4-1 おおかみおとこ
【15:07 森エリア】
雅史とアーニャが出会った川辺から遠く離れた森の道を3人の大男と1人の幼い少女が歩いていた。
3人の男は全員が髭を無造作に生やし、服もヨレヨレでお世辞にも綺麗とは言えない外見をしている。
それに対して少女は艶のある茶髪を前で綺麗に切り揃え、大きな黒目に整った顔立ちをしており、どことなく品の良い身なりをしていた。
「いやー、無事に皆合流出来てよかったっすねー、それでこっからどうするんでしたっけ兄貴?」
「いちいち確認してんじゃねぇよ、ゲームが始まる前に何度も兄貴と確認しただろうが」
「うっせーな、もう忘れちまったよんなこと」
「ほんとてめぇは馬鹿だな、んなことだからいつまでたっても独り立ちできねえんだよ」
「なんだとこら! お前こそいっつもいっつも兄貴兄貴って兄貴に頼りっぱなしじゃねえかよ!」
大柄の男達2人が言い争いを始め、今にもお互い殴り合いを始めそうな空気になっていく。
「お前ら少しは静かにしとけ、まったく子どもじゃあるまいし」
そんな2人をなだめるように兄貴と呼ばれる男、レッド・アンバーは喧嘩の仲裁に入った。
「でもこいつがよぉ」
「うるせーばか、俺達はこのガキが見つける雑魚を狩ってりゃいいんだよ。そんでさっさと心臓集めて時間がくるまで逃げときゃ生き残れるんだからな、なぁ千里眼のお嬢ちゃん?」
幼い少女は何も言わずただコクリと頷く。
「しっかしこんなガキ本当に信用できるんですかい?」
「当たりめえだろ、こいつの目にかかりゃ10キロ先の人間の特徴だって、近づいてくる人間に対してのセンサー代わりだってできるぜ。噂によりゃ未来まで見通せるってんだから大した武器だぜ、このガキ誘拐すんのがどんだけ大変だったか」
そういってガハハと下品に笑うレッド。
2人の子分はそれを聞いて安心しながら同じように笑う。
「……あそこ」
少女はそんな男達の笑い声を遮るようにある場所を指さした。
「あぁ? 何も見えねえぞ」
「200メートル先にきけんリスト外の人がいる」
「ほう」
3人の男たちはニヤリと笑う。
「へへ、最初のターゲットだ、お前らは左右に回り込んで奇襲をかけろ、俺がトドメを刺す」
「「了解です兄貴」」
そういって男2人は森の茂みの中に姿を消した。
「てめぇはここで少しお留守番だ」
レッドは少女を近くの木にロープで縛り付けたが、その間少女は抵抗も何もしない。
「少しでも逃げようとしたら殺してやるからおとなしくしてろよ」
「はい」
返事を聞くと少女が指をさした方向に静かに向かっていく。
レッドの作戦はこうだった。
千里眼の少女を使って危険リスト(主にB級~S級)を元に敵を捜索、リスト外の相手を見つけたら子分2人が見つけた獲物に静かに近づき同時に奇襲をかける。そこで仕留めれればよし、仕留められずとも2人に注意がいっている間に自身の能力でもある毒を染み込ましたナイフで獲物を刺し殺す。
これを繰り返し行い、上位の能力者が共倒れをしている間自分たちは千里眼の能力で敵を避け、最後まで生き残る。
つまり参加者の人数が多く、狙いやすい獲物が多くいるゲーム開始序盤こそがこの作戦においてもっとも重要な時間だった。
そのせいだろうか。
早く仕留めなければ自分たちで狩れる参加者は限られてくる。
だからこそ焦っていたのかもしれない。
もっと慎重に相手を観察してから奇襲をかけるべきだったのではないか。
いや、今更考えてももう遅い。
「ハハ、なんだよこれ……」
子分2人と別れて1分も経っていない。
しかし目の前には無残に引き裂かれた2人の子分の姿があった。
「いきなり物騒だなぁ」
子分たちの傍らには大きめのリュックを背負った黒髪の若い男が立っていた。
「あ、あにきぃ!!! こいつやべ──」
グチャッという音と同時にその男は子分の一人の頭を踏みつぶした。
踏み潰された子分の身体はゆっくりと粒子の粉になっていき、最後には心臓だけが残った。
「うげぇ、気持ちわる! これが心臓?」
男がその心臓に触れると心臓は一瞬男の手に吸い寄せられるように動き、男の手の中に消えた。
「んー? これでゲットってことでいいのか?」
「てめぇ、いったいなにもんだ……?」
「俺? そうだな、皆にはヴァラヴォルフって呼ばれてたよ」
「ヴァラヴォルフ……?」
危険リストには無い名前だった。
「知らない? 俺の国じゃ狼男って意味なんだけど、つーかそっちこそ誰? やっぱこいつらのお仲間さん?」
「そいつらは俺の子分だ……」
「あっちゃー、それはお気の毒に、でも襲ってきたのはそっちからなんだし文句言われる筋合いはないと思うけど」
「文句なんて言わねえよ、てめぇはここで死ぬんだからな!!!」
レッドは叫ぶと同時に懐に隠し持っていたナイフをヴァラヴォルフに投げつけた。
しかしヴァラヴォルフは少し体の体勢を変えるだけであっさり避ける。
「殺してやる!!!」
懐から次々とナイフを取り出し正確にヴァラヴォルフへと投げつけるレッド。
それを特に焦った様子もなく躱し続けるヴァラヴォルフ。
「避けろ避けろ! これでも俺はB級の毒つか──」
ザンッという空気が切れる音がしたかと思うと、レッドの首は宙を舞っていた。
レッドは自分の体を真上から見下ろすという奇妙な経験をしつつ、自分の首を刎ねたそれを見た。
それは鋭い爪と銀色の毛に覆われた腕だった。
「弱っちいなぁ」
そうつまらなそうにヴァラヴォルフは呟くと残ったもう一人の男の方に向かう。
「く、来るんじゃねえ! このば、ばけもの!!!」
グシャリとヴァラヴォルフは容赦なく男の頭を踏み砕く。
「そう言われんのって結構傷つくんだよねー」
そう言いながら踏みつぶした男の心臓と首を刎ねた男の心臓を先程と同様に回収する。
「んーまだ近くにもう一人いるなー」
鼻をスンスンと動かし匂いの元を探し出すと、ヴァラヴォルフはその匂いの元へ向かった。
「このへんかなー? ってなんだありゃ」
そこにいたのは木に縛り付けられた幼い少女だった。
少女はとくに恐れている様子もなくヴァラヴォルフをじっと見つめる。
「んん、どっかで見た顔だなー……」
少女の顔に見覚えのあるヴァラヴォルフは腕組みをしながら自身の記憶を辿り、やがてある一人の少女の名前を思い出した。
「あっ、もしかして千里眼のお姫様!」
「ちがう!」
きっぱりと少女は否定する。
「いやでもそっくりだよ? テレビなんかで有名なあの千里眼のお姫様にさ」
「わたしそんな名前じゃない! メルル・ルルミックって名前があるもん」
「ああ、ごめんごめん! メルルちゃんね、それでメルルちゃんはさっきのおじさん達の仲間かな?」
笑顔でメルルに尋ねるヴァラヴォルフ。
「違う、仲間なんかじゃない」
「そっか、それは良かった。んじゃさっそくなんだけど俺の目になってくれない? 君の目があれば何かと便利そうだしさ」
「……いい……けど」
「けど?」
「……おねがいがある」
「ん? なになに?」
「わたしの……お友達になって!」
そう言うとメルルは恥ずかしそうに顔を逸らした。
一瞬驚いたヴァラヴォルフだったが、すぐに笑顔になりメルルに答えた。
「あはは、いいよいいよ! 俺でよけば友達になってあげるよ」
「ほ、ほんとに?」
「ほんとほんと、でもちゃんと役に立ってね」
「うん!」
最初に見た時の仏頂面からは想像できないくらい笑顔で頷くメルル。
「そんじゃあ」
ブチッと自身の爪でロープを切り、メルルを自由にする。
「ありがとうおおかみさん!」
「どういたしましてメルルちゃん」
「メルルちゃんじゃなくてメルル!」
「はいはい、んじゃさっそくなんだけどメルルの能力、千里眼について詳しく教えてもらってもいいかな?」
「うんいいよ!」
メルル・ルルミック。
彼女は11歳にして千里眼のお姫様として有名な能力者である。
彼女が有名になったきっかけはあるテレビ番組で行方不明者の居場所を正確に言い当てたことから始まった。
それから番組を重ねる毎に行方不明者、探し物、遠くで何が起きてるか当てる事や殺人犯の潜伏先まで様々なものを当ててしまうことで次第に世界規模の有名人となった。
そしてその可憐な容姿から千里眼のお姫様と呼ばれ、知らない人間の方が少ないくらいにその知名度を上げた。
知られている彼女の能力はその名の通り千里先まで全てを見通す力。
遠く離れている人間の行動や特徴、何が起きているかまでなんでも見えるらしい。
そんな彼女が自ら話す自身の能力はヴァラヴォルフが以前から知っていた情報とほとんどは変わりはなかった。
「でもね、最近はそんなにとおくまで見れなくなってきちゃったの、だんだん視力も落ちてきたし…」
「ふーん……それが代償ってわけね」
メルル自身は知らないことだが能力には代償というものが存在する。
それは能力を使用すればするほど人体に影響が出るというものである。
強力な能力であればあるほどほどその代償は大きく、ヴァラヴォルフの読みが正しければ近いうちに彼女は視力を失うことになるであろう。
「次はわたしがおおかみさんにしつもん! なんでみんなたたかってるの?」
「え?」
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