4-2 化け物
あまりに呑気な質問に思わず目を丸くしてしまうヴァラヴォルフ。
(なるほどね、大方さっきの奴等に無理やり連れて来られたってところか)
「ここに来る前天使になんか説明受けなかった?」
「なんか言ってたけどむずかしくてきいてない!」
「んー、今皆はあるゲームをしててね、このゲームに勝てば何でも願いが叶っちゃうんだよ」
「なんでも?」
「そうなんでも」
んー、んーとメルルは悩み始めた。
「そ、それじゃあもし勝ったらわたしにも人間の友達ができるかな?」
「え、あれ? もしかして俺人間と思われてない?」
「んん? おおかみさんはおおかみさんでしょ? わるい人もやっつけてくれたし私のおともだち!」
「あー、さっきのも見えてたってわけね、まぁいいやそれで」
さっきの光景を見てもどこも恐れている様子を見せないメルルに対しヴァラヴォルフは思った。
普通の子どもならさっきの光景を見れば怯えて話にもならないはず、それどころか人間3人をあっさりと殺した自分に全くの無警戒、この子はこの歳でどれだけの悲惨な現場を見てきたのかと。
「んじゃあさっそくメルルにお願いなんだけどこの辺にいる人間の場所と特徴全部教えてくれる?」
「うん!」
メルルは嬉しそうに返事をすると千里眼の能力を発動した。
目の色がグレーから真っ赤な赤色に変わり、瞳孔が開く。
「女の人……短い髪……十字架の目……男の人2人……3人……1人……」
人間の数や特徴を確認するように単語をぶつぶつと声に出すメルル。
3分ほどその行動をすると目の色が戻りふぅと息を吐く。
「お、おわったよ……ハァ……おおかみさん!」
汗をびっしょりとかきながら笑顔でヴァラヴォルフに報告するメルル。
「おつかれさま、そんで一番近い人間は?」
「こっから……500メートルくらい先に……女の人が一人で歩いてるよ」
苦しそうに声を絞り出すメルルだが笑顔は崩さない。
「へぇー、ほんとに分かるんだ、すごいねー、んじゃまずはそいつ狙いにいきますか」
メルルの能力は使い方次第でこのゲームをかなり優位に進められる、そうヴァラヴォルフは確信した。
しかし厄介なのが彼女の代償と能力を使用した後の疲労である。
能力を酷使させ続けて視力を失えば使い道はないし、あまり疲れられてもかえって邪魔だ。
(んー、まぁ使えるとこまで使ってダメになったら殺して心臓取ればいっか)
ヴォラヴォルフは500メートル先にいるという女の元に向かう。
一人で走れば20秒ほどでたどり着けるが疲労しているメルルを連れてだと数分はかかりそうである。
息が整ってきたところでメルルがヴォラヴォルフに話しかけた。
「どうしておおかみさんはここにいるの?」
「そうだなぁ、俺もメルルみたいに無理やり参加させられたようなもんなんだけど強いて言えばさっさと帰って故郷の連中に仕返しするためかな? 帰ったら俺をここに送った奴等全員殺してやるんだ」
「ふーん、それじゃあおおかみさんもわたしといっしょでみんなにあんまり好かれてないんだね」
「あはは! 好かれてないってもんじゃないぜ、俺を殺すためにハンターたくさん送り込んでくるぐらいだからな!」
「おおかみさんかわいそう……おおかみさんはわるい人たちやっつけたやさしいおおかみさんなのにー!」
うがーっと怒るメルル。
ヴァラヴォルフが自分が持つ千里眼の能力だけが目当てだとは考えもしないでメルルは優しいおおかみをいじめる人間に腹を立てた。
「ほんとだよな、皆俺のこと化け物化け物って、ここにいる人達も悪い人ばっかりだから早く一緒にやっつけちゃおうぜ!」
「うん!私おおかみさんの役に立てるよう頑張るね!」
「期待してるよ」
◇
少し歩いたところでヴァラヴォルフがスンスンと辺りの匂いを嗅ぐ。
すると微かに他の人間の匂いが漂ってきた。
「このへんかな? さてどーこにいるのかな」
辺りをキョロキョロと見渡すヴァラヴォルフ。
匂いは確かに残っているが人の気配は全く無い。
「逃げたにしては匂いが強いな……まだこの辺に──」
ほんの一瞬ヴァラヴォルフの警戒が解けた時だった。
ヴァラヴォルフの真後ろの草陰から女が飛び出し、手に持っている日本刀を掲げ、ヴァラヴォルフの背中目掛けて刀を振り下ろした。
完全に視覚からの一撃。
しかしヴァラヴォルフはなんなくその刀を後ろを向いたまま避けた。
「おっと、びっくりしたー」
おどけた様子で襲撃者の方を振り返るヴァラヴォルフ。
そこにいたのは長い黒髪にセーラー服、そしてその格好に不釣り合いな日本刀を持っている少女だった。
「ちょっとちょっと、お嬢さん、なんて格好してんのさ、もしかして日本にいるっていうお侍さん?」
「黙れ」
そういってヴァラヴォルフの質問に答えることなく次の攻撃の体勢に移る少女。
「ま、待って待って! すぐそこに小さい女の子がいるんだからそんな物騒なもの振り回すのやめよーよ!」
少女はチラっとメルルに目線を向けるとすぐにヴァラヴォルフに視線を戻した。
「どうしてこんなところに女の子が……?」
「まぁ色々あってさ、それより今思い出したんだけど君、
「……さぁな」
「いやいや絶対そうでしょ! 確かECSでBランクの上位の方に登録されてなかったっけ?」
「ふ、随分詳しいじゃないか」
「まぁ案外君有名人だしさ! でも殺し屋が有名人てどうなんだろ? まぁいいや、希沙良ちゃんさ、俺らの仲間になってよ! Bランク上位なら大歓迎だしさ」
「断ったら?」
「そりゃあ殺すでしょ」
あっさりとそう言い切るヴァラヴォルフ。
「だろうな、だが悪いが断らせていただこう」
「そっかー、そりゃ残念だ」
先に仕掛けたのは希沙良だった。
居合のような構えで瞬時にヴァラヴォルフに近づき、刀を抜く。
ヴァラヴォルフはそれを後ろに身を引いてあっさりと避けるが希沙良はそれを読んでいた。
「甘いな」
抜いた刀を即座に構え直し、ニ撃目を叩き込む希沙良。
しかし刀が触れるギリギリのところでヴァラヴォルフは姿を消した。
「消え──」
「あのさぁ、それじゃ遅すぎだよ」
背後から突如聞こえた声に即座に距離をとって構え直す希沙良だったがその顔には焦りの表情が見える。
「貴様何者だ? 私の技はそう簡単には避けれるはずがないのだが……」
「アハハ、それが技? ていうか自分のお腹よく見たほうがいいよ?」
ヴァラヴォルフはそう言って希沙良の腹部に指をさす。
希沙良が自身の腹部を見るとそこは横一直線に切れ込みが入っており、血が噴き出していた。
「き、貴様……」
そのまま地面にのめり込むように倒れる希沙良。
倒れた希沙良の周りに血の水溜りが出来上がる。
「これで心臓4つ目げっとー、メルル怪我ない?」
「それちがう……」
「んー? 違うって?」
「おおかみさんうしろ!!!」
メルル声に反応して後ろを振り向くヴァラヴォルフ出会ったが、その時にはすでにヴァラヴォルフの腹部と胸部を3本の刀が貫いていた。
「ゴフッ……な、なんで」
口から血を流しながら後ろを確認するヴァラヴォルフであったが、そこにいたのは先程殺したはずの神埼 希沙良だった。
それも全く同じ顔をした3人の人間が自分に刀を突き刺している。
「油断大敵ね、私の能力はドッペルゲンガー、私の分身を作り出すことよ。さっき死んだのは私の分身てわけ」
「や、やるねぇ……」
希沙良が刀を引き抜くとヴァラヴォルフは口から大量の血を吐き出し、先程とは逆に地面に倒れる。
「お、おおかみさん? やだ、やだよう!!!」
その光景を見て泣きじゃくるメルル。
あまりに突然の友達の死にメルルは泣き叫んだ。
そんなメルルの姿に希沙良は迷っていた。
「さてと、この子どうしようかしら……仕事でもないのに子どもを殺すってのは流石に気が引けるわね」
3人の希沙良は自身の刀とメルルを交互に目線を送り、メルルに声をかけた。
「ねぇお嬢さん、もしよければ──」
「あー、いってー」
「なっ──!?」
その場から瞬時に距離をとる3人の希沙良。
「どうなってんのよ……」
そこには致命傷を与えたヴァラヴォルフが傷口から血を流してゆっくりと立ち上がっていた。
「容赦無いなぁほんと」
「そ、そんな……」
「うわ、リュックに穴空いてんじゃん! この中着替えとか入ってんのに!」
そう言いながら自身のリュックの中身を確認するヴァラヴォルフ。
あまりの光景に希沙良は思わず言葉を失う。
「中身はまぁ無事か……良かった良かった」
「こ、この化け物が!!!」
希沙良は即座に自身の最大である5体の分身を出し、一斉に立ち上がったヴァラヴォルフに攻撃を仕掛けた。
五方向からの刀による斬撃。
しかしそんな攻撃に特に焦ることもなくヴァラヴォルフは言った。
「人を化け物呼ばわりすんじゃねえっての」
そこからは一瞬だった。
ヴァラヴォルフは6人の希沙良とすれ違うと同時に本体を含めた希沙良全員の首が同時に吹き飛んだ。
分身はそのまま煙のように消え、本隊である希沙良も首から噴水のように血を吹き出して心臓へと変わっていった。
「お、おおかみさん大丈夫なの?」
戦いが終わり、急いでヴァラヴォルフへと駆け寄るメルル。
「余裕余裕、狼男ってのはこんなんじゃ死ねないからさ」
「よ、よかったよぉ、おおかみさんしんじゃったかとおもったぁ」
「生きてても泣くのかよ、まぁとりあえず心臓4つ目げっとだな、この調子でどんどん集めてこうぜ」
うん! と涙を自身の裾で拭きながら答えるメルル。
戦いの中で出会った千里眼の目を持つメルルと狼男と呼ばれるヴァラヴォルフ。
メルルは初めてできた友達のため、ヴァラヴォルフはそのメルルを利用し勝ち抜くため、2人は次の獲物を求めて森の中に姿を消した。
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