意する声と、馬鹿にした笑い声が上がる。

 だがそれもすぐに静まった。

 水属性魔法の『眠雲』が洞窟という効果的な場所で具現化する。

 不意打ちの為に忍び寄っていた背後の馬鹿どもも含めて、声を上げる間もなく全員が崩れ落ちるように眠りについた。


 魔法を使うのに詠唱が必須ではないが、この世界で無詠唱とは熟練の魔術師を示す。

 少なくても俺のように若い男が、無詠唱で魔法を使うとは想像もしなかっただろう。


 もっとも、俺の場合はロリィに与えられた『魔力の理』により、直接事象を起こすことが出来る。

 魔力を法に則り事象に変換する必要がないので、既に魔法とは言えないが、それをわざわざ説明することもない。


 倒れ方の酷かった馬鹿どもの何人かが頭や顔を打ち、血を流しているがどうでもいいことだ。

 捕われていた女や少女は、もともと座っているか倒れていたので怪我はない。


 馬鹿どもをここでサクッと殺しても良かったのだが、そんなトラウマになるような光景を、弱った彼女たちに見せるのも気が引けた。

 それに馬鹿どもの使い道はさっき決まった。

 生かしておいた方が面白い。


 俺は彼女たちを1か所にまとめ、『洗浄』『浄化』それから少し記憶を探り『避妊』の魔法を掛ける。

 それから周りのシーツを集め、同じく『洗浄』『浄化』して彼女たちを包み、そのままロリィに預けた。


 俺は馬鹿どもをそこらにあったロープで縛り上げ、ほとんど引きずるようにして洞窟の出口に向かう。

 最初の広間で足を斬り飛ばした馬鹿共は全員が死んでいた。

 埋葬するつもりはない。

 虫や魔物にでも喰われて朽ちるがいい。


 洞窟を出た所でロリィが口を開く。


「最初の部屋にいたやつらに絶望を与えた時、カズトへの恐怖心より他神に縋る思いの方が大きくなったわ」

「お、おう!?

 そうか、心が折れるほどやり過ぎるのはまずかったな。

 その前に殺さないと駄目か」

「だけれど、まぁ私の気持ちはすっきりしたし、悪くないわ。

 それに、こいつらが町を襲った時、カズトに縋る思いが強くなったから、差し引きで考えればプラスとも取れる」

「……結果オーライとしておこう」


 何をすればどんな風に思いが変わっていくのか、まずはその辺を実験していく必要がありそうだ。


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