5-2 成立
「ありがとう。まずは俺の目的だが仲間の勧誘を目的としてこうして動いてる。ここに来たのもアンナさんのチームがうちの勧誘候補に入っていたからだ、俺は仲間になってくれそうな人間やチームを見つけて交渉するのが仕事だからな」
「なるほど。あなたのチームは全部で8人てさっき言っていたけどそれだとおかしいわよね? このゲームのルール上最高でも生き残れるのは9人のはずでしょ、これ以上人数を増やしても結局最後にはチーム内で戦いになることは明白だわ」
そもそも最高9人というだけで実際に9人も生き残れるとは到底思えないアーニャであったが、それは口には出さないでおく。
「その通りだ。だから俺達のチームの目的はこのゲームで生き残ることじゃない」
「というと?」
「俺達はこのゲームを壊したいんだ」
「そんなこと……」
「できるはずがないと思うだろ? なんせ神様が相手なんだからな、でもな、実は神様っても万能ってわけじゃないんだ。作戦についてはここで詳しく説明できないが俺達が上手くいけばこのゲームを壊して参加者も無事に元の世界に戻れる。ただ作戦にはどうしても仲間がもう少しいるんだ。そこでこのゲームに賛同してない人間を探してるってわけさ」
「いまいち説得力の無い話ね。肝心なことは仲間になってからってわけ?」
「そういうことだ。もちろん仲間になってくれるなら君が探している男の情報や復讐の手助けも惜しまない、悪い話じゃないとは思うが」
「そこまで調べ済みってわけ……確かに悪い話じゃないわね」
現状でアーニャが赤髪の男で得ている情報は十字架を背負う者達の一人ということとこのゲームに参加しているということくらいで、確かに情報は欲しいところだった。
ただ男の話は信用しきるのは難しい。
どうすべきかアーニャは静かに思考を巡らせた。
しかしその思考を途切らせたのは雅史だった。
「その話ってのは信用していいのか?」
「ああ、もちろんだ」
「ちょっと勝手に喋らないでくれるかしら」
雅史にとってはこの話は願ったり叶ったりの話だった。
このゲームで雅史が目的にしていた事、そして元の世界に帰れるかもしれないという希望。
今の自分にとってこれ以上おいしい話はない。
「なぁアーニャ、こいつの話信じてみてもいいんじゃないか? こいつが敵だったらわざわざこんな周りくどいことしないで最初の時点でいきなり奇襲かけて来たほうがよっぽどいいしよ。それにそんなに悪い奴には見えねえよ」
「……そうね、分かったわ。ただ仲間になるには一つ条件を聞いてもらうわ」
条件というワードにキースがピクリと反応する。
「条件て言うのは?」
「私の仲間、オリビアを探し出すのを手伝ってもらうわ」
「分かった、それでいい」
「決まりね」
キースの話が嘘でも本当でももう少し様子を見るべきだとアーニャは判断した。
そして仮に話が嘘でもキースの能力でオリビアと合流できる可能性も上がるのだから利用するべきだと。
もしも嘘ならば殺せばいいだけ。
もう少し情報を得ることをアーニャは優先した。
雅史はそんなアーニャの心の中を知らずにひとまず安堵した。
ここでアーニャがキースと争い始めたら自分がどっちの味方をすればいいか分からなくなっていたからだ。
「それで一緒に来たっていうもう一人の仲間はどうする気?」
「ああ、差し支えなければここに呼びたいんだが……いいか?」
アーニャの表情を伺う様に質問するキース。
「そんなの駄目に決まってるじゃない、もちろんあなたの拘束もそのままよ。状況も変わったしオリビアを探すのは明日外が明るくなったらにしましょう」
「ちょっと待ってくれ、俺はこのまま拘束されてても構わないがあいつは森の中で朝まで一人きりになっちまう! それは流石に危険だ!」
キースの必死の訴えに特に表情を変えることなく溜息をつくアーニャ。
「確かに外は危険だ……なぁアーニャ、これから仲間になるかもしれない相手だしせめてキースと同じように拘束したままでもいいからここに置いてやってもいいんじゃないか?」
「雅史? あなたどっちの味方なのかしら、これから仲間になるかもしれないじゃなくてこれから敵になるかもしれないと考えなさい」
「うっ……」
(どう言っても無駄そうだな……)
「あなた仲間にはなんて言っているの?」
「俺が1時間で帰らなければ様子を見に来いと、その状況によって助けに入るか逃げるか決めろと伝えてある……」
「そう、ならこれを使ってあなたの仲間に今決まったことを伝えなさい」
そういってアーニャが出したのはトランシーバーのような機械にイヤホンがついたものだった。
「これは簡単テレパス機って言ってこれを使えば周囲500メートル以内の任意の人間と会話ができるわ、相手の本名と顔を認識していないと駄目だけれどね」
アーニャはキースにその簡単テレパス機の使い方を説明する。
まずマイクに向かって相手の顔を思い浮かべ本名を言う、そして通信開始のボタンを押せばお互いに会話ができるらしい。
「ただ相手と通信するには体力使うから気をつけなさい」
「分かった」
キースはアーニャに言われるがまま仲間と通信をし、今の出来事を話した。
少しだけ揉めているようだったが、なんとか上手くまとまったようだった。
「明日の朝7時まで待機してくれるそうだ」
「そう、ならいいわ、雅史には悪いけど今日はこのままここにいましょう」
「いやそれがいいと思う、今日はもう下手に動くのはやめておこう」
2人で動くならまだしも今さっき知り合ったばかりの人間を連れて動きまわるのは危険だろうと雅史は思った。
(動くにしてもアーニャのことだからもう一人の奴も身動きの取れない状態にして動くだろうしな……)
暗闇の中で動きに制限がついた状態で歩き回るとなると万が一敵と遭遇した場合二人は見捨てていくしかない。
このとこから雅史も明日の朝まで様子を見るのには同感であった。
「なぁアーニャ、俺もキースに少し質問していいか?」
「いいわよ」
雅史はアーニャの許可を取るとキースに話しかけた。
「聞きたいんだがお前の他にも仲間を探してる奴はいるのか?」
「ああ、他にもいる」
「やっぱそうか……」
ここで雅史は思い出した。
メガネの男達に捕らえられていた男がこのゲームを壊す仲間を探していると言って無残に皮を剥がれた光景を。
「えーと雅史君だったな、君も何か知っているのか?」
「昼間あんたと一緒のこと言って無残な姿にされてる奴を見つけた……」
「な!? どこで!?」
「こっから結構離れたとこだな、でかい爆発音があった場所のすぐ近くだ」
「それは多分ジョナサンだ……俺達は最初3人で行動してたんだが爆発音のした方をあいつが見に行ったっきりだ……」
「そうか……殺されたとこは見てねえからもしかたらまだ──」
「死んでいるに決まってるじゃない」
きっぱりとアーニャが告げた。
「多分それはリアンの仕業ね」
「リアン? リアンてアンナさんのチームメンバーの一人じゃないのか?」
「やっぱり私達のチームの事は把握してたみたいね。そうよ、リアン・メンゲレは私達のチームのメンバーだった男、まぁもう裏切られてチームでもなんでもないけどね」
(そういうことだったのか)
雅史は今の話で昼間の事とアーニャの話が繋がったのを確信した。
メガネの男が言っていた2人とはアーニャとジャンというもう一人の仲間のこと、そしてその時見た少年から生えた翼ははドラゴンの翼だったのだと。
「多分あなた達はメンバーの勧誘を特定の人物に絞ってるみたいだから私と同じチームだったリアンを勧誘しようとしていたんでしょうね。でもお気の毒に、そのジョナサンて男なら私達の目の前で黒焦げにされたわよ」
「なっ──くそっ!!! あいつは元の世界に家族だっているのに……」
「自業自得ね、このゲームに参加した時点で命の保証なんてあるわけないわ」
「くっ……」
キースは涙を流して悔しがっていた。
仲間のために涙を流せる人間、そんな人間がこのゲームを勝ち抜こうなどと思うだろうか。
その涙は雅史がキースを信用するには充分だった。
「とりあえず今は明日に供えて体を休めましょう。多分明日、2日目が一番危険な日になるでしょうから」
「どういうことだ?」
「恐らくほとんどチームが何かしらの手でこの1日目に集まっているわ。そして2日目から活動し始める、それに序盤が一番狙う人間もいるでしょ? だからよ。わかったら少しでも寝ときなさい」
その言葉通り雅史は少しだけ眠ることにした。
この小屋にきてからずっと警戒を解かなかったせいもあってかなり疲れている。
明日がアーニャの言うとおりの日なら体力は回復しておくに越したことはない。
雅史はそっと目を閉じた。
◇
【00:00 森エリア】
『まーくん起っきてー!』
甲高い声に名前を呼ばれ雅史は目を覚ました。
「……この声は」
『元気だったかなぁー?』
「ミカエルか……」
雅史が辺りを見渡すとキースとアーニャも同じように担当の天使と話をしているようだった。
最初と同様に天使の姿はなく頭の中に声が響く。
『まーくんも頭の中で念じればそのまま話せるからね! あたしと秘密の話をしたいならそうしてね!』
『そうかい、それで要件は?』
『相変わらずつれないなー、あっ、先に言っておくけどそっちからの質問には答えられないから気をつけてね』
『ならなんで出てきたんだよ?』
雅史としては夢の話や隠し事についてミカエルにいくつか聞きたいことはあったがそれはどうやら無理らしい。
『定時連絡だよ! て・い・じ・れ・ん・ら・く! とりあえず1日目お疲れ様! これから1日目の戦況をまとめたプリントをそっちに転送するからしっかり読んでおくように! それじゃそれだけだから2日目も頑張ってね!』
そう言うだけ言ってミカエルからの通信は一方的に途絶えた。
それと同時にひらひらと一枚の紙が上から降ってくる。
「これのことか、なぁアーニャ、そっちも昨日の戦況の紙がどうだって話か?」
「ちょっと今は黙ってて」
アーニャはすでに渡された紙を読んでいた。
キースも椅子に縛られた体勢のまま膝に紙を乗せる形で真剣に読んでいる。
(それほど重要なものってわけか……)
雅史もアーニャ達を見習いその紙に目を通した。
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