5-1 交渉人
【18:28 森エリア】
太陽のような惑星の光で明るかった空は次第に暗くなり、月のような惑星が姿を現しつつあった。
川辺近くの小屋に籠城している雅史とアーニャは周りが暗くなるにつれ警戒を強める。
この小屋に隠れ始めてから8時間近くが経過しているがジャンからの連絡はない。
雅史もアーニャも言葉にはしないが焦りを感じていた。
「そのよ、言いにくいんだけどこの時間まで連絡がないってことはアーニャの仲間ってのはもう……」
正直アーニャの話を聞く限りでは仲間の男の生死は絶望的だろう。
こうした状況下で一箇所に留まるというのは悪いことではないが、それはもし何かあった時にそれに対処できる方法や力があればの話で、二人には他の参加者に襲われた場合に万全に備えているとは言い難い。
小屋の周りにはアーニャが持参したいくつかのトラップを仕掛けているが敵の戦力が分からない以上安全とは程遠いだろう。
雅史はこの時ここから離れてアーニャの仲間を探すべきだと思っていた。
「あなたの言いたいことは分かるわ、でも無闇に辺りを探しまわるというのはそれはそれで危険よ」
「それはそうだけどよ、いざここが襲われた時に相手がやばい奴だったら俺達二人じゃ結局どうしようもねぇじゃねえか、それに仲間の居場所ってのもどの辺かは分かってるんだろ?」
「確かに仲間の居そうな場所は分かるけどそれは今から数時間前の情報よ。まだその場所にいるかも分からないうえに他の参加者に出くわす確率の方が高いわ」
「そりゃそうだがよ……」
「分かったわ、今日一日待ってみるつもりだったけどそうね、あと1時間ほどしたら探しに行きましょう。上手くいけば暗闇に紛れて発見もされにくくなるかもしれないしね」
そう言ってアーニャは異空間から大きなゴーグルらしき物を取り出し、雅史に一つ渡した。
「これは?」
「暗視ゴーグルよ、これなら暗闇でも自由に動けるでしょ?」
「ほんと便利な能力だな」
「そうでもないわよ、収納できる物の量は決まってるし生物には全く効果ないしね、ってこの能力のこと他の人間に言うんじゃないわよ」
「大丈夫だって、どうせ俺にはこのゲームに知り合いなんていないしな」
「そう、ならいいのだけど」
見たところアーニャにおかしなところはない。
最初にアーニャの話を聞いた時は自分の仲間に裏切られ、さらに仲間を一人失ったかもしれないのにも関わらず冷静な姿を見て無理をしているだけかと雅史は思っていた。
しかしここまで冷静だと本当に今までのことに対して何も感じていないのではないかとすら思えてくる。
(こいつはなんでこんなゲームに参加したんだ?)
「なぁ、なんでアーニャは──」
ビービービーという機会音に雅史の質問は掻き消された。
音を出したのは先ほど二人で仕掛けたセンサー式の警報機だった。
「来たわね……」
アーニャは携帯の似た機械を取り出すとその画面に映し出された赤い点の位置を素早く確認する。
「場所は……ここから東に200メートルってとこかしら」
「200メートル!? かなり近いな、何人だ?」
「今のところ一人だけのようだけど真っ直ぐこっちに向かってくるってことはこっちに気づいてる可能性が高いわね。これ一応渡しておくわ」
そういってアーニャは雅史に小さいナイフを一本手渡し、自身は拳銃の弾倉を確認する。
「おいおい、これでどうしろっていうんだよ」
「無いよりはマシでしょ、文句言うよりも感謝しなさい」
「はいよ」
ここに来る前に見た奴等のような連中相手じゃこんなもの役に立たなそうだなと思ったが今はこれでなんとかするしかない、雅史は心を決めた。
「あと40メートル……30メートル……20……10……」
「おーい、中に誰かいるんだろー! 戦う気はないんだ、少し話がしたいだけだ!」
外では男が小屋に向けて叫んでいる。
雅史とアーニャは当然返事は返さない。
「おーい、いるんだろー! 返事が来るまでここを動かないぞ!」
「どうするアーニャ……」
「このまま居座られて叫ばれたら他の参加者に気付かれる可能性があるわね……」
「いきなり襲ってこないなら敵……じゃないんじゃないか?」
「そんな保証どこにもないわよ、私達を油断させて近くに他の仲間が待機している可能性もあるわ」
「確かに……」
「おーい! 出てきてくれー!」
男は辺りも気にせずこちらに叫び続ける。
「ちっ、仕方ないわね」
そういってアーニャは窓に少し近付き男に話しかけた。
「あなたは誰? なにが目的かしら?」
「おお! やっと答えてくれたか、俺の名前はキース! キース・ニアビスだ! 君と話をしにきたんだ」
「こっちは話なんてないわ、さっさとこの場から消えなさい」
「そんなこと言わないで話だけでも聞いてくれよアンナ・エヴァン・イリイーチさん」
「!? どうして私の名前を……?」
「それも兼ねて話そう、まずは顔を見せてくれないか?」
「……分かったわ、ただあなたがこっちに来なさい、いい? 何か妙な素振りを見せれば仲間の能力であなたを一瞬で殺すわ」
「ああ、分かった」
そう言うと男は静かに小屋のドアの前まで歩いてきた。
「ドアを開けなさい、ゆっくりね」
ガチャリとドアノブが回るとその男は姿を現した。
その姿はひょろっとした身体にぼさぼさの茶髪に人の良さそうな目をした便り無さそうな男だった。
アーニャはドアから入ってきた男に拳銃を向けたままこっちへゆっくり歩くように指示を出す。
「雅史、その男を押さえつけて武器がないか調べなさい」
「了解」
雅史は男の後ろ首あたりを掴むとそのまま地面に転ばせ上に乗る形で男を押さえつけ、体を調べる。
「何も無さそうだ」
雅史の言葉を聞くとアーニャは男に話しかける。
「そう、キースって言ったわね、ここからは私の質問にだけ答えなさい。わかったかしら?」
「ああ」
「まず最初の質問、どうして私の事を知っているのかしら?」
「俺の能力だ。俺の能力は聴覚を通常の100倍まで上げるもので、それで君達の会話を聞いていた」
「答えになっていないわ、私の名前を以前から知っていたからわざわざここに来たんでしょ?」
「するどいな……そうだ、俺は以前から君を知っていた。アンナ・エヴァン・イリイーチ、B級の次元干渉系の能力者でECSの諜報部隊のメンバーの一人だろ?」
「ずいぶんと詳しいわね、あなた一体何者? キース・ニアビスなんて聞いたことないけど」
「だろうな、俺も君とは直接会ったわけじゃなく話で聞いただけだからな」
「どういうことかしら?」
「俺はあるチームに所属しているんだがそのチームにECSのメンバーがいる、そいつに聞いたんだ」
「……名前は?」
「今は言えない」
「なぜ?」
「その名前が俺の切り札だからだ、まずは俺の話だけでも聞いて欲しい」
「あなたの仲間は全部で何人?」
「……俺を含めて8人だ」
「ここに来た仲間はあなたの他に何人?」
「一人だ、ここから300メートル先にいる。頼む、俺の話を──」
「黙りなさい、話は聞いてあげるわ。雅史、この男をそこの椅子に手足を縛り付けなさい」
小屋の隅に置いてあった椅子を指さし、雅史にロープを渡す。
雅史に縛られるキースは特に抵抗もなく黙って縛られる。
「それくらいでいいわ。それじゃあ話を聞こうかしら?」
アーニャの言葉に従い、キースは口を開いた。
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