第7話 混乱と決意

 私がオタサーの姫………ではなく戦術研究会の一員となって以降、どうやら、ジャイリーンとエイムズの仲は随分深まっている様子。食堂で食事をしているのをよく見かけるようになりました。二人が隠している様子もなさげだったので、それとなく尋ねてみることにしました。

 昼食時はエイムズが基地の外に出ているためジャイリーンにアプローチする絶好のチャンス。ここ最近ご無沙汰だった例のレーションと向き合いながらジャイリーンに単刀直入に聞くと、

「ねぇ、エイムズのどこが気に入ったの?」

「唐突ね、うーん、あんまり考えたことなかったわ猫好きだからじゃないかしら? ああ、なんというか放っておけない感じとか?」

「えー、それだけでいきなりキスまでやっちゃう?」

 ジャイリーンが目を見開く、

「見てたの?」

「あ、やっぱそうだったんだ」

 ジャイリーンが食事の手を止めてあちゃーと頭を抱える、赤面して半眼でこっちを睨む。あ、シャッター切りたい! 代わりに私は口を次いで、

「20秒くらいだったかなー、ジャイリーンの踵が地面に着くまで」

 容赦せずに追求する。

「言わないで、恥ずかしい」

 ジャイリーンが小声で抗議する。

「で、どうなのどこに惹かれたの?」

「………猫になりたいなと思ったのよ、あの人見てたら猫みたいに撫でてもらったりくすぐられたいなって、なんだか彼を見ていると無性にくっつきたくなるのよ」

 そわそわと落ち着きのない表情で語るジャイリーンの姿に私は思わず、息を飲む。この取材を通してのジャイリーンといえば、親切で真面目、芯がしっかりした姉御肌な印象でした。

 そんな彼女が頬を赤らめながら、甘えたいと言う。そのギャップが強烈に私のハートを掴むのです。

 うわん、かわいい!

  だからこそ、私は聞かずには居られませんでした。

「この先どうするの?」

「分からない、正直頭の中ぐっちゃぐちゃよ」

 ジャイリーンは気弱に俯いた。エイムズも私も取材が終われば国へ帰る。彼女は故国のために戦う戦士。私は何かを口に出そうとしたのですが、それは、ふいに立ち上がったジャイリーンによって塞がれました。それっきり無口になりジャイリーンは食事を残して席を立ちました。

 女同士でも踏み込めない部分はあるのです………



 約一ヶ月に及んだ取材も大詰めを迎えようとしています。

 ですが、ジャイリーンとは食堂の件以来、仕事以外ではますます疎遠になってしまっています。なんとなく避けられている気がするし、私もどこかぎこちない感じになりがちです。

 当初の予定にはなかったことですが、滞在最終週に軍事作戦が行われる事になり、私はこれに随行する事を許可されました。軍事境界線すれすれの山岳地帯に向けての進軍と砲撃が行われる。先日の地雷による死者の埋め合わせが必要なのだとか。

 近年おとなしくなっているとはいえ、敵が反撃する可能性もあるので危険は伴うが、護衛までつけてくれるという特別待遇での取材が可能になりました。

 どうやら戦術研究会に顔を出していたのが効いていたようです。

 そんな話を久しぶりにパブで会ったエイムズにするとここでもまた同行できないかと相談を持ちかけられました。ジャイリーンの勇姿を納めたいのねと言うと恥ずかしながらと頭を掻く。少し考える………

「頼んでみるわ、その代わり」

「もちろん、何か起きても君に迷惑はかからないようにしておくよ」

 戦術研究会にいた司令官に、サブカメラマンとして1人フォローする人間をつけたいと直接相談を持ちかけてみたところ、許可の書類がその日の内に完成しました。


 このことを日本にいる佐代子に連絡したら、でかしたと喜ばれたので内心少し舞い上がったりしたのですが、正式な手順で手続きを踏んだら何日かかっただろうと思うと、ジャイリーンの顔が浮かび、複雑な気分になりました。

 やっぱり、一度ジャイリーンと会ってよく話した方がいいかもしれない、そう思いながらも何かにつけて私の動きは鈍く、作戦開始日の朝を迎えたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る